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のけ者エルフのセレンディピティ  作者: ゆきんこ
第一章

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登用試験 2

 登用試験の開始時間まで、みんなと雑談をしながら過ごした。話題の中心は主に、アイリスちゃんとウルペスさん。


 何と、アイリスちゃんは人族なのに、魔術を習っているらしい。何でも、治癒術師を目指しているんだとか。最初はラインヴァイス様に弟子入りをして魔術の手ほどきを受け、今はお城の薬師さんに実務を、呪術師さんに座学を教えてもらっているらしい。


 治癒術は人族にしか扱えない魔術だ。だから、人族がたくさん住んでいるメーア大陸では珍しくも何ともない治癒術師だけど、魔大陸には治癒術師が一人も存在しない。何故かと言うと、魔大陸では、人族は魔術を習得しないものだから。


 力ある者の務めがその理由。これは、魔術や剣術なんかの戦う術を持っている者は、非常時、つまり、戦が起こった時には、国の為に戦わなくてはならないという決まりだ。これを破る事は許されない。魔大陸に住んで、王様達の庇護を受けている限り。


 それは人族だって例外じゃない。けど、人族は国に手厚く保護されているから、彼らには抜け道が用意されている。魔術を習得しないという抜け道が。だから、普通、人族は魔術を習わないものなんだけど……。


 魔術が使える人は戦になったら戦場に赴かなくてはならないのに、それを分かっていて、アイリスちゃんは魔術を習っているんだとか。きっと、彼女には何か大きな夢があるんだと思う。命を懸けても惜しくないと思う大きな夢が。


 一方、ウルペスさんは、屍霊術という、超マイナーな魔術の使い手だった。屍霊術は、その名の通り、主に屍と死者の魂を扱う魔術だ。それを極めた屍霊術師は、みんなから後ろ指を指される事が多い。死人の冒涜者って。だから、普通、屍霊術師は、人里にはいない。山奥や森の中で、独り、ひっそりと暮らしているのが普通だ。たぶん、世界広しと言えど、騎士をしている屍霊術師はウルペスさんくらいなものだろう。


 この二人、なかなかの変わり者だと思う。でも、僕、変わり者って好きなんだ。だって、変わり者って言われる人達って、ウチのじーちゃんもそうなんだけど、独特の感性を持っているから。発想豊かって言うか、新しい視点を提供してくれるって言うか……。魔術の研究には欠かせない相談役になってくれたりするんだよね。


 そんな雑談をして過ごしている間も、ラインヴァイス様は姿を見せなかった。どうしたんだろう? 朝食も食べてないし、具合でも悪くなっちゃったのかな?


「坊ちゃま。そろそろご準備の時間です」


 カインさんがスマラクト様にそう声を掛ける。スマラクト様は名残惜しそうにみんなを見たけど、何も言わずに立ち上がった。本当は、きっと、みんなともっとお話をして過ごしていたかったんだと思う。でも、スマラクト様は登用試験の主催者だ。まさか、主催者が試験をほったらかしにして、雑談に興じる訳にもいかない。


「スマラクト様。試験が終わったら、お話の続きしようね!」


「ああ。約束だぞ!」


「うん! 約束!」


 笑顔で頷いた僕に笑みを返したスマラクト様は、足取り軽く食堂を出て行った。


「じゃあ、僕も準備して、受付に行って来る! またね!」


 みんなに挨拶をして、僕も食堂を後にした。そして、泊まっていた部屋に戻り、魔力媒介のナイフと、大事な大事な魔石が入った袋を鞄から引っ張り出し、それを腰に下げて玄関に向かう。


 そうして玄関前の前庭で受付を済ませ、他の受験者さん達に混ざって待っていると、案内人だろう使用人さんがやって来た。そして、僕達を会場まで案内してくれる。


 試験会場はお屋敷の中庭だった。そこに面した回廊に、椅子が六個用意されている。たぶん、あそこは観覧席。スマラクト様達が試験を見る為の席なんだろう。


 中庭の隅っこで、受験者のみんなで固まってしばらく待っていると、スマラクト様とカインさんが回廊に姿を現した。大抵の受験者さん達にとっては、スマラクト様の姿を見るのは今日が初めて。だから、ザワザワしてしまうのも仕方ない。けど、「あんなガキが領主代行なのか?」とか、「あれだったら俺の方が絶対に強い」とか、「ドラゴン族といっても子どもだから、威厳とかは全然無いんだな」とか、失礼な事を言わないでくれる? 僕、君達の事、一発殴りたくなっちゃうからさ。


