不意な来店
謎解きのはなしをはじめましたー
総一が二人と山中で出会い、襲撃され銃弾により死亡する間際にマヤによって復活。
無事に山小屋を離れ、行き場所の当てがない二人を従業員として雇った。
隠れ蓑の生活が始まって、一週間が過ぎた。
カラン・カラン・カラン
喫茶店のドアが開かれる音が響く。
なじみの客は自分で好き勝手に指定席を決め込んでいる者が多い。
今し方入ってきた客もそう、自分で勝手に窓際に座り込んである者を待つのだ。
そうドア鈴の音を聞いて即に走り出した奴、
店奥からいち早く客の下へ駆け寄ってくる少女━━、マヤである。
マヤ いらっしゃいませ━━━っ!♪
《彼女はこの職業に向いているなぁ》
接客している姿を見てるとあんな力を持ってるとは信じ難い。
《でも、夢じゃない》
そう、夢でも幻でも嘘や間違いじゃない、ましてや妄想の類では全くない。
正真正銘の事実で自分の身に実際に起き、寸でのところで屍になる処を無かった事に。
《そう、あれって治したじゃなくて》
《無にしたって感じ》
普通に怪我を治すのなら、傷痕が残るはずなのにその治療の痕が総一の体にはない。
つまりあれは治療ではない気がする、んだが、じゃなんだ?治療じゃないのに銃撃された怪我が無かった事になる?………。
《マヤ本人は分ってる筈だし、
《直接質問するのが一番早そう…》
《聞いてみる…………、か?》
厨房で総一が、注文が入ったら手早く豆を挽く為に準備をしながら横目で見ていた。
店内にはまだ客は今入ってきた一人しか来てない、だから彼女が注文を取って来るまで
手持ち無沙汰なのである。余裕かまして店内を見渡しているところだ。
が、もう一人の人物は何処に?と、
居た。一番奥のテーブルに腰掛肩肘付いて外を眺めている。
《そっか三枝さん〝の〟客が今日はまだ来てないからか》
《来ないとつまらなそうだな》、
《最初はあんなに、嫌がってたクセに…》
《なんだよ全く、もう 》
そうなのだそれこそ最初は嫌ぁ━、恥ず━━ぃ、っとか散々わめき散らしてが。
それが今では、接客専門従業員専用特注の制服を気に入ってしまったらしく、鏡やガラスに映った自分の姿をチェックしてる。
今も、又こっちが見てないと思い鏡を横目で━━。
《ほんっと女って、分らん》
総一は三枝に自分を見てる事をバレ無い様にしている。その、仕事してるフリをしているとマヤが一番客から注文を受けて戻っていたが、自分の横にいるのに気が付く迄に約十秒かかる。
「お、マヤ戻ってた悪いっ。注文なんだった?」
マヤ はい、これっ!
マヤの両手から伝票を受け取る。
【炭火焼ブレンド】
「ほい、了解ね」
よろしくねえの身振りで、すすっと三枝の横へと小走りに移動して行く姿を観覧するも、あーもうすっかり従業員に慣れたなと豆を挽き始める。
注文の物をマヤに運ばせ一息付く、あれから一週間も経ったが何もコレといって進展が無い。
とは言え、いきなりの急転直下もこれまた困る。
何せこちらは味方が居ないのである、さぁどうすりゃ良いかと考える総一、いっそこのままでも良いかなと想っている自分にも気が付いている。突然に姉と妹が現れた様なこの状況が一向に悪い気がしない、寧ろ長い間一人きりで生きてきた自分には同居人は嬉しいとこだ。
《妹はいいけど、あの姉は━━ぁなぁ、ちょっと》
なんて事を思いながら、三枝と目が合ってやばっ。
と、視線を移すが遅い。自分の事を何か言ったでしょと詰め寄られ責められ、マヤがまあまぁっと仲裁にくる、彼女のそれが入ってくれなったら頭に一発喰らってた。マヤが居てくれて本当助かる、居なかったら今頃は全身怪我で━━、……。
怪我で、ちょっと気に成る事が惣一にはあった。あるのだがまぁ気のせいだろうと放置している。が、そんな事より例の組織の方が気になる。あれ以来全く存在を感じさせない、その何も音沙汰が無い事の方が怖さを覚えるというもので、あれだけの装備と人員を容易く送り込んで来たにも拘わらずにだ。
《━━━ ほんとに痕跡を辿れてない?》
《見失ってるならこのまま》
《そっとしてくれないかな》
敵の不甲斐無さを疑いつつも、希望的観測をしているあたり何時もあんたは楽天家すぎると、三枝に言われてるのをハタと思い浮かべあぁまた突っ込まれるな、そう想っていると勝手に顔がニヤけていた。自分でもニヤけた顔に成っている事に気が付き、きりっと戻すが、どうやら二人には目撃されていた。
らしい、店の奥からふたりがじと眼でこっちを見ている。
じと眼でこっちを笑いものにしてるかと想うと、カチンとくる。
《ふんっ、勝手に笑ってろ━━ 熱っ!》
つけっ放しのコンロに手をいれ火傷、流石にマヤはすぐさま製氷機へと走り氷を用意してくれた。だが三枝は━━━、今度は本当に笑ってやがる。
