第三話 魔王軍本部会議
魔王軍の本部は、私の住む町の中心部。駅からほど近い場所に存在する。
仰々しく『魔王軍本部』と言っても、別に西洋風の古城があるわけではなく、普通に6階建てのオフィスビルがそこには鎮座しており、そのビルの全フロアが魔王軍本部となっている。
まぁ町の中心部に、ファンタジー風なイメージ通りの魔王城とかあったら、ウチの町には無いが景観条例とかに引っかかってもおかしくないだろう。
ともかく、このオフィスビルで、各国との決め事の調整、人材派遣等の指示、魔族がこの世界に溶け込むための細かな調整、魔力感知による魔法関連の事故監視、書類作成・整理等の事務仕事……等々の業務が行われている。
……魔王軍とはいったい?もうただの一企業じゃんかよコレ!?
そして、そんな魔王軍本部ビルに、絵梨佳と浮遊狐を引き連れてやってきた私だった。
「アンタの妹がこんなに可愛いわけがない!」
事情を説明して早々にサクラから、お前ソレ狙って言ってんのか?とか言いたくなるセリフを浴びせられた。
「おいおいサクラ……お前、眼球腐ってんじゃねぇか?遺伝子レベルで私にソックリだろうが」
言われっぱなしもムカつくので、とりあえず反論だけはしておく。
「そうですね。裕美様のご自宅で遺影は拝見させてもらっていましたが、改めて実物を見ると、この方の容姿を見慣れてしまいますと、ご両親が裕美様の容姿を心配するのもうなずけますね」
「確かに、絶対的な強者である裕美殿のような、鋭い眼光は持ち合わせてはいなさそうな娘だ」
うるせぇよ馬鹿2人。
容姿に関しての話題を続けるなよ!私が悲しくなるだろうが……
ってかヴィグルは、今、私をわざわざディスる必要あったか?
ついでに言うとポチは、まだ絵梨佳目を覚ましてないのに、想像だけで眼つき云々言うのやめろや。
「ってか、ここにいるのはいつもの3人だけか?エフィとステラちゃんはいねぇのか?」
このまま放っておくと、私のディスり合戦になりそうだったので、話題転換もかねて、何となく疑問に思った事を聞いてみる。
「エフィさんは、昨日かなり多忙でして、ほぼ徹夜作業だったため、本日は休養のため有給取ってます。ステラさんは、その残務処理で、一足遅れて今激務中ですね」
……ホント、ただの企業じゃんかよ魔王軍。
「っていうか、エフィ有給かよ!?入社早々に有給付与とかどんだけ優しい会社なんだよココ?」
「優秀な人間を雇う時は、通常でしたら半年たたないと有給は付与しませんよ……その期間で辞められても困りますからね。ですがエフィさんとステラさん……まぁポチさんとサクラさんもですが、彼女等は特別です。入社時に絶対に辞められない契約を結んでいますからね」
怖っ!?魔族が法律の外にいる存在とはいえ、普通なら摘発される案件じゃねぇか!?
まぁコイツ等の場合、魔王軍から抜けた瞬間に野垂れ死ぬから、辞めたくても辞められないだろうけど……
辞めて、生きるために力を使って悪さをすれば、私が粛正しに行くから、そんな事をすれば生きる事を辞めなくてはならなくなるだろう。
それと、ヴィグルがチラッと言ったが、魔王軍は人間も雇っている。
魔王軍なんだから、魔族だけで運営すればいいとか思うかもしれないが、人間にも各個人で能力の差があるように、魔族にも能力の差がある。
まぁつまるところ能力のない馬鹿にいられても邪魔にしかならない。
なので、ココにいる魔族は基本的に優秀なやつしかいない。
元々は、この世界を侵略しにきた連中なので、腕っぷしのいい奴は多かったが、頭の切れるタイプのやつはあまり多くはなかったようで、足りない人材は現地の優秀なヤツを雇っている、という現状である。
「何?私の顔に何かついてる?」
「いや……別に……」
いかんいかん……うっかりサクラに視線を向けてしまっていた。
ともかく『現地調達で優秀なヤツを雇っている』という謳い文句は、ちょっと考えなおした方がいいかもしれないな。
「話がまったく進んでいないようだけど、キミ達はいつもこうなのかい?」
すっかり存在を忘れていたが、突然、私の肩にずっと乗っていた浮遊狐が喋り出す。
本題からズレた会話しかしていない私達に痺れを切らしての発言なのだろうが、正直コイツにだけは言われたくないって気分だ。
「アナタに注意されるのは非常に腹立たしいですが、そうですね……話を戻しましょう」
あ、ヴィグルが若干不機嫌そうになった。
今後ヴィグルに嫌がらせをしたい時は、この浮遊狐けしかけるのが効果的かもしれない。
「裕美様の妹さんですが、死亡届が出され消失した戸籍を、私達の一存で日本の戸籍に組み込ませる事はできません。まぁ無戸籍でも行政サービス等は受ける事ができますが、今の状態は国籍も不明状態ですからね……」
『無戸籍でも行政サービス等は受けられる』の部分で、サクラが『マジで!?』みたいな顔になったがあえて無視する。
そういやコイツ、コッチの世界来た時、野垂れ死ぬ寸前までいってたんだったな……まぁそれはステラちゃんもだけど。
「今のところ一番良いと思われるのは、ポチさんやサクラさん、エフィさんにステラさんと同じように、魔王軍で保護している、という事にする案でしょうかね?」
「『一番良い案』って事は、他にも候補はあるのかい?」
ヴィグルの説明に、浮遊狐が質問をする。
私達に任せると、話が進まないとでも思っているのだろうか?
「ありますよ。元々の状態に戻す、という選択肢がね……彼女が生き返った事を無かった事にするため、肉片一つ残さずに殺害する事です。裕美様の力があれば、その芸当も容易いですし、幸いにも彼女はまだ目を覚ましていませんので、何も感じる事はないでしょう」
「ヴィグル……それ本気で言ってんのか?」
私はヴィグルを睨みつけながら、威圧を込めて変身する。
他人を平気で殺す私だが、さすがに肉親に同じ事はしたくない。
私は、誰の命も尊く思える聖人でも、誰の命もゴミにしか見れない悪魔でもないため、全ての命が平等とかいう考えはない。
しっかりとした俗物人間なため、他人の命の優劣は存在する。
見ず知らずなヤツの命は軽いし、私を慕ってくれているヤツや仲間・家族の命は重い。
そんな、重い部類に入る絵梨佳を私の手で殺せ、って?
「半分本気、でしょうかね?どうしても他にやりようがなければ、最終手段として取らざるを得ない行動と思っております。もちろんソレが裕美様が嫌がる行為だというのも理解しておりますよ……ですから、一番良い案を別であげているではないですか」
そういやそうか……って事は話をややこしくしたのは浮遊狐って事だな。
やっぱ余計な事しかしねぇなこの畜生は。
「う……うう……」
私達がもめている隣で、絵梨佳の口が動き、同時に瞳もゆっくりと動き出す。
「え……?何コレ?……ええ?ここが天国?それとも地獄?」
周りにキョロキョロと視線を向けながら大混乱する絵梨佳。
うん、基本に忠実なリアクションをありがとうマイシスター。
そして、ある意味地獄へようこそマイシスター。