 少しして、アイリスちゃんとバルトさんも回廊に姿を現した。とたん、スマラクト様が登場した時とはちょっと違う感じでザワザワしだす。「女だ!」とか「別嬪さんだな」とか「可愛いなぁ」とか、「ああいう子、守ってあげたいな」とか、口々に、アイリスちゃんを見た感想を言い合っている。同性の僕から見ても、アイリスちゃんは可愛いと思う。だから、多少鼻の下を伸ばしていても見逃してやろう。けど! 誰! 今、「あの子、歳の割に胸デカいな」なんてお下品な事を言った奴! ……はっ! お前か! アイリスちゃんをいかがわしい目で見るな! 顔は覚えたぞ、筋肉ダルマめっ!


 僕の試合、あいつと当たりますよ~に! 神様、どうかお願いします! 僕にあいつをギタギタのメタメタにする機会を下さい!


 あと姿を現していないのは、ラインヴァイス様とウルペスさんの二人だな。あれ? でも、残ってる椅子は三つ……。カインさんは座る気配無いし……。数、間違えちゃったのかな?


「これより、登用試験を執り行う!」


 椅子から立ち上がったスマラクト様が、良く通る声でそう宣言する。と、アイリスちゃんがパチパチと手を叩いた。顔が少し赤くなってるのは、手を叩いているのが彼女だけで、ちょっと恥ずかしくなっちゃったんだと思う。でも、盛り上げようとしてくれている意気は伝わる。現に、スマラクト様はアイリスちゃんをちらりと見ると、その顔をきりりと引き締めた。良い所を見せようと気合を入れ直した感じ。


「今回は、一対一の試合形式とする。どちらかの護符が砕け散ったら試合終了だ」


 護符……? そう言えば、受付でそれっぽい物をもらったような……。そうか。これ、身代わりの護符なのか。初めて見た!


 身代わりの護符は、結界術と呪術を掛け合わせた魔術が発動する護符で、持ち主のダメージを代わってくれる便利なアイテムだ。致命傷を与えられたら、護符の要の魔石は簡単に砕けてしまうと本で読んだ。あと、ダメージの蓄積でも砕ける、とも。いそいそと護符を首に掛けつつ、続く言葉に耳を傾ける。


「重要なのは勝ち負けではない。騎士の登用試験である事を忘れず、正々堂々と試合に挑んで欲しい」


 勝ち負けは重要じゃない、か……。これは、試合に勝っても、試験に落ちる可能性があるって事だな。重要なのは実力。任務遂行力って言い換えても良いのかもしれない。騎士は、与えられた任務を忠実にこなしてこそなんぼだからね。


 この登用試験で、騎士候補の僕達に与えられた任務は、決闘に勝って、相手に止めを刺す事。それも、正々堂々と戦って。


 ん~……。僕の戦い方って、正々堂々に入るのかな? もちろん、卑怯な手段を使うつもりは無いんだけど、猪突猛進タイプには、僕の戦い方自体が卑怯に見えるみたいだしなぁ……。ま。考えてても仕方ない。卑怯だって言われたら、僕の戦い方は騎士には向いてないって事だ。戦い方なんてそうそう変えられないし、騎士になるのは諦めるしかないだろうな……。


「対戦相手は公正を期すため、くじにより決める」


 そう言ったスマラクト様が、カインさんがサッと差し出した壺にズボッと手を突っ込んだ。そして、折り畳まれた紙を二枚取り出す。


「それでは、早速だが、第一試合を始める」


 スマラクト様が紙をカインさんに手渡し、そこに書かれていた名をカインさんが呼ぶ。そうして、登用試験は始まった。


 第一試合、第二試合、第三試合と、順調に試験は進んで行く。時々、スマラクト様達の方に流れ弾の魔術が飛んで行くけど、かなり高度な結界が張ってあるらしく、彼らに被害は無い。


 ここは、曲がりなりにも王族が住んでいるお屋敷だ。結界術師さんがいてもおかしくはないだろう。もうもうと上がる砂煙まで防いでいるみたいだし、観覧席は快適だろうな。けど、こっちは……。僕はハンカチで口と鼻を覆った。うわ~ん。目に砂が入ったよぉ。目が痛いよぉ!


