第二十話 傍若無人な魔王様
さて……と
この後軽く暴れるとして、どうやってきっかけをつくるかだな。
「えっと、池野さん?話の流れを切ってしまって申し訳ないのですが、失礼ですが私はアナタがどんな人かもよくわかってないんです。お手数ですが自己紹介していただけるとありがたいです」
ちょっと強引だったかな?
「これは失礼をした。私は一応魔族研究を専門でやらせていただいている池野直人といいます」
「ご丁寧にどうも、では私も……本名は明かせませんが、魔族達の王をやっています『魔王』とでもお呼びください」
私は立ち上げり、池野が座る席まで行き握手を求める。
池野は警戒するように少し躊躇していたが、私が差し出した手を握り握手に応じた。
…………フハハハ!触ったな?
「実は私の方からも一点質問したい事ができたんですよ。聞いてもらってもいいですか?」
池野の手を放し、司会者がいる方へと歩きながら話し出す。
「私は生放送でなければ出演しないという条件を出したハズですよね?」
「は……はい、その通りです。ですから、今もこの映像はそのまま全国のテレビに流れております」
なるほど、そういう対応か……
私は自分のバックからスマホを取り出し、ワンセグ機能でこの番組を映して、今映像を撮っているカメラに向かって画面が映るように見せる。
「何で1分弱遅れて映像が流れてんの?」
まぁ理由は、何かあった時に映像を差し替えられるように数秒の余裕を持たせてるんだろうけどね。
「これじゃあ生放送っていわないですよね?」
私は喋りながら司会者へと近づいて行く。
「私はね、約束を平気で破る人って大嫌いなんです。それでいて人には約束を守らせようとしてる人はなおさらね」
司会者は少しづつ後ずさりをしつつ、どう答えるのが最適なのかが書かれるであろうカンペを求めてスタッフの方へ視線を送っている。
「私との約束事を破っていた、という事は、それ相応の覚悟があったんですよね?なかなかに勇気がありますね」
「ひぃぃぃ~~!!」
私の最大級の微笑みに耐えられずに、司会者の人が悲鳴を上げて逃げ出す。
ちょっとカワイソウな事しちゃったかな?たぶん逃げた司会者の人、何も知らされずに私の相手させられただけだろうに。
でも逃がさないんだけど……
逃げた司会者に拘束魔法を使う。
司会者は、スタジオ出入口前で何も言葉を発する事なく、動きを完全に止める。
呼吸ができない状態で、そのまま放置したらさすがに死んじゃうので、魔力の糸を司会者の身体につけて、私の前まで引きずり戻し、逃げられない事を諭してから拘束を解く。
「さて、それでは、ここから先は私の司会進行で好きなようにやらせてもらいます。それから番組スタッフの皆さん!私、常にスマホで現在流れてる番組チェックしてるんで、この映像に少しでも編集入ったのを確認したら、この建物ごと、ここにいる人間全て消し飛ばすんでよろしくお願いします」
一瞬でスタジオ全体の空気が凍り付くのがわかるレベルで静まり返る。
「ふ……ふざけているのか!?そんな横暴が許されると思っているのか!!?」
静寂を破ったのは、予想通りとはいえ池野のオッサンだった。
「許されるからやっていますが何か?法律上魔族の特権があるのをご存じありませんか?それと、私の横暴をどうにかしたいなら、最低でも一個師団くらいは用意してからの方が良いですよ」
オッサンを黙らせると、私はモニターに目を向け、SNS上に投稿されているつぶやきを確認する。
『これヤバイやつじゃないの?』「少しヤバイやつかもね」
『やっぱ魔王怖えぇ!』「嫌な事されなければ基本は優しいから安心して」
『何?つまりはテレビ局側が契約破ってたから魔王様キレてんの?』「うん、だいたいそう」
『魔王様の台詞回しかっけぇw』「こういうセリフ一度は言ってみたかったのよ」
『魔王様可愛い!』「めげないなぁ…えっと、ありがとう、愛してるよ」
適当に目についたつぶやきを読み上げ簡単に返事をしていく。
「いい加減にしろ!そんな事は家に帰ってから一人でパソコンに向かってやっていろ!」
突っかかってくるなぁ……私が怖くないのか?
