第十一話 異世界魔王VS魔法少女
「さっちゃん、生きてる?」
美咲が問いかけるが幸からの返答はなかった。
おそらく、美咲が来てくれた事で安心して気を失ったのだろう。
「なるほど、不意打ちとはいえ、我に一撃加えられるという事は、先程の小娘よりは強者のようだ」
「そりゃどうも」
ふざけた返しをしてはいるものの、美咲に余裕はなさそうだった。
その証拠に、コチラをたまにチラチラ見ながら「早く助けに来い」オーラを出している。
オッサンは手に刺さった魔力の矢を抜き取る。
抜いた瞬間出血するが、すぐさま回復魔法で止血をする。
「せっかく出てきたんだ、我を楽しませてくれ」
幸の腕を折った時と同じスピードで美咲へと突撃していく。
美咲は同じ速度でバックステップで後ろに飛び、飛びながら魔力で作った弓と矢でオッサンに向かって攻撃をする。
今度は刺さる事なく、オッサンは飛んでくる矢をはじく。
矢をはじきつつ、再び美咲との距離を詰めるべく跳躍するも、美咲も同じスピードで後ろへ下がりつつ攻撃する。
距離を詰める、逃げつつ攻撃……
ひたすらその繰り返しである。
「小賢しいマネを……」
意外とオッサンやりにくそうだな。
「オッサンさっき『何で魔力を別のものにして攻撃すんだ~』みたいな事言ってたろ?その答えがコレだよ。アタシはちょっとしたトラウマ持ちでね、死んでも接近戦はしたくないんだ」
いや、いい加減トラウマ克服しろよ。
「なるほど、それは勉強になるなっ!!」
そう言いながらオッサンはコブシに込めていた魔力を、美咲に向かって投擲する。
そうくるとは思っておらず完全に油断していた美咲は、それをモロに顔面で受け、そのままの勢いで、盛大にズッコケる。
「いってぇぇ~~~!!」
漫画みたいに盛大に鼻血を垂らしながら叫ぶ。
「今の声って美咲じゃない?」
「え?じゃあ今戦ってるの美咲?」
「でも見た目違くない?」
でかい声で叫んだせいで、野次馬連中のもとまで声が届き、変なざわめきが起こる。
交友関係が広いせいで美咲の事を知っている連中はこの学校には多い。
まぁ知ってたけど、アイツ馬鹿だろ。
「使い方はこんな感じでいいのか?」
こけて叫んでる間に、完全に距離を詰められる。
「やっべ……」
尻もちついている美咲に向かって、オッサンはコブシを振り下ろす。
美咲は逃げる事はせず、逆にオッサンの懐に飛び込んでいき、カウンターになる形で魔力を込めたコブシでオッサンの腹をぶん殴る。
「『単純な暴力』ってのは、こんな感じでいいのかな?」
「……いいパンチだ、80点くらいはくれてやろう」
オッサンは倒れる事もなく、殴りつけた美咲の右腕を、左手でガッツリと掴む。
「ちょッ……まッ……うっそ、効いてない?」
「効いたさ、ゲロ吐きそうなくらいだ。だが、この状態に持ち込み、片腕同士での単純な殴り合いになれば我に分があると思ったのでな」
そりゃあ、このオッサン接近戦にかなり特化してる感じだしな、ただでさえ若干オッサンの方が実力が上っぽいのに、ああなったら美咲の勝ち目が完全に消えるな。
…………って、ちょっと待て?
絶体絶命になった美咲が頼るのって……
「裕美~~!!このオッサン、マジでヤバイって!!助けてくれよ~!!ゆ~~み~~!!!」
全校生徒の前で叫ぶなよ!!?
