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ジャングルブック  作者: はまゆう


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第1話 モウグリの兄弟たち

いま、鳶のランが夜を運び帰り、

蝙蝠のマンが夜を解き放つ――

群れは牛舎に、家畜小屋に閉じ込められ、

夜明けまで自由なのは、われらだ。

いまこそ誇りと力の時、

鉤爪、牙、そして爪の時。

おお、呼び声を聞け!

ジャングルの掟を守る者すべてに、

よき狩りあれ!


――「ジャングルの夜の歌」


シオニの丘に、ひどく暖かな夕暮れが訪れた七時ごろ、父オオカミは昼の眠りから目を覚ました。


身体を掻き、大きなあくびをし、前脚の先に残る眠気を追い払うように、片方ずつ脚を伸ばした。


母オオカミは、転げまわり、きゃんきゃん鳴く四匹の子の上に、大きな灰色の鼻面を垂らして横たわっていた。彼らの住む洞穴の入口には、月の光が差し込んでいた。


「アウルル!」


父オオカミが言った。


「また狩りの時間だ」


丘を駆け下りようとしたそのとき、ふさふさした尾を持つ小さな影が、洞穴の入口を横切った。


そして、鼻にかかった声で言った。


「幸運があなたとともにありますように、オオカミたちの長よ。そして気高きお子さまたちにも、幸運と強く白い牙がありますように。この世の飢えた者たちを、決してお忘れになりませんよう」


それはジャッカルのタバキ、皿舐めタバキだった。


インドのオオカミたちは、タバキを軽蔑している。


彼はあちこちを走りまわって面倒を起こし、告げ口をし、村のごみ捨て場からぼろ布や革の切れ端を拾って食べるからだ。


だが同時に、彼らはタバキを恐れてもいた。


ジャングルの誰よりも、タバキは狂気に陥りやすい。ひとたび狂えば、かつて誰かを恐れていたことさえ忘れ、森を駆けまわり、行く手にあるものすべてに噛みつく。


小さなタバキが狂ったときには、虎でさえ逃げて身を隠す。


野生の獣にとって、狂気ほど恥ずべき災いはない。


人間はそれを狂犬病と呼ぶが、獣たちはデワニー――狂気――と呼び、逃げるのだ。


「入って、見てみるがいい」


父オオカミは冷たく言った。


「だが、ここに食べ物はないぞ」


「オオカミにとっては、ございませんでしょう」


タバキは言った。


「しかし、わたくしのような卑しい者には、乾いた骨でも立派なご馳走でございます。われらギドゥル・ログ――ジャッカルの民――ごときが、好き嫌いなど申せましょうか」


彼は洞穴の奥へすばやく入り込み、肉の少し残った雄鹿の骨を見つけると、楽しそうに端を噛み砕きはじめた。


「このよき食事に、心から感謝いたします」


唇を舐めながら、タバキは言った。


「なんと美しい、気高きお子さまたちでしょう。なんと大きな瞳でしょう。そして、こんなにもお若い。まこと、まこと、王の子は生まれたときから一人前であることを、わたくしは思い出すべきでございました」


タバキは、子どもを面と向かって褒めるほど縁起の悪いことはないと、誰よりもよく知っていた。


父オオカミと母オオカミが不愉快そうな顔をするのを見て、彼は喜んだ。


タバキは自分の引き起こした不安を楽しみながら、しばらく黙って座っていた。


やがて意地悪く言った。


「大いなる者、シア・カーンが狩り場を移されました。次のひと月は、この丘で狩りをなさるそうです。わたくしに、そうおっしゃいました」


シア・カーンとは、二十マイルほど離れたワインガンガ河の近くに棲む虎だった。


「そんな権利はない!」


父オオカミは怒って言いかけた。


「ジャングルの掟では、前もって正しく知らせずに、狩り場を変える権利などない。十マイル四方の獲物を、すべて怯えさせてしまう。それに、このごろの私は、二人分を狩らねばならんのだ」


「母親が、理由もなくあの者をラングリ――びっこ――と呼んだのではありません」


母オオカミが静かに言った。


「あの者は、生まれつき片脚が不自由でした。だから牛しか殺せないのです。いま、ワインガンガの村人たちはあの者に腹を立てています。それで今度は、こちらの村人たちまで怒らせに来たのでしょう。あの者が遠くへ逃げ去ったあと、村人たちは森中を探しまわり、草に火を放つ。そうなれば、わたしたちも子どもたちも、逃げなければなりません。まったく、シア・カーンには感謝してもしきれませんね」


