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130.カデナロックスコーピオン③それぞれの戦い

「うおおぉ!」


 この声は、ガンクか!?


 声が上がった方向に死力を振り絞り、懸命に身体をずり動かして顔をそちら側へ向けた。


 カデナロックスコーピオンの神経毒は相変わらずオレの動きを阻害しているままだ。けれど徐々にそれに抗うことが出来るようになってきたみたいだった。




 ガンクが生きてる。まだ希望を捨てちゃダメだ!


 死ぬかもしれないだなんて、オレは何考えてたんだ。何が詰んだかもだ。ふざけんな。馬鹿野郎、オレ!



 全身の痛みも苦しみも変わらない。だけど前より多少は回復しているのかもしれない。



 身体を反転させると視界の端にガンクの姿が見えた。いや、大好きな仲間全員の姿を捉えることが出来た。



 良かった、皆生きてる。それにまだ健闘している。



 そのことを確認出来ただけでもオレは気持ちが和らぎ、自然と身体中に力が漲ってきた。






 見ると、ナノが珍しい戦い方をしていた。

 基本、ナノは時間的にも魔力的にも十分な溜めを必要とする戦闘手段だ。


 攻撃を補佐する仲間が不在の今、その為の時間的余裕を剥奪されたナノはアイテム袋から取り出した多数の魔道具をカデナロックスコーピオンに使用することで、現在の困難な局面を辛くも制圧出来ていたようだ。


 凄いや、イルマ顔負けだぞ。



 そのナノの隣にガンクが立ち並ぶ。


「すまねー、待たせちまったな。

 吹っ飛ばされた先で蟻地獄にハマっちまってよ」

「言い訳はいいからアレなんとかしてよ!」

「よく切り抜けられたな」


 ガンクとナノが呑気ではないにしろ悠々と会話出来ているのは、カデナロックスコーピオンがナノが使い放った拘束魔道具で縛られ捕獲されているからだ。


 でも早く対策しなければ、いつまでもその効力が続く訳では無さそうだ。


 したり顔でナノが口の端を吊り上げる。


「デスピアークの海賊船で見付けた道具のお陰。それが無かったらとっくに死んでたわよ」

「そうか……。

 よぉし、後は任せろ! オレがケリ付けてやる」


 ここへきてガンクも不敵な笑みを作る。



 なるほど。

 ナノは観光地デスピアークの海賊の港でイルマと一緒に獲得した、特殊で貴重な魔道具を使ったんだな。


 使用済みの魔道具の残骸が幾つもカデナロックスコーピオンの周りに散らばっていた。使い過ぎだ。ちょっともったいない。


 状況から察するに、どうやら手当たり次第に放り投げたらしい。

 使い方が滅茶苦茶だけれど、カデナロックスコーピオンの巨大な体躯を鎖状の拘束具がギリギリと今でも締め付けていた。凄まじい拘束性能だな。




 頑張れガンクにナノ!


 声すらまだ出ないまま、オレは二人の勇姿を目に焼き付けるように凝視していた。負けるな!



 ガンクがナノの肩に手を置き笑う。安心させるような柔らかな笑顔に変わっている。


 でもナノは、「何言ってんのよアタシも戦う!」と突っぱねていた。「だから時間を稼いで」と。


 ナノのその言動にガンクは驚いて見せ、心なしか安堵したような気配を漂わせていた。



 それは多分、以前イルマがガンクに提言したことからくる反応だとオレには感じられた。大丈夫そうだな、もう。ナノもガンクもいつも通りだ。そんな二人の様子を見てオレも安心出来た。