「池野さん、今の立場理解していますか?自分だけは大丈夫とか思っています?」
そう言うと、オッサンは何やら勝ち誇ったような顔になる。
「その通りだ!というよりも、ここにいる皆、殺されるような事は一切ないのだろう?」
何を言ってるんだこのオッサン?頭お花畑にもほどがあるぞ。
「圧倒的な武力をちらつかせてはいるが、今まで人間が魔族に殺されたといった例は一件も発生していない!」
ああ、うん、魔族による死亡事故起こっても私が復活させてるし、そんな事故起こそうものなら私に何されるか理解してる連中しかいないし。
「私が数年魔王軍について研究してきた結果としては、おそらく何らかの制約があり、実際には人間を殺害する事はできないのだろう?」
やっぱこのオッサン妄想が激しいな……
いい加減本気でうっとおしくなってきたな。
『このオッサン色々大丈夫か?』
『言われてみえば死亡事故とかないかも』
『だからって核兵器でも倒せない奴相手にこんな態度はとれないわw』
色々とコメントが流れていく。
その中で、ついに待ち望んでいたコメントを発見し読み上げる。
『ってかコイツ本当に魔王なの?昔望遠で撮られた映像だけしか流出してないだろ?見た目がそれっぽいってだけで、魔王を語って視聴率取ろうとしてる番組の自作自演なんじゃねえの?』
「じゃあ私が魔王である信憑性上げるために誰か殺してみますか?」
そう言うと同時に、私は指をパチンと鳴らす。
「うあぁぁぁぁぁぁ!!!!?」
席から崩れ落ちて、池野のオッサンがのたうち回る。
さっき握手した時に込めておいた魔力を爆発させて、指を一本吹っ飛ばした。
「死亡事故がないのは、私が魔族全員に殺しを禁止しているからです。いわば私の慈悲によるものです。理解してもらえましたか?」
「痛い!!痛いぃ!!指が!私の指があぁ!!」
人の話ちゃんと聞けよ。
私はもう一度指を鳴らし、今度は肩から先を全て吹き飛ばす。
「痛がってる部分を根こそぎ無くしてあげましたよ。これで指が痛いのなんて気にならなくなったでしょう?感謝してください」
返事はなかった。
痛みでなのか、急な失血でなのかはわからないが、完全に気を失っているようだった。
『何?何があったの?』
『あの頭おかしいオッサンどうしたん?』
『え?マジで殺したの?』
コメントの流れを見て、すぐにスマホの画面を見る。
そこには私だけがアップで映されていた。
さすがに編集入ったかと思ったけれど、どうやら私だけを映して血が飛び散ったスタジオを隠しているようだった。
まぁ編集なんてしたのが私にバレれば、次は自分が池野と同じ目にあうってわかってるんだから怖くてできないよな。
「ええと、この映像を映すと放送法か何かに引っかかりそうなんで映してないようですが、状況を察してもらえるとうれしいです」
とりあえずフォローしておく。
「それと、折角の機会なんで一点忠告をしておきます。魔族研究家とかを自称して妄想を垂れ流して、私達の品位を落とすような事をするとこうなりますので注意してください」
オッサンが騒がなくなって完全に静まり返ったスタジオ。
「……場がしらけてしまいましたね。では元凶の私はそろそろ帰る事にします。皆さんどこかで会う事があったら気軽に話しかけてくださいね。ケンカ売られなければ襲い掛かる事はありませんので安心してください」
まぁ何だ……言いたい事言ったし、本当に帰るか……
私は倒れたオッサンに蘇生魔法をかけると、ヴィグルを従えスタジオの外に出る。
「お疲れ様です魔王様」
コイツ……いけしゃあしゃあと……
テレビ出演を進めた本当の理由はコレだったのか……
ヴィグルもあのオッサンには相当手を焼いていたのだろう。
でも、話を聞こうとせず、会話が成立しないオッサンを、力でなんとかしようとしても、そんな事をすれば私から制裁がくる。
だったら、直接私に何とかさせようと、私とオッサンをブッキングさせたのだろう。
出演条件を生放送にしたのは、テレビ局側も魔王相手には、生放送は危険と判断して、編集できるように数秒ズラしをしてくる事を予測して、互いに結んだ条件を反故にさせる事を狙っての事だろう。
だから収録前に私に変なアドバイスを言ってきたのか……
「まんまとアンタの策に乗っかっちゃったわけね」
「魔王様が何を言ってるのかわかりかねますね」
とぼけやがって……
「証拠はアンタのタブレットに残ってるんじゃないの?最後の書き込み……アンタでしょ?タイミングがドンピシャすぎだったんでおかしいと思ったのよ」
ヴィグルは少し笑い
「私がそんな証拠を残すと思いますか?」
というセリフを吐いたのだった。
いいな、このセリフ。
後で使おう。