「そのご感謝を、シア・カーンにお伝えいたしましょうか」


タバキが言った。


「出て行け!」


父オオカミは鋭く言った。


「出て行って、主人と一緒に狩りをしろ。一晩分の害は、もう十分に働いた」


「では、参ります」


タバキは静かに言った。


「下の茂みから、シア・カーンの声が聞こえるはずです。わざわざお知らせに来るまでもなかったようでございますな」


父オオカミは耳を澄ました。


小川へ下る谷の下方から、獲物を捕らえ損ね、それを森中に知られても構わない虎の、乾いた、怒りに満ちた、唸るような節回しの声が聞こえてきた。


「愚か者め!」


父オオカミは言った。


「あんな騒音で、夜の狩りを始めるとは。ここの雄鹿が、ワインガンガの肥えた去勢牛と同じだとでも思っているのか」


「シッ。今夜、あの者が狩っているのは、雄牛でも雄鹿でもありません」


母オオカミが言った。


「人間です」


虎の声は、低く唸るような喉鳴りへと変わっていた。


それは東西南北、あらゆる方向から響いてくるように思われる音だった。


野外で眠る木こりや旅人を惑わせ、ときには彼らを、虎の口元へまっすぐ走らせてしまう声である。


「人間だと!」


父オオカミは白い牙をむき出した。


「ふん! 水溜まりには甲虫も蛙も十分にいるだろうに、それでも人間を食わねばならんのか。しかも、われらの狩り場で!」


ジャングルの掟は、理由のない命令を決して下さない。


その掟は、獣が人間を食うことを禁じている。


例外は、親が子どもに殺し方を教える場合だけであり、そのときも、自分の群れや種族の狩り場の外で狩らなければならない。


本当の理由は、人間を殺せば遅かれ早かれ、銃を持った白い人間たちが象に乗ってやって来るからだ。


そのあとには、銅鑼や火矢や松明を手にした、何百人もの褐色の人間たちが続く。


そうなれば、ジャングルの誰もが苦しむことになる。


獣たちが互いに語る理由は、人間があらゆる生き物のうちでもっとも弱く、もっとも無防備だから、襲うのは狩りの道に背くというものだった。


また、人食いになった獣は疥癬にかかり、牙を失うとも言われている。


そして、それは本当だった。


喉鳴りはいよいよ大きくなり、ついには虎が襲いかかるときの、腹の底から絞り出すような、


「アーアル!」


という咆哮に変わった。


その直後、シア・カーンのものとは思えない、奇妙な叫び声が響いた。


「外したのね」


母オオカミが言った。


「何があったのかしら」


父オオカミは洞穴から数歩走り出た。


シア・カーンが藪の中を転げまわりながら、激しくぶつぶつ唸っているのが聞こえた。


「木こりの焚き火へ飛びかかり、脚を焼いたらしい」


父オオカミは鼻を鳴らした。


「救いようのない愚か者だ。タバキも一緒にいる」


「何かが、丘を登って来ます」


母オオカミが片耳をぴくりと動かした。


「構えて」


茂みの中で、藪がかすかに揺れた。


父オオカミは後脚を身体の下に引き込み、飛びかかる姿勢を取った。


その場を見ていたなら、世界でもっとも不思議な光景を見ることができただろう。


跳躍しかけたオオカミが、空中で止まったのである。


父オオカミは、相手の正体を見る前に飛び出し、その途中で止まろうとした。


その結果、まっすぐ四、五フィートも宙へ跳び上がり、ほとんど元の場所へ着地した。


「人間だ!」


彼は鋭く叫んだ。


「人間の子だ。見ろ!」


目の前には、低い枝につかまり、ようやく歩けるほどの裸の褐色の赤ん坊が立っていた。


夜の洞穴に迷い込んだ生き物の中で、これほど柔らかく、えくぼの愛らしい、小さな存在はなかった。


赤ん坊は父オオカミの顔を見上げ、笑った。


「それが人間の子なの?」


母オオカミが言った。


「見たことがないわ。ここへ連れて来て」


自分の子を運び慣れたオオカミなら、必要とあれば、卵を割らずに口で運ぶことさえできる。


父オオカミは赤ん坊の背中を口にくわえたが、その牙は一本たりとも肌を傷つけず、子オオカミたちの間へそっと下ろした。


「なんて小さいの。なんて裸で、それに――なんて大胆なの」


母オオカミは優しく言った。


赤ん坊は暖かな毛皮へ近づこうと、子オオカミたちを押し分けていた。


「アハイ! ほかの子たちと一緒に、お乳を飲んでいるわ。これが人間の子なのね。自分の子どもたちの中に人間の子がいたと、誇れるオオカミが、これまでにいたかしら」


「そういう話を、ときどき聞いたことはある」


父オオカミが言った。


「だが、われらの群れではないし、私が生きている間にもなかった。こいつには毛がまったくない。私なら前脚をひとつ動かすだけで殺せる。だが見ろ。こちらを見上げて、恐れていない」


突然、洞穴の入口から月の光が消えた。


シア・カーンの巨大な四角い頭と肩が、入口に押し込まれたのだ。


その後ろで、タバキが甲高い声を上げていた。


「ご主人さま、ご主人さま、ここへ入って行きました!」


「シア・カーンが、われらに大いなる名誉を与えてくださった」


父オオカミは言ったが、その目には激しい怒りが燃えていた。


「シア・カーンは何をお望みか」


「私の獲物だ。人間の子がこちらへ来た。親は逃げた。こちらへ渡せ」


父オオカミが言ったとおり、シア・カーンは木こりの焚き火へ飛びかかり、焼けた脚の痛みで激怒していた。


だが父オオカミは、洞穴の入口が虎には狭すぎると知っていた。


いまいる場所でさえ、シア・カーンの肩と前脚は窮屈に縮こまっていた。


人間が樽の中で戦おうとするようなものだった。


「オオカミは自由の民だ」


父オオカミは言った。


「命令を受けるのは群れの長からだけで、縞模様の牛殺しからではない。人間の子はわれらのものだ。殺すかどうかも、われらが決める」


「決めるだと、決めぬだと! 何を勝手なことを言う。私が殺した雄牛にかけて、正当に得た獲物のために、この犬の巣へ鼻面を突っ込んだまま待てというのか。話しているのは、このシア・カーンだぞ!」


虎の咆哮が、雷鳴のように洞穴を満たした。


母オオカミは子どもたちの間から身体を起こし、前へ飛び出した。


闇の中で二つの緑の月のように輝く目が、シア・カーンの燃える目と正面から向き合った。


「答えるのは、このわたし、ラクシャ――魔物――よ」


母オオカミは言った。


「人間の子はわたしのものよ、ラングリ。わたしの子よ! 殺させはしない。この子は群れとともに走り、群れとともに狩る。そして最後には、裸の小さな子を狩る者よ、蛙食い、魚殺しよ、この子がおまえを狩るのだ!


さあ、立ち去れ。


さもなければ、わたしが倒したサンバー鹿にかけて――わたしは飢えた家畜など食べない――おまえを母親のもとへ送り返してやる。


焼け焦げたジャングルの獣よ。生まれたときより、もっとひどいびっこにしてやる!


