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150.ハックバール竜穴②供物

 ラヴィーアが金色の翼を広げた。ゆっくりと浮き上がっていき、オレたちはその姿を注視する。


「礼竜の力を授けるに当たり、供物を要す」

「く、供物だと?

 ただ得られる訳では無いと言うのか」

「そうだ。

 当然であろう。礼竜という神の力を拝受するのだ。代価無しで拝領出来ると思うたか」


 眉間に皺を寄せイルマが独り言ちた。ラヴィーアはそんなイルマを眇眇たる生物でも見るように眺める。控え目にしてもあまり好ましく思っていないらしい。


「案ずるな。先立ち頭の(わっぱ)を此処竜の間へ連れ、言は取ってある」

「ガンクの?」


 ラヴィーアが言うには、礼竜の祠でガンクから剣を取り上げ検分した後にガンクの評価を下した。ガンクのことを自身の潜在魔力は微弱なものだけれどただの矮小なだけの人間ではない、と認めたのだ。

 そしてガンクの魂だけを引き連れて、今オレたちがいるこの場合に礼竜と引き合わせに来たという。

 その結果、死期間近の礼竜が希望していた通りに竜の力を以て真竜の巫女を護る事が出来るようにガンク組の誰かへ受け渡す意向を告げたのだそうだ。


 しかしそれをするにあたり、問題があった。礼竜の衰弱ぶりが著しく、色々と不十分で劣等的な人間に力を授けるには媒体として身体五体の一つが必要となるということ。つまり供物として五体の一つを渡して、竜の力を得て戻ってくるわけだ。


 では誰がその力を得ることが出来るのか。その候補は、ガンクしかいない。真竜の巫女であるナノはその身に呪いを宿している為に適さないこと、イルマはラヴィーアが思うに相応しく感じていないしこと、ランドはねこで除外、コルテはそもそも関係が薄いこと、がその理由だ。


 まぁ、確かにオレはねこだよ。でもさ、ねこだから除外は酷いよ。



 そんな話し合いを、竜、鳥、人の三者で進めていくに連れ、ガンクがあまりにも騒ぐので、ラヴィーアが雀に変化させてしまった。そして仲間(オレたち)を連れて再びこの場所へ呼び寄せるまでによく考えておけと告げたらしい。



 ガンクを呼び寄せるまでに一旦仲間内で相談しておけ、と告げたラヴィーア。くるりと反転して礼竜の方へと翼を揺らして飛んでいってしまった。



 カルクスが加わり、オレたちは丸まって作戦会議を行った。


「しかし、五体の一部などと。必然と手足のいずれかであろう。

欠損してまで力を得る必要はあるのか? それに、容易く馴染むものなのか?」

「ラヴィーア様が礼竜様のサポートについてくださるので、馴染む馴染まないについても拒否反応についても問題無いでしょう。上手に礼竜様の力を引き出せるかはガンクさんの腕次第ですね」


 イルマの質問に答えたカルクス。同様にコルテも頬に手を当て答える。


「うーん……。まがりなりにも礼竜様って神様の一体なんでしょう。

 畏れ多くてもイルマが懸念する程の悪いことにはならないんじゃないかしら。ほら、力を授けてくれるんだもの。供物まで用意するんだし」

「うむ。仁竜の祠を襲った不届き者であれば禍が降り掛かったかもしれぬがな。

 ナノ、進行方向から見てお前の故郷も近いのでないか? 上手くいけば寄っていける。いや立ち寄った方が良さそうだ」

「え、いいの?」


 その場に地図を広げたイルマ。全員でそれに目を置く。

 今いるハックバール砂漠から更に北西に向かうと広大なカダストロフと呼ばれる地方に差し掛かる。ハックバール地方も広域だけど同じくらいカダストロフ地方も広域だと分かって滅入る。

