146.会話とそして伝書蛇
それからちょっとだけ続いた話は、やっとこさ終わった。
「連絡係に俺の部下こっちに置いときたいんだが、良いか?」
「それは助かる。こちらも連絡係を派遣しよう……ハクヨウでいいかな」
「OK。グレンの方が顔なじみなんだが、あいつじゃ萎縮しちまいそうだしなあ」
最後の話題はこの辺り。そうなんだよなあ、向こうみたくインターネットも電話もない世界だから、連絡係ってのは必要なんだよな。伝書蛇もいるんだけど、ちゃんと人間を置くらしい。そういや、コーリマの王族って人間が文持ってこないと公式なものと認めないとか何とか言ってたっけな。
それはともかく、確かにグレンさんじゃあなあ。いじられて涙目とかなりそうだし、さすがにかわいそうだと思う、うん。そこら辺は、カイルさんも考えてくれたようだ。
で、少し考えてからカイルさんは、言葉を追加した。
「それと、ラセンもそちらに顔を出すことがあると思う。くれぐれも、よろしく頼むぞ」
「大丈夫だよ。うちの部隊にも、カサイ直系の魔術師がいるんでな。先代の弟子だが」
「じゃあ、フウキさんと同じですね」
つい口を挟んでしまってから、あ、やべえと思った。だってフウキさん、多分もう黒の魔女の手下だろうし。
思わず下向いてしまって、へこむ。うわあやっちまった。
「……そういや、そいつの伝書蛇どうしてる?」
不意に、スオウさんがそんなことを聞いてきた。慌てて顔を上げると、カイルさんと一緒に俺のこと見てる。
そいつの伝書蛇って、あ、ソーダくんのことだ。答えなきゃ。
「あんまり思わしくない、みたいです。一応、専門家に診てもらってますし、俺たちもお見舞いに行ってるんですが」
「そっか。黒の影響食らったんだってな」
「はい」
うーわー。変な方に話持って行っちまったな、俺。マジへこむ。あーもう、何でついつい口挟んじまったかなあ……なんて考えてたら、カイルさんに尋ねられた。
「ジョウ。今日は見舞いに行くのか?」
「あ、そのつもりですが」
「そうか。気をつけろよ」
反射的に答えてしまってから、カイルさんが笑っているのに気がついた。あ、もしかして気にかけてくれてたかな。いやマジすんません、空気読めなくて。
で、もっと空気読めなさげなスオウさんがにい、と歯をむき出して笑った。
「俺も行っていいかね」
「え? そりゃまあ、構いませんが」
これまた反射的……というか、勢いに飲まれて答えてしまう。しかし、斧ぶん回すおっさんが使い魔に用事あるのかね。まあ、どうもシノーヨの人って使い魔に好かれやすいみたいだけど、見た感じ。
「いや、な。シノーヨは太陽神信仰が結構強いから、神の使いである伝書蛇にも大事にされてんだ。俺やグレン、意外と相性良いだろ?」
『わーい』
ほい、と手を伸ばして頭を撫でてくるスオウさんに、もうすっかり懐いた感じのタケダくんがここにいる。うん、グレンさんとも仲良いもんなあ、こいつ。なるほど、そういうことか。
「でな。王姫殿下と一緒に黒から逃れてきた勇者の姿、一度は拝んでみたくてな」
「はあ、なるほど……お見舞いくらいなら、大丈夫かな」
『わーいわーい、すおーおじちゃんといっしょー』
ま、ソーダくんに無理させるわけでもなさそうだし、良いんじゃねえかなあ。あとタケダくん、50代はおじちゃんなんだな。人間と蛇の年齢基準って違うだろうに、境目どの辺なのかね。知ってどうする、って話だが。
「隊長殿、魔術師殿をお借りしても」
「傷一つ付けずに返せよ?」
「分かってるって」
といいますかスオウさん、カイルさん。俺の貸し借り自体はともかく、そうそう傷がつくことにはならないと思うんだけど、そこら辺どうなんだろう。いや、今のところユウゼの中に黒過激派いないみたいだし。
そんなわけで、スオウさんと2人で『子猫の道具箱』を訪れた。ゆっくりとだけどソーダくんの体調が悪くなっていってるのは何か分かってて、ここ数日が山かなってアキラさんには言われてる。だから、こまめに顔を出すようにしてるんだよね。
「こんにちはー」
「邪魔するぜ」
いつものように扉を開けて声をかける。その俺の後ろから、スオウさんも声をかけてきた。
「邪魔なら帰りとおせ」
「冗談だよ、冗談」
アキラさんの返事、どっかのお笑いネタかよ。それにスオウさんも、苦笑して答えながら店内に入ってきた。
棚を片付けてたらしいアキラさんは、「よう来たのう、ジョウ」と俺に笑いかけてから、その背後を見て目を細めた。一瞬だけ、目がきらんと光った気がする。
「その鎧はシノーヨかや。ユウゼを占領する気ではあるまいの?」
「勘弁してくれよ。俺はカサイを敵に回す気はないね」
「まことかや?」
「太陽神の御名において」
……頼むからさ、俺挟んでどシリアスなやり取りやめてくれないかな。マジで前からも後ろからもプレッシャー来るんだよね、ったく。




