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113.髭オヤジ先生のマッサージ

〔あいたたたたたた〕

「だ、大丈夫? 先生、あんまり痛くしないであげてよ」

「頑張れランド!」

〔痛いっ、痛いってば〕

「これは酷いことになってるねぇ。痛いのは効いてる証拠だからもう少し辛抱するんだよぉ」

〔イッ、痛い……! ヒィ~〕


 オレ達はアーネット隊長の紹介で、第三番街に構えている動物専門の治療院を訪れていた。

 彼女は凄腕の名医だと自信を見せていたけれど……、最初に検尿された後でオレにとって地獄のような時間が待っていた。




 診察するからとオレへ筋肉マッサージを施している顔中毛だらけの髭オヤジの先生。彼はオレを診療台の上に寝かせると首と肩の辺りを揉みほぐし始めた。


 ナノはハラハラしながら懸命にオレを見守り、拳を握り締めたガンクは、「ガッツだ」と暑苦しくオレを励ましている。

 診察室まで付き添って中に入っているアーネット隊長は脇の壁に腕組しながらもたれかかっている。ニヤニヤいやらしい微笑を張り付けながら、部下へ課した過酷な訓練を見るかのような楽しんだ目付きで部屋の光景を眺めていた。





「名高い冒険者の飼い猫は体つきからして違いますねぇ。そこらの猫ちゃんじゃこんな見事な筋肉は付きませんから。

 ボクちゃんご立派ですよぉ」

「いやー名高いだなんて。そんなことあるけどさ」

「先生、ランドは飼い猫じゃねーぞ。仲間だ」

〔痛い痛い。もう何でもいいけど弱くしてよ〕


 髭オヤジ先生の毛むくじゃらの手は首中心から肩の周囲へ移動していく。ぐいぐい強く指圧されてオレは引き続き雄叫びを上げる。


「しなやかでいて強靭。それに見事な黒い毛並み。惚れ惚れしちゃうねぇ。これ程美しい体を触診出来る機会は希ですよぉ。んー、のぼせちゃいますねぇ」

〔ギャー!〕

「先生、さっきからランドちゃん変な声上げてるけど」

「ランドしっかり! 歯を食いしばれ」

「う~ん。原因は首の付け根の辺りか頭の中かなぁ。

 ボクちゃん、相当無理してたんじゃない? 肩凝りすっごいよぉ」

〔やめてやめてやめてやめて! ニギャーッ〕


 剛毛の張り付いた指先がオレの肩をグリッグリッと押す度に気狂いしそうになる。


 オレの肩を掴み押し回している髭オヤジ先生の腕へ手を伸ばしたナノ。なんとかオレのことを助けようとしてくれて嬉しくなる。

 でもその手を引っ込めてしまった。伸ばした先の腕の部分にはダンディーな腕毛が密集しているから、危険極まりないと判断したらしい。……ナノ。


 誰にも止めようがない髭オヤジ先生の手はオレの背中から腰へ移動していき、モミモミモミモミとその動きは決して止まらない。


 我慢出来なくて爪が立ち、診療台に深く食い込んだ。ガリガリと音を立てている。


「コラコラ。台を引っ掻かないの。大人しくいい子にしてるって約束したでしょ?」

〔そんな約束した覚えないよ!〕


オレは尻を打たれた。


「背中もしっかりしてるけど、腰回りもたまらないよぉ。それにほらこのお尻」

〔痛っ痛っ! お尻叩かないで〕

「ランドちゃんのお尻も凄いの?」

「そう、この子いつも動きが速くて飛んだり跳ねたりよく動くでしょ。お尻の筋肉の弾性が強いから足腰がしっかりしてるってこと。全身の力を乗せる土台なんだよぉ。今は酷使しちゃってここも凝り固まってるけれど」

〔ギャー!〕

「へぇ。それがランドの強さか」


 納得してないで助けてくれガンク。ナノじゃ髭オヤジ先生を止められないみたいだから。


 助けを求めてアーネット隊長を見ると頬っぺたを膨らましていた。息を止める我慢大会でもしてるのかよ。笑うの堪えてないでなんとかしてくれよ。



 髭オヤジ先生はオレの腰と尻をこねくり回し、そしてオレの尻尾を掴んだ。


「この尻尾もいいですねぇ。黒毛の可愛らしい尻尾」

〔やめて! 尻尾って筋肉ないよね、オレの自慢の尻尾なんだから引っ張ったり弄らないでくれよ〕

「いいよぉ、いい。繊細な動きをするねぇ。反応も鋭敏。問題無いねぇ」

〔問題無いならやめてくれってば、放して〕

「アタシもランドちゃんの尾っぽ好き」

「俺もだ」


 髭オヤジ先生の腕から逃れようと必死に右に左に揺れ動く。掴まれたら握り潰してやろうと髭オヤジ先生の腕に巻き付けても、ぐにぐに押し動かされて尻尾にまるで力が入らない。


 弄ばれ続けた尻尾は最後には指で摘ままれ上に持ち上げられる。


 なんだ、何するんだ?


