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5.冒険者の後を追う

 オレは先ほどの冒険者達がゴートの店から出てくるのを待った。遊び心で後をつけてみたくなったのだ。


 彼らがこれからどこに向かうかはまだ分からない。村の外へ冒険者の仕事に出掛けるのかもしれないしお腹が満腹になってお昼寝しちやう可能性だってあるし。




 あ、出て来た。彼らわを見送るためリルも外へ来ていた。


「ご馳走さまでした。美味しかったです。また来ますね」

「ぜひまたお越しください。本当に危険だったらちゃんと逃げて下さいね」

「ありがとうございます、大丈夫です。ボディーガードの二人がしっかり守ってくれるから安心です」

「おい、お前も一緒に戦うんだよ」


 やっぱり、この後で魔物退治に行くようだな。


  あの人達がいれば、たとえオレが後ろからついて行っても巻き込まれちゃって危なくなるなんてことはないよね。遊び半分だし観察するだけだし。きっと大丈夫だよね。


 それにもしもの時は最悪、見捨ててもいいよね。そもそもオレはねこだからなんの役にも立たない訳だし。







 オレは三人の後をつけていった。


 人間はいいな。村の通りを何の気無しに気兼ねしないで歩けるんだから。でもねこのオレにはそうはいかない。


 通りに建ち並んだ家屋の壁伝いに歩いたり家と家の隙間の細道を歩いて遠回りしたり。

 小さいけどゴートとユーノの店の周囲が一応オレの縄張りで活動区域になってるように、各ねこ達にとってもそれぞれに縄張りを持っている。そこに勝手に浸入すると見付かれば喧嘩になっちゃうんだ。


 だから、なるべく臭いを残さないように境界線を鼻で嗅ぎ分けて通らないといけないから疲れちゃうのだ。下手な事して気性が荒いねこに、縄張り侵犯だ、ってイチャモン付けられて争いになったらそれこそ面倒なのだ。




 尾行するのなんて楽チンだろうと予想したのに、三人に注視したり見失わないように気を付けて追跡したり、不用に襲い掛かってくるねこをやり過ごしたり前を通り過ぎる鼠につい惑わされないようにしたりと意外にも大変だった。

 それにお腹も減ってきたし、どうしよう。なんか気が変わりそうだ。


 やめちゃおうかな。……でもせっかくここまで来たんだし、もうちょっと頑張ってみようかな。




[何やってんだ。お前、こんな所まで来て]


 突然、頭上から声が聞こえた。

 近くの家の二階からマズマが飛び降りて前に着地したから、オレは滅茶苦茶びっくりして心臓が止まるかと思ったよ。


[遠くへ行くなと行っただろうが!  チビコロのお前は自分の家に戻れ]


 伸ばせば前足が届きそうなくらいの位置までやってきたマズマだ。そして唸り声を上げて厳しく威嚇するマズマ。


 怒ってるみたいだし、どうしよう。やっぱり尾行なんてやめて店に戻ろうかな。




 しばらく迷っていると、怒ってる風で少しニヤニヤしているマズマに気付いた。オレのことを、いい遊び相手を見付けた、と嬉しんでいるのかもなと思った。


 オレはそんなマズマになぜこんな所まで来たのか訳を話した。ただ、理由なんか好奇心以外無いんだけれどね。


 マズマは呆れているようだった。


[馬鹿か。尾行なんて危ねぇ遊びしてんじゃねぇよ。

 それによ、遠くの知らない場所まで行っちまったらお前どうやって元の家まで戻るつもりだよ]


 あ……。


 でも、それならたぶん問題無いよ!

 かなり注意してたから道順は何となく覚えてる、はず。


 前を向いて三人を見ると、買い物か情報収集でもしてるのかいろんな店やお宅に出たり入ったりしていた。移動した時間や足の感覚からまだやって来たのはそれほどの距離じゃないと思うし。というよりも小さな村だから大した遠出にもなってないのだ。


[じゃなくてだな、アイツラが外に出ちまった時はそしたらどうすんだ?

 いや、まあいい。俺も付いてってやるよ。丁度ヒマしてたからな]


 面倒臭くなったな、マズマは。


 ほら、やっぱりマズマは暇なんだ。

 いや違うか。大多数のねこが一日中特にやることも無いし暇を持て余している。





 マズマとそんなやりとりをしてるうちに屋内に入っていた三人が外へ出てきた。オレは窓に飛び乗ってその中を確認すると、室内は刺激のある強い草の臭いで充ちてるみたいだ。薬草でも調達したのかな。


[なんだあいつら、村の外のヤツか]


 マズマは冒険者ふうの格好から村の外からやってきた人間だと判断したようだ。当たってるよ。


 流石にマズマに彼らの後を尾行していって、噂の魔物を見に行くことが目的だとは言えないので、適当な嘘をでっち上げた。オレは頭が働くねこなのだ。


 オレの為のご飯を彼らに奪われちゃったんだよ。くすねられちゃったんだ。


 そんな嘘を付いたらマズマは真に受けちゃって、[なんて奴らだ! 俺がとっちめてやる。そこで見てな]、なんて息巻いちゃったから焦ったよ。




 そんなこんなでオレ達二匹は三人組の冒険者の後をつけて行った。マズマと一緒なら人間と同じ様に通りを大股歩きしても平気だ。マズマはこの村のねこのボスだから、どのねこも彼に文句を言えないのだ。だから他のねこから余計なインネンを吹っ掛けられることは無いから安心なのだ。



 三人組の冒険者は、他にもあちこちの店や家を訪ねて周っていた。


 もう陽は傾き始めている。普段から家の周囲くらいしか外へ出ないオレだけでは迷子になることなく帰宅するのには流石に難しかった。やっぱりマズマが付いていてくれて良かったぞ。


[おい、そろそろ戻らねぇと。それにここは村の柵に近い辺りだ。

 ……もしかして、あいつらこれから外へ出るってのか?]


