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127.襲来! レッサーハルピュイア

 長めの休息を取れた翌日の昼過ぎ、岩の祠を出発することになったオレ達。



 イルマが祠の突き当たりの文字盤を調べコルテもそれに見解を述べたところに拠ると、やはりそこに刻まれた古い文字の記述はアーバイン王国が成立する以前に栄えていた宗教国家群に関与する遺物だそうだ。

 邪竜教(真竜教)の教徒が祈祷をする目的で設置したものではないか、ということだった。


 コルテの話ではメープルマインの第二番街に残っている過去に邪竜教教徒が神殿として使用していた練武場にも当初それに似た物があったらしい。現在は取り壊されているもののその当時はこの文字盤に似た遺物と多数の関連遺物が有ったかもしれない、と頭を掻きながら記憶を掘り起こしていた。


 ……コルテの年齢は一体幾つなのだろうか。






 湧き水が絶え間なく出る泉がある訳でも美味しいご飯を提供する飲食店や宿がある訳でもないけれど、岩の祠とその周囲には元々からの強力な結界が構築されていたみたいだ。そのお陰でここは砂漠の中でオアシスと呼べるような場所だった。


 岩で囲まれた内部は昼でも涼しく快適に過ごすことが出来、かつ夜でも魔物の発生や危険な生物に襲われることが一切なく、オレ達はもちろん魔化コッコー達も疲労した身体を十二分に癒して回復出来たことが幸運だった。


 この岩の祠を拠点に付近を調査する案も出たのだけどそれをナノが頑なに拒み、オレ達は訝しみながらもそれを受け入れることになったのだった。







 日が陰り始め岩の祠の外の砂山が陰影を刻み出した頃、オレ達は貴重な砂漠地帯のオアシスを後にして、調査を再開するため出発した。


 振り返り眺めれば、それはやはり一面の砂の世界に忽然と姿を見せる奇妙なストーンヘンジだつた。






 夜の砂漠ーー。


 月明かりを頼りに、果てしなく広がる砂の海を超大型のニワトリに跨がって駆けるオレ達ガンク組一行。


 日中の猛暑による激熱地獄とは反対にただそこにいる分には比較的快適な環境なのだと思う。




ーーしかし。


 活発化し、活性化するのはオレ達も他の生物も同様。


 夜の砂漠地帯を走れば、そこら中で絶えず命のやり取りをしている現場に遭遇し、時に巻き込まれるデンジャラスな時間帯だ。


 詰まるところ、昼でも夜でもこの場所は非常に危険な地域だった。




 先頭を預かるガンクに向けイルマが叫ぶ。


「ガンク!

 手前左寄りに大型生命体がいるぞ、注意しろ」

「またデスシーボルトじゃねーだろうな? 嫌だぞあれ」

「……残念だったな」


 前方の砂山が崩れ、噴出するようにその中から姿を現したのは大型大蛇みたいな濃紺のミミズだ。いや、もう蛇でもいいけど。


 もうこのミミズとは今回で三回目の遭遇だった。


「いやああぁぁぁ!」

「ナノ、そろそろ慣れろ!」

「無理言うなよ、ランド行くぞ。先手必勝!」


 おう!


 オレは想像のままに創造する!



 先端は砂地を掻くためらしくドリル状の突起部となっている。それが口なのか反対に肛門なのか不明だけれど、さらにその先っちょのギザ歯付きの蛸壺に似た小さな口が月明かりを受けて生々しい光を反射している。


 それにコイツは動作も凄まじく早いから厄介なのだ。



 オレは駆けながら全身に硬化を施し、飛び上がり爪を伸ばす。


 切り裂け! ハードねこパンチ!



 伸ばした爪に魔力を込めて硬化と筋力も底上げした重みのあるねこパンチだ。


 過去二回の対戦では与えられなかった致命傷をデスシーボルトにくらわせることが出来た。

 濃紺の体が二つに分かれ、返す爪でその片方を再度切り裂く。


 魔化コッコーを操り後ろから駆けてきたガンクがもう一方の片割れに剣で止めをさす。


 やったぞ、仕留められた!


