無理やりな説明
「なんで俺が会議に出席しなきゃならないんだよ? フレディに八つ当たりされたじゃないか」
会議に向かう馬車の中でぼやくユウヤと、ニヤニヤするダニエル。
「そりゃ、今日の会議は今後の両大陸の関係に関わる重要な会議ですからな。一番上が出るに越したことはないでしょう」
「今日は話だけ伺って、国元に帰って協議します、でいいじゃないか。建前上、今の俺は一回の魔導士でしかないんだぞ」
「……今日はそっちの方が問題なんですがね」
ニヤニヤ笑いを崩さないダニエル。
「? どういうことだ?」
「一回の魔導士が異変を予言し、実際にそれが起きた、と。今日の会議、何故それを予言できたのか、という話は当然出てきますよね? どう答えればいいんでしょうか?」
「そりゃ魔法で……」
「そりゃそうなんですが……『聖光』で神の降臨を演出し、『整地』で作った穴でメルキット=ハン国の殆どを行動不能にした上で、『結界』でトクタミシュ等の逃走を防いだ、と説明するおつもりですか?」
「まぁ、そうだな。分かってるじゃないか」
「陛下の方は分かっておられないようで……一介の魔導士にそんなことができるわけないでしょうが! メルキット=ハン国ならともかく、今日出席する諸王国には、魔法は普通に使われていますし、宮廷魔導士だって抱えているわけですが……」
「……あ」
自分の魔法の規格外っぷりを忘れていたユウヤ。
「この説明ばかりは国に持ち帰って……とはならんでしょう? 陛下に同行していただいたのは、まさにその説明のためです」
「……」
頭を抱えるユウヤ。
「正直に説明して実演でもしてやれば、各国とも怖れをなして我が国に服属するかもしれませんが、お望みではないでしょう?」
確かに、ヘキサゴニア帝国の統治で腹一杯のユウヤとしては、これ以上の領土は頼まれても願い下げである。
「だからと言って、『マルドー神の奇跡だ』では誰も納得しないでしょうし……何が起こったのか、という説明は、一介の外務大臣には些か手に余りますのでな。昨日は打ち合わせの時間も取れませんでしたし……どういたしましょうか?」
ニヤニヤ顔を吹き消して、不意に真面目な顔になるダニエル。
「……そうだな……」
頭を抱えたままのユウヤとダニエルの協議は、馬車が城に入るまで続いたのであった。
豪華な調度に囲まれた城の一室に、各国の王と首脳がずらりと着席している。
マクマホン卿と、宰相らしき老人に挟まれたセックネール2世がまずは宣言した。
「急で想定外のことではあるが、われらはメルキット=ハン国の軛から解き放たれた。非常に喜ばしいことであるが、事後処理が山のように罪挙がっているのも事実である。本日はこのことについて、各国が協力して当たるべく、協議を行うものである。なお後程議題とするが、この度のことは、ヘキサゴニア帝国の協力あってこそのことと考える。我ら参加国一同、深甚な感謝を申し上げる」
若い割に、中々堂に入った挨拶であった。
会議の本題は、捕らえたトクタミシュ一族の扱い、今も深い穴の中で藻掻いている大量の残党をどうするのか、メルキット=ハン国本陣から接収した膨大な財宝の変換と分配等、ヘキサゴニア帝国としてはあまり発言することはなかった。
せいぜいが、残党の殆どはトクタミシュに半ば強引に参加させられただけの、本来は純朴な民であり、あれだけの『奇跡』を見せられ、トクタミシュが倒された以上、もう侵略しようなどとは思わないだろう、と口添えしたこと、財宝の配分を断ったことくらいだ。
それなりに揉めはしたものの、おおむね順調に議事は進行していく。
しかし、このまま終わってくれないかな、思うユウヤだったが、当然そんなことにはならなかった。
「さて、大陸内の取り決めは、ひとまずこれくらいでよいとして、もう一つの大問題に掛かろうか……ヘキサゴニア帝国の二人に聞く。あの『奇跡』は、一体、何だったのだ?」
「……何だった、とは?」
「惚けてもらっては困る。イサム殿が『何かが起こる』と言い、実際に起こった。メルキット=ハン国はもちろん、我らの中の誰も、あのような奇跡を起こすことはできぬ……となれば、貴公らの仕業、と考えるしかあるまい? まさか、『マルドー神の軌跡』とは言うまいな?」
「……」
「我が宮廷魔導士は、あの光は『聖光』ではないか、と申しておった。一人どころか、数人で扱える魔法ではない、ともな。更に、あの地震と大地が大きく沈んだ件については、そんな魔法はない、と断言していた。現場を見せても、黙って首を振るばかりであった……」
(ただの『整地』なんだけどな)
と思ったユウヤだが、口には出さない。
「イサム殿、其方は魔人族なのだろう? 確かに魔人族は魔法に長ける一族と聞いてはいるが……一人であのようなことができるものなのか? もしそうなら、ヘキサゴニア帝国はメルキット=ハン国どころではない、我らにとってとてつもない脅威と考えざるを得ないのだが……」
外交官らしい爽やかな笑顔でダニエルが答える。馬車の中で打ち合わせた結果だ。
「いくら魔人族が魔に長けるとは言え、一人であのようなことを行うのは、当然不可能ですな」
嘘ではない。ユウヤは魔人族ではないのだから。
「では、誰のがやったというのだ? まさか、其方等の仕業ではないと?」
「そうは申しておりません。何故一人の業だと思うのです?」
「別に一人とは言わぬが、使節団は二十名ほどしかいないではないか。仮に全員が一流の魔導士としても、あのようなことができるわけがあるまい」
「目に見えるものだけが全てとは、限りますまい?」
「何?」
ユウヤが助け舟を出す。
「最初にお目にかかった時のことをお忘れですか?」
「……そういえば……其方は忽然と姿を現したのだったな。あの『予言』の時も、そうであった」
「つまり、一人や数人の仕業とは限らない、ということです」
「多数の魔導士があの場に姿を隠していたということか?」
「ご想像にお任せします。我らとしても、全てをお話しする気はありません。軍機というものもありますからな。それに、このことを詳らかにするのは、そちらとしてもあまり都合がよくないのでは?」
「……何故だ?」
「あれが魔法によるものということが漏れたら、メルキット=ハン国の残党はどう考えますかな?」
今穴の中で残党が意気消沈しているのは、トクタミシュ一族の行いが神に断罪されたと信じたことも大きい。
「もしあれが、トクタミシュの手妻とある意味同種の演出だと知ったら……」
「……確かに、な」
「ああ、先程『脅威』とおっしゃいましたが、心配は無用です。今回は国防に係る大事のためやむを得ず手を出しましたが、我が国としても、あれ程の事を行うのは国の全ての魔導士を結集しても、簡単にできる事ではありませんからな。陛下としても、この大陸に領土的野心はない、とのことでした」
「……それを、信じろと?」
俄かに会議場がざわつき始める。それはそうだろう、彼らはそれぞれ一国の王達なのだ。折角メルキット=ハン国の支配から逃れたところで、より強大な国に狙われるというのではたまったものではない。
「もし領土的野心があったら、我ら使節団ではなく、軍勢が来ていたでしょうな。あの時、トクタミシュを捕らえたのが我らの軍勢であったら……」
「……貴国は労せずして、メルキット=ハン国の支配領域をそのまま引き継ぐこともできた、か。確かにな……納得したとは言わぬが、今は受け入れるしかあるまい」
こうして、何とか説明を終わらせた後、今後の修好を訳して会議はお開きになったのであった。