 一方、コルテの方はというと、幼児体型から上背ある大人の姿に変身していた。そして魔化コッコー達を狙い集まって来たスカルドッグの群れを既に殲滅させていたようだ。


 コルテは強いな。流石エルフだ。



 十頭弱の肉質が抜けた凶悪な骨だらけの犬達はその全てが砂の上に転がり、痙攣するような異様な動きを見せている。


 コルテの手には目映い光を放つ黄金の槍が握られていた。

 その黄金の槍を乱回転させる度に、近くの骨々としたスカルドッグは粉上に消滅していくのだった。


 涼しい顔と冷めた目付きでそれを見送るコルテに目を向けていると寒気すらしてしまった。


 毒に蝕まれた今のオレでは上手にその魔力の波動を検知することが難しい状態だけれど、おそらく凄まじく高濃度の聖属性の魔力が放出されているんだろうな。

 無傷の大人体型で黄金の槍を砂地に刺し構えるコルテ。光の中で黄色のワンピースが夜風に揺れるその姿は周辺の闇を照らしていた。神々しくすらある。






 オレのすぐ近くで壮絶な死闘を繰り広げていたのはイルマだ。


 いつもは弓矢を射って放ち、中距離から遠距離といった離れた位置で戦うのがイルマの戦闘スタイルだ。状況観察し続けては巧みにアイテムも使いながら、戦闘を支配することに重きを置くのがイルマの戦い方なのだ。


 それが今は短刀、いや鋭利なナイフを握り二頭の白大蛇に肉薄しながら何度も火花を散らしていた。幾度となく交差しては離れ、イルマも二頭のホワイトデビルスネークともが血を流している。


 動くことが不可能なオレを庇い護るためにイルマが危険な接近戦で戦っているのだ。そう思うとオレは胸が熱くなる。

 でもイルマ自身は非常に生き生きと、嬉々として戦闘を繰り広げているようにオレには感じられた。


 イルマも頑張れ!

 本当に危なくなったら、動けないオレのことなんか見放して逃げたっていい。でも、精一杯戦って、勝ってくれ!





 再度交差した刹那の瞬間をオレの目が捉えた。


 イルマは身を屈めた体勢で、驚異的な速さで近付くと足元からの白大蛇の攻撃を飛んで躱す。上から牙を剥き強襲してくる、人の頭程もあるもう一頭の噛み付きに対して口の中から珠を吐き出しその内部へ入れた。予めイルマは口内にその珠を仕込んでいたらしい。


 更に着地したイルマの足に瞬時に巻き付き上っていき胴体へ噛み付こうと口を開いてホワイトデビルスネークに、空いた左腕を突き入れた。


 イルマの左腕が白大蛇の咥内に飲み込まれてしまった。

 しかし、その白大蛇の頭が爆発して消し飛んだ。



 どういうことだ?

 よく見てみると、イルマの左の手首には腕輪があった。金色の腕輪だ。それが爆発に繋がる役割をしているのだろうか。あれも魔道具かな。



 一方、上にいたホワイトデビルスネークはというと咥内から炎を吐き散らして頭をもたげ上げていた。イルマの右手のナイフがその無防備に曝した喉を素早く掻き切り、血飛沫を上げていた。


 それら瞬く間の出来事だった。



 イルマの左腕は血に赤く濡れ、肘の辺りからは大量の流血がある。しかしイルマもコルテ同様、いやさらに温度の低い冷酷な目付きのままでいる。自身に生じた傷を気にも留めていないらしい。


 砂地に一頭のホワイトデビルスネークが音を立てて倒れた。

 それへ脇目も置かず自身の足に巻き付いたままの白大蛇の胴体をナイフが数線の鋭い切れ込みを加えていく。その部分に左腕を突き入れる毎に爆発させていった。


 巻き付ける膂力を喪失したホワイトデビルスネークを足から引き剥がし、蹴り付けて引き離すとアイテム袋から取り出した珠を投げ付け炎で包み込んだイルマ。


 そして激痛に暴れ狂っているホワイトデビルスネークの喉元に向けナイフを投げ刺し止めとした。


 感情が欠落した瞳で敵の命の有無を確認しているイルマに、オレは悪寒すら覚えたのだった。

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