「イェーイ、やったなランド! 見事に決まったな」

〔うん、今回は特攻かけて正解だったね〕


 オレはガンクの魔化コッコーに飛び乗り嬉しそうに鳴いてみせ、健闘を称え合った。



 前にデスシーボルトに出逢った時の二戦は、様子見して手こずったのと、ガンクが魔化コッコーで駆けて行き速い動きに翻弄されてしまい手を焼いたからな。


 倒したデスシーボルトをその場に残して先を進む。


 後ろから聞こえる騒がしい音は、デスシーボルトの死肉を求めて繰り広げられる壮絶な食餌争奪戦だろうな……。見れば、どこからともなく現れた鼠や野犬が集って大騒ぎしている。巨大な餌なんだから分け合えばいいのに、奪い合い殺し合ってまた互いに餌を増やしていく始末だ。


 それを横目に、意味の無い戦いに巻き込まれないようにこの場から颯爽と退散する。




 けれど、後方から近付いてくる何かを察知する。


 あれは……、禿げ鷲かな? ちょっと見た目が変わっているけれど、デカイぞ。



 オレと同じく後ろを振り向きながらコルテが青ざめている。そして魔化コッコーを飛ばした。


「ちょっとちょっと、つるピカが空から迫って来てる!」

「コルテ、隊列を乱すな。

 ふむ、争奪に溢れた禿げ鷲だな。

 ……むぅ?」


 空中で弓矢を避けた禿げ鷲をイルマが食い入るように見ている。


 そんなに首を捻って大丈夫かと心配になるけれど、それも分かる。

イルマが放った矢を避けたこともだけど、それ以上に禿げ鷲の頭が人間の顔なのだ。ハゲ親父顔だ。醜悪な目付きで空からオレ達の動向を探っているようだ。



 ……もしかして、あれはハーピー?


「マズイぞ、奴は……ハルピュイアか? いや、レッサーハルピュイアだ!」


 結論を出してイルマが注意喚起する。



 オレ達を狙って夜空を待っている禿げ鷲はハルピュイアの劣等種であるレッサーハルピュイアの雄らしい。


 性格は極めて獰猛凶悪な上、知性を持っている為魔法攻撃も使ってくるかもしれない、とのことだ。


 そうこう説明しているうちにオレ達の頭上を旋空していたレッサーハルピュイアはどこからか仲間を募り、三匹、いや四匹にその数を増やしていた。非常にマズイ展開だ。




 イルマが叫ぶ。


「これ以上仲間を呼ばれる前に討たねば危うい!」

「ナノ、魔法で攻撃を!

 イルマは弓で牽制し続けてくれ。

 ランドとコルテは魔化コッコー達を守っていてくれ。オレはナノとイルマの補佐に入る!」


 ガンクが指示を飛ばしてるうちにレッサーハルピュイア達が上空から羽を飛ばし放ち始めた。



コケーッ! コッコケーッ!!


 羽の砲弾が砂地に突き刺さっていく。魔化コッコー達を器用に操作しながら走りそれを避けて逃げ惑う。


 突き刺さった羽は砂に埋まり、その周囲にじんわりと黒い模様が滲んでいる。毒素を含んだ体液が滲み出ているのか、当たれば痛いだけじゃ済まなさそうだ。


 見上げればレッサーハルピュイア達は口から涎を撒き散らしながらオレ達のことを睨み付けている。気持ち悪い。



 たまらずコルテが喚く。


「ヒイィ~、キモい!

 ちょっとイルマ、ちゃんと狙ってんの?」

「精一杯やっとる。しかし、地上からの攻撃では対空戦となると分が悪過ぎる」


 ナノの周りに強力な魔力が集約していく。


「我が身体を流れる血潮よ今こそ息吹け。疾風集いて切り裂き舞い散り空の支配権を我がものとせよ……」


 ナノが片手に掲げた杖の先端が夜の砂漠に強烈な光を放ち煌めいた。

 頭上に構えた杖を円を描く様に振るっていく。


「これでも食らえ、トルネードインボルブ!」


 羽を放ちながら空を旋回しているレッサーハルピュイアの周りに巨大な竜巻が発生した。

 その渦が暴れるように範囲を拡げていくとレッサーハルピュイア達は全員ともその竜巻の中に巻き込まれ、ボキボキと翼をもぎ折られながら切り裂かれ散り散りに落ちていった。


 でも竜巻のその猛威はオレ達のいる地上にも影響が出ていた。強風で砂塵が巻き上がり、オレ達の元へも細かな砂の礫が襲ってきていた。


コケーッ!?