行け!」


父オオカミは驚いて見つめていた。


彼は、五匹の雄オオカミとの正々堂々たる戦いに勝って母オオカミを得たころのことを、ほとんど忘れていた。


彼女が群れとともに走り、ただのお世辞で「魔物」と呼ばれていたのではなかったころのことを。


シア・カーンは父オオカミになら立ち向かったかもしれない。


だが母オオカミには敵わなかった。


彼女は地の利を得ており、死ぬまで戦うと分かっていたからだ。


シア・カーンは唸りながら、洞穴の入口から後ずさった。


そして外へ出ると叫んだ。


「どの犬も、自分の庭ではよく吠える! 人間の子を養うことを、群れが何と言うか見てやろう。その子は私のものだ。最後には、私の牙のもとへ来る。藪尾の盗人どもめ!」


母オオカミは息を切らし、子どもたちの間へ身を投げ出した。


父オオカミは重々しく言った。


「シア・カーンの言うことにも、一つだけ真実がある。この子を群れに見せねばならない。それでも、この子を育てるか、母よ」


「育てるかですって!」


彼女は息を弾ませた。


「この子は裸で、夜に、たったひとりで、ひどく空腹のままやって来た。それでも恐れなかった。見て。この子はもう、わたしの子を一匹、押しのけてしまったわ。


あの足の悪い殺し屋は、この子を殺し、ワインガンガへ逃げるつもりだった。そしてここの村人たちは復讐のため、わたしたちの巣を残らず探しまわったでしょう。


育てるかですって?


もちろん、育てます。


じっとしておいで、小さな蛙。


おお、モウグリ――蛙のモウグリと、おまえを呼びましょう。


いつか、おまえがシア・カーンを狩る日が来ます。あの者がおまえを狩ったように」


「だが、群れは何と言うだろう」


父オオカミが言った。


ジャングルの掟には、はっきりと定められている。


オオカミは結婚したとき、自分が属していた群れを離れてもよい。


しかし子どもたちが自分の脚で立てるほどになれば、群れの会議へ連れて行かなければならない。


会議は普通、月に一度、満月の夜に開かれる。


ほかのオオカミたちに子どもを覚えてもらうためだ。


この確認を終えれば、子オオカミたちはどこを走っても自由である。


そして最初の雄鹿を倒すまでは、群れの成長したオオカミが子を殺しても、いかなる言い訳も認められない。


殺した者が見つかれば、罰は死である。


少し考えれば、そうでなければならない理由が分かるだろう。


父オオカミは、子どもたちが少し走れるようになるまで待った。


そして群れの集会の夜、子オオカミたちとモウグリと母オオカミを、会議の岩へ連れて行った。


会議の岩は、大きな石と岩塊に覆われた丘の頂だった。


そこには百匹のオオカミが身を隠すことができた。


力と知恵によって群れを率いる、巨大な灰色の一匹狼アキーラは、自分の岩の上に長々と身体を横たえていた。


その下には、四十匹以上の、さまざまな大きさと色をしたオオカミたちが座っていた。


一匹で雄鹿を仕留めることのできる、アナグマ色の老練なオオカミから、自分にも同じことができると思い込んでいる、三歳の若い黒オオカミまでいた。


一匹狼アキーラが群れを率いて、すでに一年になる。


若いころには二度、オオカミ罠にかかり、一度は人間に打ちのめされ、死んだものとして捨てられた。


だから人間の習慣ややり方をよく知っていた。


会議の岩では、ほとんど言葉は交わされなかった。


父親と母親が座る輪の中央で、子オオカミたちは互いに転げまわっていた。


ときおり年長のオオカミが静かに子のそばへ行き、注意深く眺め、音もなく自分の場所へ戻った。


見落とされていないか確かめるため、母オオカミが子を月明かりの中へ強く押し出すこともあった。


アキーラは岩の上から呼びかけた。


「掟を知っているな。掟を知っているな。よく見よ、オオカミたちよ!」


心配する母親たちも、その言葉を繰り返した。


「見よ。よく見よ、オオカミたちよ!」


ついに、そのときが来た。


母オオカミの首筋の毛が逆立った。


父オオカミは「蛙のモウグリ」と呼ばれる子を輪の中央へ押し出した。


モウグリはそこに座り、笑いながら、月光にきらめく小石で遊んでいた。


アキーラは前脚から頭を上げようともせず、単調な声で繰り返した。


「よく見よ!」


岩の陰から、押し殺した咆哮が響いた。


シア・カーンの声だった。


「その子は私のものだ。こちらへ渡せ。自由の民が、人間の子に何の用がある!」


アキーラは耳さえ動かさなかった。


ただ言った。


「よく見よ、オオカミたちよ! 自由の民が、自由の民以外の命令に何の用がある。よく見よ!」


低い唸り声が一斉に起こった。


四歳になる若いオオカミが、シア・カーンの問いを、アキーラへ投げ返した。


「自由の民が、人間の子に何の用があるのだ」


ジャングルの掟には、群れが子を受け入れる権利について争いが生じた場合、その父母以外の、少なくとも二匹の群れの者が、その子を支持しなければならないと定められている。


「この子のために、誰が語る」


アキーラは言った。


「自由の民のうち、誰が語る」


答える者はいなかった。


母オオカミは、戦いになれば最後の戦いになると覚悟し、身構えた。


そのとき、群れの会議に出席することを許された唯一の異種の動物、眠そうな茶色い熊バルーが、後脚で立ち上がり、低く唸った。


バルーは子オオカミたちにジャングルの掟を教えている。


木の実と根と蜂蜜しか食べないため、好きな場所へ出入りすることが許されている、年老いた熊だった。


「人間の子、人間の子か」


彼は言った。


「わしが人間の子のために語ろう。人間の子には害はない。わしは言葉が巧みではない。だが、真実を話す。群れとともに走らせ、ほかの子らとともに受け入れるがよい。わし自身が、この子を教えよう」


