第一話 カイルとエレナ
第一話 カイルとエレナ
森の小道は、午後の陽光が木々の隙間から差し込む、いつもの穏やかな道だった。
リーフェの里からシルフェリアの里までは、子供の足で約2時間。
カイルとエレナは二人だけで、ゆっくりと歩いていた。
「エレナの親戚のおばさん、今年もお菓子たくさん作ってくれるって言ってたよね?」
カイルは腰の勇者の剣(模造剣・ダガー)を軽く叩きながら、ニコニコと話しかける。
左腕には今日もおなべのフタを改造した即席盾を装着し、皮の帽子を少し傾けて被っている。
いつもの冒険者ごっこスタイルだ。
エレナはカイルの半歩後ろを歩きながら、緑のリボンを指でいじっていた。
ハーフエルフの彼女は、11歳とは思えないほど静かな足取りで、風に揺れる銀色の髪をなびかせている。
「うん……きっとルビィのことも喜んでくれるよ。……でも、カイルお兄ちゃん、今日は本当に二人だけで大丈夫?」
その時——
カイルのすぐ横を歩いていた黒い影が、ピタリと止まった。
ファング(ハウンドドック)が、低く唸りながら鼻を地面に押し付ける。
耳がピクピク動き、牙を少しだけ見せた。
「ファング? どうした?」
カイルが小声で尋ねると、ファングは前方の茂みをじっと見つめたまま、短く二回吠えた。
──これは「敵がいる」合図だ。
カイルは即座に召喚士の感覚で魔力を集中させ、ファングの視界を共有した。
茂みの奥、約30メートル先の小さな窪地に、5匹のゴブリンがいた。
G〈初級〉の低級モンスター。
ボロボロの腰布を巻き、錆びた短剣や棍棒を持ち、キャッキャと下品に笑いながら何かを分け合っている。
まだこちらには気づいていない。
カイルの心臓がドクンと鳴った。
今なら完全に先制攻撃ができる位置だ。
ファングを突撃させ、エレナの風の祝福で援護すれば、子供二人でも勝てる可能性は十分にある。
でも——
「カイルお兄ちゃん……」
エレナがカイルの旅人の服の裾を、そっと掴んだ。
彼女の声は少し震えていた。
「5匹……多いよ。シルフェリアまでまだ1時間以上あるし……やり過ごして、静かに通り過ぎよう?」
カイルは勇者の剣の柄を握りしめた。
おなべのフタ盾をギュッと構え直す。
次男レオンの顔が、脳裏に浮かんだ。
兄ちゃんだったら……きっと先制で仕掛けるよね。
でも、母さんには「絶対に危ないことはしないで」って言われてる。
ルビィを今すぐ召喚すれば回復もできるけど、MPを無駄に使ったら後で困るかも……
ファングが低く唸り、牙を光らせてカイルの指示を待っている。
ゴブリンたちはまだ気づいていない。
風が木々を揺らし、シルフェリアの里方面から微かにエルフの鈴の音が聞こえてくるような気がした。
カイルとエレナの判断は——
カイル・ランチェスター
12歳・男性・ランチェスター家四男
祝福:魔獣召喚(異能)、魔獣召喚士(職業)、MP補正(能力)
召喚:〈G級〉ファング(ハウンドドック)、〈D級〉ルビィ(カーバンクル)
装備:
勇者の剣(模造剣・ダガー) アンコモン級
おなべのフタ(即席盾)
皮の帽子(母の手作り)
旅人の服(父のお古)
革の靴(兄のお下がり)




