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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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148.赤毛の嫁とそして……

 お見舞いを終えて宿舎に戻ってきたところで、赤毛のおばさんと出くわした。

 40代くらいかな、がっしりした感じでいかにもパワフルおかん、って感じの人。渋い銀色の、スオウさんよりもちょっと軽装の鎧を着込んでいる。ふんわりした赤い髪を、うなじのところでまとめてネットに入れてる。


「おう。ネネ、早かったな」

「うっさい。あんたが若い子に手を出そうとしてるって聞いちゃあ、ほっとけないからねえ」


 スオウさんと普通に話をしてるってことは、こっちに置くっていう連絡係の人か。

 あれ、でも何かこの2人のやり取りって。


「おう。ジョウ、紹介しとくぜ。うちの嫁だ」

「よろしく。シノーヨの北方軍副官、カヅキ・ネネさ」

「は、はあ……よ、よろしく」


 やっぱりか。がははと笑うスオウさんの腹を、肘で軽くどつくさまはどこからどう見ても夫婦だよ、間違いなく。

 つか、奥さんが副官なのな。……副官になるのと奥さんになるのと、どっちが先だったんだろ。考えてもしょうがないけどさ。

 で、そのネネさんは俺を見て、普通にお母さんのような感じで笑ってみせた。


「んで、そちらは……カサイのご当主じゃないよね?」

「その弟子です。スメラギ・ジョウといいます」

『わあ、あかいおばちゃんだー』

「うわ、白の伝書蛇」


 どいつもこいつも同じ反応するなあ、タケダくんには。まあ、さすがに慣れたけどな。


「タケダくんっていいます。俺の伝書蛇です」

『よろしくー』

「へえ、タケダくんっていうのか。よろしくね」

『わーい』


 そして、ネネさんにも頭を撫でられてやっぱり上機嫌なタケダくんであった。ほんとに、シノーヨの人とは相性いいんだな。




 で、例によって食堂でお茶を飲みながら、作戦会議。俺はやっぱり、「この手の話を聞くのは勉強になるぞ」と連れてこられたわけだ。それと。


「そうか。ソーダくんの子を、引き取ってくれるのか」

「はい。ソーダくん自身も、それを望んでましたから」


 一緒にお茶を飲んでるのは、王姫様。ある意味自分が今の状況の発端だと思ってるようで、寝てる場合じゃないとのこと。ま、今ユウゼにいる人の中で一番、今のコーリマ王都の状況を知ってる人だしね。

 その王姫様の、何か護衛というか何というか。いや、俺が触ったから黒がポロッ、があったってんですっかり信頼されちまってな。で、一緒に茶を飲めと。いやまあ、良いんだけどね。王姫様、だいぶ調子戻ってるし。

 で、ネネさんからスオウさんや俺たちへの報告内容は、あんまり良くないけどまあ予測通りなものだった。


「ラータの辺りが騒がしくなってきてる。多分、もうそろそろ出てくるね」

「私を捕らえにか」

「殺しに、だろ? あんたが死ねば、第三者には真実は分からなくなるからね。永久に」

「それもそうだな」


 うわあ。酷いことしれっと言っちまうネネさんもネネさんだけど、それをさらっと受け止める王姫様も王姫様だ。

 いや、でもこれがこの世界の、今の現実ってやつなんだよな。黒の魔女に支配されたコーリマ軍は、王姫様を殺しに来る。そうして、表向きはオウイン王家が支配したまま、黒の国となる。

 その後、どうするんだろうな。


「ジョウ。そなた、まだ実戦はさほど経験がなかったな」

「え? あ、はい」


 王姫様に不意に呼ばれて、慌てて返事する。うん、実戦……軍同士の戦争には、まだ加わったことはない。だから、コーリマ軍が攻めてきたら、それが初めてになる。

 人を殺したことはあるけれど、魔術でじゃなくてもつれた上での短刀でだし。


「……こちらは、そなたばかりを案じてはおられん。良いな」

「はい」

『ままはぼくがまもるんだもん!』


 王姫様は、そんな俺を気遣ってくれてるらしい。いや、こっちのほうが気遣わないといけないはずなんだけどな。何しろ国乗っ取られた上に、エロ未遂やられてるわけだし。

 ぱたぱた自己主張するタケダくんを他所に、ネネさんが目を丸くした。


「おや、新人さんなのかい」

「そうなんです。今まではあんまり表に出る機会もなくて」

「まあ、実戦経験がないってこたあユウゼが平和だったってことだから、いいんだけどな」


 はあ、と溜息ついたのはスオウさん。何気に今回のお茶汲み係を仰せつかっているのは彼、だったりする。他全員女だからかなあ。俺、まだ中身男だと思うけど。

 そのスオウさんの言葉にふーん、と何度か頷いて、それからネネさんは俺に真正面から向かい合った。


「魔術師なら、後ろから援護するのが本来の仕事だよ。護衛もつけるのが当たり前だ、いいね」

「は、はい」

「ただ」


 あーうん、それは分かる。ゲームとかでも、あんまり魔術師が先頭に立つってのはない……と思う。そういうことやるのは、その当人が冗談抜きでとんでもないレベルの実力だって時くらいだし。

 でも、ネネさんはまずそれを言いおいてから、話を続けた。


「魔術師が人を殺る場合、あたしらのような武器振り回す連中よりその数は格段に増える、と言っていい。風の刃一撃で2桁、あるいは3桁だって殺せる」

「……」

「殺すなとは言わないけどね。でも、それだけは覚えときなよ」


 そう、だよね。

 俺は光の盾で敵を押し戻したりすることしかやってないけど、あの盾を刃、攻撃力に変えて敵にぶつけたら、ほんとに10人とかそれ以上の敵をいっぺんに殺すことはできる、はず。怖いから、やってないけど。

 でも、押し戻すだけじゃ終わらない戦がすぐに来る。戦争ってのは、そういうもんだ。

 俺は、でっかい武器、なんだろう。それを、忘れちゃいけない。


『まま』

「…………はい」


 大丈夫だよ、とタケダくんをなでてやりながら、俺は頷いた。大丈夫、こいつやソーダくんの子供がいるんだ。俺は、俺のままでいなくっちゃ。


「失礼」


 とん、と軽い足音がした。赤毛の若いお姉さん、ネネさんと同じ鎧を着込んだ人がやってきて、スオウさんとネネさんに頭を下げる。


「斥候より早文が来ました。敵軍到着まで後1日ほど、とのこと」

「来たね」

「来たな」


 彼女の報告に夫婦が頷き合う。俺も、王姫様と目を合わせて同じように頷いた。


「それと、黒の魔女はいないようです」

「あ、例の。野郎どもが使い物になるだけマシだね」

「確かに」


 あ、ちょっと助かったかも、なんてその報告を聞いて思ったのは、内緒だけど。

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