氷をビニールで包みマヤが冷やしてくれているその先で、ケタケタと笑っている。
「ひっでぇなぁ、本当にわらってるし━━、この冷血女ぁ」
「はあぁ━━、どんくさい君が悪いんでしょ━━っがぁ
接客専門従業員専用特注の制服を着せた罰よっ」
〝はぁ何言ってやガル、最近ではすっかりお気に入りな癖に━━!〟
などと言葉を口にしようものなら、間違いなく叩きに来る!。
言葉に出さなくても、頭に浮かべるだけでも不思議と寄って来て、こう言うのだ。
【総一くーん、今お姉さんの悪口言ってたでしょ!】
何で頭ん中で悪口言ってるのが分るのか?、脳内の信号がセリフとして見えでもしてるのか、総一はこちらの方こそ見てみたいものだと、下に恐ろしきは【三十路女の感】。
そして、【三十路女】も当然の禁忌である。
しかしだ、ここで仮の姉・妹相手に馬鹿してる方のが、山小屋で遭遇した組織の奴らと関わるより百倍ましだと総一は思う、たったの一人と遭遇しただけで本当なら死んでいた。今生きているのはマヤが居た御かげだ、居なかったら出血多量で死んでいた。
もっとも、連中はマヤを追ってきてあの様な目になった訳だが彼女に責任は無い。
出来るならこのままずっと仮の姉・妹と居たい、ずっとこの生活が続けば、
こんな幸せな事は無い。
急転直下の展開など起きてくれるな!。
だが、これはやはり希望的観測が過ぎるのだろか━━━?。
安穏とした日常を希望してるのは自分だけで、二人はそう思っていないのかもしれない、早く仲間と接触しこの一連の騒動に方を付けてしまいたいと。もし二人がそう思っているのなら自分の考えはただのエゴではないか、希望的云々は捨て早く二人の希望を叶えるのが筋ではないのだろうか?。
《しかし実際の処》
《ふたりはどう考えてんだか?》
《マヤの方は………》
朝一番に訪れた客と身振りで話している。
《ふぅん、あの客》
《ちゃんとマヤの反応を理解してるのか?》
《 ━━━━━ ん?あ、話し終わった》
席を立ちレジへと歩く客とマヤ、会計を済ませて帰る客にペコリと頭を下げ、
びゅーと、テープルを片付けに走り、手際良く後始末を済ませ厨房へ。
もしかしたら、マヤはこのままでも良いと思ってるのでは?。
いやいや、謎だらけだし第一家族居るだろうし、早く戻りたいと思うのが普通だろう。
先程爆笑してから三枝はどうしてるか━━━━と、やはり外を肩肘付いて眺めた。
《三枝さんは………、こっちは絶対違うな》
《早くケリ付けて元に戻りたい》
《だよな、普通は》
マヤ・三枝、そして自分の希望や何やら思考し続けていると大混乱になった。
《あ━━━もぅ、頭いたぁ》
《考える程に混乱してきた》
そうだと急に頭に考えが浮かんできた。そもそも自分だけが、何故こんなに頭を悩ませないと成らないのか…、二人は何も考えていないのか?と。
だが、考えてないのか等と聞いた日には、それは男の義務だ。
と、言い切られること請け合い、確かにその通りと思わなくもないが……、経験豊富な人生なんだし少しはフォローしてくれてもバチは当たらないでしょお姉様と。
そんなこんなを考えている内に、客がバタバタ入店してくる。
それは、総一の頭の内のもやもやを一時的にでも消し去る位には役に立った。
さっきまで肩肘ついて、黄昏に浸ってた三枝も客が増えては流石に黄昏る事が出来なくなり、重い腰を上げ接客業に付くしか無かった。が、その客の中に三枝の〝客〟が居たともなれば話は変わる、水を得た魚といった感じで自分とマヤに直触挨拶する客に、機嫌良く対応、すっかり機嫌揚々である。
一時的に忙しくなっていた店内も、三枝の〝客〟が店内から去り三枝の独断場終了と共に終わりを迎え、店内は再び三人だけの空間になる。このタイミングで総一は、自分の希望的観測は横においといて、思い切って二人に【マヤの力】と【組織の施設】について、その話を切り出そうと考え厨房内を手早く片付けにかかる。
総一がやっと覚悟を決めたのも束の間、また来客を知らせるドア鈴が鳴る。
カラン・カラン・カラン
そして、急転直下の出来事は、総一の想いと覚悟など考慮せずに、
彼らの前へと傍若無人に急に訪れた。三十台くらいの男性が扉を通り抜けて来る。
ガララン━━━━カラン━━━カラン━━カラン━カラン…
トレーを落とした音が響く、っと音のした方を見る、
三枝とマヤ、仮の姉妹二人共が呆然とした顔で入り口を凝視している。
マヤは小走りでその客に近付いていく三枝は最初呆然自失となってたが、
気を取り直し腰に両手を当て、その客を睨んでいる。
「ちょっ!、死んで無いなら
もっと早くに顔出しなさいよ━━━っ!」
「いやぁ悪い、色々こっちもあってな、
しかし相変っわらず口わるいなお前」
そう返事する男は、
三枝の仲間は全滅された筈、
死んだはずの北条隆典が生きていた。
ありがとうございました