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101.開戦した海上

 うおぉー! イルマー!!


 感極まったオレは、ガンクとハイタッチしているイルマの元にナノと駆け寄った。


 ナノはイルマの腹の辺りを手の平で叩きながら誉めている。


「ちょっとイルマ、格好イイじゃない!

 見直したわよ」

「そうか、なら作戦は成功だな?」


 不敵な微笑を浮かべるイルマに怪訝な顔のナノだ。


「俺にラウルトン氏のごとき高度な予測と策謀が出来たならば、わざわざ回りくどい立ち回りをせんでも良かったのだかな」

「は?」


 イルマの発言に口をあんぐりしているナノ。横からガンクが説明を加えた。


「ギャンダンさんに言われてたんだよ。『皆を鼓舞して欲しい』って。

 俺は、元々集まった選抜志願者達は全員士気が高いから大丈夫だって言ったんだけどさ。

 ドルマック組がなかなか命令を受け付けない冒険者組だから不安なんだとさ。

 だからギャンダンさんがイルマにひと芝居打ってもらって、より全体の士気を高めることで少しでも戦局を芳しい方向へ傾けたいんだと」


 ドルマック組がギャンダンさんの出した指示に傾倒しないというのは分かる気がする。だって、アイツラだもんな。素直に言うことを聞く行儀の良い心を持っている筈がないよ。


 でもそれが造船街ミョウビシに集合した選抜志願の冒険者達にも悪影響を及ぼしているなんて、ドルマック達はちょっと勝手過ぎやしないかな。




 ギャンダンさんの意向では、あくまでも魔族軍の大船団である本隊を叩くのはドルマック組だ。

 としても、そのサポートで動くオレ達サーモアンからの出撃部隊の協力は必須であるため、この町のこの戦において土台として全体的な安心感を示したいということらしい。




 イルマがニヤリと笑った。彼は一仕事終えた感満載でいるようだ。もしかしたら相当気力を消費したのかな。


「そういうことだ。俺がしたのはパフォーマンスだ。これで上手く転がれば易いものだろう? こんな臭い台詞は金輪際ごめん被りたいがな」

「アンタね……」


 ナノは叩いていた手の平をグーに変えるとイルマの呻き声が響いた。




 オレ達の前にやって来た一組の冒険者達。どうやら報告があるようだ。


「イルマ司令官!

 沿岸に展開中の防衛部隊より開戦の報告がありました!

 自分らもこれより急行します」


 魔族軍はサカネ方面からじりじりと侵攻を見せているようだった。

 イルマは数隊の冒険者組を向かわせ、ナノにも出陣を促した。


 ナノはレームスさんの仲間の防衛部隊に加わり、「ちょっと行ってくる」と軽いノリで部屋から出ていった。心配する気持ちは少しあっても、その調子がいかにもナノらしくて安心出来た。



 続々と入ってくる報告者にイルマの指示が乱れ飛んでいった。大広間は非常にバタバタしている。どんどん人は減っていっていた。


 そして、オレもガンクとレームスさんと共に大広間から外に出てサーモアンの沿岸地区に向かう。




 外は遠くに様々な音が聞こえた。爆発音に悲鳴、男たちの怒号にバタバタ走る音。それは初めて聞く戦争の音だった。夜の空気は密度を増しているように重苦しく潮の香りをはらんでいた。


 オレは首を振り、ブルブルと身体を振るった。背を前から後ろに伸ばして何度か跳ねてみた。出来るだけ身も心も軽くしておかないといけないな、とそう思ったからだ。


「ガンクさん、ランドくん、こっちです」


 沿岸地区の柵を越えて、レームスさんに案内されながら進んでいく。

 そこには船が三隻停まっていた。一隻十人くらい乗れそうな船だ。


 ……これ、漁船だよね。

 大丈夫だろうか、と不安が過る。


 レームスさんの説明では、これは魔道船で動力は船乗りの魔力を必要とするという。ただし、予め燃料代わりとなる魔力の結晶である魔石をギャンダンさんが手配してくれていた。


「ボクが船を操縦しますよ」


 船の前で、「これ誰が動かすの?」と固まっていたオレ達にそう進言してくれたのは、選抜志願の冒険者の一人のヨゴという名前の青年だった。彼は元々船乗りで船の操縦はお手のものだと言う。


 必然的に彼が属するパーティも乗り込むことになった。冒険仲間の剣使いのデュールとシルド、斧持ちのグーナルガン、弓使いのジャスレンがごく簡単に自己紹介してくれた。オレ達と一緒に乗船して出発することになった。

