135.目覚めの貴人
それからしばらく……あーうん、15分くらいかな。俺、ぼんやりと椅子に座ってた。王姫様はずっと寝てるし、俺にできることってろくにないからな。タケダくんも、王姫様じっと見ておとなしくしてた。
んで時間が経って、目の前の布団がもそり、と動いたのに気がついてそっちに目を向ける。
「……ジョウ?」
「セージュ殿下」
『せーじゅおねーちゃん、おきたー』
膝の上でぱたぱた羽ばたくタケダくんを肩に移して、俺は椅子から立ち上がる。目を覚ました王姫様、上半身起こそうとしてんだよね。いや、さすがに寝とけ、ここは。
「横になってたほうがいいです。……大丈夫、ですか」
「何とか、な」
軽く押し戻しただけで、王姫様の身体はあっさりベッドに倒れ込む。あ、こりゃ体力ないわ、マジで寝とけほんとに。とりあえず上掛けかけ直して、俺も座り直した。
「ここは、ユウゼか」
「はい。俺たちの部隊の宿舎です」
「そうか」
王姫様の問いに答えると、彼女は何かほっとしたように息を吐いた。いや、多分ほっとしたんだろう。
それにしても、マリカさんも言ってたけどざっと見たところ特に怪我はなさそうだ。となると、王都からぶっ飛ばしてきてどっと疲れたか……王都で、怪我しないような何かがあったか。ああ、きっと両方、だな。
「……カイルはいるのか?」
寝たままで部屋の中を見渡したのか、王姫様がそんなことを聞いてきた。ああまあ、俺たちの隊長だもんな。ちゃんと答えて、安心させないと。
「さっきまでいたんですが、情報集めとかいろいろあるんで席外してます。俺とタケダくんがいますから、あんまり頼りないですけど頼ってください」
「そうか。頼らせてもらうぞ」
『まかせてー。ぼくとままがいればだいじょぶだから!』
「タケダくんが、自分と俺がいれば大丈夫だと」
「はは、頼もしいな。さすがは白の伝書蛇だ」
ぱたぱたくねくね、と元気づけてるってのが分かるタケダくんに、王姫様はほんわかと微笑んだ。おう、こうやって見ると普通に美人だ。いや、いつもの威勢のいい王姫様って勇ましい、の方が先に出てくるし。
そこから、ちょっとだけ部屋の中はしんとした。ややあって、再び王姫様が口を開く。
「……何があったか、聞かないのか?」
ああ、そういうことか。確かに俺も、王姫様に何があったか知りたいけどさ。
聞く方は1回だろうけど、でも聞かれる方は、なあ。
「どうせ、後でカイルさんとかアオイさんに聞かれると思うんで。それまで、ゆっくり休んでください」
「ありがとう。正直、助かる」
「はい」
うん、そういうこと。どうせ話すなら、1回こっきりの方が良いと思う。多分嫌なことだろうしさ。
だから、俺は聞かない。俺が聞かなくても、カイルさんかアオイさんが聞くから。
「……あれ?」
「どうしました?」
またしばらくして、王姫様の声。でも、何か疑問に感じてるみたいな声だ。どうしたんだろう。
「いや……」
「……その、な。黒の気を吹き込まれた、はず、なんだが」
『ままがだっこしたとき、おっこちたよ?』
「はい?」
黒の気。もしかして、さっきタケダくんがぽろっと落っこちたって言ったそれか。つか、マジ王城で何があった。
「……分かるのか?」
「いやあのえーと、タケダくんの言うことにはですね……」
とりあえず、タケダくんから聞いたままを伝える。何か分からんが、俺が抱き上げた時に黒の気? がぽろっと落っこちた、と。いやだって、俺に見えたわけじゃないしなあ。
拙い説明だけど、何とか通じたらしい。王姫様はもそもそと今度こそ上半身だけ起こして、びっくりした顔でこっちを見てる。
「何と。つまり、私はお前に救われたわけか」
「そう、なんですかね? 自覚さっぱりないんですが」
俺の素直な意見をぶっちゃける。ほんと、全くもってそういう自覚も感覚もなかったし。
でも王姫様は、「自覚なぞなくてもいい」と笑ってくれた。ああ、ちゃんと笑えるんだ。ほんと、良かった。
「少なくとも、黒の気を受けていた時のように気分が悪いことも、足を広げて我が身を差し出さねばならんという強迫観念も失せている」
「そんなもんあったんですかというか、口にしないでください」
思わず突っ込んだ。いやだって、黒の影響受けて足広げてって、要するにあれだろエロ展開。俺が食らいそうになったのとか、コクヨウさんとか、そういうのばっかだもんよ。
何か、マジで詳しく聞かなくてよかった気がする。正直、どこまで何があったのか分かったもんじゃねえし。




