表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
のけ者エルフのセレンディピティ  作者: ゆきんこ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/161

登用試験 1

 僕は目を覚ますと、眠い目を擦りながらベッドから降りた。そして、窓に向かうと、そこに掛かっている分厚いカーテンを開ける。外は薄らと明るくなり始めていた。


 いつもより、ほんの少しお寝坊さんをしてしまったみたいだ。いつもは、空が真っ暗で、星が輝いているのが見えるくらいの時間に起きるから。でも、それも仕方ない。だって、ふかふかのベッドの寝心地が最高だったんだもん! こんな最高な寝心地のベッドに寝て、寝坊するなって方が無理だよ。


 僕はぱぱっといつもの服に着替えを済ませると、洗面所に向かった。そうして顔と歯を洗い、髪を手櫛でサッと整えて部屋に戻る。さて、と。朝の準備は終わったし、スマラクト様が起きるまで、朝食の仕度のお手伝いでもしようかな。泊まらせてもらった対価は、労働で支払わねば!


 気合を入れ、部屋を出る。そうして、昨日の記憶を辿り、食堂へと向かった。けど、この広いお屋敷で、しかも、昨日ほんのわずかばかり歩いた道を迷うなって方が無理な話で。つまり、僕は人様の家で迷子になってしまった。


「参ったなぁ……」


 僕は頭を掻きながら、廊下の角を曲がった。昨日使った食堂、この辺にあったと思ったんだけどなぁ。歩いても歩いても、昨日見た食堂の扉が見つからない!


 う~ん……。昨日歩いた道のりを辿れば、食堂に着けるかな? 一階の玄関に行って、書庫に行って、そこから食堂に行って……。そんな事を考えながら、手近にあった階段を下りる。そうして一階まで下りると、廊下の窓の外を確認し、玄関の方角にあたりを付けた。てくてくと廊下を歩き、玄関に向かう。


 よし。玄関に着いたぞ。ここから、書庫に行くには……。ええと……。確か、こっちに歩いて行ったような……。再びてくてくと廊下を歩く。


 あ! 書庫発見! ここから食堂までは、確か、近くの階段を上って、一つ上の階に行ったはず。階段を探し、それを上る。


 それにしても、ここまでの道のりで、誰ともすれ違わないとは……。誰かとすれ違ったら、食堂までの道を聞けたのに。お手伝いする時間、減っちゃった。


「あ! アベル! こんな所にいたのか!」


 上から降ってきた声に驚いて顔を上げる。と、スマラクト様が満面の笑みで階段を駆け下りて来た。


「おはよ、スマラクト様」


「うむ。こんな所で何をしていたのだ? 屋敷の中を冒険でもしていたのか?」


「うん。食堂まで行こうと思ったんだけど、道に迷っちゃって、大冒険しちゃった!」


「食堂? そうか。腹が減ったのか! じい。軽く摘まめる物を僕の執務室に持って来い!」


「かしこまりました」


 ゆったりとした足取りで階段を下りて来ていたカインさんが、スマラクト様の言葉に頭を下げると、踵を返して階段を上って行く。


「ちが――」


「アベルは僕の執務室だ! もうゲームの準備はしてあるのだぞ! こっちだ!」


 スマラクト様にぐいっと腕を引っ張られ、そのまま強制的に連行される。あ~れぇ~!


 執務室に着くと、スマラクト様は真っ直ぐ応接セットのソファに向かった。僕もそれに続く。ソファの前のローテーブルには、さっき、スマラクト様が言った通り、ボードゲームが準備されていた。昨日やったボードゲームとはまた違うゲームだ。白と黒のチェック柄のボードの上に、白い駒と黒い駒がたくさん置いてある。


「少々難しいゲームだが、僕が手ほどきをしてやろう!」


「うん!」


 笑顔で頷いた僕に、スマラクト様がゲームのルールを説明してくれる。端的に言うと、これは戦を再現するゲームだった。自分の軍勢の駒で、相手の王様を追い詰めるゲーム。戦記や戦術が好きなスマラクト様が好みそうなゲームだ。


 駒の形によって、動かせるマスが決まっているらしい。スマラクト様が駒の動かし方を書いた紙を渡して説明してくれる。


 ほうほうとその説明を聞いていると、執務室の扉がノックされた。スマラクト様の返事で扉が開く。その先にいたのはカインさん。その手には、果物盛り合わせのお皿。


「朝食までこちらを召し上がっていて下さい」


「もう少し腹に溜まる物は無かったのか?」


「申し訳ございません。しかし、あまり重い物を召し上がると、朝食が入らなくなるのではないかと」


「まあ、良い。そこに置いておけ。アベル、腹が減っていたのだろう? 好きなだけ食べて良いぞ」


 そう言ったスマラクト様がぶどうを一粒手に取った。そして、ぱくっとそれを食べる。じゃあ、僕も。


「いただきま~す!」


 別に、お腹が空いていた訳じゃ無いけど、目の前に食べ物があったら食べたくなるのが人情ってものだ。僕もぶどうを一粒口にする。ん~。甘い! すごく美味しい、このぶどう! どれ、もう一つ。んふ~!


