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200年前の雰囲気の悪い村!

 ソラを助けた!

 ……スズネは一人、どこかに向かっている……?

 スズネはがけを上った後、一人で別の場所へと向かっていた。

 さっきは日が高かったのに、もう日が沈んできていて、辺りは夕日の光が弱々しくなっている。 時間がたつのはあっという間だが、最近はずいぶん変化が早いように思える。


 スズネは、200年前の村の中を小走りで走っていた。

 辺りには、さびれたような村の様子が広がっている。 荒れ果てた畑が道に沿って続いていて、その横には小さなわらぶきの家が点々と続いている。

 この時期には日照ひでりが続いて全く雨が降らず、コメが取れなかった。 周りに広がっている畑のような土地は、じつは田んぼだ。 水がすっかり干上ひあがってしまって、畑のようになってしまったのである。


 走るスズネは、その風景には目もくれていないようだった。 スズネは元々この場所に生きていたから、そんなことは分かっているんだろう。

 眉間みけんにはしわが寄っていて、不快感に耐えているような顔をしている。 この時代の風景の中を歩くだけで、嫌なことが思い出されているのかもしれない。


 それにしても、スズネはどこへ向かっているんだろう?

 さっきはご飯を作るなどとみんなでの用事があったようだが、それよりも優先したいことがあるんだろうか。


 ふと気づくと、向こうから人が歩いてきていた。 大柄おおがらな男の2人組だ。 この時代の住人だろうか。

 しかし、少し様子がおかしい……。 男たちは不機嫌そうな表情をしていて、イライラした様子で周りを見ている。 意味もなくため息をついたりしていて、疲れているようにも見える。

 この時代は気持ちが荒れている人が多いようだから、この男たちもそうなんだろうか。


 2人の姿を見ると、スズネは横のほうへと方向をずらしていった。 ぶつからないように、少し遠いところから方向をずらして、いい感じに調節しているようだ。

 そのまま素早く歩いていって、何事もなく近づいていき、男たちの横を通り過ぎようとする。

 しかし2人の横に差しかかった時、いきなり目の前に男の体が現れた。 スズネは驚いた顔をしてとっさによけようとするが、肩が思いっきりぶつかった。


「……痛えな、おい」


 ぶつかった男は苛立いらだちまぎれにそう言うと、スズネの服をぐいと引っ張ってきた。 胸倉むなぐらをつかんで、服が引きちぎれんばかりに、無理やり顔を引き寄せてくる。

 この男はどうしたんだろうか。 さっきスズネがけようとしていた時、男はわざと同じほうに動いてぶつかっていったように見えた。 もしかしたら、喧嘩けんかを売ろうとしているんだろうか。

 男の顔にはあちこちにしわが寄っていて、ひどく不機嫌なようだった。 目の前を通りがかったハエにすら、喧嘩を売ろうというような勢いだ。

 やはりこの時代の人々の心は、ずいぶん荒れているみたいだ。


 スズネは顔を引き寄せられながら、なつかしい感覚におそわれていた。

 ……そうだ、この時代はいつもみんなこんな感じだった。 誰もかれも不機嫌で、人にやつあたりするのは日常茶飯事にちじょうさはんじだった。

 少しでも気に入らなかったらいじめて、こんな風にわざと喧嘩を吹っかけたりしていたんだ。


 食べ物はなくて、誰もがずっと空腹に耐えて過ごしていた。

 家の中も雰囲気ふんいきが暗くて、家族も気分が落ち込んでどんよりしていた。 細かなことで苛立いらだって、ギスギスした中で眠りについていた。


 外に出ても、みんなイライラしていた。 ちょっとでも何か間違えば悪意を激しくぶつけられて、明るく挨拶あいさつしたらにらまれたこともあった。

 いじめっ子みたいな人に、ただのストレス解消かいしょうに無意味になぐられたこともあった。 人が殴られても誰も無関心で、そばを黙って通り過ぎていくだけ。


 毎日のように日差しが強くて、いっこうに雨が降る気配けはいがない。 のどがカラカラに乾いてきて、何もないのに日に日に疲れていって……。

 そんな状態が毎日続いて、世界は初めからこういう形だったんだと思うようになってしまった。 こんな世界なら、もう生きていたくないと思ってしまったんだ。



 でも、今は違う。 世界はもっと広くて、色んな可能性があると知ったんだ。

 つらい世界があれば、楽しい世界もある。

 この時はほんのちょっとだけ、いやなことが続いてしまっただけなんだ。

 もうこんなことに、いちいち気にしてられるかっ!!


