第十五話 魔王の評判
「あ~もぅ~何でアタシがこんな目に合わなきゃならないんだよぉ~」
美咲は自分の部屋のベットにダイブして愚痴をこぼす。
「そもそもあの空飛ぶ狐の泣きそうな表情に騙されてなけりゃこんな事にはなってなかったはずなのになぁ」
案の定学校は本日臨時休校となり、やる事も特になく美咲の家に遊びに来ている。
美咲は幸にも声をかけていたようだったが、用事があるとか何とかで断られていた。
ってか本来は学校がある時間帯に『用事』って……
こりゃ美咲避けられてるな。
「だいいち~アタシ魔法少女になって無駄なトラウマ増やしただけで、何の活躍もしてないしぃ~」
ちなみに学校は現在、警察関係者や魔族関係者で現場検証が行われおり、絶賛立ち入り禁止中である。
もちろんヴィグルもお呼び出しされているため、オッサンの死体回収を命令しておいたのだった。
「やった事なんて、公衆の面前で恥ずかしい格好で飛び回ったあげく、鼻血たらして叫んだくらいなんじゃね?」
一応ヴィグルには、事の経緯は説明してある。そのうえで『大間裕美=魔王』に繋がりそうな情報の秘匿を命令し、それ以外の事実を公表するかどうかはヴィグルの判断に任せておいた。
「そりゃあね、何かあったら変身して魔法に頼ったりってのはそこそこあったけど、その報いっていうにはちょっとアレじゃない?」
ってかさっきからコイツは一人でブツブツとやかましいな。
「それを寄ってたかって皆して質問攻め……『実はアタシィ~魔法少女なの~』って事実言おうものなら絶対皆ドン引きするだろ?アタシ確実にさっちゃんみたいに痛い子認定されるだろ?」
いや、たぶんそうでもないと思うぞ。
美咲が必死に考えてひねり出した回答が『実はアタシの前世からの因縁で秘めたる力が……』どうこうとかいう、美咲のなかの中学二年生が暴走した答え聞いても、皆して『ああ……美咲だもんなぁ~』程度のリアクションだったし。
まぁ美咲がクラス皆の優しさに包まれている事実は黙っておくとして……
「それで、何でオマエ変身してんだよ?」
そう、美咲は自宅に着くなり、いきなり変身しだしたのだ。
「いや……だって制服のままベットでゴロゴロするとシワになるだろ?」
まぁそうだろうけど……魔法少女の衣装はいいのかよ?
「魔法の力ってすげぇよな。この衣装ってどんなにシワシワにしても、再度変身しなおすとクリーニングしたみたいにピカピカになって戻ってるんだぞ!」
そりゃあ基本その衣装って、美咲の魔力で出来てるわけだしな。
寝て起きたり、休憩取ったりで美咲の魔力が回復すれば衣装も元通りになるだろうさ。
「ってかオマエその口ぶりだと、しょっちゅうその行動やってんな?」
もしかして、さっき言ってた「何かあったら変身して魔法に頼ったりってのはそこそこあった」って発言はコレも含んでんのか?
使い方が小せぇなぁ……
戦い方もせこかったしなぁ……
性格なのかな?
「いいじゃんかよぉ~……せっかく魔法少女として頑張っていこうと思った矢先に誰かさんに出鼻くじかれたんだしぃ~それくらいの恩恵受けてもさぁ~」
何か完全に不貞腐れてるなコイツ……
まぁ幸みたいに、周りに当たり散らすようなキレ方するよりかはマシかな?
「それよりテレビ観ようテレビ!今日の事そろそろニュースになってんじゃね?」
色々と面倒臭かったので、適当に話題をそらしてみる。
「お!アタシの活躍とか放送されてるかな?」
いや、お前コケて鼻血たらしてただけじゃん。
惨めだぞぉ、インタビュー受けてる友人に「美咲ちゃんは、魔王が来るまでの足止めも出来ずに鼻血たらしてました」とか言われるのって。
美咲はテレビを点けて、ニュースが流れている番組を探してチャンネルをまわす。
私はその間に、本来は学校で食べる予定だった弁当をテーブルに出して食べる準備をする。
……まだ11時前だけどね。
「お、さっそくやってるよ」
美咲の発言に反応してテレビを見ると、そこには規制線が張られている学校の校門前に立って何かを喋っているリポーターが映っていた。
「この状態じゃまだマスコミにはそこまで情報伝わってなさそうな気がするけど、何を報道してんだろうな?……あ、美咲飲み物くれ」
「持ってきてないのかよ!?面倒臭ぇなぁ~……アタシの小便でいいか?」
「おう、それでいいや。コップ一杯でいいから今すぐよこせ」
「……麦茶でいいか?」
何やらしょんぼりしながら台所に向かう。
ボケが流されたくらいで落ち込むなら言わなきゃいいのに。
っていうか、変身した状態で行くのかよ!?
肩を落としてパシられる魔法少女って、客観的にもあんまり見たくなかったなぁ……
ふとテレビ画面に目を戻すと、現場からスタジオの映像に切り替わっていた。
『魔王がわざわざ出てきたという事は、我々に対する警戒なのかもしれませんね。おそらくは「この件には関わるな」という事でしょうね』
『魔王が出てくる事が警戒というのは、いったいどういった意味でしょうか?』
『魔族からしたら、今回の出来事は現在の魔族の地位を下げかねない何かを含んだ事件だったのでしょうね。だから交渉の余地のまったくない魔王が出てきた』
『交渉の余地がない?』
『魔王が今まで人前に姿を見せなかったのは、破壊する事以外に興味がまったくない人物だからと言われています。しかも気分によっては話かけただけで殺される事もあると言われる人格破綻者です。つまり今回の事件の真相は魔王しか知らない、という事にしてしまえば我々はその時点で引き下がらざるをえなくなります』
おいおい……魔王のイメージ最悪だな。
魔族の面々からしたら、だいたい合ってるのかもしれないけど……
『それにしても魔族の地位を脅かす何かとは一体何なのでしょうか?』
『今回の事件の被害者に魔王軍の幹部も含まれているんですよ。我々人間では下っ端の魔族ですらどうする事もできないのにですよ』
『確かにそうですね』
『そして今回の事件の目撃情報で犯人は人間の容姿だったといわれております。それに魔族側も名誉魔族の関与を否定しています』
『そうですね、先日のニュースでもその事はお伝えいたしました』
『つまり人間でも魔王軍の幹部ですら倒せてしまう何かが確実に存在しているのですよ。それを隠し通したいがため魔王自らが動いた……と私は睨んでおります』
『そうですね、その様なアイテムが存在するのでしたら、今まで人間にとっては天災と同じだった魔族がその特別な地位から落ちてくるかもしれませんね』
はぁ……そういう仮説が成り立つのかぁ……
人間の想像力ってすごいなぁ。
「何かすげぇ盛り上がってるオッサンがいるなぁ」
いつの間にか美咲も戻っておりテレビを見ていた。
「ってかこのオッサン『魔王軍専門家』とかいう肩書が書かれてるけど裕美の知り合い?」
「いや……知らん」
というか本当に『魔王軍専門家』とか書いてあるな、どういう専門だよソレ?
専門家名乗っといて、私の情報がソレかよ?
ちょっと魔王の権力使ってコイツに会ってお灸をそれる必要があるかもな……
「さすが専門家だけあって、魔王の人格破綻者っぷりをよく理解してるよな」
ダメだ……コイツも私の優しさを理解できてないな……
ってか、この専門家のオッサンより美咲の方が魔王軍内情に詳しんじゃね?