 そうして僕達は、果物を食べながらゲームをして過ごした。難しいゲームだったから、何度挑戦しても、スマラクト様にボロ負けしてしまった。けど、だんだんと考え方というか、先読みの仕方というか、そういのが分かってきて楽しくなってきた。でも、時間は永遠にある訳じゃ無く。何度目かの挑戦の最中、執務室の扉がノックされた。カインさんがそれに対応する。


「坊ちゃま。そろそろ朝食の準備が整うようです」


「む……」


 スマラクト様がボードゲームと僕、カインさんを見比べる。そうして、諦めたように溜め息を吐いた。


「分かった。アベル、この続きはまた今度だ」


「うん! あのね、スマラクト様」


「何だ?」


「この紙、もらっても良い、かな……?」


 僕はスマラクト様から借りていた、駒の動かし方を記した紙をおずおずと差し出した。これがあれば、里に帰っても、独りで練習出来ると思うんだ。木の欠片で駒を自作して。


「もちろんだ。……そうだ! これを貸してやろう!」


 そう言ってスマラクト様が指差したのは、今しがたまで僕達が遊んでいたゲームだった。


「里に持って帰って、自主練習をすると良い。それで、ここに来る時に持って来て、二人でやろうではないか!」


「でも、僕がこれ持って行っちゃったら、スマラクト様が練習出来ないよ?」


「ふふふ。僕に練習など不要だ!」


 両手を広げ、スマラクト様が高らかに宣言する。す、凄い自信……。けど、今日は一度も勝てなかったんだから、それくらいのハンデがあっても良いのかもしれない。


「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」


 ゲームを片付けようと手を伸ばした僕の手を、スマラクト様がむんずと掴む。驚いて彼の顔を見ると、彼は反対の手の人差し指を立て、チッチッチッとした。


「次はこの続きをするのだ。片付ける前に盤面を写しておかねば。じい、紙とペンだ!」


「はっ」


 カインさんは軽く頭を下げると、スマラクト様の執務机に向かった。そして、その上に置いてあったペンとインク壺、紙を持って来てくれる。そうしてサラサラと盤面を写したスマラクト様が、それを僕に見せてくれた。


「これで間違い無いな?」


「うん。間違い無い!」


「では、これは僕が預かっておくぞ?」


「うん!」


 次に遊ぶ時は、もっと良い勝負が出来るように練習しなくちゃ! 二人でゲームを片付け、席を立つ。


「じい。後で、誰かにこれをアベルの部屋に持って行かせろ」


「かしこまりました」


 頭を下げたカインさんが執務室の扉を開く。そうして僕達はカインさんに先導されて食堂へと向かった。


 食堂に入り、昨日と同じ席に着く。と、カインさんがお茶を淹れて僕達の前に置いてくれた。


「僕達が一番乗りだったな」


「うん。みんな、まだ寝てるのかな?」


「いや。起きていると思うぞ。ウルペス以外は、だが」


「ウルペスさんは、朝が弱いの?」


「獣人種は基本的に朝が弱いんだ。太古の昔は夜行性だったらしいからな。その名残なんだそうだ」


「じゃあ、スマラクト様も弱いの?」


 スマラクト様は獣人種ドラゴン族。獣人種が朝に弱いのなら、スマラクト様も弱いはず……。と思ったら、スマラクト様はニッと笑った。


「苦手をいつまでも克服出来ないようでは、人の上に立つ事など出来ぬ!」


 ほ~。凄いな、スマラクト様。意識高い。感心して彼を見る。と、そのすぐ後ろに立っていたカインさんが呆れたように溜め息を吐いた。これは……。スマラクト様ってば、いつもはお寝坊さんなんじゃ……。


「ほら。噂をすれば」


 そう言ったスマラクト様の視線を追って後ろを見る。と、アイリスちゃんが食堂にやって来たところだった。きちんと身なりを整えているところを見ると、ついさっき起きたって訳じゃなさそうだ。それなりの時間を掛けて、しっかり準備して来たって感じ。


「おはよう、兄様、アベルちゃん」


 笑顔で挨拶をしながらアイリスちゃんが席に着く。僕達も彼女に笑顔で挨拶を返した。そうしてアイリスちゃんを交えて三人で雑談をし始めて少しして、バルトさんとミーちゃんが食堂にやって来た。そこから少し遅れて、ウルペスさんもやって来る。


 あとはラインヴァイス様だけだ。昨日、一番先に部屋に帰ったラインヴァイス様が一番最後なんて……。もしかして、朝に弱いのかな? と思ったけど、どうやら違うようだ。みんながみんな、怪訝そうに空席を見ているのだから。普通だったらもう来ているはずの人が来ていない。みんなの顔にそう書いてあった。


 カインさんがスマラクト様に何か耳打ちをして食堂を出て行った。たぶん、ラインヴァイス様の様子を見に行ったんだと思う。しばらく待っていると、カインさんが戻って来た。そして、困り顔でスマラクト様に何か耳打ちをする。と、スマラクト様が難しい顔で口を開いた。


「ラインヴァイス兄様は、朝食はいらないそうだ。我々だけで頂こう」


 そう言ったスマラクト様の言葉に応えるように、使用人さん達が朝食を運んで来てくれる。見るからにふかふかのパンと、スープ、お野菜に卵にお肉まで! あ。ジャムもある!


「アベル。足りなければおかわりもあるからな。今日は登用試験なのだから、しっかり食べて精を付けるのだぞ?」


 僕はスマラクト様の言葉に満面の笑みで頷き、いそいそとフォークを手に取った。


「うん! いただきま~す!」


 昨日の夕飯も美味しかったけど、今日の朝食も最高! これだけしっかりごはんを食べられれば、今日の登用試験だって上手くいく! 絶対、絶~対、上手くいく!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