「ちょっと染みるかもねぇ。我慢だよぉ」

〔■▽▲△◆◇!!〕


 露になったオレの肛門へ髭オヤジ先生は紙切れを押し当て強く拭ったのだ。


 あまりに咄嗟のことに、言葉にならない鳴き声が出ちゃった。染みた肛門がキュッとしぼみ、全身が硬直してしまう。


 なんてことするんだよ皆が見てる目の前で。そこはとてもナイーブでデリケートな場所なのに……。





 遂にアーネット隊長が膨らませている頬っぺたのダムは決壊してしまった。


「ぶっ、アッハッハッ。いいぞランド、笑える。

 く~、腹が痛い。

 やはり付いてきて正解だった。日頃の疲れも吹っ飛ぶな。にしても、フッフッ……。素敵な格好をしているぞ」

「ら、ランドちゃん……」

〔……〕

「なんだよランド、その姿は。急に尻の穴触られてビックリしたよな。頑張れ!」


 オレは肛門を強く紙切れで擦られて、背中を丸めて四つ足で立つという奇妙な格好をしている。





 髭オヤジ先生はその紙切れを別の容器に入れてその具合を見て何か考え込んでいる。真剣な表情で容器を何度も揺らしている。


 たぶんあれは診察や検査に使う専用の魔道具の一種だと思うけど。さっきまでとは違った神妙な目付きが気になって仕方がない。


「どうだ先生、ランドは何か患っているのか?」

「うーん……、まだ何とも言えませんが」


 髭オヤジ先生にガンクが尋ねるも、検査結果がはっきり出るにはもう少し時間が必要みたいだ。


「よし、再開しましょう。

 その奇抜な格好をやめて今度は仰向けに寝ようか。ほらボクちゃん大丈夫だよぉ。はい、万歳して~。恐くないからねぇ」

〔嫌だ嫌だ、恐いよ仰向けなんて嫌だ〕


 オレは診療台の上に寝っ転がらされ前後に身体を伸ばされた。動物として外敵にもっとも晒してはならない大事なお腹を開放させられる。これから何されるのか不安で不安でたまらない。



 髭オヤジ先生のゴッツイ手の平がオレの腹を何回も上下する。その度にオレは口から変な声が漏れ出てしまった。


「この調子なら消化器官も問題無いみたいだねぇ。お昼に美味しいご飯をいっぱい食べたのかな?」

「はい、先程たらふく」

「ナノは焼鳥食い過ぎなんだよ」

「そうですかぁ。焼鳥は美味しいですからねぇ」


 髭オヤジ先生のゴッツイ手はやがて腹の下の股間の方へと下っていく。そこもオレのとても大事なモノがある場所だ。

 髭オヤジ先生はその部分も揉みしだいていく。オレは恥ずかしくて死にたくなる。


「先生、ちょっとそこは……」

「あーあー、そんなとこまで」

「ふんふん。生殖器もしっかり機能していますよ。ご立派ご立派。ボクちゃん安心していいからねぇ」

〔やめてくれ!〕


 手で目を覆い隠しながらも隙間からナノは見詰め、ガンクもアーネット隊長も覗き込むように髭オヤジ先生の手付きを眺めている。


 そしてアーネット隊長が口を挟む。余計なことを言う。


「知っているぞランド。ターニャという可愛いお相手がいるんだろ。

 フッフッ、良かったな、大事なソレに異常が無くて」

〔アーネット隊長後で覚えてろよ。ぶっ飛ばしてやるからな〕

「はいはい、にゃんにゃん鳴かないの。

 へぇ~でもいいなぁ。ターニャちゃんって言うのぉ。先生にも可愛い彼女欲しいなぁ」

「先生は独身か」

「そうなんですよぉ。何故でしょおねぇ」


 ガンクが髭オヤジ先生の肩に手を置き首を振っている。彼女が出来ないのは先生自体に問題があるのは間違いないとオレも思うぞ。


 髭オヤジ先生はオレの肉球を摘まんだり押してその感触を確めている。


「見て下さい。まだピンク色で可愛らしいでしょお」

「ホントだ。カワイイ」

「だな」

〔もうよくない?〕

「爪もきちんと手入れしているねぇ、 しっかり者さんだねぇ。足の方は疎かになりがちだから先生がケアして上げるよぉ。だから、あっ、こんな所に異物があるよぉ」

〔くすぐったいよー、やめてー〕


 髭オヤジ先生は先の尖ったやすりで、肉球付近の毛にこびりついた黒く固まったカスを取り除く。そしてオレの後ろ足の爪をガリガリと研いでいき息を吹き掛けその具合を確かめていく。こしょばくてこしょばくて気が可笑しくなる。




 髭オヤジ先生は最後にオレの全身を感触を楽しむように撫で回したあと朗らかに笑った。

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