エピローグ
魔王様の、誰も殺さずに世界を破壊する3分間クッキング~!
まずは空間転移魔法で、異世界に転移します。この時、空間座標を把握していないと迷子になるのでご注意くださいね。
次に、生命反応に対してサーチ魔法を使用して、確認できた反応全てに防壁魔法を付与してください。ここでの注意点は、この作業だけで、底無しだと思っていた私の魔力が半分以上消費されたので、マネをする際は、魔力切れで消滅しないように気を付けてください。
そして最後に、広範囲……というか、むしろ世界全体を重力魔法で覆いつくしましょう。重力異常で自重に耐えられなくなった建造物が全て倒壊いたします。
以上でお終いです。ね?簡単だったでしょ?
もし時間が余ったら、オマケとして、浮遊猫の羽を反魔法の刀で斬っておきましょう。これで、ただの喋る猫になります。
飛べねぇ猫は、ただの猫だ。
そんなわけで……疲れた!本気で疲れた!
時間にしたら、本当に、往復した移動時間も含めて5分程度だったけど、無限に思えた私の魔力が無くなるんじゃないかと思えるほど魔力を消費した。
そういえば、前に誰かが、私の魔力は常人の100倍以上、みたいな事を言ってたような気がするけれど、今回の件で確信した。うん!軽く1万倍くらいあったわ……たぶんだけど。
ともかく、本気で疲れたので、運動場で待ってた連中に報告だけして、即ホテルに戻って爆睡した。
5分で世界を滅ぼしてきた私を見て、一同絶句していた感じだったが、正直対応していられるような元気はなかった。
そんなこんなで、一度も目を覚ますことなく昼まで爆睡。
例の如くノゾミちゃんちで朝飯兼昼飯食いに行こうかと部屋を出ようとしたその時、浮遊狐と見知らぬ青年がやって来た。
誰だよこの兄ちゃん?ってか浮遊狐、なんで私の滞在場所知ってんだよ?……あ、サーチ魔法か。
「初めましてユミさん。私はこの第九個体の世界で『異世界管理部・魔法被害補償課』に所属している者です」
うわ!?超胡散臭ぇ!
「大まかな事情は第九個体から聞いたのですが、今回ちょっと国が傾きかねない被害額が出ましたので、少しお話を伺いたく直接伺わせて頂きました」
何だ?物腰は穏やかだけど、つまるところ私がやった事に対してクレームつけに来たって事か?
「あ?文句あるならテメェんとこのクソ猫に言えよ。当初の予定は、エフィが教主やってた宗教の教会だけを潰すつもりだったのを、私を怒らせるような事するからこうなったんだぞ」
「それについては存しております。ですので第二個体は除名処分致しました。あの子の能力剥奪及び支援停止しましたので、そのうちアノ世界で勝手に野垂れ死ぬでしょう」
うわ!?さりげなく怖ぇ事言うなこの兄ちゃん。
「私が直接来た理由としましては、アナタとお話させて頂き、今後も同じような事例が発生するかの有無を判断させていただければと思った次第であります」
そんなの知らねぇよ。
基本、私の気分次第なんだから、私を本気で怒らせるようなヤツがいなければ、ここまでの事はやらないだろうしな。
「で?その判断の結果『有る』ってなったらどうなるんだよ?私の事は誰も止められないって判断されたから『人間災害』とかいう迷惑な肩書が送られてきたんだろ?だったら可能性が有るにしろ無いにしろ結果は同じだろ?」
「申し訳ありません。なにぶん『人間災害』などという事例は過去に例が無いため、我々も手探りで対応策を考慮し続けているんですよ」
ずいぶんとどうでもいい事に労力さいてるな。ひょっとして暇なのかな?
「そして、今回再犯の可能性が有った場合、我々の出した対策案として、この第九個体の仕事をアナタのお目付け役として変更させ、監視と行動抑制を行ってもらう事になっております。
はぁ?何それ?私のお目付け役?ヴィグル一人ですら鬱陶しいのに、そこに浮遊狐まで加わったら、私の胃がストレスでヤバイ事になるじゃん!?
「あ、だいじょうぶです。もうにどとあんなわるいことはしませんからあんしんしてください」
とりあえず色々と面倒臭い事になる前に、もう二度とやらない宣言だけはしておく。
無言で私の顔をジーっと見てくる兄ちゃん。
やめろよ、照れるじゃんかよ。
耐え切れずに私は、ゆっくりと視線を逸らす。
「なるほどわかりました。ではアナタを信用して、今日から第九個体の仕事をアナタの監視と行動抑制に切り替える事にいたします」
「はぁ!?ふざけんなよ!このUMAテメェ等の所有物だろ?責任もって持ち帰れよ!テメェ等の世界も人類諸共滅ぼしてやろうか?」
思わず本音が漏れる。
「だ、そうですよ第九個体。新しいお仕事頑張ってくださいね。それでは用事が済みましたので私は帰ります。お邪魔しました」
そう言って、本当に帰っていく兄ちゃん。
何も言えずに取り残される私と浮遊狐。
「キミは……何でそうキレやすいんだい?もう少し上手く話せないのかい?」
今の今まで一言も喋らなかった浮遊狐がため息混じりに口を開く。
「そうしてほしいんだったら、お前も何かフォロー入れろよ……」
「『お前は黙ってろ』って命令されていたんだよ……僕達は、創造主である彼等の命令には逆らえないんだよ」
つっかえねぇヤツだなぁ……
「そもそもキミは『人間災害』である前に、正義のために戦うべき『魔法少女』なんだから、もうちょっと穏やかな言葉遣いで喋れないのかい?」
うわっ!?早速鬱陶しい!?ってか魔法少女に偏見持ちすぎじゃね?
「知らねぇよそんなの。それに私魔王なんだし『魔王』としては別に間違ってはねぇだろ?」
「それは偏見だと思うよ。『魔王』だからといって、口調まで悪いなんて決まりはないよ」
オイ!?特大ブーメラン投げてる自覚あるか?
「だいいちキミは『魔王』になるより先に『魔法少女』になったんだから、先になった方を優先させるべきだろ?」
「何だよそのアホ理論は!?どっちを優先させるとかそんなの知らねぇよ!『魔王』の方が、この口調に適してるっていうなら、私はソッチを優先させるっての」
「いや、いい機会だよ。この際『魔法少女』を優先させて、口が悪いのを治したらどうだい?」
「だったら『魔王少女』はこういう口調なのが常識って事で納得しろ!」
そう、これは、これからも続く『魔王少女』としての私の物語。
登場人物に、意味不明な浮遊狐が追加されたところで変わる事はない。
今年が終わり、新年を迎えたとしてもそれは何事もなく続いて行く。
「何を呆けているんだい?僕の話を聞いていたかい?」
「いや、まったく。年越しをどう騒ぐか考えてたわ」
「騒ぐ?普通は一人、ゆく年を振り返りつつ、くる年を想う、風情のあるものではないのかい?」
「風情?何それ?食えんの?年越しは馬鹿共招集して馬鹿騒ぎに決まってんだろ?」
楽しくなければ魔王少女の物語じゃない。
これからも続く私だけの物語だ。




