第十六話 魔王を挑発する魔王側近
「ああ、それは池野さんという方ですね。下の名前は忘れてしまいましたけど」
専門家を名乗るオッサンについて聞いてみたところ、ヴィグルは知っていたようだった。
「専門家とか書いてあったけど何なん?あのオッサンに魔族側の情報流してんの?」
「まさか。専門家というのは、あくまでも自称ですよ」
いいのか?そんな自称専門家をゲストに呼んじゃうテレビ局も、何も訴えない魔族側も?
「最初のうちはアポイントを取ってきたので、私が面談を行ってましたが、自分の妄想をさも事実の様に語ってくる話の通じないタイプの人間でしたので、裕美様の耳に入れるまでもなくシャットアウトしておりました」
まぁその判断は正しいかもな。
「成程ねぇそれじゃあ、その話は一旦置いといて……今回の件はどこまでの情報が出てる?」
ヴィグルは姿勢を正し、仕事モードに入る。
「はい、朝に裕美様にお聞きした情報を考慮した結果、目撃者多数のため、ある程度の部分は隠せないと判断いたしまして、ほぼ事実のみを警察関係者には伝えております」
ほぼ……ね
「事実と異なる部分は?」
「異世界の者は、暴走した名誉魔族という事にしてあります。また、それを止めるため、魔王様が来るまでの時間稼ぎをしていた者も名誉魔族だという事にしてあります」
まぁ妥当なところかな?
「一応、裕美様と美咲さんの名前は、未成年であるためメディアに晒す事はしないよう言っておいたので、テレビ等でお二人の名前が出る事はないでしょうが、学校関係者の目撃者は多数いますので、ネット上の一部で名前が流出するくらいは覚悟しておいてください」
それはどうにも防ぎようがないしなぁ……まぁその辺はあきらめよう。
それよりも私のなかで一つ気になる事があるわけで……
「ちなみに私はワイドショーとかあまり観ないから知らないんだけど『魔王』の世間のイメージってどんな事になってんの?」
今日の昼間に観たワイドショーでの魔王の印象の悪さに少し泣きそうになったよ。
「もしかして件の池野氏の発言を気にしておられますか?」
「まぁ……多少はね」
話の流れ的に、気にしてるのバレバレだよなぁ。
「ワイドショーで、というよりかは、テレビ・新聞等では『魔王』の話題に関してはある種タブーになっております。触らぬ神に祟りなし、というやつです」
いや、でもあのオッサン今日めっちゃ魔王の悪口言ってたじゃん!?
「裕美様はあまりネットの掲示板等はご覧になられていないようですが、本日の池野氏の発言は、概ねこの掲示板で言われている内容と酷似しておりますね」
専門家が聞いて呆れるな……
「ご自分の印象を向上させたいのであれば、テレビ出演してみてはいかがですか?」
おい!何言ってんだコイツ?
「おそらく『魔王自らが出演を希望している』と言えば、どこの局も特番組みますよ。絶対に数字とれますからね」
そりゃあ今まで一切顔見せしたことのない、現在世界の頂点に君臨している魔王様がテレビ出るって知れ渡れば視聴率すごそうだしな。
「ちょっと待て!やけにテレビ出演を推すけど、私がテレビ出て好き勝手発言してヴィグルに何かメリットでもあんの?」
ヴィグルが何かをお勧めしてくる時は、大抵は裏で何か利がある事なんだよな。
「裕美様がメディア相手に好き勝手発言してくれる事が大事なんですよ。ある程度魔王様の口から指針が発言されれば、私の仕事で余計な時間を取られずにすみますからね」
「どういう事?」
「いつも対人での会議で、毎回の様に『魔王様は納得いただけるでしょうか?』という発言があるんですよ。なので裕美様にテレビで、あれは良しこれはダメを明確に発信していただければ、この毎回の発言をなくす事ができるんですよ」
そんなのたかが数秒会議時間が短くなるだけじゃん。
「今『そんなくだらない事を……』とか思いましたね?」
鋭いなコイツ……
「裕美様にわかりますか?毎日毎回数時間おきに一字一句同じ発言を聞かされ続ける私の気持ちが?」
つまるところ、軽くノイローゼになってんなコイツ……
「失礼……少々取り乱しました……が!どうでしょうか?『魔王』のイメージ回復もかねて一度テレビ出演などしてみては?」
目が怖ぇな……こいつガチだな。
「もちろん出演OKするのは生放送でのみ。マネジメントや出演交渉等は全て私の方でやっておきますので、裕美様はただカメラに向かって、司会者の質問に答えたり、ご自分の意見等を言いたいだけ発言するだけですから」
だから怖ぇよヴィグル……
「どうでしょう?というか、私を助けると思って、思い切って出演してみてください!」
いや、まぁ世間での私の印象を良くするために、何とかしようとは思ってはいたけど、いきなりテレビ出演とか言われても、常に一般人の生活していた私からしたら未知の世界というか、一歩を踏み出す踏ん切りがつかないというか何というか……
「……もしかして裕美様……ビビッてます?」
………
……
…
「上等だ!出演してやるよ!」




