第二十一話 まーちゃんと馬鹿
休日。
それはまさに私にとっては惰眠をむさぼるために存在する。
土日など特に関係の無いヴィグルは家にいない。
同じように、土日関係無い職についている両親も外出中である。
まさに昼過ぎまで寝られる最高の日である。
それなのに……
「何で朝っぱらお前のツラ見なきゃなんねぇんだよ!?」
「朝っぱらって……もう10時過ぎてるだろ『まーちゃん』」
私の部屋には、案の定変なあだ名呼びを始めた美咲がいた。
「ってか来る前に電話で言ったろ?午後からはバイトがあるから、午前中の内に行く、って。まぁまーちゃんは寝ぼけ声で『あ~……』とか言ってたけど」
それ完全に意識は無い系の返事だろ。
「つうか『まーちゃん』はやめろや!」
「何だよ、昨日はまーちゃん本人が、そう呼んでくれって全国放送で言ってたじゃんか?まぁ実際は呼びにくいし、飽きてきたからもうやめようかと思ってたところだけど」
はえぇなオイ!?
「それはそうと、アタシが朝電話で言った内容どんだけ覚えてる?」
内容?電話があった事自体覚えてないのに、何を言ってるんだコイツは?
「何か重要な事言ったのか?」
「いや、今から行くぞ~しか言ってないよ」
このクソアマぁ……
「冗談だよ冗談!裕美がどんだけ寝ぼけてたのか確認してみただけだよ!」
無言で変身アイテムを取り出したら、美咲は焦って弁明しだした。
「ともかく、裕美に相談したい事があったんだよ」
美咲が?私に?珍しいな。
「実は昨日さっちゃんから連絡があって、あの番組を二人で観てたんだよ」
幸と?いや、でもちょっと待てよ……
「幸って昨日、体調不良とか何とかで学校休んでなかったっけ?」
「うん、アタシもちょっと気になったから聞いてみたら『半日で治った』って言うから、それ以上は聞かなかったんだけど……」
いや、そこは問い詰めろよ。
「まぁとにかく、様子がおかしかったんだよ」
幸がおかしいのは皆、転校初日から知ってるんだけどなぁ……
「テレビの中で行われている、魔王の暴挙を何も言わずに観てたんだよ!今までだったら絶対に、何かしら魔王に対する暴言の一つや二つ愚痴まじりで喋りだしてたろ?」
それは確かに様子がおかしいな。
「それがテレビ観終わった後でも『裕美さんは今どこにいるか知ってますか?』とか言うだけだし」
いやいやいやいや!!それって完全に私を魔王だって疑ってる発言じゃんかよ!?
「ちなみに何て答えたんだ?」
「たぶん魔王と一緒に渋谷にいるんじゃないの?眷属だしって」
まぁ美咲にしてはまともな返答だな。
「んで?幸の反応は?」
「何も。そこで、この話題はおしまい。すぐに『美咲さんは何で魔法少女になったんですか?』とか別の質問がとんできたよ」
何か完全に、心ここにあらずって感じになってるな。
「アタシが魔法少女になった理由を教えてやって、逆に『さっちゃんは何で魔法少女になったの?』って質問したら『魔王を倒す事で世界が平和になると信じてたから』って」
「何か魔法少女になった理由に迷いが出てきてる感じだな」
あれだけ明確に正義と悪を二分化してた幸にしては珍しい発言ではあるな。
「さっちゃんが元住んでた地域って魔族が一切いなくって、魔族に対する知識ってテレビや新聞くらいだったんだってよ」
そりゃあ、魔族のほとんどがこの地域に集中してるから、幸が元いた場所だけじゃなくて、世界中回っても、この近辺以外じゃほぼ目にする機会は無いだろうな。
「魔王軍に関して入ってくる情報ってのは、魔王は恐ろしい奴って事と、人間が魔族に支配されているって事くらいらしくて、私が住んでる場所にはまだ魔族が来ていないだけで、魔族の多くいる地域に住んでる人間は酷い目にあわされているんだろう~みたいに思ってたらしいよ」
なるほどね、そこにきてアノ浮遊狐にそそのかされて変なスイッチ入っちゃったってわけか。
「つまるところ、その魔族の多い地域が予想以上に平和で困ってるって事か?」
「たぶんそんな感じだと思う」
ついでに言うと、魔族と戦う力が手に入って意気揚々と来てみたら、私や美咲、ついでに異世界から来たオッサンに立て続けにボコボコにされて意気消沈しちゃった感じかな?
「平和なのは良い事じゃん?」
「まぁそりゃあそうなんだけど……」
何か煮え切らない返事だなぁ。
「ほかに何かあんの?」
「いや、何て言うの?平和なせいで、さっちゃんの精神が平和じゃなくなってっていうか……あ~何て言ったらいいかよくわからねぇ!」
まぁなんだ、アホなんだから、そんな深く考えると頭がオーバーヒートするぞ。
「えっと、つまり幸の精神も平和にしてやりたいとかいうお節介がしたいって事か?」
「そう!平たく言うとソレ!」
面倒臭い相談事持ってきやがって……
「で?具体的には何か案はあるのか?」
アホに聞くだけ無駄な気もするけど。
「たぶんさっちゃんが混乱してるのって、今現在あの飛ぶ狐ちゃんサイドとアタシ等サイドの二つから情報が入ってるからだと思うわけよ。だから、全員で話し合いの場をもてばいいと思うんだ」
やっぱでたよ……回りくどい事考えられないから、直接皆で腹割って話せば万事解決理論。
「全員って……魔族皆にまで声かけるのかよ?」
「いやいや、そこまではいらないって、魔族代表は裕美でいいじゃん」
いや、まぁ現に『魔族代表』をやってはいるけどさぁ……
「じゃあ何か?私が今までボコボコにしてきた魔法少女全員にも声かけるか?」
「いやいやいや、魔法少女全員アンタの顔みたら泣き出すレベルだから話し合いなんて無理だから。魔法少女代表はさっちゃんでいいでしょ」
「幸が魔法少女代表やっちゃったら美咲いらなくね?」
「アタシはほら、仲介役?」
「じゃあ浮遊狐は?」
「えっと……マスコットキャラ代表?」
もう何でもありだなオイ!?
「つまり4人……いや3人と1匹で卓を囲みたいって事ね?」
「何か麻雀でもやりそうな言い方だけで、だいたいそんな感じ」
「んで?いつ?」
「ちょっと待って、今さっちゃんにメール送って予定確認する」
そう言って美咲がメールを送ると、返信はすぐにきた。
幸……暇なのか?
「明日の今くらいの時間でいいか?って」
はぁ?明日は日曜だぞ!二日連続で惰眠をむさぼれないじゃないか!
「裕美?聞いてる?」
「おう聞いてる聞いてる。明日の10時過ぎくらいだな。了解了解」
さようなら私の休日……
「場所はどうする?」
「浮遊狐もいるんだろ?だったら人目につきにくい場所がいいな……学校の屋上とかどうだ?」
「学校の屋上?日曜は学校鍵閉まってるんじゃないの?」
コイツはマジで言ってるのか?
「飛んでいけよ!何のための魔法少女だよ!!」
「あ……そっか」
完全に自分が魔法少女って事を失念していたようで、美咲は恥ずかしそうに、そそくさと幸にメールを送った。
「……裕美」
ん?
「さっちゃんから『日曜は学校鍵閉まってますよ?』って返事がきたんだけど……どうしよう?」
しまった!コイツも美咲並みのアホだった!?