 そしてカダストロフを突っ切り、突き当たりると先は南北へとカダストロフ山脈が大きく聳えているのが見てとれる。


 ナノが指差す辺りはカダストロフ地方の一部分だ。目印らしいものは地図上に見当たらないけれど、この辺りにナノの故郷があるという。

 そしてカダストロフ山脈の麓には仁竜の祠が、カダストロフから東方へずっとずっと進んでいくと地図的には王都があるみたいだ。



 ナノがお腹に手を当て少し擦るようにしている。


「このカダストロフ山脈の麓の辺りは特に危険な地なの。仁竜の祠は麓の入口付近。その先は呪われてる。本当に危ない」

「呪われている?」

「ナノちゃん詳しいの?」


 イルマもカルクスもごくりと唾を飲み込む。


「古里だからね」


 ナノは逡巡して、続ける。


「昔ね、好奇心で祠の先まで行ってみたことがあるの。

 あの時は怖かった……、本当に。まだ魔法の技術も心許なかった頃だったし。

 でも足を踏み入れる前にちゃんと祠で仁竜様にお祈りしてたから、仁竜様に助けてもらってなんとかことなきを得たの」

「興味が湧くとすぐ動くからな。今も昔も変わっとらんな」

「うっさい。

 でもね。その出来事があって初めて村の人たちに聞けたんだ。乱末の山って謂れを。

 昔、祖先の真竜教の人達が新興勢力だったアーバインと帝国の共同軍に追われていって、最期に辿り着いた土地がその辺りなの。そしてその地で朽ちていった。虐殺や自害や、本当に惨いことがあったらしくて。そのせいか、怨念めいた呪いの土地として色々と良くないことが起こるし、魔物も普通じゃなくて。だから同じ一族の者にもそこは禁忌の土地なの」

「……」

「すまぬ、辛いことを聞いてしまった」

「いいの」



 気を取り直した調子でコルテがパンパン、と手を叩いた。


「じゃあ、ここを出発したら敵がグッとヤバくなるんでしょう? あんたたちも冒険者の端くれなんだし、パワーアップはしといて損はないわよ。特にガンクは元から魔力の素養が無いんだもん、打って付けよ。

 ほら、これを機に神聖な竜の神様の力をガチンと身に付けて。ね、真竜の巫女様?」

「もう、コルテ!

 礼竜様はパワーアップの道具じゃない!」

「ごめんごめん。分かっているわよ」


 ナノがコルテを叩いているけれど、ナノも場を和ませようとしたコルテを理解しているらしい。


 顔を和らげてナノが続ける。


「……確かにガンクは昔から魔力が乏しくて、それで落ちこぼれの問題児クラスにいたからね。確かにアリだよね。

 でもそれがきっかけで国家転覆を企む危険思想のアタシみたいなのと、この超絶根暗のイルマと出会えたんだからいいんだけど」

「おい根暗とは何だ、しかも超絶とは」

「えー、だってそうだし」


 睨むイルマと、舌を出すナノ。そしてコルテは二人を宥め、カルクスはそんな三人を微笑みながら眺めている。


「まーまー。

 じゃあ、後はガンク次第ってわけね」

「そうなるな」

「ね、イルマってパーティーの中じゃバランサーでしょう。指示出したりアイテムで援護したり。付いたあだ名も司令官なんだし。

 だからいいじゃないの。今回の魔法のお宝はリーダーに譲っておやりなさい。その代わり次回はぶん盗っちゃえばいいんだから僻まないの」

「僻んどらん!」

「コルテッ! 礼竜様をダンジョンのお宝みたいに言わないでよ」

「ごめんなさい、悪いとは思っているのよ。でも物の例え」


 うん、今のは少しコルテの悪戯が含まれてるな。




「あ、そろそろガンクさんが呼び寄せられるみたいですよ」


 ラヴィーアを振り返り見てカルクスが立ち上がる。言うや否や、礼竜とラヴィーアの前にガンクが現れて神殿の地面にどすんと転がった。姿が雀じゃなくてちゃんと元のガンクに戻っていた。


