37 悪夢の前兆
「こんにちわ~!」
いつも通り、カラカラと部室のドアを開ける。
「遅いよ!一組~!!」
と、梓先輩が飛び出してきた。そしてそのまま、先頭にいた菜穂に飛びかかった。
「うわ!アズ先輩?危ないじゃないですか!てゆーか、前見えないですーっ!」
梓先輩に限らず、うちの部活の女先輩は私達後輩にことあるごとに抱きついてくる。(勿論、女子限定。)
先輩方曰わく、「君らも後輩を持てば分かるよ!」だそうで。
別にイヤではないですけど……(寧ろ嬉しいです。)でも、いきなりは驚くので止めてほしいです。
でも、今回飛びかかった目的はちょっと違ったらしく。
「通知表を出せ~!」
なまはげみたいに言ってきます。そんな風に言わなくても出しますって。
私達が提出した通知表の1つを見た梓先輩は、叫んだ。
「オール5って初めて見た!」
みんなの視線が星くんに集まった。
「珍しいですか?」
みんなが羨望のまなざしで見る中、星くんは肩をすくめながら言った。
「俺は将来、父を越えたいと思っています。だから、父を越すために、オール5は当たり前なんです。」
「まぁ、星くんのは特例だとしても、みんなすごいよ~!私、国語で初めて1、とっちゃって……。」
「アズ先輩、分かります!私も、国語が2で……!」
梓先輩と菜穂が隅っこでうじうじしていると、その二人の背後に怪しい陰が……
「でも菜穂ちゃん!もう夏休みだよ!通知表のことは忘れて、エンジョイしよう!」
「ですよね!大丈夫ですよね!はい、忘れますっ!」
「お~ま~え~らぁ~!」
「ひぎゃあっっっ!!」
悲鳴をあげて振り返った二人の肩には中Tの手。嗚呼、逃げられませんね。
「通知表の成績が悪かったのに、忘れようだなんて何考えてるんだ!?」
「だってぇ……」
「だってもでももない!悪かったんなら復習しろ!このバカ!しかも、国語!?何で日本人なのに国語ができない!?」
そういえば、中Tは国語の先生だった。
「菜穂、お前まだ一年生なのにそんな成績で大丈夫な訳ないだろ?成績っていうのは学年があがる度に落ちていくんだぞ?
梓は、受験生だろ!?尚更ダメじゃねーか!」
中Tの機関銃攻撃は凄まじかったようで、二人ともうなだれています。
「そうだよな、夏休みだな……ふっふっふ。」
中T、不気味に笑います。そして、それを見た梓先輩の顔からサーっと血の気がひいていきました。
菜穂はぽかぁ~ん。
そんな二人を尻目に中Tは私達外野にも一言。
「お前らも、覚悟しておけ。」
その言葉を聞いて、お気の毒に……という顔をしていた他の先輩達も、一気に青ざめていきました。
一年生は訳が分からずぽかぁ~ん。星くんの呆け顔とかレアっっ!!
言いたいことは言い切った!という顔をした中Tは職員室に戻っていきました。……結局、何しにきたんだろう?
素朴な疑問を圭一先輩にぶつけてみたら、「みんなの通知表を見に来たんだよ。」と、答えて下さいました。
って、それだけのために来たの!?……中Tって暇なのかな…?
「あの、先輩方?何で全員青ざめているんですか?」
千津ちゃんの問い掛けに、先輩達は全員、曖昧な笑みを浮かべた。
そんな先輩達を見て、私達一年生はまたもぽかぁ~んとしてしまったのでした。