 次第に晴れる砂煙の先には、地面に尻餅をつくように座り込む人と、その人の首筋に剣を突きつける人。勝負あり、だ。あとは、あの人が止めを刺せば……。と思ったのに、優勢の人は動かない。そうして膠着状態が続き、カインさんから終了の合図が上がった。


 勝った方の人、凄く優しい性格なんだろう事は容易に想像出来る。けど、甘過ぎる。僕達に与えられた任務は、対戦相手の護符を砕く事。あれじゃ、任務をまっとう出来ていない。実力は、今までの受験者の中で頭一つ抜けているけど、もしかしたら、試験には合格出来ないかもしれないな……。ま。僕には関係無いけど。


 さて。僕もいつ名前を呼ばれてもおかしくないんだから、人の試合なんて見ている暇は無いよね。腰の魔力媒介のナイフを抜き、そのチェックをする。とは言っても、一昨日の夜に研いだばかりだから、刃こぼれなんて無いんだけど。一応、確認、確認。


 使う魔石は、やっぱり、雷撃の術が一番だよね。相手に当たれば、一撃で行動不能に出来るんだから。僕の研究結果である魔石の中では、これの使い勝手が一番良いはず。魔石の中に閉じ込めた魔法陣はちゃんと光を放っているから、魔力の補充も必要無し、と。けど、一発打ったらしばらく打てなくなるから、他のも使う事を考えておかないと。ん~。もし、雷撃が失敗したら、二番手は火炎の術の魔石かなぁ……。相手を怯ませるにはうってつけではあるし。それも失敗したら、水か、氷か……。いや、強風の術にしよう。この中庭、比較的、砂埃が立ちやすいみたいだから。目くらましになるかもしれない!


 ふと、観覧席を見る。と、いつの間にかラインヴァイス様とウルペスさんが椅子に座っていた。それと、もう一人。食堂に飾ってあった絵の男性。つまり、スマラクト様のお父さん――領主様も登用試験を見学していた。そ、そうか。椅子が一個多いなって思ったけど、あれは領主様の分だったのか。


 領主様は興味深げに試合を見ていた。けど、真剣な感じではない。例えるなら、面白い出し物を見るみたいな雰囲気だ。もしかしたら、彼は今回の登用試験の合否判定には関わらないのかもしれない。合否を決めるのは、あくまで主催者であるスマラクト様なんだろう。


 そうして試験は進み、とうとう僕の名が呼ばれた。スッと立ち上がり、堂々とした足取りに見えるように胸を張って歩く。けど、心臓はバクバクだ。だって、僕の今後の人生が掛かった試験なんだから。


 中庭の真ん中に立ち、対戦相手が呼ばれるのを待つ。けど、一向に対戦相手が呼ばれない。見ると、領主様とカインさんが何やら話をしているようだった。距離があるから何を話しているのかまでは分からない。けど、この二人の話が終わらないと、僕の対戦相手は呼ばれないのだろう。


 まだかな? そろそろかな? もう少し? チラッ、チラッと領主様とカインさんの様子を窺う。と、そんな僕の様子に気が付いたのはアイリスちゃんだった。彼女が苦笑しながらカインさんに声を掛けてくれて、カインさんは慌てて手の中の紙に目を落とすと、対戦相手を呼んだ。


 僕の対戦相手は、さっき、アイリスちゃんをいかがわしい目で見ていた筋肉ダルマだった。これはこれは……。神様が僕のお願いを聞いてくれたようだ。ふふふ。神様は僕に、あの筋肉ダルマに天罰を与えなさいって言ってくれているんだ。きっとそうだ!


 筋肉ダルマは、体格的に、パワーで押して来るはず。持っている武器は大剣だし、一撃必殺タイプだろう。絶対に攻撃に当たったら駄目。けど、攻撃に当たらなければどうって事無い相手だ。僕的には、比較的戦いやすい相手ではある。


 さて。僕は腰のナイフを抜いて構えた。筋肉ダルマも大剣を構える。最初の一手はもう決まっている。


「始め!」


 カインさんの試合開始の合図が響いた。その瞬間、僕は魔法陣を展開した。

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