第十二話 魔王様降臨
私は再び校門そばに転移する。
言われた通り律儀に待機していたオッサンに声をかける。
「待たせたね」
オッサンはまじまじと私の顔を見る。
「その声は先程の娘か?いきなり笑い出して消えたので、殴られたショックで頭がおかしくなったのかと思ったが、格好までおかしくなって帰って来るというのは予想外だな」
まぁいきなり頭ピンク色になって出てくれば、そう言いたくもなるよな。
「私が本気で戦うためには、この格好は必須なんだから見逃してくれよ。まぁともかく、後悔するなよ?この格好になったら前ほど優しくはないぞ」
「前の格好の時から、結構えげつない攻撃をしていたと思うのだが?」
うるせぇわかってるよ!ただ、このセリフが言いたかっただけなんだよ!ほっとけよ。
オッサンのツッコミのせいで、会話が続かずに無言になる。
ただ、無言になったせいか、野次馬達からのざわめきが漏れ聞こえてくる。
「あれテレビで見たことある」
「魔王?あれってマジもんの魔王なの?」
「ヤバくない?」
「嘘!?私、魔王初めて生で見ちゃった」
オッサンもガヤを聞いていたのか、目線が野次馬達の方向を向き、再び私の方を見る。
「周りのアノ反応を見るに、貴様が、二人目の白い娘が言っていた『この世界の魔王』か?」
「まぁそんな感じかな?変身したこの姿が、一応魔王って事になってる。さっきまでの姿は、まぁ世を忍ぶ仮の姿か何かだと思ってもらった方が説明する手間が省けるかもね」
「なるほど、つまり先程の姿がイコール魔王と知れ渡ると支障があるため、大衆の前で姿を変えるのを避けるために一旦移動した、というわけか?」
話が早くて助かるなぁ
「そちらの事情は何であれ、我はただ純粋に戦いを楽しめるのであればそれで良い。我の懸念はただ一つ……『その姿の貴様は本当に強いのか?』という事だ」
ってか最初からちょっと気になってはいたんだけど……
「サーチ魔法使えば、ある程度は相手の魔力の大きさわかんじゃね?」
「我はサーチ魔法は使えん」
そりゃ予想外の答えだ。
「サーチは基本魔道具を使って行っている。それも、魔力の大きさを調べる感度はいまいち良くない旧式を使っているのでな、今の貴様の魔力量はわからん」
「あ~なるほど……つまりこっちの世界に来た瞬間に一発使用して、この場所の魔力反応が感度悪い中でも一番でかかったから、とりあえずやってきたって事ね……じゃあ来る途中に私の配下何人かやってたみたいだけど、それはどうやって見分けてたわけ?」
「その使用した一発で、異形の姿をした者は皆一律に魔力がある事がわかったので、ウォーミングアップに強そうな連中を狙っただけだ」
本当にただの通り魔じゃん!?
「了解。とりあえず状況はだいたい理解できたわ。じゃあちゃっちゃとやりますか」
そう言うと、オッサンは待ち構えていたかのように、手に魔力を込めて臨戦態勢に入る。
「どうした?貴様は構えんのか?」
棒立ちの状態の私を見て、オッサンは疑問を口にする。
わかってないなぁこのオッサン……
「私もオッサンと同じで少しは楽しみたいんだよ。この姿で戦うのは久しぶりなんだ、簡単に終わっちゃったらつまらないだろ?」
オッサンの眼光が今まで以上に鋭くなる。
「喜べオッサン!私をこの姿にさせただけでもアンタは相当な実力者だ!だが、私に牙をむいた愚行を呪って死んでいくがいい!!」
気持ちいい~~!一回言ってみたかったんだよ、こういうセリフ。
私が最高に気分がよくなった代わりに、オッサンは怒ったらしく、すごい形相で突っ込んでくる。
「ワンパターンだなぁ……」
私は、殴りかかってくるコブシを横に弾く。
「っつ!!?」
オッサンは驚愕の表情を浮かべる。
ただコブシが弾かれただけならともかく、弾かれた力が激しく、殴りかかっていった自分の右腕の肩を脱臼させられたのが信じられない、といった感じだ。
私は、すぐさま回復魔法をかけているオッサンを指さす。
「さっきは拘束魔法解かれたけど、これはどうかな?」
オッサンをさしていた指を下に向ける。
「~~~~~~~~~ッッ!!!」
オッサンを中心にして、半径1メートル弱のクレーターができる。
