第32話 光の聖域──赤き瞳の真実
白い霧の中を進むと、
空気が変わった。
冷たくもなく、
温かくもない。
ただ、澄みきった静寂が広がっている。
ユウマは胸に手を当てた。
(ここだ……
この場所が……“光の聖域”)
エレナが周囲を見渡す。
「……すごい……
まるで別の世界みたい」
ガルド教官も息を呑んだ。
「空気が違うな……
魔力が濃い……いや、これは……」
女性――光の王は静かに言った。
「ここは“光の聖域”。
世界の均衡を守るために作られた場所です」
ユウマは女性を見つめた。
(あの赤い瞳……
やっぱり綺麗だ)
女性はユウマに微笑んだ。
「ユウマ……
あなたをここへ連れて来られて……
本当に嬉しい」
エレナはその言葉に、
胸が締めつけられるような痛みを覚えた。
(……やっぱり……
この人はユウマに特別な感情を持ってる)
霧が晴れると、
巨大な神殿が姿を現した。
白い石で作られ、
天へ伸びる柱が並ぶ。
ガルドが驚く。
「こりゃ……
王城より立派じゃねぇか……」
エレナも息を呑む。
「こんな場所……
地図にも載ってなかったのに……」
女性は静かに言った。
「光の聖域は、
“鍵”を持つ者にしか見えません」
ユウマは驚いた。
「鍵……
つまり俺が……?」
女性は頷いた。
「ええ。
あなたが“鍵”だからこそ、
この場所はあなたを受け入れたのです」
エレナは拳を握った。
(ユウマだけ……
この場所に選ばれた……
私は……ただの同行者……)
神殿の中は静かで、
光がどこからともなく差し込んでいた。
女性はユウマを振り返る。
「ユウマ……
ここでなら、
あなたに“真実”を話せます」
ユウマは息を呑んだ。
「真実……?」
エレナも緊張した表情で見守る。
女性はゆっくりと歩き、
神殿の中央に立った。
「まず……
私の名前を言わなければなりませんね」
ユウマの心臓が跳ねた。
(ついに……
名前を……)
女性は静かに言った。
「私は――
カリナ・ルミナス。
“光の王”と呼ばれた存在です」
エレナが息を呑む。
「光の……王……」
ガルドも驚く。
「やっぱり……本物か……」
ユウマは呟いた。
「カリナ……
あなたが……光の王……」
カリナは微笑んだ。
「ええ。
でも……それだけではありません」
ユウマは眉をひそめた。
「どういう意味ですか?」
カリナは静かに言った。
「私は……
“魔王”でもあります」
エレナが叫ぶ。
「魔王!?
そんな……!」
ガルドも剣に手をかける。
「おいユウマ、下がれ!」
だがユウマは動かなかった。
(魔王……
でも……この人は俺を守ってくれた)
カリナは悲しそうに微笑んだ。
「光の王と魔王は、
本来は同じ存在なのです。
光が強すぎれば“魔”と呼ばれ、
影が深すぎれば“闇”と呼ばれる」
ユウマは息を呑んだ。
(光と魔……
同じ……?)
カリナは続けた。
「私は……
あなたを守るために“魔王”と呼ばれる道を選びました」
エレナが震える声で言う。
「ユウマを……守るため……?」
カリナはユウマに近づき、
そっと手を伸ばした。
「ユウマ……
あなたは“鍵”。
光と影の均衡を保つために選ばれた存在」
ユウマは胸が熱くなる。
「俺が……鍵……」
カリナは頷いた。
「ええ。
だから影はあなたを恐れ、
私はあなたを守る」
エレナは唇を噛んだ。
(守る……
愛している……
この人は……本気でユウマを……)
カリナはユウマの頬に触れた。
「ユウマ……
あなたが生まれた時から……
私はずっとあなたを見ていました」
ユウマは驚いた。
「生まれた時から……?」
カリナは静かに言った。
「あなたは……
“前世”でも鍵だったのです」
エレナが息を呑む。
「前世……?」
ガルドも驚く。
「そんな話……本当にあるのか……?」
ユウマは震える声で言った。
「俺の……前世……?」
カリナは頷いた。
「ええ。
あなたは前世で……
私の“伴侶”でした」
エレナの心臓が止まった。
「……っ!」
ガルドも言葉を失う。
ユウマは呆然とした。
「俺が……
あなたの……?」
カリナは微笑んだ。
「だから……
私はあなたを愛しているのです。
今も……ずっと」
エレナの目に涙が溢れた。
「そんな……
そんなの……ずるい……」
ユウマは振り返った。
「エレナさん……?」
エレナは涙を拭いながら言った。
「ユウマ……
あなたが誰を選ぶのか……
私は……分かってる。
でも……
でも……!」
ユウマは胸が痛くなった。
(エレナさん……
こんなに……苦しんでいたのか)
カリナは静かに言った。
「エレナさん。
あなたの気持ちは……
痛いほど分かります」
エレナは震える声で言う。
「あなたに……
ユウマを奪われたくない……!」
カリナは首を振った。
「私は奪いません。
ユウマが選ぶのです。
私ではなく……
ユウマ自身が」
ユウマは胸に手を当てた。
(俺が……選ぶ……)
カリナはユウマの手を取った。
「ユウマ……
あなたに伝えたい“真実”はまだあります。
でも……
その前に――」
カリナの瞳が赤く輝いた。
「“影”が来ます」
ガルドが剣を抜く。
「またか……!」
エレナも涙を拭い、剣を構えた。
「ユウマ……
絶対に守る!」
ユウマは深く息を吸った。
(光の真実……
影の正体……
俺の前世……
そして……選択)
カリナはユウマの手を強く握った。
「ユウマ……
あなたは一人ではありません」
影の気配が迫る中、
ユウマの運命はさらに深く動き始めた。




