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131.カデナロックスコーピオン④激戦の終わり

「ハァァッ!」


 その声に、オレはガンクの方へと目を向けた。



 青白く発光した剣を握り締め、カデナロックスコーピオン目掛けて構えているガンクだ。


 剣を発光させたまま果敢に走り出す。




 ガンクの必殺技、天限。

 その技は、剣へと練り上げた魔力を伝わらせて膨大な魔力を留めたそれを地面へ突き刺すことで、地を伝うその波動が敵に達し切り裂き衝撃もろともに吹き飛ばすものだ。


 オレには何故敢えて剣を地面へ突き刺す必要があるのかは分からない。

 もしかしたら敵に察知され難くなる点や、離れた位置から確実に攻撃を与えられるような効果がそこにはあるのかもしれない。


 でも、発生させたその膨大な魔力をそのまま直接敵へぶつけてみたらどうなるのだろうか……。





 駆けるガンクがカデナロックスコーピオンに接近する。ナノが使用した拘束魔道具の鎖は未だに巨大な蠍を捕らえたままだ。

 だけど幾つかの部分でその強固な鎖は千切れ始めていた。


「天限斬り!」


 飛び上がったガンクがカデナロックスコーピオンの真正面から上段のまま斬りつけた。


ギルシュアアアアアァァァァァァァァ!


 ガンクが放った一撃より早く、強引に鎖を断ち挙動を可能にしたカデナロックスコーピオンは、巨大な鋏を盾にしてガンクの剣を防いだようだ。


 しかし、ズバァンッ、と大きな斬撃音を響かせ右腕ごとその巨大な鋏は地面に落ち絶叫を上げたカデナロックスコーピオン。



 ナノが怒鳴る。


「馬鹿ガンク! 何で尻尾を斬んないのよ。イルマの話を聞いてなかったの?」


 ナノが一番イルマの解説を聞いて頷いていたからな。


「聞いたさ。でもコイツは俺が力ずくで倒す!」


 後ろにいるナノを振り向かずにガンクはカデナロックスコーピオンの動向に注視したまま、一旦距離を取ると再び駆け寄っていく。今の攻撃で失われた剣の輝きは魔力を込められもう一度青白く発光していった。



 対する巨大蠍も必死らしい。


 頭胸部の三対の目玉、六つある内一つは先程のガンクの一撃で切り裂かれていた。ゴツゴツした岩のような黄土色の体皮の表面から突出した黒い目玉は動転するようにギョロギョロと絶え間なく動いている。勝ち残る術を懸命に模索しているような様相を見せていた。



 ガンクが発光する剣を上段に構え持ち、切り取られた右腕の先から樹液のような体液を滴らせているカデナロックスコーピオンと対峙している。


 そのどちらも動きを見せず、空白の時間が流れていく。



 オレにはカデナロックスコーピオンがどこか臆しているように感じられた。

 ガンクが剣を掲げたままほんの少しだけ距離を詰める。でも巨大な蠍はその位置に留まったまま、後ろの尻尾だけをゆっくりゆっくりと前へと動かしていた。


 多分、あの位置からじゃガンクには神経性猛毒を内包した尻尾は見えない……。


 マズイぞ!


 オレと同じ様にガンクまで毒にやられたらどうしよう!?



「我が身体を流れる血潮よ今こそ息吹け。疾風集いて螺旋を描け。硬き塊なる破滅の暴風よ、その猛威を彼の者を砕く禍根に成さん……」

「ナノ、ちょっと待て!」


ん? どうしたんだガンク?



 ナノが頭上から正面に向けて掲げた杖の先に、目視出来る程の風の渦が集束していく。

 杖の先端に納まっている霊獣玄武の魔核の蒼い光が強く煌めく。

 その光の先で猛威となっていく風の渦は、さらに力を増やし大きく禍々しく螺旋回転していった。


「オイ待てってば。俺がコイツと今戦ってんだよ。手を出すな!」


 ガンクが振り返り、後ろのナノを見た。その瞬間を狙って、カデナロックスコーピオンの凶悪な尻尾の先が大きな弧を描いてブレ動く。


 危ない!

 オレはまだ叫ぶことも声を捻り出すことも出来ない。声にならない空しい呼吸音が口から漏れた。



 ナノの怒りに満ちた顔がカデナロックスコーピオンに向けられた。


「嫌だ、待たない。風魂弾!」


 螺旋状に乱回転する風の渦が弾丸のように撃ち放たれた。


 その暴風の塊はカデナロックスコーピオンの真正面に向け進み、ガンクを突き刺そうと迫った尻尾より早く到達した。その暴風の塊を黒目が捉え、残った方の腕を動かし防ごうとするも巨大な鋏もろとも巻き込みそのまま爆発したのだった。

 猛烈な風の爆発回転がカデナロックスコーピオンの前頭部ごと強硬に破壊を繰り広げていく。


ギャシャアアアァァァァァァァ!!