「おっ!私の重力魔法をくらって潰されずに立ってるのはすごいな。ま、でも流石に動けないか?」
今にも膝から崩れ落ちそうな状態ではあるが、こらえていた。
ただ、食いしばっている歯はヒビが入り、前歯の数か所は既に欠けているような状態である。
「そういやオッサン。オッサンは私に『奇怪な魔法ばかり使う』って言ってたけど、実は私もオッサンと同じで『魔力を込めた純粋な暴力』って方が得意なんだよ」
ストレス発散に魔族をサンドバックにしてる時は基本そのやり方だしね。
「グーで殴るのは可哀そうだから、パーで叩くだけにしといてやるよ。気合入れて防御しろよ~」
私は魔力を込めたビンタをオッサンの左腕に入れると同時に重力魔法を解除する。
事前に忠告していたおかげか、しっかり防壁をはっており、少し後ろに吹っ飛ぶ程度ですんだ。
とは言っても、オッサンの左腕は曲がってはいけない方向に折れ曲がっていた。
「ぐああああぁぁ~!!」
両手が使えなくなったオッサンは、自棄になったかのように叫び、足に魔力を込めて蹴りかかってくる。
「動作がおせぇよ」
私はオッサンの蹴りが届く前に、オッサンの軸足に軽くローキックを入れる。
攻撃に魔力を込めすぎていたせいで防御がおろそかになっていたようで、私の魔力を込めた、触れる程度のローキックで、折れた骨が肉から飛び出てくるレベルの損傷になった。
流石に立ってられず、その場で倒れこむ。
私は唯一動く、オッサンの右足をそっと触る。
「オッサン、蹴りは苦手だろ?手に比べて足での攻撃はちょっと褒められないな。そんなわけで、もう足技は使わない事をお勧めしてやるよ」
そう言って、足に触れていた手をそっと放し、指をパチンと鳴らす。
「ぐああああああっっ~!!?」
足は爆発し、骨まで肉もろとも四散し、この世からオッサンの右足は存在を消した。
オッサンは止血に魔力を注ぎ、何とか出血による意識喪失を阻止している。
「どうよオッサン?こんな風に魔力を体内に少しでも残しておくと、合図一つで、いつでも内側から爆破できるんよ……『単純な暴力』もいいけど、魔力は色々と使い方を模索すると、それ以上に恐ろしい攻撃手段にもなるって覚えとけよ」
血と魔力を失いすぎたせいか、少し青白い顔で、それでも私を睨みつけている。
「…………化物め」
「よく言われる……で?この後はどうする?両手両足は使い物にならなくなったけど、口……は、もう歯がボロボロか?じゃあ頭があるな、頭に魔力込めて頭突きでくるか?」
そう言いながら、私はオッサンの頭に向かってそっと手を伸ばし、直前で一旦動きを止める。
「何か言いたい事があるなら聞いといてやるけど。何か言っとくか?」
私が蘇生魔法を使えるのは伏せつつ、遺言を促してみる。
「配慮感謝する……井の中の蛙であった。これだけの実力差がありながら貴殿の前で粋がっていた自分が恥ずかしい。馬鹿な弱者がいた、と笑い話のネタにでも使ってもらえれば幸いだ」
自虐的だなぁ
「戦う前にも言ったろオッサン。私にこの姿を晒させた時点で、相当な実力者だ。胸をはっていい。それにまだまだ強くなる才能はある」
美咲と戦っている時、魔力を飛ばして攻撃するやり方を咄嗟にマネできてたしな。
「世辞でも実力者に言われれば嬉しいものだ……貴殿との実力差を最初から理解していれば、貴殿の配下となり、貴殿の指導の下、魔力の扱いを研磨するのも悪くはなかったかもしれん……」
はい、蘇生確定。
「願わくば、このまま衰弱死を待つより、強者である貴殿の手で我を葬ってほしい……」
「そんな程度でいいのか?欲が少ない奴だな……任せとけ、それくらいな……」
「魔王~~~~~!!!!」
話している最中に、私を呼ぶ叫び声が後ろから聞こえてくる。
そこには、幸が凄い形相で立っていた。
どうやら、美咲の介護で気絶から回復した幸が、魔王を発見して、ここまで飛んできたようだ。
「相手をそこまでボロボロにする必要はあるのですか!?それにもう決着はついているハズです!その方には聞きたい事もあります。引き渡しなさい!」
また厄介なアホな発言してるな……
私は幸を無視して、そっとオッサンの頭に手をのせる……




