ペンダント
帝国が正式に建国され、暫く経った。
建国式の前後はユウヤ達国のトップから末端の役人まで寝る間もないような忙しさであったが、日々が経つにつれ、次第に落ち着きを見せてきている。
新しい国の滑り出しとしては、まずは上々といったところだろう。
実際には各国から際限なく流入してくる移民や、それに伴って起こるトラブルの対処に大わらわではあったが、流石に役人や衛兵達の仕事であって、ユウヤ達皇族が直接動くわけではない。
無論、ユウヤに仕事がないわけではない。基本的には事務仕事、具体的には各省庁からの報告を受け、最重要の案件の決裁を行い、必要に応じて指示を与える。
日によっては謁見がある。玉座の間にて、重要な人物、大抵は帝国内の各王国の外交トップクラスが多いが、儀礼的な拝謁を受け、陳情に対応したり、功のある者にはお褒めの言葉や、賞を与えたりする。 もっとも、これはそれほど多いわけではない。
日によっては以前のように「整地」等を使って建物を増設したりといった追加の業務もあるにはあるが、そんなことがない限りは午前中に仕事は終わりだ。
よって、午後はヒマだったりする。
料理の試作をしたり、その日の担当皇后とお茶をしたり、。
「担当皇后」というのはこの世界でも前世でも聞きなれない、違和感しかない言葉であるが、これは建国の際に、各国から一人ずつ、計六人もの皇后を立てたためにできた制度だ。
国務を執行する際に、皇后が六人もいるとなると、権限はどうなるのか、儀式の度に全員の予定を調整しなければならないのか、など、色々とややこしい問題が発生する。
そのため、各皇后の担当分野と担当する曜日を定め、緊急の案件でもない限り、重要案件はその皇后が担当する曜日に処理する、ということになったのだった。
ちなみに、この大陸の暦は水曜日、風曜日、火曜日、土曜日、聖曜日、魔曜日、全曜日の七日のサイクルで回っている。これは各曜日にそれぞれの神の象徴を割り当てたもので、各皇后は、それぞれの種族の守護神が象徴する曜日を皇后として担当することになったのである。ユウヤの伴侶としての役割についても同様である。
なお、神は六人で曜日は七日であるため、残りの一日は全ての神に感謝する日と言うことで、全曜日が安息日扱いになっている。この日は皇后全員が共同して担当することになり、最重要の儀式などのみ行うことになっている。
「久々に、城下町に行かないか? 何しろ即位からこの方、行く暇がなかったからな」
昼食後のお茶を飲みながら、今日の担当皇后であるクァンメィに提案するユウヤ。
クァンメィは首を傾げる。
「時々行ってましたよね? 建物の建設で……」
「皇帝として、馬車でな。今日はそういうことじゃなくて、お忍びで色々見て回ろうと思ってさ……ほら、この姿で」
ユウヤはペンダントに魔力を込め、魔人の姿に化ける。
「ユウヤは変装すればいいでしょうけど、私はどうすれば?」
「……あ」
「まさか、お留守番しろというわけでは、ありませんよね?」
穏やかに微笑するクァンメイ。ただし、目は笑っていない。
「んー、でも、シェンノンではたまにお忍びに行ってたんじゃなかったっけか?」
「シェンノンはああいう国ですので、王族に、ましてや王都で非礼を働く者はおりませんでしたから。でも、ここインぺリアでは……」
確かに上下の差を最も弁えている竜人族の国シェンノンでは、王族とわかっていておかしなことをする者は皆無だろう。万一そんなものがいたとしても、あっという間に周りが取り押さえるであろうことは明らかだ。
しかし、六種族が混在するインぺリアではそうもいかない。クァンメイを知っている
他の種族はそうはいないだろうから問題が起こる可能性は低いだろうが、万一ということもある。