「ってー、なんだよクソ」

〔ガンク!〕

「来たかガンク。

 話は聞いている、ということでいいんだな?」


 ガンクに駆け寄ったオレの頭と背中を撫で、イルマに応じたガンク。頷きながら見据えるのはラヴィーアだ。


「ああ。ちゃんと答えは持ってきてる。

 んなことよりおいクソ鳥、よくも俺を鳥に変えてくれたな。さぞかしすげぇカッコイイ鳥の気分を味あわせてくれたんだよな?」

「ピャロッピャロロ。

 嗚呼。喜べ、腕白な(わっぱ)に相応の剛毅な種に変えてやったぞ」


 ラヴィーアは嘘付きだな。雀だったもんな。可愛かったけど。ガンクがニヤリと口の端を上げる。


「へぇ?剛毅な鳥ね。

 神でも魔鳥でもいいけど、若い女の見た目に似合ったお茶目っぷりだな」

「ピャロッ!?

 クソ呼ばわりの次は我をお茶目と。ピャロロロロロロロロロロロ」


 ラヴィーアの死角を突いて言葉責めしているガンクの図だ。見ていて思うのは、長過ぎる寿命を生きて暇を持て余してるラヴィーアにとってガンクはいい暇潰しと刺激になっているだろうなということだ。オレにはちょっと真似出来ないけど。恐いし。


 ラヴィーアは愉快そうだ、ガンクも腕組みして得意そうな顔をしている。それに満更でも無さそうだ。イルマはその光景を見て相変わらずヒヤヒヤしているらしい。小心者だなぁ。


 ナノは、ガンク馬鹿なんだから、とでも思ってるのだろうか。判断難しいけれど、あれは安心した顔だ。

 コルテは微笑ましい様子で眺めカルクスはラヴィーアの愉悦顔に心を奪われているのかな。腹をかかえて悶絶しながら飛び回る奇妙な神様をじいっと見詰めていた。


「そうかそうか。

 お茶目と宣うか、ピャロロロロ!

 面白い。巫女の番にしておくには些か惜しいの」

「あぁ? つがい?」

「そんなんじゃないって言ってんでしょバカ鳥」


 ガンクには番の意味がいまいちピンときていないらしいな。

 そんな調子のガンクを眺め、さも可笑しそうに笑うラヴィーアは話を進めた。


「ピャロロロ。

 して童、決心は付いたか?」

「ああ。この腕を捧げてやるよ」


 片腕を突き出したガンク。その左腕が真っ直ぐにラヴィーアを貫く様に向いている。


「待てガンク、そう逸って決めるな。一時の判断を見誤ると一生の後悔に繋がる。

 ……本当にいいんだな?」

「いいんだよ。ちゃんと考えたんだぜ」


 真正面からガンクを見据え推し量るイルマは本当に心配している。

 そりゃそうだ、なんたって腕の一本だもんな。「まぁ利き腕ではないならな」と、イルマも妥協しガンクも、「だって片足とかバランスわりーしな」と屈託無く笑い、続ける。


「それに嘘だけはついてねーってのは何となく分かるんだ。礼竜のおっさんとも話せたし」

「礼竜様と話した?」

「はぁ?

 アンタ何言ってんの? 何でガンクが。アタシが呼び掛けても全然答えてくんないのに」


 イルマに向いていたガンクを掴み向き直させたナノが突っ掛かっていく。声を荒げてガンクに突っ掛かっていく。


「ねぇ何話したの? 礼竜様は本当に、もう助からないの??」

「ああ。マジで死ぬ寸前らしいんだ。あとどれだけ保つのか分かんねーくらいに一刻を争うって」

「そんな……。でも何でガンクだけ。ズルいよ。アタシだって礼竜様とお話したい」


 涙を浮かべナノが礼竜を見やる。礼竜の脇でラヴィーアは何か行っているようだ。おそらくガンクに力を授けるための準備だろう。

 それに、礼竜の死期が一刻を争うくらいって話だからもしかしたらガンクに力を受け渡して直ぐに祠の封印作業に取り掛かるのかもしれない。カルクスもいつの間にか移動してラヴィーアのお手伝いをしている。