 幾つもの足で踏ん張りつつ、遂には尻尾から宙に巨躯を浮かせていくカデナロックスコーピオン。

 でも余りに暴力的なその風の威力に堪えきれず、上へ吹き飛び錐揉みしながら砂地に轟音を立てて打ち付けられてしまう。



 しばらくピクリとも動けず、夜の砂漠地帯に静寂が訪れた。




ーーしかし!



 身体を起こしガンクの方へと反転させたカデナロックスコーピオンは、もはやどう見ても満身創痍な状態に目に映った。繋がっている方の巨大な鋏もだらんとさせて使い物にならない状態だ。何本かの足も辺りに散って転がっていた。



キイイイィィィィ……


 悲痛な鳴き声が乾いた夜の砂漠に響いた。


 ガンクは青白く発光したままの剣を上に掲げ、注意深く微動だにせず、長い間カデナロックスコーピオンと向き合っていた。


 でも少しして頭上から剣を下げて発光を止めると、それでも巨大な蠍に向け剣を構えたままにしていた。


 それは、何か……。そう、すぐに追い討ちを掛けないガンクの姿勢は敵への敬意を感じてならない。そんな気がオレはしていた。



 やがてカデナロックスコーピオンはこちらに向いたまま後方へと引き下がっていくと、器用に後ろ歩きで砂漠の彼方へ退散していった。




 剣を納めたガンクにナノが不満だらけに声を掛ける。


「あーあ。逃がしちゃって」

「悪ぃ。

 でもなんかよ、ズルして勝ったような気がしてよ。止めをさせば悔しくなる気がしたんだ」

「何よそれ、騎士道精神のつもり? 馬鹿みたい。

 アタシはランドちゃんの仇討ちしたかったのにさー」


 おいナノ、オレは生きてるぞ!





「ふぅ。

 何はどうあれやっと片付いた様だな」


 オレはその声にハッと気付いた。オレのすぐ後ろにイルマが腰を下ろしていたみたいだ。全く気が付かなかったぞ。


 動揺しているオレを観察する目で見るイルマ。サッと、瞳の様子と全身を点検されたようだ。


「フ。ランド、身体は大丈夫か?

 余りに戦の行く末を凝視していると思ってな。悪いが解毒薬が効いていると判断し、そのままにしておいた。

 そのナリで下手に動き回られても敵わんからな」


 そうだったのか。

 それよりもイルマの方こそ大丈夫なのか? ついさっきまで随分と非情で恐い瞳をしていたけれど。


 イルマはそんなオレの思いに気付くことなく、オレを抱き抱えるとガンク達の元へと歩み寄っていく。


 イルマの左腕の傷は止血してはいるものの酷い状態のままだった。だいぶ可動するようになったオレは首を捻り、痛々しいその部分を舐めてやった。


「舐めんでいい。

 ホワイトデビルスネークが有する毒素は弱いが体に障るぞ」

〔どうってことないよ。

 イルマ、護ってくれて本当にありがとな〕


 オレはカデナロックスコーピオンの毒からもホワイトデビルスネークの脅威からも助けてくれたイルマに優しく鳴いた。

 たぶん、「ニャーニャー」としか聞こえていないと思うけれど、オレの鳴き声にイルマは口角を上げていた。



「あ、ランドちゃん大丈夫!?

 アタシ心配したんだよ」

「ランド、無事だったか。良かった。

 よく治療しながら蛇から護ったもんだな。でかしたぞイルマ」

「クックッ。数回は死に迫っていたな」



 オレはイルマから両腕を広げたナノに身を移された。

 そしてナノの頬に頭を擦り付けられた。その光景をイルマが、ガンクが見定めるように眺めては口元を緩ませていた。



 コルテもこちらへと近付いてくる。


「あんた達さ、やれるなら最初から全力で挑まないからこうやって手こずるのよ。

 あたしがいなきゃ魔化コッコー達はきっと守りきれなかったからね?」

「へへ。感謝してるよ。

 そういうコルテだってその姿を出し惜しみしてたんだろ」

「バカ言わないでよね! あたしはね、必要に応じて姿を変えて……」


 コルテの言い分をイルマが遮る。

 オレはナノに抱っこされて相変わらずモフられている。


 痛いよ、ナノ。


 でも嬉しい。

 ナノは大丈夫だ。壮絶な過去の因果をその身に背負っていたとしても、きっとオレ達は何も変わらない。


 ガンクもイルマもちゃんと気付いて感じ取った筈だからな。



「オイ、そのくらいにして移動するぞ。

 これ以上敵に襲われる事は避けたい。残った素材を回収し早々にこの場を離れねば」

「ああ、そうだな。

 疲れたし、移動した先で休もうぜ。クタクタだ」




 オレ達はこの激闘の地を離れ、少し進んだ先でテントを張って夜営の準備をした。


 今夜はもう、これ以上の戦いは嫌だからな。

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