第十七話 ファンの多い魔王様
早かった……
ヴィグルの行動はあまりにも早かった……
まさか翌日には放送枠をおさえるとは思わなかった。
一限目が終わった瞬間を狙ったかのようにメールが入ってきたかと思えば
一言『出演が決定しました。本日19時に変身した姿で渋谷まで来てください。』の文字……
「マジかぁ~……」
心の準備すらさせてもらえない状況にため息が出た。
「どうした?隠してたBL本でも親に見つかったか?」
私のため息に、前の席の美咲が即反応する。
「ある意味そっちの方がマシだったかもしれないなぁ……」
「マジかよ!?エロ本親バレ以上に酷い悩みかよ!?」
「まぁ私にとってはそうかもなぁ……ちなみに美咲、ここから渋谷まで移動時間どれくらいかわかるか?」
「は?渋谷?何で?……たぶん電車で2・3時間って感じじゃね?」
学校終わったら速攻行かねぇとダメなやつじゃねぇかよ!!?
いや、変身して飛んで行けば一瞬か……
でもそこは人としてちゃんと公共交通機関利用しといた方がいいのか?
いや、しかし今回は魔王としてだから飛んじゃっていいのか?
いや待てよ?一応魔王として行くって事は仕事だから領収書切れば金出るのか?
「ほんとどうしたんだ?難しい顔して?渋谷で何か厄介事でもできたのか?」
色々と悩んでいる私を心配して、美咲が聞いてくる。
「きゃあああぁぁぁぁ~~!!」
その時、教室の片隅でいきなり悲鳴があがる。
クラス中の視線が、その一点に集まる。
その視線の先にいるのは、スマホ片手に固まっている、魔王のファンになったと美咲に言っていたミキちゃんだった。
…………何かすげぇ嫌な予感がする。
「今日魔王様がテレビ出演するって!!」
やっぱソレだよね……
すげぇ嬉しそうな顔して、近くにいるやつにスマホの画面押し付けるように見せてるし。
「……裕美、何やってんの?」
同じようにミキちゃんの言葉を聞いていた美咲が、呆れた口調で呟く。
何やってるかは私が知りたい……
「……いや、ほんと……何でこんな事になっちゃったんだろう?」
私は状況整理も込めて、昨日の夜のヴィグルとのやり取りを美咲に説明する。
「いや、それ、どう考えても裕美の自業自得でしょ?」
ですよねぇ……
「出たくないなら断ればいいのに、煽られたくらいでムキになってOKしてる時点でもう腹くくるしかないっしょ?」
何も反論できねぇ……
「ねぇねぇ大間さん!大間さんは何か聞いてる?これ本当なの?」
ここで突然ミキちゃんがスマホ片手に突進してきた。
そっか、一応私は魔王の眷属って事になってるから、真偽を確認しにきたのか。
「まぁ多少は話聞いてるかな……それはそうと、ミキちゃん魔王のどこが好きなの?」
何となく興味があったので、何でファンになったのかを聞いてみた。
「え?だって可愛いじゃん!」
かっ……かわっ……!?
「へぇ~……まぁそうだね、見た目可愛いかもねぇ」
美咲がニヤニヤしながら対応している。
ちきしょう!コッチ見んな!
「しかもカッコいいでしょ?わざわざ私達を助けに来てくれたうえに、お礼を言う暇すらなく、何も言わずに去って行くってクールすぎでしょ?」
正体がバレるのが嫌だったから何も喋らずに、それでいて用事すんだら即撤退したかっただけなんだけど、そういう解釈されてたのね。
「魔王様って人類の持つ全兵力を使っても倒せないって言われてる最強の人物でしょ?普通だったらもっと傲慢に世に出てきて好き勝手暴れるもんなのに、一切そんな事しないで、逆にそういう事する部下を怒るとか、私達が過ごしやすい社会の状態を維持してくれてるんだよ!実はすごい優しい一面があるんだよ!すごくない?」
いやぁミキちゃん語るなぁ。
「優しい……?」
美咲が怪訝な目でコッチを睨んでくる。
『その優しい魔王にアタシ頭吹っ飛ばされた事あるんだけど』
同時にスマホに美咲からのメッセージが届く。
いつまで根にもつんだよコイツ。
「それで大間さん!このテレビ出演の話って本当なの?」
ニワカっぽい始まりだと思ったけど、即ガチファンに加わってる感じだなミキちゃん。
「詳しくは知らないけど、19時に渋谷のスタジオで生放送とかって聞いてるかな?」
別にどうでもいい情報だったので、嘘偽りなく教えてあげた。
「生放送!!?もう収録済ってわけじゃないのね!?じゃあその時間に渋谷行けば魔王様に会えるかもしれないの!?」
あ、しまった。
ガチ勢の人に伝えるべき情報じゃなかったかもしれない……
「え!?生放送なの?魔王様をまた生で見れる可能性あるの!?」
「え!?マジ!?私渋谷行く!」
「渋谷なの!?私も行く!魔王様にサインもらいたい!」
コッソリ話を盗み聞きしていた数人が同じように声を上げる。
「裕美……ファン多いな」
あんまり嬉しくない……
ってかお前等がわざわざ渋谷まで行って会おうとしてる奴、今現在お前らの目の前にいるんですけど!
たぶんそこまでして会いに行く価値ないと思うよ。
「夕方までにサインの練習しといた方がいいと思うぞ……裕美」
教室中が盛り上がっている状態で、美咲がボソっとつぶやく。
「世の中に、魔王として文字なんて残したら、筆跡で私だってバレる可能性あんだろが!」
「用心しすぎだろソレ!?」
そんな会話をして休み時間は過ぎていく。
そして……
午前中の授業が全て終わる頃には噂は学校全体へと広まり、お昼休み後の午後の授業が始まる頃には、全校生徒の半数が早退していた。
お前等どんだけ魔王様好きなんだよ!!?
そして私の渋谷までの移動手段は電車ではなく、魔法で飛んで行く事が決定した。




