128.カデナロックスコーピオン①砂漠の錠前
砂の海に沈み込んでいく『ノードラバース』。
昨日の岩の祠みたいな都合の良い砂漠地帯のオアシスはそうそうと見付からず、今日はこの場で多数の結界を重複展開させて休むことになった。
あぁ、疲れた。
魔化コッコーからゆっくりと地面の砂地に飛び降りて、固くなった全身を伸びをして弛緩さける。身体を振り動かして砂埃も疲労も払い落としていく。
辺りは新しい太陽の光が束になり砂漠に見事な朝焼けを作り出していた。それはとても幻想的な光景だ。
けれど昨日の夕方から敵の襲来が多過ぎてその対処と戦闘でクタクタなのだ。オレは砂地に腰を下ろしながら、しばらく全員でぼうっと日が昇っていく風景を眺めていた。
魔化コッコー達も昼間の日中に移動するより疲労の色は滲ませていないものの、度重なる魔物や野生生物からの魔の手を潜り抜けて来たことで結局は随分と疲弊しているようだった。
先はまだまだ、まだまだまだまだある。
あまりにも長きに渡る道程がオレ達を待ち構えているから、この先のことを考えればぐでん、と重く腰を下ろしてずっとこのまま砂地の上で寝そべっていてしまいたくなる。
目的地まで果てしない遠回りの道程だ。嫌になりそうだ……。
思わず本音が溢れそうになる。
それからもオレ達は、例えるなら天まで達しそうな大山をスコップで掘り崩して進む、そんな旅を続けていたーー。
メールプマインの街を出立してから一月は経過していた。地中に埋め込んできた『ノードラバース』の観測結果がイルマが持つ親機へと反映されてきているようだ。
その結果によってとりあえずのところ、オレ達の調査の動きが急変する訳でもないようだ。
前方の岩の塊に目を細めてガンクが唸る。
「おいおい、嘘だろ……?」
相変わらず夜の砂漠地帯を魔化コッコーで駆けながら疾走していたオレ達ガンク組。
そのオレ達の目の前に突如現れたのは、巨大な岩の塊だったのだ。
……いや、幾つもの巨岩がくっついてデカイ蠍を形作っている。蠍の化物だ。
その大きさはショベルカーよりさらに巨大に見える。夜の砂漠地帯に忽然と姿を見せた、砂海に停泊中の大型船のようだ。
その光景からして威圧感が物凄いものだった。
悲鳴を押し殺して眺めていると、その蠍の化物は砂地に向けて背中に丸めた尾の先を滅多刺しにしては、地中に巣くっていた大型ワームを形容そのままショベルカーみたいに掬い上げていた。それをこれまた大きく凶悪な左右の鋏で切り刻みながら補食していた最中だった。
食事中の蠍の化物の周りにも既に何頭もの大型動物が食い散らかされ、多数無惨な姿で散乱していた。
ガンク達の頬には冷や汗が流れ出ていた。
オレの目にも、一目見て解った。あれはヤバい、と。
「……カデナロックスコーピオン。
あれは“砂漠の錠前”の異名を持つ、危険な魔物だ……」
イルマが呟き、言うより早く魔化コッコーの手綱を強く握り締めた。その掴む音が耳に届く程の力で魔化コッコーを急転回させようとしていた。
「ガンク! 引き返すぞ。
アレは異常な魔物だ! 手を出せば助からぬ」
「だよな」
コケーッ! コッコッコッ……
一同、魔化コッコーを急転回させる。砂を後ろに巻き上げながら走り出す。
ーーしかし!
オレ達の動きにか、魔化コッコーの鳴き声からなのか、そのカデナロックスコーピオンがオレ達の気配を察知してしまった。
キシャアァァァァ!
「ヤベー、気付かれたみたいだぞ!?」
「逃げろ、総員待避だ! 決して追い付かれるなよ」
ガンクとイルマが魔化コッコーを猛烈な勢いで駆けさせる。
遅れてコルテと、オレが同乗しているナノの乗る魔化コッコーが急ぎ駆け出し、先をひた走るガンク達を追随する。
キシャアァァァァァァァァァァァァ!!