 オレ達の船は総勢七人と一匹だ。他の船にも同じ様に二組から三組の冒険者パーティが乗船した。





「……のんびり過ぎやしませんか?」

「ん? 何が?」

「いえ。

 ……いや、落ち着いてるなと思って。

 戦争ですよ? もっとこう、緊迫感とか切迫した雰囲気とかが欲しいというか、足りないというか」


 舵をきっているヨゴが不満さと不思議さが半々の顔をしてガンクに尋ねた。


 オレ達ガンク組は普段の冒険中も大抵おっとりした雰囲気を醸し出している。オレは全く気にはならなかったけど、他の冒険者にとっては緊張感が欠けているように感じるものかもしれないな。


 それにレームスさんも普段から飄々としているし。ヨゴの言葉に首を傾けていた。逆にヨゴのパーティは驚いている顔だ。



 船は結構な速度で暗い海の上を疾走していた。波が穏やかなお陰で揺れも少なく順調だった。




 イルマから指示されているオレ達の作戦はあくまで支援に近い内容だ。

 状況に応じてこの小型船で奇襲してゲリラ戦を行うもよし、ドルマック達の本隊が上手く事を遂行してくれたならば掃討作戦に切り替えるものだ。


 だから、先ずはオレ達は船の明かりを消して闇夜の海に紛れながら、ぼんやりと見える位置で停泊している魔族軍の船団を目視可能な位置まで進みそれを眺めていた。


 ここから見えるのは怪物のような超大型船一隻に、その周りを囲むように五から六隻ほどの大型船が見えた。敵は結構な規模で攻めてきていることが窺えた。大船団は言い過ぎかもしれないけど、魔族海軍の主力船なのかもしれない。


 無線機のような魔道具でイルマと連絡を取っているガンクは、彼に状況を伝えると、「合図があるまで動くなよ」と命じられた。


 イルマは、オレ達が不用意に敵船へ近付けば巻き込まれてしまう恐れを懸念していた。

 それは、ドルマック達が大規模の殲滅魔法を行使するだろうという予測をギャンダンさんから知らされていたからだ。





 オレ達以外の誰かが呟いた。


「なぁ、あれ……」

「……霧?」


 敵の船団が闇夜の中に発生した霧に包まれ始めていた。薄いマーブル色の視界から徐々に白銀のような濃霧に魔族の船団がすっぽり包まれていった。まるで霧で出来た巨大な白銀城のようだ。


「なんだよ、あれ……」


 オレはその霧の方向から膨大で濃密な魔力を捉えていた。


 気付くと、霧の城の近くには船が一隻迫って来ていた。その城の真上に圧倒的な魔力を感じた、と思った瞬間に霧が大きく断ち斬られるように払われていったのだ。


「なんだ!?

 どうした?

 ガンク、どうなっている。状況を報せろ!」


 無線機からイルマの声が空しく発せられる中、オレ達はただただその光景を見守っていた。


 空に感じた魔力の気配はそのまま下に直下したみたいだ。オレ達が待機している離れたこの場所まで届くような爆音と轟音を響かせて、霧はますます払われていく。



「すげぇな……」

「……俺達って必要あるのか?」

「これが戦争なの? たった一隻で、あまりに一方的だと感じるんだけど」


 呟き合っているのはヨゴのパーティの誰かだ。見惚れているってよりは畏怖しているようだ。


 ガンクは無線機を取ってイルマに応じた。


「イルマ、今ミョウビシ船のドルマック達が魔族船団に攻撃を仕掛けている」

「そうか。ではガンク達も接近し……」

「いや、ドルマック達の攻撃の規模がデカ過ぎだ。

 大型船二,三隻纏めて攻撃してるんだよ。あれじゃー巻き込まれる」

「……」

「イルマ?

 おい、応答しろ。イルマ!?」

「……」


 無線機はジャミングされたみたいにノイズ音しか発しなくなってしまったようだ。ガンクはそれを放り投げた。


「どうなってんだよ。壊れちまったか」

「恐らく電波妨害ですね」

「なんだそりゃ」


 レームスさんがガンクにその意味を教えている間にも離れた海の上では一方的に近い攻勢が繰り返されていた。


 そして払われた霧の中で残っていたのは超大型船と他二隻のみだ。どの船も大砲を撃ったり移動したりしているようだけれど、意味ある行為には到底思えなかった。

 たぶんあの船の上もその中も阿鼻叫喚の嵐なんだろうな。





 幾つも驚異的な魔力を感じていると、ふと後ろにも気配を感じた。振り替えると二人の人影があった。


「気付かれてしまいましたか。

ねこのランドでしたかね。鋭い感覚を持っている」


 その声で全員が後ろに回れ右して構えをとった。

船の後方で佇んでいたのはソルノ。彼はオレを興味深い目で眺めていた。横には白いコートに青髪の奴が「ねこ……ねこ……」と呟いていた。

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