 マズマは犯人を尾行中のどっかの警備の人間みたいな目付きをして睨みを利かせている。


 うん。本人達もそう言っていたし。多分これから外へ出るんだろうね。


 マズマは、[それはダメだ]と厳しく言った。


[もう帰るぞ。腹も減ってきた。

 遊びは終わりにしろ、な?]


 踵を返して引き返そうとするマズマを、オレは一生懸命説得した。

 これからが本当の尾行なんだよ、って。


[おいおいマジで言ってんのか、正気かよ。

 あいつら今から外に出るんだろ? いいか、あいつら人間には服や武器があるからもし万が一危ない目に合ったとしても自分の身を守れたり戦えたりするんだぜ。

 しかしだ、俺らは身を守るものは何も持っちゃいねぇんだぜ。野犬でもカラスでも、襲われたら冗談じゃなくヤベエんだぞ?]


 む……、確かにオレはねこだ。何も着てないしいざ戦おうったって、鼠すら満足に仕留められないヘボねこだ。


 それに野犬も凶暴なカラスも嫌だし恐い。襲われちゃったら、想像するだけでもそいつらと戦うのは嫌だよ。


 でも!


 オレは村の外の世界が気になったし、一度でいいからこの目で見てみたいと思ったんだよ。

 今ならあの冒険者の人間がいるから危険なことに巻き込まれたりしないって思うんだ。


 今がチャンスだし、せっかく頑張ってこんなに家から遠い村の外れというか入口近くまで来たんだし、やっぱり外を見てみたい。

 オレは駄々を捏ねて、マズマにイヤイヤをした。


 マズマはそんなオレの様子を見ながら唸って考えているようだった。


 冒険者の三人は槍を手にした村の門兵に挨拶して、村の外へ出ていってしまった。

 それを見て、ねこも会釈するくらいで外へ出ることが出来たらいいのにな、って思った。


 ……いや、出られるかもしれないだろうけど、門兵のオジサンに恐い目で睨まれるのは避けたいし。きっとオシッコちびっちゃう。


 もしかして、とオレはマズマを勘繰った。


 マズマも野犬や凶暴なカラスが恐いの?

 そんなまさか、このコカコ村一番のボスねこマズマに恐いものなんてある訳がないよね?


 ちょっと言ってみただけなのに。


 オレはマズマのねこパンチを頭にくらって首が捻切れそうになっちゃったよ。痛ったー!


 もう、酷いや。ちょっと思ったこと口にしちゃっただけじゃんか。


[バカ野郎!

 オレに恐いものなんざねーんだよ]


 そんなに怒んないでよ。


 でも手加減はしてくれたみたいだった。


 それでもオレは諦めずにマズマに、どうしても! と頼み込むと、なんとか折れてくれた。


 ありがとね、マズマ。さすが頼りになる兄貴分だよ。


[チッ、しょうがねぇ。

 いいか、チラッと見るだけにするんだぞ]


 どうしても乗り気じゃないマズマの背中をぐいぐい押しやって、オレとマズマは柵の近くにあった木に向かいよじ登った。枝を伝って柵の上に上がると、そこから村の外と彼ら冒険者の姿が見ることが出来た。



 初めて見る外の景色は夕刻の薄暗がりもあって酷く不気味に感じるものだった。


 遮る物の無い荒野にポツンポツンと木が生えていたり、ゴツゴツした大きな岩があったりするくらいの殺風景で頼りないものだったのだ。少し前まで頭の中で想像していた草木や色とりどりの花の匂いと虫の合唱や、小川が流れて多くの魚達が泳いでいるような華やかな生命のハーモニーといった、賑やかで楽しくてワクワクしそうな外の世界のイメージは完璧に打ち砕かれてしまった。


 なんか、やっぱり怖そうだ。


 眺めているだけでも心に不安を掻き立てるような景色は無味で、想像すればするほどそこに暗色が混じっていくようたった。


 きっと何か不吉なことが起こりそうな気がしてオレのお尻の穴がキュッと締まった。


 冒険者達はまだ目で十分に見ることが出来る辺りで立ち止まっていた。その人影を二匹で眺めていた。


[あんまし良さそうじゃないか?]


 ……うん。


[だろ]



 オレは村の外の世界は、生と死が交差する世界だと本能的に感じ取った。身震いしてしまう。


 オレとマズマは歩きを速めて見えなくなりつつある冒険者三人組を敬意すら感じながら眺めて見送っていた。刻一刻と陽は陰り、危険な気配はその強さを増してきていた。


[帰るぞ]


 

 マズマは独り言の様にそう呟いた。


 しばらく離れていく彼らを見つめ続け、それから何も言わずに村の内側へ飛び降りたマズマの後を追ってオレも村の中に飛び降りた。

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