背後からけたたましい鳴き声が耳をつんざく。否が応でも凶悪な気配に全身の毛穴から収縮するように毛先がざわついてしまう。
駆けても駆けても砂が波音のように、ザザザザと迫り来る。そんな恐怖の足音がどんどん耳の近くまで聞こえてくる。でも怖くて後ろを振り返るなんて出来ないぞ。
前方を走るガンクが振り返り、青ざめた必死の形相で叫ぶ。
「速ぇ! このままじゃナノが追い付かれるぞ。
戦うしかねーぞイルマ。腹括ろうぜ」
「チィッ、仕方あるまい。
魔化コッコーから降りて、全力で一息に討ち果たす気負いで当たらねば間違いなく一網打尽となるぞ!」
「あいよ、気張ろうぜ!」
ガンクの不適な笑みを見せる。どうやら戦うようだ。
それを目にすると自然と恐怖の種が心から消えていった。それは心に強い恐怖の感情の根を張り伸ばしていた厄介な種だった。
よし、やるか!
しかも思いっきり全身全霊の力を込めてやるしかないよな。
ガンクが魔化コッコーから飛び降りて指示を飛ばす。
「ナノとランドはそのままこっち来い!
コルテは魔化コッコーを守ってくれ。
イルマ、何かあった時にゃいつでも動けるように補佐頼む。
ハァァ……、天限!」
ガンクが急速に練り込んだ魔力を剣に込め、砂地に突き刺した。
オレとナノが乗った魔化コッコーがガンクと交差したところで魔力が乗った力の波動が砂地を伝い這っていき、カデナロックスコーピオンに達したようだ。
ギシャアァァァァァァァァァァァァ!!
コルテが張る結界へ乗ってきた魔化コッコーを突っ込んで中に匿い入れると、オレは振り返り直ぐ様状況を観察した。
ガンクの必殺技が蠍の化物の表面を駆け抜け走り、大幅に切り裂いているところだった。
そう、それはカデナロックスコーピオンの表面のみで起こっていた話だ。あまり効いていないかもしれない。
オレは想像のままに創造する!
駆け抜けながら魔力の力場を発生させる。ようし、全力でいくぞ。
魔力を存分に込めた大きな力場の半円ほどが蠍の化物に達した瞬間、オレは頭の中に思い描く。それは足元の砂地が槍の如く立ち上がりカデナロックスコーピオンが串刺しになるイメージだ。
食らえ、ドリルサンドランス!
カデナロックスコーピオンの足元からドリル形状の砂の槍が真上の対象を穿とうと立ち上がり伸びていった。それと同時にガンクが突き刺し放った一発目より強力な第二波が地を伝いながら這って進み、カデナロックスコーピオンを足元から切り裂き駆け上っていった。
オレは上手く技が命中したお陰で難を逃れられた、と言うしかない。
接近したオレの頭上を真横を蠍の化物が持つに相応しい巨大な鋏が豪風を纏いながら通り過ぎていく。
跳躍し距離を取る。見上げた蠍の化物はその表面の堅固な甲殻に薄っすらと傷を残していただけだった。
どうやらダメージらしいダメージは与えられなかったみたいだ。
「チクショウッ、何だよコイツ、とんでもなく硬ぇな。
ランドもっとこっちへ下がれ!」
「カデナロックスコーピオンは土属性の魔物だ。その表面は普通の岩の様に見えて外皮は類希な硬度を誇る。
土属性には風属性が効くとされるが、生半可な攻撃ではびくともせん。
あと尾には致死性の毒がある筈だ。当たれば例えかすっただけでも最悪の事態に繋がる。
魔力を全身へ巡らし最低限の防御だけは怠るな」
なるほど、風か。
イルマが冷や汗を垂らしながら懸命に解説を加え、さらに続ける。
「“砂漠の錠前”と言ったな。
奴の尾の先端が鍵に似た形状をしていよう。それをもぎ取り、口の中に放り込み倒した逸話があるからそう言い伝えられている事からだ。
それ以外にあのカデナロックスコーピオンを倒す術は弱点を攻める方法、強引な物理的手段に頼る方法くらいしか発見されてはいない。しかし、あの甲殻の強度も機敏性も獰猛な性格からくる攻撃性に加えて尾の猛毒、穴が無いのだ」
どうでもいいけれど、悠長に語っている場合じゃないぞ!
すみません、ショベルカーとブルドーザーを勘違いしてましたので修正しました。




