第十九話 魔王様テレビ出演中
ヤバイやばい、超やばい……
ゲロ吐きそうなくらい緊張してるよ私。
魔王なんてやってるけど、普段はテレビ出演なんてのとは無関係の普通の一般人やってるだけの人間だよ?いきなり番組の主役ポジションで堂々としてられるほど場慣れしてねぇよ……
「それでは、魔王様が到着されましたので、引き続きではありますが私の司会で番組を進めさせていただきます。魔王様もよろしいでしょうか?」
すぐにでも帰りたいところではあるが、そこは我慢して、うな垂れながら座っている状態で手だけを上げて了解のサインを出す。
「ええと……OKという事でよろしいでしょうか?」
察してくれよ!今ちょっとでも喋ったら絶対声裏返る自信があるし。
合図送っただけマシだろ?
「え~この番組では、今までほとんど……いや、まったくと言っていいほど世間に姿をお見せにならなかった魔王様に出演していただけた、という事で、町やSNSなどの声を拾い普段皆さんが気になっている魔王様についての質問を、魔王様本人にぶつけてみよう、という番組企画となっております」
よかったぁ~……表明演説しろとか言われたらどうしようかと思った。
質問に答えるだけでいいなら何とかなるかな?
ああ、そうだ!
クラスの連中とかがこの番組みてる可能性高いから、声色とか口調とか少し変えながら話した方がいいな。
「え~まず、この番組のハッシュタグの付いたSNS上のコメントを拾ってみましょうか?一番多い疑問は……『皆、魔王様魔王様言ってるけど、魔王様の本名知ってる奴いるの?』……あ~魔王様というのは役職のような物ですからね、正式な名前を知りたいという方が多いようですね」
はぁ!?
「そんなん知ってどうすんだよ?」
「ひっ!!?」
あ、うっかり声に出して言っちゃったよ。
司会者の人めっちゃビビっちゃってるよ……ごめんよ司会者の人。
「あ、いや、ごめんなさい。諸事情で本名を明かす事は難しいので、私の事は今まで通り『魔王』でも、あだ名っぽく『まーちゃん』でもいいので適当に呼んでもらって大丈夫ですよ」
うう……見切り発車気味に声色変えて喋ったけど結構疲れるな。最後まで持つかな私の喉?
「あ、ありがとうございます。でも流石にまーちゃんは恐れ多くて誰も呼べないと思いますよ」
いや、確実に二人はいるな。
今スタジオの端で、現在放送されてる番組を映したタブレットを抱えて、これ見よがしに私の方に向けてる魔族とか。
あとは、中学からの腐れ縁で、お前のせいで心的外傷受けたと攻め立ててくる魔法少女とか。
こいつ等はたぶん、明日から私の事を『まーちゃん』とか呼んでくるな。
「え~では次の質問は……『今まで一切表に出てきてなかったのに何で急に出てきたんだろう?』確かにこれは気になりますね。何か理由があるのですか?」
ヴィグルにはめられただけです。
「え、えっと……世間での私のイメージが独り歩きしすぎてしまっていて、とてつもなく恐ろしい人物みたいな噂ばかりが蔓延してしまっていたので、ちょっとは顔出ししてイメージを変えていければ、と思いまして」
「そうですね……大変失礼ですが、魔王様の世間での噂は一概に良い、とは言えないものが多いかもしれませんね。では何故今まで実務的な部分も含めて表に出てこられなかったのですか?あ、差し支えなければでけっこうなのですが……」
めんどくせぇからだよ。
「私こんな見た目ですからね、周りから子供だからと馬鹿にされても嫌なので、仕事は全て側近に一任してたんですよ。もちろん彼に全権を委ねてるんで、いちいち私に伺いを立てる必要が無いようにはしています」
たぶんヴィグルが世間に周知させたいであろう事を最後にねじ込んでおいた。
「私も魔王様の容姿を初めて拝見させていただきましたが、想像よりも幼い感じでしたので、内心驚いていました。あっ、『魔王様かわいい』ってコメントが大量に書き込まれてますね」
スミマセン、その連投と思われるコメント書き込んでるの私のクラスメートの可能性が高いです。
「え~それでは次のコメントを拾って……」
「横から失礼。私の方から質問よろしいか?」
「池野さん?どういたしました?」
まぁ……どっかでしゃしゃり出てくるとは思ってたよこのオッサン。
「今回表に出てきたのは、先日の事件がきっかけではありませんか?」
「……私が自ら暴走した名誉魔族を処分したやつですか?」
「その通り!あなたが直接出てこなければならないほどの事件の事です」
含みのある喋り方だな……自分に酔ってるタイプの人間だなコイツ。
「名誉魔族が我々人間より強大なのはよく知っております……が、所詮は魔族によって力を与えられただけにすぎない!そうですな?」
もしかして、この前ワイドショーで喋ってた事を言いたいのか?回りくどいなぁ……ちゃっちゃと結論を言えよ。
「名誉魔族より優れた本物の魔族が出てくれば済んだ話……わざわざ私が出る必要もないハズだ。そう言いたいのですか?」
「さすがは魔王様……話が早くて助かる。私は魔王軍を揺るがす何かが存在していた、と予想しております」
いるよなぁ……陰謀論とか本気で信じちゃう人。
「ウチの方から発表があったと思いますが?あの時、犯人と接敵したのは同格の名誉魔族です。そして、すぐに駆け付けられる位置に他の魔族はいなかった。結果私が空間転移して現場で対処した……それだけの事です」
「では、被害者の中に魔王軍の幹部が含まれている事については?何か特殊な何かがなければ、名誉魔族が魔族を……しかも幹部を倒す事など不可能ではないですかな?」
しつけぇなぁ……司会者の人困った顔してオロオロしちゃってんじゃん。
「不意打ちをうければ、いくら幹部でも咄嗟には反応できません。しかも彼は仕事中で、周りには守らなくてはならない人間の作業員が大勢いましたから防戦一方になってしまった結果です」
「魔王軍幹部の実力と名誉魔族との戦力差がその程度で埋まるとは考えにくいですが?」
何なんだよコイツは!自分の妄想が現実です、とか言われないと納得しないのかよ?
もうめんどくせぇよ……誰か助けてくれぇ……
ヴィグルの奴は他人事だと思って、いまだにずっとタブレット掲げて私の方に向けてやが…る……し?
…………
……
「そういう事か……」
誰にも聞かれない音量で呟く。
あれはヴィグルからのアドバイスって事か……
なるほどね。
つまり、このオッサン……
殺してもいいって事ね。