「やっぱりあの声美咲だよ」
「え、ゆみって誰?」
「美咲が『ゆみ』って呼ぶっていったら大間さん?」
「ええ!?大間さんも名誉魔族か何かなの?」
「裕美さんって今どこにいるの?」
野次馬のざわめき……そして次に、私に集まる視線。
「いって!防壁はってるのにマジでいてぇ!ヤバイって!!マジで助けて!!裕美ぃぃ!!!」
オッサンが殴りつけてくる部分にピンポイントで防壁はって何とか攻撃防ぎながら叫び続ける美咲。
そして周りからの突き刺さるような視線を受け続ける私。
落ち着け私。
大丈夫、まだ大丈夫だ。
まだ『魔法少女』って事も『魔王』だって事もバレてない。
今飛び出していっても「実は名誉魔族だったのテヘッ」で誤魔化せる範囲だ。
覚悟を決めろ私!この後の言い訳をミスしなければいいだけだ。
「うるせぇ!今行ってやるから待ってろ!!」
そう言って私は、三階の窓から飛び降りる。
もしかしたら戦闘になるかもと思って、念のためスカートの下にスパッツはいといてよかった……まぁここ女子高だから別にパンツ見えても構わなかったかもしれないけど。
オッサンは美咲を殴るのを一旦中断し、私に視線を向け警戒をしているようだった。
……チャ~ンス
私は着地する前に、座標をオッサンの真後ろに固定して転移魔法を使う。
予想通り、咄嗟に対応がとれなかったオッサンの後頭部を蹴り飛ばす。
吹っ飛ぶオッサン。
そして、腕を掴まれたままだったため、一緒に飛んでいく美咲。
すまん美咲。それはちょっと予想外だった。
まぁたぶん野次馬連中のウケは取れたと思うから安心してくれ。
「あ~……オッサン、そいつには私の後ろで転がってるやつを手当させたいから手ぇ放してもらっていいか?」
オッサンは自分の左手を一瞥すると、何も言わずに手を放す。
拘束が解かれた美咲は無言で立ち上がると、服についた汚れを手で払い、私の方へと歩いてくる。
私もオッサンと対峙するため、美咲がいる方向へと歩いていく。
「なぁ美咲……お前屋上にいたよな?誰か人いた?」
すれ違いざまに質問を投げる。
「いや、誰もいなかったぞ」
「そっか……」
それだけ会話し、美咲から離れる。
美咲は幸が倒れている方へと、こちらの様子をうかがいながら歩いていく。
「中々の蹴りだったぞ。意識が飛びそうになった」
「そいつは残念。履いてるのが上履きじゃなくて、いつものスニーカーだったら気絶させられたんだけどな」
私は足をひらひらとやって見せる。
「減らず口を……まぁ我を楽しませてくれるのならば、何でも構わんがな」
そう言って立ち上がると、今までと同じ様に凄まじい速度で突進してくる。
私はそんなオッサンに向かって手を伸ばすし、グッと握る。
「がッッ…………!!?」
私の拘束魔法によってオッサンの動きが止まる。
「さ……きほど…から……奇怪な……魔法を……つか…う」
喋れる!?
次の瞬間、私の拘束魔法を解呪して突っ込んでくる。
解呪されるとは思っていなかったため、反応が遅れてオッサンの攻撃をまともに受け、美咲と幸がいる位置まで吹っ飛ぶ。
痛い……?
魔法少女になって初めての感覚。
自動防壁を貫いたうえに、対衝撃に対して強化してある私の身体にダメージ?
「ふっ……ふふ……ふははは……」
今まで私が待ち望んでいたのに一度も訪れた事のなかった展開。
テンションが上がり、思わず笑いがこみ上げてくる。
「お……おい裕美……大丈夫か?」
美咲が心配そうに声をかけてくる。
だが今は、美咲の相手している暇はない。
「あはははははは!!」
笑いながら起き上がる。
「少しそこで待ってろオッサン!地獄を見せてやる!」
そう言い残し、美咲と幸の肩に手を置き、三人で屋上へと転移する。
私一人でもよかったかもしれないが、避難させるため二人も一緒に連れてくる。
「おい裕美、いったい何を……!!!?」
何かを言おうとして、私の手に握られている変身アイテムに気が付き、美咲は言葉を詰まらせる。
そういえば三年前に美咲と仲良くなりはじめてからは、美咲の前では一度も変身した事なかったかもな……
ただ今は、そんな事を気にしてやるほどの余裕がないほどに気分が高揚していた。
三年ぶりに美咲の前で魔法少女……魔王としての姿に変わる。
美咲の顔は泣きそうな表情になっている。
「んじゃあ、ちょっくらあのオッサン殺してくるわ」
私は今どんな顔をして笑っているのだろうか……?