 私はそう思い、服をつかんでくる男をぐっとにらみ返した。


 男はそんな私を見て気に入らなかったのか、イラついたような顔になり、体を突き飛ばしてきた。 私はバランスをくずして、思わず2,3歩後ずさりしていく。

 そこへ、今度は足元がられたようにからまり、ぐらりと見ている景色がれた。 次の瞬間には全身に衝撃しょうげきが走り、気づけば私は地面にたたきつけられていた。

 はははと、男たちの笑い声が聞こえてくる。 どうやらもう一人の男が、私の足を引っかけたらしい。


 私は何も考えられず、周りの様々な音が耳を素通すどおりしていくのを感じていた。

 目の前には暗い地面しか見えず、心臓がバクバクと激しく脈打みゃくうっていく。 原始的な暴力の恐怖が、頭を支配していく。

 まるで暗闇くらやみの中にいるような気持ちで必死になってもがいていると、次の瞬間には別のところに激痛げきつうが走った。 視界がひねり上げられて、目の前に男の顔が見えてくる。 髪の毛が引っ張られて、私は無理やり顔を上に向かせられていた。

 頭全体から、激しい痛みが流れてくる。 痛みで一瞬、全てのことが分からなくなる。

 目の前の男たちは不機嫌な表情のまま、あざけって笑うように話していた。


「ていうか誰だよ、こいつ。 ……こんなやつ、いたか?」


 男たちは私の顔をのぞき込んで、怪訝けげんな表情をしている。 じろじろと顔を見ていて、本当に私のことを知らないんだろう。

 髪の毛を引っ張ってくる力が、あまりにも強い。 人を人とすら思っていないような、扱いのぞんざいさを感じる。

 私は、途端とたんに恐ろしくなった。 恐怖が濁流だくりゅうのように流れ込んできて、黒く冷たいものが心を侵食しんしょくしてくる。 恐ろしさで身がふるえ、気づけば私の歯が勝手にガチガチと震えていた。


 怖い。 怖い。 もういやだ。

 今なら打ち勝てるって思ったけど、無理だ。 こんな恐ろしいもの、私にはやっぱり耐えられない。

 私はしょせん、臆病おくびょうで弱い人間なんだ。 どれだけ勇気を振りしぼっても、勢いのあることを言っても、やっぱり私は弱い人間なんだ……。



 その瞬間、突然別の声が聞こえてきた。 女の子の、激しい声だ。


「おい、お前らっっ!!」


 その言葉が聞こえたと思った瞬間、いきなり衝撃が走った。 私は何が起こったかもわからないまま、衝撃に身を任せて地面に転がっていく。


 気づけば私は解放されていて、男の体も離れていた。 私はいつくばりながら顔を上げると、一人の女の子がそこに立っていた。

 一族のハナだ。 ハナがはあはあと息を切らして、男たちを睨んで仁王立におうだちしていた。 男たちに殴ったのか体当たりを食らわせたのか、どうにかして私を助けてくれたみたいだ。