「もう一匹、必要だ」


アキーラが言った。


「バルーは語った。バルーは幼い子らの教師だ。バルーのほかに、誰が語る」


黒い影が、輪の中へ舞い降りた。


黒豹バギーラだった。


全身は墨のように黒かったが、光の加減によっては、水に波打つ絹の模様のように、豹の斑紋が浮かび上がった。


誰もがバギーラを知っていた。


そして誰も、彼に逆らおうとはしなかった。


タバキのように狡猾で、野牛のように大胆で、傷ついた象のように恐れ知らずだったからだ。


だがその声は、木から滴り落ちる野の蜂蜜のように柔らかく、その毛皮は羽毛よりも滑らかだった。


「おお、アキーラ。そして自由の民よ」


バギーラは喉を鳴らすように言った。


「この集会で、私には発言する権利がない。だがジャングルの掟には、新しい子をめぐる争いが、殺し合いに至る問題でない場合、その子の命は代価を払って買うことができるとある。そして掟には、誰がその代価を払ってよいか、払ってはならないかは定められていない。私は間違っているか」


「よいぞ! よいぞ!」


いつも腹を空かせている若いオオカミたちが叫んだ。


「バギーラの話を聞け。子は代価で買える。掟だ」


「ここで話す権利がないことは承知している。だから諸君の許しを願う」


「話せ!」


二十もの声が叫んだ。


「裸の子を殺すのは恥だ。それに大きくなれば、諸君にとって、もっと面白い獲物になるかもしれない。バルーはこの子を支持した。私はバルーの言葉に加えて、雄牛を一頭差し出そう。ここから半マイルも離れていない場所で、たったいま仕留めた、肥えた雄牛だ。掟に従って人間の子を受け入れるなら、あれを諸君に与えよう。難しい話だろうか」


何十もの声が騒ぎ立てた。


「何の問題がある。冬の雨で死ぬだろう。日差しに焼かれるだろう。裸の蛙に、どんな害がある。群れとともに走らせろ。雄牛はどこだ、バギーラ。この子を受け入れよう」


そしてアキーラの深い遠吠えが響いた。


「よく見よ。よく見よ、オオカミたちよ!」


モウグリはまだ小石に夢中で、一匹ずつ近づいて自分を見るオオカミたちに気づかなかった。


やがて皆が、死んだ雄牛を求めて丘を下り、あとにはアキーラ、バギーラ、バルー、そしてモウグリの家族だけが残った。


モウグリを渡されなかったことに激怒したシア・カーンは、なおも夜の中で吠えていた。


「そうだ、存分に吠えろ」


バギーラは髭の下で呟いた。


「いつか、この裸の子がおまえを別の調子で吠えさせる日が来る。そうならぬというなら、私は人間を何も知らぬことになる」


「うまくやった」


アキーラが言った。


「人間とその子は、たいそう賢い。いつか役に立つかもしれない」


「まこと、必要なときの助けになるでしょう」


バギーラが言った。


「永遠に群れを率いられる者など、いないのだから」


アキーラは何も言わなかった。


どの群れの長にも訪れるときについて考えていたのだ。


力を失い、次第に弱り、最後には仲間のオオカミたちに殺され、新しい長が現れる。


そして、その新しい長も、いつかまた殺される。


「この子を連れて行け」


アキーラは父オオカミに言った。


「自由の民の一員にふさわしく育てよ」


こうしてモウグリは、一頭の雄牛という代価と、バルーの言葉によって、シオニのオオカミの群れへ迎え入れられた。


さて、ここから十年か十一年ほど、時を飛び越さなければならない。


モウグリがオオカミたちと過ごした驚くべき日々をすべて書けば、何冊もの本になってしまうからだ。


モウグリは子オオカミたちと一緒に育った。


もっとも子オオカミたちは、モウグリがまだ幼い子どもであるうちに、大人のオオカミになった。


父オオカミは、ジャングルで生きるための仕事と、そこにあるあらゆる物事の意味を教えた。


草むらを走るひとつひとつの音。


暖かな夜風の、ひとつひとつの息づかい。


頭上で鳴くフクロウの声。


木にとまる蝙蝠の爪が立てる音。


池から跳ね上がる小魚の、ひとつひとつの水音。


それらはすべて、都会で働く人間にとっての仕事と同じほど、モウグリにとって重要な意味を持つようになった。


学んでいないときには、陽の当たる場所に座って眠った。


食べて、また眠った。


身体が汚れたり、暑くなったりすれば、森の池で泳いだ。


蜂蜜が欲しくなれば、木に登った。


蜂蜜や木の実は生肉と同じくらい美味しいと、バルーが教えてくれたからだ。


木への登り方は、バギーラが教えた。


バギーラは枝に長々と横たわり、呼びかけた。


「おいで、弟よ」


はじめのうち、モウグリはナマケモノのように枝へしがみついていた。


だがやがては、灰色の猿とほとんど変わらぬ大胆さで、枝から枝へ身を投げるようになった。


群れが集まるときには、モウグリも会議の岩に自分の場所を持った。


そこで彼は、どんなオオカミも、じっと見つめれば目を伏せずにはいられないと気づいた。


それでモウグリは、面白がって彼らを見つめた。


また別のときには、友だちの肉球に刺さった長い棘を抜いてやった。


オオカミたちは、棘や毛に絡みつく草の実にひどく苦しむからだ。


夜になると丘を下り、耕された土地へ行って、小屋に住む村人たちを興味深く眺めた。


だが人間に対しては、警戒心を持っていた。


バギーラがジャングルの中に巧妙に隠された、落とし戸のついた四角い箱を見せたことがあったからだ。


モウグリは危うく中へ踏み込むところだった。


それは罠だった。


何よりも好きだったのは、バギーラとともに、暗く暖かな森の中心へ入ることだった。


けだるい昼の間は眠り、夜になれば、バギーラがどのように獲物を仕留めるかを見た。


バギーラは腹が減れば、好きなものを殺した。


モウグリも同じだった。


ただし、一つだけ例外があった。


モウグリが物事を理解できるほど成長したとき、バギーラは、牛には決して手を出してはならないと教えた。


モウグリは一頭の雄牛の命と引き換えに、群れへ迎えられたからだ。


「ジャングルのすべては、おまえのものだ」


バギーラは言った。


「おまえに倒せる力があるなら、どんなものを殺してもよい。だが、おまえを買った雄牛のために、若いものも年老いたものも、家畜を殺したり、食べたりしてはならない。これがジャングルの掟だ」