 ラヴィーアを親指で指すガンクにオレは尊敬する。オレだって怖くてそんなこととても出来ない。


「あのクソ鳥のおかげで意識体? 精神体ってやつなのかよく分かんねーけど、礼竜のおっさんと意識の中で会話が出来てよ。それも今回が最期だっつってたがな。

 だからイルマとランドにゃわりぃ、俺だけパワーアップさせてもらうよ。

 あとナノ、お前呪いは平気なのか?」

「アタシは大丈夫だよ。

 でもいいなー、礼竜様の力」

「へへへ」


 オレはナノのお腹の辺りに視線をやる。まだみんなには公表してないけれど、いつかナノが自身の呪いを打ち明けてくれる日は近いんじゃないかって思った。


「しかしガンク、腕の一本だ。激痛を伴うぞ?

 ラヴィーア様が痛くない様してくださればいいのだが……」

「へ、するかよあのクソ鳥だ。

 それになんつーかちゃんと貰ってやりてーって気持ちがあるんだ。竜だけど、話してみると人がいいおっさんみたいでさ。人情有るんだよ。ずっと寿命延ばして巫女様の仲間だから自分の力を役立ててほしいって。だから貰ってやりてぇんだ」


 ガンクが左腕を擦る。そこに礼竜の力が宿るんだとしたら、凄いことになるんじゃないだろうか。


「てゆーかガンク、礼竜様は仮にも真竜教五教の神様よ。それをおっさん呼ばわりって。まったくアンタね、近所の銭湯で会ったおじさんの話じゃないんだから」


 ガンクの頭を盛大にひっぱたいたナノ。イルマが、「それでこそガンクだ。我等がリーダーよ」と朗らかに笑う。


「痛ってーな。いいだろ別に。

 でもさ、あんなデカイ図体して恐い顔で実は気さくなんだよ。笑えるだろ。それに心配性なんだ。なぁ真竜の巫女さんよ」

「な、何よ」


 ニンマリと笑うガンクを訝しむナノ。


「へへへ。礼竜のおっさんナノのことも言ってたぜ? 随分綺麗になったって」

「えっ。ホント? 礼竜様見る目ある~」


 頬に両手を当てくねくねして喜ぶナノ。「良かったわね」と、コルテがその頭を撫でた。


「あとよ、ほらお前小さい頃行っちゃ駄目な場所に入って酷い目にあったってこと覚えてるか? 鎮めるのが大変だったとか何とか、礼竜のおっさんその時のこと言ってたぞ。そこでナノを見たんだとよ」

「そうなんだ……」


 声のトーンが落ちたナノ。さっきナノが話していたカダストロフ山脈の麓の辺りの呪われた地域の話だな。


「好奇心旺盛な娘だから、これから先も危ない事に首を突っ込まないかおっさん心配だってさ。気を付けろよ」

「もう大っきくなったから心配無いよ。

 それに……、今のアタシには危ない時に助けてくれる強い仲間がいるから」

「ああ。そうだな」


 ナノの頭に手をやり撫でているガンク。コルテもガンクもナノの頭を撫でるのは好きみたいだな。イルマはいいのか?


ナノは礼竜を向き、「助けてくれてありがとう、礼竜様」と長い間深々とお辞儀した。その姿の先に礼竜を見ながら髪を掻き上げつつコルテが言う。


「でも、よく間に合ったわね。間もないんでしょう」

「そこはクソ鳥のおかげだな。

 死期を読み取って、ちょうど何とか間に合うギリギリのところで俺達と、運命の歯車みたいなのが上手く重なるまであのネバネバで礼竜のおっさんの延命して待ってたらしいんだ」


 オレが結界かなと推測していた、礼竜の全身を覆った透明な薄い膜。あれはガンクが聞いた話によると、遺跡に入った時に洞窟の壁や二対の竜象にまとわり付いていた粘着物と同じもののようだ。