 竜巻の発生源から一目散に距離を取る。けれど背後から風に乗った砂が吹き荒ぶ。


「いたたたた……、ナノ! 出力抑えろ!」

「でも空の禿げ鷲に逃げられちゃうし」


 オレの水玉模様のキャットドレスが砂だらけになっていく。


 体に当たる砂のそれ自体はさほど痛みは感じないけれど、服が砂まみれになっていく。


 夜でもキャットドレス着ていて良かったな。着てなきゃ身体中の毛の奥にまで砂が付着して気分が滅入るところだったぞ。

 ガンクの背後で魔化コッコーに同乗しているオレはそう思いながら身体を振って砂を払い落とした。




 魔化コッコーの背中に蹲るように乗りながらコルテが横のナノに問い掛けている。


「でも凄い魔力と発生規模ね……。

 ナノちゃんてばこんな魔法バンバン使って平気なの?」

「え、別に平気だけど」


 横にガンクが並ぶ。オレもガンクの背中にしがみ付きながらガンクが声を掛ける様子を見守り耳を傾けた。


「ナノはいつもこんな感じだぜ。戦術魔法しか使えねーのが難点だけど、その分威力はスゲーんだ。

 な、戦闘級の小手先魔法は苦手だもんな?」

「う……、まぁね」


 ガンクとナノのやり取りを聞きながら体を起こしたコルテは「ふーん」、とナノを横目に見やる。


「流石“魔術砲”だね。頼りになる魔法使いだよね。

 その気になればドルマック組みたいに戦略級の殲滅魔法も使えちゃいそうだね?」

「……たぶん」


 コルテがナノのことを覗き込むように見ている。


「へぇ?

 尊敬しちゃうねそれは。同じ魔法使える分野の者として。偉大だな。

 ……まるで滅亡しちゃった太古の魔法使いみたいだね。ほら、アーバイン王国誕生前の」

「……」

「コルテ! いい加減にしろよ、ナノが困ってるだろ。褒めるなら普通に褒めろよ。

 それに何だ、太古の魔法使いって。

 てゆーか、コルテもドルマック達のこと詳しいみてーだな」


 ガンクが沈んだナノの表情を垣間見ながら、強引に話を変えようとしている。


 ワンピースに付いた砂を叩き落としながら、「そりゃあね……」と呟きながら、コルテはじっとりと意味ありげにナノを見詰め続けていた。

 ナノはその強めの視線から目を逸らし、避けるように魔化コッコーを進ませていった。



なんだろう? コルテの思惑がよく分からない。




 遅れて追い付いて来たイルマが訊ねる。


「どうした、おかしな空気だな」

「んー、ちょっとね~」

「む? 何だ、言いたいことがあるなら話せ」「いやちょっとね、“司令官”さんは言うほど役に立たなかったかなぁって。あとそれに“無責任”さんも」


 コルテがニヤ付く笑顔を顔に張り付けながら逃げるように魔化コッコーを進ませていく。



 呆けた後で我に帰ったガンクは怒り心頭になっているけれど、イルマは冷静だった。


「そう怒ってやるな。奴の言う通り、正論かもしれん」

「何だと!?」


 短気になるなガンク。イルマ、どういうこと?


 オレはガンクの後ろで首を傾げてみせた。


「フ。俺はお前を無責任だとは感じておらぬ。そう熱くなってくれるな。

 岩の祠でも感じたことだが、この頃のナノの様子に疑問を抱かぬか? 少々調子が違うと俺は見ているのだが……」


 一つ深呼吸をして、ガンクは気持ちを静める。


「そうか?

 ……うん、言われてみりゃ少しおかしな気もするけどよ。大体いつもナノはあんな調子じゃねーか。気紛れでよ」

「うむ……、微細な変化に感付くのは俺も不得手ではあるのだが、コルテが言いたいのはおそらく今回のレッサーハルピュイアの件では無いように思うぞ」

「どういうことだ?」


 ガンクは鈍いからな。気付かないようだな。


 オレもナノ本人から打ち明けられなきゃ気付くことはなかったかもしれないけれど。


 イルマはため息を付ながら、それでも鈍感なリーダーに視線を向けた


「当初からナノは今回の調査を拒否していた。それでも共に同行してくれているが、この砂漠地帯或いはその先のカダストロフ山脈とその地域のことで何か複雑な心境を抱えている、もしくは何かしら背負い俺達に隠していることは明白だったろう?

 仲間のことだ。互いに無責任にはならぬようにしなければな」

「そうだったな。

 それに、役立つっつーかどんな場面でもナノのことをしっかり支えてやれるようにしねーとな。

 せっかく腹決めて一緒に旅してくれてんだ。いつもとは勝手が違うことになっても味方になってやらねーといけねーな」


イルマもガンクも、ちゃんとナノのことを慮ってやれるのに……。


 ナノ……、言い難い過去の来歴なんだってことはオレにだって理解出来るよ。でも秘密にしてないで仲間に打ち明けてやってくれよ。

 みんな絶対に分かってくれるから。


 オレはそう思いながら先を行くナノとコルテを見詰めていた。

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