モウグリは忠実に従った。


そして成長した。


教えを受けているとは少しも知らず、食べるもの以外、何一つ思い悩むことのない少年が育つように、強く、大きくなった。


母オオカミは一度か二度、シア・カーンを信用してはならず、いつか殺さなければならないと教えた。


若いオオカミなら、毎日のようにその忠告を思い出しただろう。


だがモウグリは忘れてしまった。


彼はただの少年だったからだ。


もっとも、人間の言葉を話せたなら、自分はオオカミだと言い張っただろう。


シア・カーンは、いつもジャングルでモウグリの行く手を横切った。


アキーラが年老い、弱るにつれて、足の不自由な虎は群れの若いオオカミたちと親しくなっていた。


彼らは食べ残しを求め、シア・カーンについて歩いた。


アキーラが以前と同じように権威を振るえていたなら、決して許さなかったことだった。


シア・カーンは若いオオカミたちを褒めそやし、これほど見事な若い狩人たちが、死にかけたオオカミと人間の子に率いられて満足しているとは、どういうことだろう、とけしかけた。


「聞いたところでは」


シア・カーンは言った。


「会議で、おまえたちはあの人間の子と目を合わせることさえできぬそうだな」


若いオオカミたちは唸り、毛を逆立てた。


ジャングルのいたるところに目と耳を持つバギーラは、この動きを知っていた。


そして一度ならず、いつかシア・カーンはおまえを殺すつもりだと、はっきりモウグリに告げた。


だがモウグリは笑って答えた。


「ぼくには群れがいる。バギーラもいる。バルーだって、あんなに怠け者でも、ぼくのためなら一度か二度は殴ってくれるだろう。どうして怖がる必要があるんだ」


ひどく暖かな日のことだった。


バギーラは、聞き知った何かから、新しい考えを抱いた。


ヤマアラシのイッキが話したのかもしれない。


ジャングルの奥深く、モウグリが美しい黒い毛皮の上に頭を置いて寝そべっていたとき、バギーラは言った。


「弟よ。シア・カーンがおまえの敵だと、私は何度言った」


「あの椰子の木に実っている木の実の数くらい」


数を数えられないモウグリは答えた。


「それがどうしたの。ぼくは眠いんだ、バギーラ。シア・カーンなんて、長い尾と大きな口だけだ。孔雀のマオみたいなものさ」


「だが、いまは眠っているときではない。バルーも知っている。私も知っている。群れも知っている。愚かな、愚かな鹿でさえ知っている。タバキもおまえに話したはずだ」


「ホウ、ホウ!」


モウグリは言った。


「少し前にタバキが来て、ぼくは裸の人間の子で、豚芋を掘る資格もないと、失礼なことを言った。だから尾をつかんで、椰子の幹へ二度ぶつけて、礼儀を教えてやった」


「愚かなことをした。タバキは面倒を起こす者だが、おまえにとって大切なことを教えたはずだ。目を開け、弟よ。シア・カーンはジャングルの中で、おまえを殺す勇気はない。


だが覚えておけ。


アキーラはひどく年老いた。やがて雄鹿を仕留められない日が来る。そうなれば、もう群れの長ではいられない。


おまえが初めて会議へ連れて来られたとき、おまえを見定めたオオカミたちの多くも、いまは年老いている。


そして若いオオカミたちは、シア・カーンに教え込まれたとおり、人間の子に群れの居場所はないと信じている。


まもなく、おまえは人間になる」


「人間だからといって、どうして兄弟たちと走ってはいけないんだ」


モウグリは言った。


「ぼくはジャングルで生まれた。ジャングルの掟を守ってきた。群れの中に、ぼくが前脚から棘を抜いてやらなかったオオカミなんて、一匹もいない。みんな、ぼくの兄弟じゃないか」


