第五話 魔法少女・絵梨佳
浮遊狐に、変身アイテムの石を出させて、それを絵梨佳に手渡す。
最初は変身アイテムを出す事を渋っていた浮遊狐だったが「後1分以内に出さなかったら、どっか適当な異世界に空間転移して滅ぼしてくるぞ」と懸命な説得をしたところ、素直に従ってくれた。
「絵梨佳、その石を握って、頭の中で『変身したい!』って強く念じてみろ」
特に難しい事ではないので、べつに説明は必要なかったかもしれないが、とりあえず絵梨佳に変身アイテムの使い方を説明する。
絵梨佳は、私の言った通り、両手で石を強く握りしめて目をギュッと閉じる。
次の瞬間、絵梨佳の体が光に包まれ、先程までの姿とは違う容姿の絵梨佳が姿を見せた。
よし!変身できた!とりあえずは第一関門は突破だ。
後は『優秀な部下』に当てはまる程度には魔力が強いかどうかなんだけど……
「おお!」
「……ぬっ!?」
「え!?マジで!?」
「これは……僕が思っていた以上だね……」
同時にサーチ魔法を使ったのだろう、各々違ったリアクションで驚きを表現しだした。
ってかサクラが最近サーチ魔法習得したのは知ってたけど、何気にポチも習得してたのか……まぁサクラにできるんだからポチにもできるよな。
でもそこまで驚くほどか?
サーチ魔法で見た感じ、ポチ達よりもほんのちょっとだけ魔力量が強い程度で、エフィ未満って感じなんだけど?
まぁ、まだ魔力の扱いに慣れてない状態で、この魔力量ならスゴイ方なのかもしれないけど、生憎と私基準だと、ポチやサクラと大差無いように思えるんだけどなぁ……
アレかな?1mからしか測れない物差しで2㎜と3㎜の違いがよくわからないような感じなのかな?
「スゴイ!凄いよエリカ!最初からこれだけの魔力があるんだったら、実戦を積んで魔力を高めていけば、いずれユミも倒せるくらいに強くなれるよ!」
おいコラ糞狐!?何さりげなく、再度私の正体バラそうとしてんだよ?
ってかお前、魔王討伐の任務降ろされて、私のお目付け役になったんじゃねぇのかよ?興奮して昔のクセが出たか?ちょっと落ち着けよUMA。
「え!?何で!?私、お姉ちゃんと戦いたくないよ!?」
ほら見ろ……絵梨佳混乱しちゃったじゃんかよ。
「落ち着け絵梨佳。そんな畜生の言う事を真に受けなくていい。ユミと戦わせる事はないから安心しろ」
というか、ちょっと強くなった程度じゃ、どう考えたって私には勝てないだろう。
このクソ狐は商売柄なのか、甘言をささやいて相手をその気にさせようとするクセを何とかしろよ。
それにしても絵梨佳の変身後の格好……
魔法少女の変身後の格好は、結構その魔法少女の思考に影響されていたりする。
自分の願望だったり、当人が想像している魔法少女のイメージ図だったり、性格を表すような格好だったり……
私はたぶん『魔法少女のイメージ図』ってのが、変身後に反映されている。たぶんコレは美咲もそうだろう。
幸は……最近変身した姿を見てないけれど、たぶん『自分の願望』だろう、ステラちゃんもコレかな?それとも『性格を表す格好』?まぁどっちかかな?
ノゾミちゃんは間違いなく『性格を表す格好』だろう。頭サイコパスだけあって、魔法少女としては珍しい格好だしね。
まぁその辺を踏まえての絵梨佳の姿……
髪が真っ赤なのはまぁ変身後なんでいいとしよう。
ただ、その格好は……
真っ黒いつば付きの長い三角帽子をかぶり、真っ黒いローブを着て、これまた真っ黒なマントを羽織っている。
魔女じゃん!?
イメージ的には、魔法少女っていうよりも魔女じゃんコレ!?
あ、いや、魔法を使う女性って意味だと間違ってはないんだけど……
少なくとも、この格好が絵梨佳の願望から来る姿でも、性格から来る姿でもないだろう。
「ところで絵梨佳……ちょっと聞きたい事があるんだが……お前が持ってる『魔法少女』のイメージってどんなだ?」
「え?いえ……特にこれといったイメージは持ってないです。そういう漫画やアニメを見た事がないんで、あまりイメージがわかないです」
え!?マジで!?私はアンタの隣の部屋でめっちゃ観てたのに!?
「小さい時とかに、ちょっとくらい見た事ないか?魔法少女モノのアニメとか?」
「あ、はい。まったくないです」
私の質問に即答してくる絵梨佳。
まぁ確かに、リビングにある家族共有のテレビだと、基本ニュースやらスポーツ中継とかが垂れ流されてたから、一緒になってアニメ見た記憶はないけど……自分の部屋にあったテレビでも見てなかったのかコイツ?
私なんてかじりついて観てたのに。
「私……お姉ちゃんに憧れてたんです……」
は?いきなり何を言い出すんだコイツ?照れるじゃん。
「ほら、お姉ちゃんって、すごいクールでカッコいいじゃないですか?」
え?素なの?素で言ってんのこの子?
ポチは何かすげぇうなずいてるけど、ヴィグルとサクラと浮遊狐は笑い堪えるの必死になってるんだけど……とりあえずコイツ等はあとで説教だな。
「お姉ちゃんみたいにクールでカッコよくなるためには、アニメなんて観てられないなって……特にキラキラした魔法少女モノのアニメなんて、お姉ちゃんとは真逆な感じがしてまったく観る気がしなかったんです」
逆!!?アンタのお姉ちゃん、そういうのめっちゃ観てたから!!むしろ現在進行形で観てるから!!しかも色々とこじらせちゃうくらいに好きだから!そういうアニメ!
「そんなに姉が好きか?」
「はい!」
嘘つけよ!!
昔は、私が話しかけると、いつもすげぇビクビクしてビビッてたじゃんかよ!そんな大声で即答できるほど好かれてた記憶ねぇぞ!?
いや、もうコレ以上この話続けるのやめよう……さっきから馬鹿共の微妙な反応が鬱陶しい。
「とにかくコレで、お前も魔力を操る事ができるようになった。今日から私のために魔王軍で働くんだな……それでいいだろ?ヴィグル」
いちおうヴィグルに確認をとっておく。
自慢じゃないが、魔王軍の詳しい業務内容とか知らないから、私じゃ何をやらせればいいのか説明ができない。
「そうですね。魔力持ちがやる業務に関しては万年人手不足ですから、魔力が扱える人材でしたらこちらからもお願いしたいところです」
へー、そうなんだー。
まぁ魔王軍の業務に興味はないんだけどね。
「ってわけだ。詳しい説明はそこのヴィグルに聞いてくれ絵梨佳……それじゃあ私は帰るぞ」
最後にそう言い残し、急いで転移魔法で自宅へと帰宅する。
そして、絵梨佳の発言を思い出し、自室で一人悶え苦しむのだった。
……ん?『自室で一人』?
あ!しまった!!浮遊狐置き忘れてきた!?