 それは礼竜の胃液を主原料にラヴィーアが手を加え、礼竜が滅びないように抑制とこの遺跡の存続措置に効果を及ぼしているそうだ。

 もし仮に礼竜が死んでしまった場合、祠の奥まで魔物が入り込んでしまう。現状はラヴィーアが巣穴に使っているからそんなことは無さそうではあるけれど。




「さぁ、準備は整いましたよ。

 ガンクさん、こちらへ」


 カルクスが呼ぶ。神妙にガンクは頷き、オレたちも後に続いていく。

 ラヴィーアとカルクスは礼竜の前に立っている。礼竜は相変わらず巨大な置物みたいに力無く横たわっていた。でもよく見ると表面の粘着性の膜が取り払われたのか無くなっている。


「覚悟は良いか童」

「ああ。いつでもいいぜ。ひと思いにやってくれ」


 ラヴィーアがバサリバサリと大きく翼を動かし中空に飛翔していく。形の良い豊満な乳房も揺れる。

 神殿内で臥さる巨大な白竜と宙を舞う艶やかな金色の鳥、そして一人の剣士が左手を突き出し構えている。何か荘厳な雰囲気だ。



 左腕を前方に突き出す格好のままガンクは待機していた。一方ラヴィーアはカルクスに剣を握らせると刃の上に自らの金色の羽根を落としていった。その羽根は刃に溶け込むように何本も何本も吸い込まれていく。段々とその刃は黄金の光を帯びていった。


「童、腕は横へ水平に。歯を食い縛れ……。

 カルクス、やれ」

「はい!」


 ガンクの真後ろに立ったカルクスが金色に淡く光った刀を振り下ろす。


 ズバンッ!


「ぐああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「ガンク!」

〔ガンク!〕

「ガンク! おいっ」

「だ、大丈夫っ……」


 カルクスが切り落としたガンクの左腕は地面へ落ちることなくそのまま消失していた。


 ガンクは激痛に身を捩りその場に倒れ、血を撒き散らして転げ回った。すんごい痛そうだ。


「触れるな!

 いいか触りも治癒魔法も何もするでない。此の痛みも供物、力に為る」

「しかしラヴィーア様!」


「一体いつまで?」と、訊こうとしていたらしいイルマは急に宙に現れた光を放つ水晶に意識を奪われた。


「あれは、水晶?」

「ぐうううぅぅぅぅ!

 おいっなんとかしてくれ! まだかよクソ痛ぇ……」


 ラヴィーアは痛がりのたうつガンクを無視して水晶を見やり、そんなことよりこっちの方が大事だと集中しているようだ。


「此より礼竜の力を以て封印を行う。

 童に最期の力を授けた今、礼竜は只の匣。巫女の魔力込めし水晶を核に祠一帯を鎮める」


 ラヴィーアの目の前でくるくると回転を続けている水晶が淡く光を放ち始めた。ラヴィーアがそれを覆うように翼を広げそのまま静かに礼竜の方へと移動していく。

 ゆっくりと近付き礼竜の直上に辿り着いた時には水晶は光線のような光を周囲へ撒き散らしていた。そして、その真下の礼竜の姿は仄かに霞み始めている。


「うおおおおぉぉぉっっ!? くうぅぅぅっ!!」

「ガンク」

〔ガンク!〕

「童のことは良い放っておけ。どうせ助かる。

 今は封印じゃ」


 ラヴィーアは水晶がゆっくりと彼女の足元へ、さらにその下の礼竜のいた場所へと降下していく軌跡を凝視している。段々と放射する光を弱めた水晶は、それ自体が輝きを増したように見えた。




 刀を片付けたカルクスがこちらへやってきた。


「礼竜様は最期の力をガンクさんに託されました。後はもはや滅びてしまうだけです。

 今、その礼竜様をラヴィーア様が封印へと導いています。ガンクさんも頑張ってますが、ラヴィーア様だって頑張ってるんですよ」


 ラヴィーアに痛みに苦しむガンクに手出し無用と注意され、知らず知らずのうちに彼女を睨んでしまっていたようだ。そうだ、神格の存在だと呼ばれる程の彼女だって頑張っているんだ。



 輝く水晶が地面に埋まる頃には礼竜の姿も朧気になっていた。最後の強烈な光を残して完全に水晶が地中に潜ってしまった時には、そこに竜がいたことすら疑うくらいに跡形ない程まっさらな神殿の地面が広がっていた。

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