バギーラは長々と身体を伸ばし、目を半分閉じた。


「弟よ」


彼は言った。


「私の顎の下を触ってみろ」


モウグリが強い褐色の手を伸ばすと、滑らかな顎のすぐ下、巨大な筋肉が光沢ある毛に隠された場所に、小さく毛のない部分があった。


「ジャングルの誰一人として、私、バギーラがこの印を持つことを知らない。首輪の跡だ。


だが弟よ、私は人間の中で生まれた。


私の母も人間たちの間で死んだ。


ウダイプルの王宮の檻の中でだ。


おまえが小さな裸の子であったとき、会議で私がおまえの代価を払ったのも、そのためだ。


そうだ。私も人間の中で生まれた。


ジャングルを見たことさえなかった。


鉄の皿から餌を与えられ、鉄格子の中で育った。


だがある夜、私は自分が豹のバギーラであり、人間の玩具ではないと悟った。


そして、くだらない錠を前脚の一撃で壊し、逃げ出した。


人間のやり方を学んでいたからこそ、私はシア・カーンよりも恐ろしい存在となった。


そうではないか」


「そうだよ」


モウグリは言った。


「ジャングルの皆がバギーラを恐れてる。モウグリ以外は」


「おまえは、人間の子だからだ」


黒豹は、とても優しく言った。


「私が自分のジャングルへ戻ったように、おまえも最後には人間のもとへ戻らなければならない。


人間という、おまえの兄弟たちのところへ。


会議で殺されなければな」


「でも、なぜ。なぜ、誰かがぼくを殺したいと思うんだ」


「私を見ろ」


バギーラは言った。


モウグリは、バギーラの両目の間をまっすぐ見つめた。


大きな豹は、半分ほど息をする間に、顔をそむけた。


「それが理由だ」


バギーラは落ち葉の上で前脚を動かした。


「私でさえ、おまえと目を合わせてはいられない。私は人間の中で生まれ、おまえを愛しているのにだ、弟よ。


ほかの者たちは、おまえを憎んでいる。


おまえの目と向き合えないからだ。


おまえが賢いからだ。


おまえが彼らの脚から棘を抜いてやったからだ。


おまえが人間だからだ」


「そんなこと、知らなかった」


モウグリは不機嫌そうに言い、濃い黒い眉を寄せた。


「ジャングルの掟とは何だ。まず打ち、それから声を上げることだ。


おまえがあまりに無頓着だからこそ、彼らはおまえが人間だと知る。


だが賢くあれ。


私には分かる。


アキーラが次の狩りで獲物を外せば――雄鹿を押さえるのに、狩りのたび、ますます苦労している――群れはアキーラとおまえに牙を向ける。


彼らは会議の岩でジャングルの会議を開く。


そのとき――そのとき――分かった!」


バギーラは跳び起きた。


「すぐに谷の人間たちの小屋へ行き、彼らが育てている赤い花を少し持って来い。


そのときが来れば、私やバルーや、おまえを愛する群れの者たちよりも、さらに強い味方となる。


赤い花を手に入れろ」


赤い花とは、火のことだった。


だがジャングルの生き物は誰も、火をその本当の名で呼ぼうとはしない。


すべての獣が火を死ぬほど恐れ、言い表すために百もの呼び名を作り出していた。


「赤い花?」


モウグリは言った。


「夕暮れになると、人間の小屋の外で育つものだね。取って来るよ」


「いまの言葉こそ、人間の子だ」


バギーラは誇らしげに言った。


「小さな器の中で育っていることを忘れるな。急いで一つ手に入れ、必要なときのために持っていろ」


「分かった」


モウグリは言った。


「行くよ。でも、ぼくのバギーラよ、本当にそうなのか」


モウグリは立派な首へ腕を回し、大きな目の奥を見つめた。


「本当に、全部シア・カーンの仕業なのか」


「私を自由にした壊れた錠にかけて、間違いない、弟よ」


「では、ぼくを買った雄牛にかけて、この借りはすべてシア・カーンに返す。少しくらい余計に払うかもしれない」


モウグリはそう言って、飛び去った。


「あれは人間だ。どこからどこまでも、人間だ」


バギーラは再び横たわり、独り言を言った。


「おお、シア・カーン。十年前、おまえがあの蛙を狩ったことほど、暗い運命を招く狩りはなかったぞ」


モウグリは、遠く、さらに遠く、森を懸命に駆け抜けた。


胸の中は熱く燃えていた。


夕霧が立ち上るころ、洞穴へたどり着き、息を整え、谷を見下ろした。


子オオカミたちは外に出ていた。


だが洞穴の奥にいた母オオカミは、その呼吸だけで、自分の蛙が何かに悩んでいると悟った。


「どうしたの、息子よ」


彼女は言った。


「シア・カーンについて、蝙蝠が何か喋っただけだよ」


モウグリは答えた。


「今夜は耕地で狩る」


そして藪を突き抜け、谷底の小川へ向かって駆け下りた。


途中で、モウグリは立ち止まった。


群れが狩りをする叫び声が聞こえたからだ。


追われるサンバー鹿の唸り声。


雄鹿が立ち向かったときの荒い鼻息。


そして若いオオカミたちの、悪意に満ちた鋭い遠吠え。


「アキーラ! アキーラ! 一匹狼の力を見せろ! 群れの長に道を開けろ! 跳べ、アキーラ!」


一匹狼は飛びかかり、獲物を捕らえ損ねたらしい。


歯が噛み合う音と、その直後、サンバー鹿の前脚で跳ね飛ばされたらしい悲鳴を、モウグリは聞いた。


それ以上は待たなかった。


そのまま駆け続けた。


村人たちの住む耕地へ入るにつれて、背後の叫び声は遠ざかっていった。


「バギーラの言ったことは本当だった」


モウグリは息を切らしながら言い、小屋の窓辺に積まれた家畜の飼料へ身を潜めた。


「明日は、アキーラにとっても、ぼくにとっても、大事な日になる」


モウグリは顔を窓へ近づけ、炉の火を見つめた。


夜中に農夫の妻が起き上がり、黒い塊を足して火を育てるのを見た。


朝になり、霧が白く冷たくなると、農夫の子どもが、内側を土で固めた編み籠の器を取り上げ、その中へ赤く燃える炭を入れ、毛布の下に抱えて牛舎へ牛の世話に出て行くのを見た。


