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6.マズマの生い立ち

[着いたぞ。起きろよ]


 優しい声にオレは目を開いた。

 マズマのふかふかした広い背中の上で体を起こすと、地面に降り立つ。それでもまだ寝足りず、押し寄せた眠気に抵抗しながら前足で目元を擦った。


 マズマはオレのことをじっと見詰めていた。


[今夜はぐっすり眠って休めよ。

 お前はまだガキなんだ。怖いもの見たさは俺も良く分かる。しかしな、遊びも程ほどにした方がいいもんだ]


 そんなこと言ったってさ、外の世界がどうしても見てみたかったんだもん。


 マズマはしましまの尻尾を振って、興味深そうな目をしてオレを見ている。


[村の外を見るのは初めてだったんだろ。

 どう感じた?]


 怖そうだ。って、そう思ったよ。


 マズマは目を細めて頷く素振りを見せた。


[そうだな、俺達ねこには何があるか分からない世界だからな。大体のねこはこの村で産まれて外に出ることなく死んでいく。稀に事情があって村の外へ出ていった奴もいたが、遠くへ出て行ってその後村まで帰って来た姿を見たことはねぇよ。

 過酷なんだよ。外は]


 オレは沈黙していると、マズマは続けた。


[……俺は村長の所で厄介になってるのは知ってるよな]


 うん、と頷く。


[俺は村の外からやってきた。今の村長の親父と一緒に、遠い異国から旅してこの地に辿り着いた]


 今の村長のお父さん?

 そんなことに言ったらマズマは一体全体何歳なのさ?


 オレはマズマのことを不思議な目をして眺めた。マズマは嘘っぱちで話をしている様子じゃなさそうだけれど……。


 呆けたようなオレの顔に気付いたマズマだ。


[ああ、俺は少し特殊な部類でな。まぁ、長生きなんだよ]


 長生きって、何十年も生きるねこを長生きするねこって呼ぶもんなのかな。


 まぁいいか。


 でも、マズマの生い立ち話を彼から聞くのは初めてだった。

 村長さんのことは、たまにゴートの店に来店することがあるから何度か見たことがあった。確か白髪頭の優しそうな面影をしたお爺ちゃんだ。


 ……ということは、マズマは本当に何年生きてるんだろう。まさか、化けねこなんてことは無いよね?


 気恥ずかしいような、過去を懐かしむような複雑な顔になりながらマズマは続けて語っていく。


[今の村長の親父、つまり初代村長だが、俺は彼らと一緒にこの近辺を開拓して現在のこの村を興したんだ。知らないだろ?

 当時は今と違ってそれはまぁ荒れてたもんだよ。開拓なんてのは決して楽じゃない作業だ。

 平和と呼べるようになった最近じゃあどのねこにも話してねぇことだがな。

 ここまで話せばなんとなくは理解出来ただろ。俺は普通のねこじゃない]


 マズマは冗談を言うでも虚勢を見せる素振りでもなく、[実はな]、と言ってやや照れ臭いような雰囲気で首元を足で掻いている。

 そうだよね。余りにも長生きし過ぎだよね。ざっと考えて数えても、少なくとも百年は生きていそうだ。


 オレは黙り、マズマもしばらく口を閉じた。オレ達二匹は座りながらどこを見るでもなく見つめ合っていた。

 やがてマズマが口を開いた。


[もしかして、冒険するのが好きか?

 冒険してみたいのか?]


 オレの意を汲み取る様に、または気持ちを理解しようとしてくれたのか、マズマは恐る恐るといった具合で尋ねた。彼の優しさに心が少し温まる思いだ。


 好奇心の塊、それがねこだ。


 外の世界は恐いけれど、冒険は大好きだよ。オレは冒険がしてみたい!

 そう強く主張した。


[ハハ。

 そらそうだわな。いや、あまり良くない質問だったのかもな]


 マズマの言葉にオレは首を傾げた。彼は厳しい顔をしてオレを見詰めていた。


[死ぬ事や、苦しい毎日に放り込まれても構わないってんなら。それでも村の外の世界を見てみたいってんなら。

 どうだ?

 俺なりではあるが、ねことしての戦い方を仕込んでやるよ]


 オレのためにと色々と言葉を選んでくれたマズマに嬉しくなった。

 マズマは優しいしやっぱり頼りがいがあって最高なオレの尊敬する兄貴分なのだ。


[どうだ、やってみるか?]


 もちろん、やる。


[痛いしツラいぞ。それでもいいか?]


 やりたい。


[途中で投げ出すことになるかもしれんぞ? それでもへこたれない強い気持ちが続きそうか?]


 強くなりたい。オレは強くなって冒険に出るんだ!


 躍起になったオレのことを、マズマはさも愉快そうに眺めていた。尻尾を左右に振ってワクワクしているような気配になっていた。


[よし!

 なら明日から訓練だ。今夜はゆっくり休んどけよ。たっぷりしごいてやるからそのつもりで来いよ]


 オレは睡魔がどこかへ行ってしまった頭と身体を振ってマズマに応えた。そうすると、彼も同じことをした後でくるりと反転して勇ましく尻尾を上に突き立てた。


 曲がり角を曲がるマズマの尾が消えるまで彼を見送るとオレは踵を返し、マズマのように尻尾を立てて我が家に戻った。




 裏の戸がオレの体分開けられていて中から光が漏れていた。その奥にはオレの為にご飯が用意されているようだ。

 嬉しいな、と思う。


 厨房で熱心な様子で洗い物をしていてオレが帰って来たことに気付かないユーノにオレは、ただいま、と鳴いて入って行った。


 今夜はいっぱい食べてぐっすり眠って身体を休めて、明日からの特訓に備えよう。


 オレはユーノにすり寄って挨拶した後美味しいご飯を頬張った。

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