第19話 撤退
なんということだ。
これは、もう人間を人間が信じられなくなってしまう事態だ。
近くにいる人間でさえ化物かもしれない。
化物といっても生物ではないが……。
何か、見破る方法はないのだろうか。
「こいつまでもが化物だったとは。もう信じられないな。カンジ、君も化物かなー」
と銃を向けるカル。
「え、何を言っているんですか。冗談を言っている状況ではないですよ。銃をしまってください」
こうは言ったものの冗談ではない。カルだって。
「おい、カンジ見てみろ。来たぞ。奴らだ」
彼女の指さす先にはロボットの集団がいたのだ。
「どうするのですか。カル」
「君も変わらないね。相変わらず敬語を使うだなんて」
「今、そんなことを言わないでください」
「いやいや、今だからこそだよ」
「……」
「今だからこそ。リラックスしなければならない」
「……」
「いや、何か反応しようよ」
「反応しろといわれても……」
「四面楚歌。絶体絶命。この状況を言うのだろうね。でも、黙って殺されるわけにはいかないだろう」
四面楚歌。
絶体絶命。
確かにそうかもしれない。
相手の数が多い。
我々を監視すると同時に数を集めていたのだろう。
単純に突っ込んでいけば我々はごみのように蹴散らされておしまいだろう。
「カンジ、私にかけてくれないか」
「掛けるとは」
「違う。賭けるだ。私の作戦に任せてくれ。というより、ついてきてくれ」
「作戦の説明もなしですか」
「もちろん」
そんなこの作品内最高の笑顔で言われても……。
「急げ、行くぞ」
ああ、考えているうちに駆けだしてしまった。仕方ない。
駆けだしたと同時に相手も一斉射撃を行ってきた。
さながら、鉄の雨だ。
おっかない。
「走れ走れ」
「時代劇ですか。時代劇の突撃ですか」
「走る以外ない」
走る走る。どこまでも。
まるで、走れメロスのように。走る。
あれ、この方向は高山だよな。
入り口が見えてきた。
ああ、また地獄入りか。
ここに比べれば、天国とは言わないまでもましか。
なじみのある入口だ。
なじみというまでもないが。
「あっ、あれは狼犬」
「なぜここに」
カルは狼犬に驚いたようだったが、銃……ではなくサバイバルナイフで切りかかっていた。
目の前は一面真紅となる。
僕より随分とスペックが高いお方だ。
「入るぞ」
「はい」
んっ。
この匂い。
前以上にひどくなっている気がするぞ。
まだ数時間しか経っていないはずなのに。
「なぜここにしたんですか」
「ここなら時間が稼げると思った」
「成る程」
確かに入口があれならなかなか入ってこられない。
しかし、時間稼ぎにしかならない。
「この後どうしますか」
「援軍を求める」
援軍……。
そんなものいるのだろうか。
「誰に援軍を求めるというのですか」
「静かにしろ。少し待て」
そう言っても……困る。
頼れる人は……いない。
「……。すまない。援軍が来るまで一時間かかる」
「しかし、一時間で来るのでしょうか。それが本当なら、一時間耐えられれば」
「ああ、耐えられるように頑張ろう」
カルが明るく励ます。
励ますといっても信じていいのだろうか。




