第38話 密室の尋問
王城の奥へと続く石造りの廊下は、
いつもより静かだった。
ユウマは両脇を近衛兵に挟まれ、
無言のまま歩かされていた。
(この沈黙……
“尋問”の前の空気だ)
エレナとガルドは別室に案内され、
カリナだけが距離を置いてついてきている。
近衛兵はカリナを警戒していたが、
彼女は何も言わず、ただユウマを見守っていた。
やがて、
重厚な扉の前で足が止まる。
「ここだ。入れ」
扉が開くと、
そこは王城の“尋問室”だった。
中央に椅子が一つ。
机の上には紙束と羽ペン。
壁には魔術式の封印。
ユウマは椅子に座らされ、
近衛兵が部屋を出る。
扉が閉まると同時に――
別の扉が開いた。
入ってきたのは、
ユウマが予想していた人物ではなかった。
「……ユウマ君。
無事でよかった」
ミレイユ局長だった。
ユウマは驚き、
すぐに状況を読み取った。
(局長……?
じゃあ、俺を捕まえた命令は――
局長じゃない)
ミレイユは近づき、
机の前に座った。
「まずは謝らせて。
あなたが拘束されるなんて、
本来あってはならないことよ」
ユウマは静かに言った。
「局長の命令じゃないんですね」
ミレイユは苦い顔で頷いた。
「ええ。
あなたを連行する命令は――
“宰相グラディウス”から出たものよ」
ユウマの予想が確信に変わった。
(やっぱり……宰相か)
ミレイユは続けた。
「あなたが光の聖域へ向かったこと、
そして“光の王”と接触したこと。
その情報が宰相に伝わった瞬間、
あなたは“危険人物”に指定された」
ユウマは冷静に分析した。
「つまり……
俺が“王国の嘘”に気づいたと判断したんですね」
ミレイユは目を伏せた。
「そう。
宰相は“光の王”の存在を隠すためなら、
どんな手段でも使うわ」
ユウマは机に置かれた紙束に目を向けた。
「それは……?」
ミレイユは紙束を開き、
一枚をユウマの前に置いた。
そこには――
召喚儀式の術式図 が描かれていた。
ユウマの心臓が跳ねる。
(これが……
召喚儀式の本物……?)
ミレイユは言った。
「これは“本来の術式”。
あなたたちが召喚された時に使われたものよ」
ユウマは図を見つめ、
すぐに異変に気づいた。
「……おかしい」
ミレイユが頷く。
「ええ。
あなたなら気づくと思った」
ユウマは指で術式の中心を指した。
「中心にあるべき“勇者の紋章”がない。
代わりに――
“空白の円”がある」
ミレイユは静かに言った。
「その空白こそが“鍵の座”よ」
ユウマは息を呑んだ。
(つまり……
召喚儀式は最初から“鍵を呼ぶため”のものだった)
ミレイユは続けた。
「王国は“勇者召喚”という名目で、
本当は“鍵を探す儀式”を行った。
あなたたち全員を呼んだのは、
その中に鍵がいるかどうかを確かめるため」
ユウマは静かに言った。
「そして……
俺が遺物に反応したことで、
鍵だと確定した」
ミレイユは頷いた。
「そう。
あなたは“王国にとって最も危険な存在”になった」
ユウマは机に手を置き、
深く息を吸った。
(王国は俺を利用するために召喚し、
鍵だと分かった瞬間に監視を強めた……
そして今――
俺を“排除”しようとしている)
ミレイユはユウマを見つめた。
「ユウマ君。
あなたは今、
“王国の敵”にされようとしている」
ユウマは静かに言った。
「局長……
俺はどうすればいいですか?」
ミレイユは一瞬だけ迷い、
やがて決意したように言った。
「逃げなさい。
今すぐに」
ユウマは驚いた。
「逃げる……?」
「ええ。
宰相はあなたを“処分”するつもりよ。
理由は後付けでどうとでもなる。
あなたが光の王と接触した――
それだけで十分」
ユウマは拳を握った。
(逃げる……
でも、逃げたら“真相”に近づけない)
ミレイユは続けた。
「ただし――
逃げるだけじゃない。
“王国の嘘を暴くための逃走”よ」
ユウマは息を呑んだ。
「局長……
あなたは……」
ミレイユは微笑んだ。
「私は情報局長。
“真実”を守るのが仕事よ」
その瞬間――
尋問室の扉が激しく叩かれた。
「ミレイユ局長!
宰相閣下がお呼びです!」
ミレイユは小さく舌打ちした。
「……来たわね」
ユウマは立ち上がった。
「局長。
俺は逃げます。
でも――
“証拠”が必要です」
ミレイユは術式図をユウマに渡した。
「これが証拠よ。
絶対に失くさないで」
ユウマは頷いた。
(これが……
王国の嘘を暴く第一歩)
扉が開く。
近衛兵が入ってくる。
「霧島ユウマ。
宰相閣下がお待ちだ」
ユウマは深く息を吸い、
静かに言った。
「行きます」
王国の黒幕との対面が、
いよいよ始まろうとしていた。