「それだけなのか」


モウグリは言った。


「子どもにできるなら、何も恐れることはない」


角をまわり、少年と出会うと、その手から器を奪い、霧の中へ姿を消した。


少年は恐怖で泣き叫んだ。


「人間は、ぼくによく似ている」


モウグリは言った。


女がしていたように、器へ息を吹き込んだ。


「餌をやらなければ、これは死んでしまう」


赤い炭の上へ、小枝や乾いた樹皮を落とした。


丘を半分ほど登ったところで、朝露を月長石のように毛皮へ光らせたバギーラに会った。


「アキーラは獲物を外した」


黒豹は言った。


「昨夜、彼らはアキーラを殺そうとした。だがおまえも必要だった。丘でおまえを探していた」


「ぼくは耕地にいた。準備はできている。見て」


モウグリは火の器を持ち上げた。


「よし。人間が乾いた枝をその中へ入れると、やがて枝の先に赤い花が咲くのを見たことがある。怖くないのか」


「怖くない。なぜ怖がるんだ。いま思い出した。夢でなければ、ぼくがオオカミになる前、赤い花のそばに寝ていた。暖かくて、心地よかった」


その日一日、モウグリは洞穴に座り、火の器を守った。


乾いた枝を差し込み、どのようになるか試した。


そして気に入った枝を一本選んだ。


夕方、タバキが洞穴へやって来て、会議の岩へ来るよう、ずいぶん無礼に告げると、モウグリは大笑いした。


タバキは逃げ去った。


モウグリは笑いながら会議へ向かった。


一匹狼アキーラは、自分の岩のそばに横たわっていた。


群れの長の座が空いたことを示す姿だった。


シア・カーンは、食べ残しで養われた配下のオオカミたちにお世辞を言われながら、公然と歩きまわっていた。


バギーラはモウグリのすぐそばに伏せ、火の器はモウグリの膝の間に置かれていた。


皆が集まると、シア・カーンが話しはじめた。


アキーラが力盛んだったころなら、決して敢えてしなかったことだった。


「あいつに話す権利はない」


バギーラは囁いた。


「そう言え。あれは犬の子だ。怯えるだろう」


モウグリは跳び起きた。


「自由の民よ!」


彼は叫んだ。


「シア・カーンが群れを率いるのか。虎が、ぼくらの長を決めることに何の関係がある」


「長の座が空いており、話すよう求められたから――」


シア・カーンが言いかけた。


「誰に求められた」


モウグリは言った。


「ぼくらは皆、ジャッカルなのか。この牛殺しに媚びるのか。群れを率いる者を決めるのは、群れだけだ」


「黙れ、人間の子!」


「話させろ。あの子は掟を守ってきた!」


さまざまな叫び声が上がった。


ついに群れの年長者たちが雷鳴のように叫んだ。


「死んだオオカミに話させろ!」


群れの長が獲物を外したとき、その者は生きているかぎり「死んだオオカミ」と呼ばれる。


もっとも、長く生きることはない。


アキーラは疲れ切ったように、老いた頭を持ち上げた。


「自由の民よ。そしてシア・カーンのジャッカルどもよ。


十二の季節の間、私はおまえたちを狩りへ導き、獲物から連れ帰った。


その間、一匹として罠にかかった者も、傷ついた者もいなかった。


だがいま、私は獲物を外した。


おまえたちは、どのように罠が仕組まれたか知っている。


私の弱さを明らかにするため、まだ力を試していない雄鹿へ、私を向かわせたことを知っている。


実に巧みだった。


いま、ここ会議の岩で、私を殺すのがおまえたちの権利だ。


だから問う。


誰が一匹狼に止めを刺しに来る。


ジャングルの掟に従い、おまえたちは一匹ずつ来なければならない。


それを求めるのは、私の権利だ」


長い沈黙が流れた。


ただ一匹でアキーラと死ぬまで戦おうというオオカミはいなかった。


そのときシア・カーンが吠えた。


「ふん! この牙の抜けた愚か者に、何の用がある。どうせ死ぬ運命だ。


生きすぎたのは、人間の子のほうだ。


自由の民よ、あれは初めから私の肉だった。


私に渡せ。


人間オオカミなどという馬鹿げた話には、もう飽きた。


十の季節もの間、あれはジャングルを乱した。


人間の子を渡せ。


さもなくば、私は永遠にここで狩りをし、おまえたちに骨一本残さぬ。


あれは人間だ。


人間の子だ。


骨の髄から、私はあれを憎んでいる!」


群れの半数以上が叫んだ。


「人間だ! 人間だ! 人間がわれらと何の関係がある。自分の居場所へ帰せ!」


「そして村人を、すべてわれらの敵にするのか!」


シア・カーンは叫んだ。


「いや、私に渡せ。あれは人間だ。われらの誰も、あれと目を合わせられぬ」


アキーラは再び頭を上げた。


「あの子はわれらの食物を食べた。われらとともに眠った。われらのために獲物を追った。ジャングルの掟の言葉を一つも破っていない」


「加えて、あの子が受け入れられたとき、私は雄牛をもって代価を支払った」


バギーラはもっとも柔らかな声で言った。


「雄牛一頭の価値など小さい。だがバギーラの名誉は、もしかすれば、戦って守る価値があるかもしれない」


「十年前に払われた雄牛だと!」


群れが唸った。


「十年前の骨など、誰が気にする」


「誓いもか」


バギーラは唇の下に白い牙を見せた。


「なるほど、よくぞ自由の民と呼ばれたものだ」


「人間の子が、ジャングルの民とともに走ることはできぬ」


シア・カーンが吠えた。


「私に渡せ!」


「あの子は、血を除けば、われらの兄弟だ」


アキーラは続けた。


「それを、ここで殺そうというのか。


まことに、私は長く生きすぎた。


おまえたちの中には家畜を食う者がいる。


また、シア・カーンの教えを受け、夜陰に乗じて村人の戸口から子どもをさらう者がいるとも聞いた。


だから私は、おまえたちが臆病者だと知っている。


そして、私は臆病者に向かって話している。


私が死なねばならぬことは確かだ。


私の命に価値があれば、人間の子の代わりに差し出しただろう。


だが群れの名誉のために――長がいなくなったため、おまえたちが忘れてしまった、取るに足りぬもののために――私は約束する。


人間の子を自分の居場所へ帰すなら、私が死ぬとき、おまえたちに牙一本見せない。


戦わずに死のう。


そうすれば、少なくとも群れの三つの命を救える。


私にできるのは、それだけだ。


だがおまえたちが望むなら、罪のない兄弟を殺す恥を、おまえたちに負わせずに済む。


あの子は、掟に従い、二匹の言葉によって支持され、代価をもって群れへ迎えられた兄弟なのだ」