 ハナの表情は、怒りに満ちていた。 私が男たちに攻撃されていたのを見て、激しくいきどおっているみたいだ。


 私の思考がまとまらないうちに、状況が動いた。

 攻撃された男たちは、さらに逆上ぎゃくじょうしたようだった。 立って睨んでくるハナのほうを見ると、荒々しく起き上がっていく。


「なんだ、こいつっっっ!!!!」


 激しい怒りのさけび声をあげて、身体の小さなハナのほうへと勢いよく向かっていく。

 しかしハナも、覚悟かくごを決めているようだった。 憤怒ふんぬ形相ぎょうそうをしたまま、負けじと地面を蹴って、捨て身の突進をしていく。


 もうやめて。 私はその光景を見ながら、嫌気いやけがさしていた。

 結局、暴力だ。 むきだしの攻撃性を振りかざして、馬鹿みたいに戦って、ものを壊して……。 本当に、何の意味があるんだろう。


 ハナがくずれ落ちるのは、あっという間だった。

 1対2で戦っているし、体格差たいかくさがありすぎる。 激しい反撃のあらしがハナを襲い、どこここ構わず殴られ、ハナは抵抗もやむなく一瞬のうちに地面に崩れ落ちていった。

 男たちは怒りが収まらないのか、地面に倒れこんだハナをさらにめちゃくちゃに殴って蹴りだした。 顔だろうが足だろうが関係なく、まるで廃棄はいきすべき家具かぐを破壊するかのごとく攻撃を加えていく。

 私は起き上がっていきながら、必死にやめろと叫ぶが、男たちは攻撃をやめない。


 目の前にあるのは、ただ無意味な暴力の応酬おうしゅうだった。

 もういやだ。 もうこんな世界は見たくない。

 みんながただ笑っていられるのは、そんなにダメなんだろうか。 この世は、そんなに悪意に満ちているんだろうか。


 そう思った時、さらに別のほうから声がした。


「スズネー! 大丈夫ー?!」


 今度は軽やかで、のんきな声だ。 見ると、向こうから雨子がやって来ていた。 横には小春もいて、2人で一緒に走ってくる。

 あぁ、2人とも来てくれたんだ……。

 状況は分からないけど、駅に続いてまた2人が来てくれた。 私は一瞬ほっとしたような気持ちになり、全身にやわらかな気持ちが流れた。

 この2人はいつも適当だけど、心は根っこから優しいんだ。 こんな時に姿を見ると、それだけで希望が見えたような気持ちになる。


 走ってきた小春は、この場で起こっていることがすぐには分からないようだった。

 しかし男たちが攻撃しているのが人だと分かると、顔つきが変わった。 今までの軽やかな表情が一瞬にして消え去り、身のすくむような怒鳴どなり声を上げる。


「あんたら、何やってんのよっっ!!!!」


 そういって、怒りに満ちた形相ぎょうそうになって激しく走ってくる。

 小春がこんなに怖いのを、初めて見た。 ふだんの明るい小春を知っている私ですら、思わず恐怖で身がすくむほどだ。

 小春は勢いよく走ってくると、男たちに猛然もうぜんと向かっていった。 やめなさいと叫びながら中心に割って入り、男たちの腕や足を引っつかんで無理やり攻撃を止めようとする。


 そうだ、絶対許してたまるもんかっ! 私は勇気をもらったように全身に猛々(たけだけ)しい血が流れてきて、急いで起き上がっていった。 その中に一緒に飛び込んでいき、攻撃をやめさせようとしていく。


 私は男たちの手や足にすがりついて、なんとか捕まえて止めようとする。

 もみ合いになり、顔を殴られ、腹を蹴られ、足を蹴られ……。 でも、離すもんかっっ!!! ボコボコに殴られながらも、私たちは必死に食らいついていく。


 もみ合いの中で下のほうを見ると、ハナは地面にしてどろまみれになっていた。 姿がはっきり見えなくて、どれだけ怪我けがをしているのかも分からない。


 私はハナだって、仲間だと思ってる。 300年前にはおかしくなっちゃったかもしれないけど、それは一人っきりで精神がまいってしまったからだ。

 一人でいると、誰だっておかしくなっていく。 自分の考えがおかしいのかも分からないまま、どんどん深みにはまっていくんだ。

 でも、周りに誰かがいてくれれば、そんなことは起こらない。 ハナだって、みんなが周りにいれば、ちゃんとしたいい子なんだっっ!!