「うーん……確かに、ちょっとまずいかもな。どうしたもんかな。たまには視察をした方がいいと思うんだけど……」
「そのペンダントは、何処で手に入れた物なのですか?」
「これか? 魔王が占拠してたオグボモショに潜入したことがあったんだけど、その時にアディオラがくれたんだ」
クァンメイが手を叩く。
「それなら、私達の分も頼んでみましょう。あると色々便利でしょうし……視察はそれからでもいいではありませんか」
それから暫くして、たった全曜日の午後。
ユウヤ達はテーブルを囲んでお茶をしていた。ユウヤの正面にはアンジェラとクァンメイ。ユウヤの座っているソファの右にある椅子ではジュスティーヌが優雅に竪琴を奏でている。逆方向にある椅子には少し眠たげなヴィキ。
ユウヤの座るソファの左隣では、ファニーがいつも通りの勢いで酒を喉に流し込んでいるが、いつもなら右隣に座るはずのアディオラがいない。
「アディオラは何か用事かな?」
「ほら、この前ペンダントの作成をお願いしたでしょ? そっちにかかってると思うわよ? そろそろ完成するって言ってたけど……」
そこに、折よくアディオラが入ってきた。少し疲れ気味のようだ。
「例の物、やっとできたわよ。仕上げをお願いするわ」
アディオラはテーブルの上に六つのペンダントを並べる。ペンダントは魔石の色がそれぞれの国を表す色となっている以外、デザインはすべて同じものだった。
「ああ、手間をかけたな。で、仕上げって何をすればいいんだ?」
「ユウヤの魔力を込めてちょうだい。それで完成よ。ただし、魔力を込めすぎると魔石が砕け散るから、気を付けてちょうだい。作り直すのは大変なんだから」
「繊細な物なんだな」
「違うわよ? 常人相手ならこんなこと言わないわ。ユウヤの魔力量がおかしいだけよ」
ユウヤは微妙な表情になりつつも、それぞれのペンダントに、慎重に、少しずつ魔力を込めていく。アディオラは魔力を込め終わったそれらをひとつづつ検分すると、皆に渡していく。
「じゃあ、魔力を流してみて」
アディオラ自身を含めた六人は言われた通りペンダントに魔力を流すと、姿見で自分の顔をしげしげと眺めたり、互いの顔を見て驚いたり品評したりし始めた。
「ジュスティーヌは随分お淑やかな顔にしたのね」
「ほら、元がちょっと男っぽいから……憧れというか……クァンメイはキリっとした顔を選んだんだね。僕とは逆だ」
「私は戦士ですから。それにしても、全員元々の顔とは随分変わってますが、どの顔も美しいというか……ペンダントを作ったアディオラの腕がいいのでしょうね」
「皆注文が多くて大変だったのよ。もっと褒めてちょうだい」
六人はそれぞれの顔を見ながら大いに盛り上がる中、一人だけついていけてない人物がいた。ユウヤである。
「……あのさ、アディオラ」
「何かしら?」
「作ってもらってて悪いんだけど……正直、皆の顔が変わったように見えないんだが」
「でしょうね」
事も無げに答えるアディオラ。
「でしょうねって、何でだよ」
「そういう風に作ったからよ。さっき、何でユウヤに魔力を込めて貰ったと思ってるの?」
「ん? 魔道具は最後に魔力を込めて完成させるものだろ? で、魔力が多いから俺にやらせたってことじゃないのか?」
「こんな小さい魔道具くらいなら、私でもすぐに魔力を込められるわよ。このペンダントは、完成の時に魔力を込めた者には偽装が効かないように作ったの」
「てことは、つまり……このペンダントで変装した姿は、俺にだけはわからないってことか?」
「そういうことね」
「……何でそんなわけのわからない設定にしたんだ?」
「え、分からないかしら? 自分の夫には、いつだって真実の姿を見てもらいたいものなのよ」
「……意味わかんねぇよ」
なおも釈然としない表情のユウヤと、その表情を見つめてクスクスと笑う六人であった。