「人間だ、人間だ、人間だ!」


群れは唸った。


ほとんどのオオカミが、尾を激しく振りはじめたシア・カーンの周りへ集まった。


「もう、おまえの手に委ねられた」


バギーラはモウグリに言った。


「戦う以外、われらにできることはない」


モウグリは立ち上がった。


両手に火の器を持っていた。


そして腕を伸ばし、会議の者たちの前で、大きなあくびをしてみせた。


だが胸の中は、怒りと悲しみで燃えていた。


オオカミらしく、彼らはモウグリを憎んでいることを、これまで一度も本人に告げていなかったからだ。


「聞け!」


モウグリは叫んだ。


「この犬どものお喋りは、もう必要ない。


今夜、おまえたちは何度も、ぼくを人間だと言った。


ぼくは命の終わりまで、おまえたちとともにオオカミでいるつもりだったのに。


だが、そこまで言うなら、おまえたちの言葉は本当なのだろう。


だから、もうおまえたちを兄弟とは呼ばない。


人間らしく、サグ――犬ども――と呼ぶ。


おまえたちが何をするか、何をしないかを決めるのは、おまえたちではない。


ぼくが決める。


そして、すべてをもっとはっきり見えるようにするため、ぼく、人間は、おまえたち犬どもが恐れる赤い花を、ここへ少し持って来た!」


モウグリは火の器を地面へ投げつけた。


赤い炭のいくつかが乾いた苔へ燃え移り、炎が立ち上がった。


会議の者たちは皆、跳ね上がる炎を恐れて後ずさった。


モウグリは枯れ枝を火へ突き込み、小枝が燃えてぱちぱちと音を立てると、怯えて身を縮めるオオカミたちの頭上で振りまわした。


「おまえが主人だ」


バギーラが低く言った。


「アキーラを死から救え。彼はいつも、おまえの友だった」


生まれてから一度も慈悲を乞うたことのない、恐ろしい老オオカミのアキーラが、哀れな目でモウグリを見た。


少年は裸のまま立ち、燃える枝の光の中で、長い黒髪を肩の上に乱していた。


炎に照らされた影が跳び、震えていた。


「よし」


モウグリはゆっくり皆を見まわした。


「おまえたちが犬だと分かった。


ぼくはおまえたちを離れ、自分の民のところへ行く。


本当に自分の民なのかは、分からない。


ジャングルはぼくに閉ざされた。


おまえたちの言葉も、一緒に過ごした日々も、忘れなければならない。


だが、ぼくはおまえたちより慈悲深くあろう。


ぼくはもう少しで、血までおまえたちの兄弟になるところだった。


だから人間の中で人間になったとき、おまえたちがぼくを裏切ったように、ぼくは人間におまえたちを売らないと約束する」


モウグリが火を蹴ると、火の粉が舞い上がった。


「群れとぼくとの間に、戦いは起こさない。


だが、ここを去る前に、払わなければならない借りがある」


モウグリは、炎を前に呆然と瞬きをするシア・カーンのところへ歩み寄り、その顎の毛をつかんだ。


万一に備え、バギーラがすぐ後ろについた。


「立て、犬!」


モウグリは叫んだ。


「人間が話しているときは立て。さもなければ、その毛皮に火をつけるぞ!」


シア・カーンは耳を頭へぴたりと伏せ、目を閉じた。


燃える枝がすぐそばにあったからだ。


「この牛殺しは、ぼくが子どものときに殺し損ねたから、会議でぼくを殺すと言った。


人間は犬を、こうして、こうして打つのだ。


髭一本でも動かしてみろ、ラングリ。


赤い花を喉へ押し込んでやる!」


モウグリは枝でシア・カーンの頭を打った。


虎は恐怖のあまり、哀れな声で鳴き、鼻を鳴らした。


「ふん、焦げたジャングルの猫め。さあ、行け!


だが覚えておけ。


次にぼくが、人間として会議の岩へ来るときには、シア・カーンの毛皮を頭に載せて来る。


それから、アキーラは自由だ。


好きなように生きる。


おまえたちはアキーラを殺さない。


ぼくが許さないからだ。


そしておまえたちも、もうここへ座り、まるで大した者であるかのように舌を垂らしてはいられない。


おまえたちは、ぼくに追い払われる犬だ。


こうしてな!


行け!」


枝の先で火が激しく燃えた。


モウグリは輪のあちこちを打ちまわった。


オオカミたちは、毛に火の粉を浴びながら、遠吠えを上げて逃げ去った。


最後に残ったのは、アキーラとバギーラ、そしてモウグリの側についた十匹ほどのオオカミだけだった。


すると、モウグリの身体の内側で、これまで一度も感じたことのない痛みが始まった。


息を詰まらせ、しゃくり上げた。


涙が顔を流れ落ちた。


「これは何だ。これは何だ」


モウグリは言った。


「ぼくはジャングルを離れたくない。


それに、これが何なのか分からない。


ぼくは死ぬのか、バギーラ」


「いいや、弟よ」


バギーラは言った。


「それは人間が流す涙というものだ。


いま、私はおまえが人間であり、もう人間の子ではないと知った。


これから、ジャングルは本当におまえに閉ざされる。


流れるままにしておけ、モウグリ。


ただの涙だ」


モウグリは座り込み、胸が張り裂けるほど泣いた。


生まれてから一度も、泣いたことがなかった。


「いま、人間のところへ行く」


やがて彼は言った。


「でも、その前に母さんへ別れを言わなければ」


モウグリは、父オオカミと母オオカミの住む洞穴へ行った。


母オオカミの毛皮に顔を埋めて泣いた。


四匹の兄弟たちも、悲しげに遠吠えした。


「ぼくを忘れないか」


モウグリは言った。


「跡を追えるかぎり、決して忘れない」


兄弟たちは答えた。


「おまえが人間になったら、丘の麓へ来てくれ。話をしよう。ぼくらも夜には耕地へ行き、おまえと遊ぼう」


「すぐに戻って来い!」


父オオカミは言った。


「おお、賢い小さな蛙よ。早く戻って来ておくれ。母さんも私も、もう年老いた」


「すぐに戻っておいで」


母オオカミは言った。


「わたしの裸の小さな息子よ。


聞いておくれ、人間の子よ。


わたしは、自分が生んだ子たちよりも、おまえを深く愛した」


「必ず戻って来る」


モウグリは言った。


「戻って来るときには、シア・カーンの毛皮を会議の岩へ広げる。


ぼくを忘れないで。


ジャングルの皆にも、決してぼくを忘れるなと伝えて」


夜明けの光が差しはじめたころ、モウグリはひとり丘を下って行った。


人間と呼ばれる、謎に満ちた者たちと出会うために。

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