第四話 魔王様の部下
「ご安心ください。ここは天国でも地獄でもなく、現世です。アナタはまだ生きていらっしゃいますよ絵梨佳さん」
「正確には、一度死んで蘇った、といったところかな?ここはキミの最後の記憶から4年程経過した世界だよ」
見た目普通の人間なポチやサクラが声をかけるならともかく、一番声をかけてはならない見た目をしているヴィグルと浮遊狐が絵梨佳に話しかける。
案の定ビビりまくっている絵梨佳。
「おいおい……魔族の存在知らない絵梨佳に、テメェ等がいきなり喋りかけたら混乱するだろうが。出しゃばりたい性格だってのは知ってるけど、少し落ち着けよ」
ビビッて泣き出しそうになっている絵梨佳に助け舟を出すために、私は強引に話に加わっていく。
「あ~……とりあえず悪いな絵梨佳。ちょっと魔法の実験してたら、事故でお前の事蘇生させちゃったんだよ」
蘇った状態で混乱している絵梨佳が理解できるかどうかは謎だったが、とりあえず大まかな事情だけは説明しておく。
「魔法……?あの……あなた達はいったい何者なんですか?……何で私が選ばれたんですか!?」
「は?『何者か?』ってお前何言ってんだ?」
死んでから4年たってるとはいえ、実の姉に向かって何を言ってんだコイツ?それに『選ばれた』って何だよ?私には、選ぶほど『死んだ妹』いないんだけど?
「アンタさぁ……今、自分がどんな格好してんのかわかって言ってんの?」
後ろから小声でサクラに耳打ちされる。
改めて自分の格好を見てみる。
……ああ、そういえば変身した状態だったな私。
って、こりゃいかん!?こんな少女趣味全開な服着てるピンク髪のイカレた女が私だって絵梨佳にバレたら、今まで積み上げてきた、凛々しいお姉ちゃん像が崩壊してしまうじゃないか!!?
「あ~……えっと……そうだ!お前にはまず、お前が死んでからの事を説明するべきだったな!」
とりあえず誤魔化すために、絵梨佳が死んでからの事を説明する事にする。
絵梨佳が死んだ約1年後に異世界から魔族が来た事。その魔族の総大将を、魔法少女の私が倒した事。そのまま魔王として魔族を掌握した私が、世界を征服した事。そして、今は魔族特権が存在するが、基本今まで通りの人々の営みがあり、魔族と人間が共存している事をざっと説明する。
「……という訳で、私の事は『魔王様』とでも呼んでくれ」
絵梨佳は、私の説明を黙って聞いていた。
うん、絵梨佳は黙って聞いてくれていた……絵梨佳は、ね。
私が説明している間、まさか他の全員から念話で「正体バラさないの?」的な事を突っ込まれるとは思っていなかった。
話しながら全員に「察しろ!」と返信送るのが非常に面倒臭かった。
「それで……ま、魔王様。私は何で生き返らせてもらえたんですか?」
絵梨佳から再度同じ質問がくる。
言えない……こんな仰々しい雰囲気作っちゃった今、今更「ただの私のうっかりですテヘッ」とか言ったら、凛々しいお姉様像以外にも、威厳ある魔王様像まで崩壊してしまう。
「それは……えっとな……」
しどろもどろになりながら、ヴィグルに「助けてくれ」と言わんばかりの視線を送る。
『裕美様が御自分で蒔いた種です。御自分で何とかしてください……それに先程「出しゃばるな」という命令を裕美様から受けておりますのであしからず……』
私からの視線の意味を正確に理解したうえでのヴィグルからの念話が飛んで来る。
チクショウ!使えねぇ側近だなオイ!
仕方ない。もう一匹の方の、自称お目付け役に……って駄目だ!コイツは何考えてるか、表情じゃまったくわかんねぇ!?どんな爆弾放り込まれるかわかったもんじゃない!
いや、だが待てよ……コイツの存在は使えるかもしれない。
「私はな、優秀な部下は何人いてもいいと思ってるんだ。そして、お前には、私の優秀な部下になれるポテンシャルを秘めていると思ったから復活させたんだ」
私は絵梨佳の方へと向き直り、咄嗟に思いついた言葉を放つ。
サクラから「また話をややこしくして自分から自分の首しめてる……」みたいな顔されているが、その辺は見ないフリをした。
「あの……でも私、そんな才能あるとは思えないし、魔王様達みたいに魔法も使えない……」
私の言葉に対して、絵梨佳は自信なさげに答える。
「おい!浮遊狐!変身アイテム出して絵梨佳に渡せ」
これぞ私の考えた作戦だ!変身させて魔法使えるようになれば、ちょっとした魔力だったとしても、自分が特別な存在だと思えるハズだ。そして、そう思い込ませられれば、復活させられた理由が、魔王が手駒を欲しがっているから、って事で説明がつく。
そう!けっして私の凡ミスが原因だとは思われまい。
……まぁ問題は、絵梨佳に本当に魔力の才能があるのかどうか?って事なんだけどね。
これで変身できなかったら全部台無しだ。
大丈夫だ!絵梨佳は私の妹なんだ!きっと魔法の才能がある!絶対に!たぶん……!おそらく……あればいいなぁ……
「ユミ!何を勝手な事を言っているんだい!」
ちょ!?おまっ!!?反論するにしても何名前呼んでんだよ!?空気読めよ!!
「え!?ユミ……って、お姉ちゃん!?」
やばい!絵梨佳が反応しだしたぞ!?
「ん?ああ、確かにユミは優秀な部下の一人だけど、ユミに断りを入れる必要なんてないだろ?どれだけ部下を増やしてもそれは私の勝手だ」
咄嗟に適当な事を言ってみる。
「まぁ聞いていた通り、ユミは私の優秀な部下の一人だ。そして、その優秀な遺伝子を持っていると思われるお前も部下に加えようと思ってお前を復活させたんだ……理解したか?」
絵梨佳に考えさせる暇を与えないように、たたみかけるように言葉を続ける。
「お前はこの世界じゃ既に死んだ事になっている存在だ。世間を混乱させるわけにはいかないから、今後は家族含めて親しかった連中と会う事はできない……しかし、私の部下になるのなら、今私の部下になっている姉にだけは会う事ができる……悪い取引じゃないと思うぞ」
とりあえずそれっぽい事を言ってみる。
頼む絵梨佳!この言い訳で納得してくれ!
「わ……わかりました。お姉ちゃんに会えるなら、私アナタの部下になります!」
……勝った!!
いや、何に勝ったのはわからないけど、とりあえず勝った!