 もみ合いはほんの少し続いたが、しかし大した時間もかからずに状況はけっした。 やはり体格差があり、私たち2人は思いっきり放り投げられた。

 私は地面に再び転がっていき、小春は投げ飛ばされ、近くにあった壊れた土器が積まれてあったところに、がしゃんと崩れ落ちた。


 私は、友達を助けることもできないのか……。 仲間が攻撃されるのを守ることもできないのか……。

 私は地面を転がりながら無力感におそわれていると、そこへさらに別の声が飛んできた。 低く、猛々(たけだけ)しい声だ。


「おいっ! 何やってんだ、お前らっ!!」


 またこれも、聞きなれた声だ。 でも今度は、男の子の声だ。

 私は地面に手をつきながら目を上げると、今度はミツバが走ってきていた。 横にはマツリくんやヒノキもいて、男たちがいさましく激しい勢いで突っ込んでくる。

 その後ろにはイトやナツミなどもいて、どうやらさっきがけの所で一緒にいた人たちが、まとめてこっちに来たみたいだ。


 あぁ、助かった……。 私は地面の上でぐったりと力を抜きながら、そう思った。

 ミツバの姿が、こんなにたのもしく見えたことはない。 いつも適当でのんびりしてるけど、男らしいところもあるんだなあ……。 ははっww


 近くでは、男たちはようやく力を抜いていったようだった。 大勢でやって来たミツバたちを見て、ため息をついている。 さすがに相手が多く、が悪いと思ったんだろう。

 行くぞと言って、2人でその場を離れていく。


 なぐる気満々でその場に到着したマツリが、そんな男たちを見てぼそっとつぶやいた。


「……なんだ、あいつら」


 心底馬鹿にするように、男たちを見下している感じだ。 弱い相手に喧嘩けんかをして、男同士で戦いはしない……たしかにそれは情けないだろう。


 私は体を起こすと、近くの壊れた土器の山にけ寄った。 小春はまだ、土器の山にもれたままだった。


「小春! 大丈夫?」

「大丈夫じゃないに、決まってるでしょ! 見たら、分かるでしょ」


 壊れた土器の山を腕で振り払いながら、小春は激しい口調でぼやいた。 手足をじたばたさせて、なんとか体勢を立て直していっている。

 大丈夫かと、ミツバが差しだしてきた手も払いのけるようにして、小春は自分で立っていっていった。

 よかった、どうやら小春は大丈夫なようだ。 私は安心して、思わず笑みがこぼれた。


 近くでは、ハナが地面に転がったままだった。 どろと土にまみれていて、身体にはもはや傷がついているかも分からないぐらいだ。 呼吸はなんとかしているみたいだが、身体からだ痙攣けいれんしていていて、ほとんど動きがない。

 あれだけなぐられてられたのだから、損傷そんしょうは相当のはずだ。


 そばにしゃがんでいたイトは、その体を見ながら、切迫せっぱくした表情を浮かべていた。


「ハナ! ……千代ちよっ!」


 叫んで別のほうへと、助けを求めていく。 見ると向こうから、千代が急いで走ってきていた。 今となってはイトよりも千代のほうが医療いりょうに詳しいから、応急処置を頼もうということらしい。

 千代は肩に下げている風呂敷ふろしきみたいな救急きゅうきゅうセットを外しながら、急いでこっちに走ってきた。

 そのままの勢いでハナのそばにしゃがんでいくと、素早く体の様子を確認していく。


「あーあ、結構やったねえ」


 千代は軽い感じで言いながら、風呂敷救急セットを手元に置いていく。

 ゆっくりとハナを仰向あおむけにしていくと、ボロボロになった服装と体が目に入った。

 ハナは腕を上げて、顔をさえぎるようにしてかくしていた。 身体はだらんとなっていて、ほとんど力が感じられない。

 身体をひくひくと痙攣けいれんさせていて、どうやら泣いているようだった。 どろだらけになった顔の隙間すきまから、汗かなみだかが大量に見える。


「……大丈夫?」

「うーん、どうなんだろうね」


 そんなことを言って千代は適当な調子だが、ちゃんと的確に見ていっているようだ。 てきぱきと手を動かして、作業に慣れているように見える。


 その周りには、雨子やナツミたちも集まってその様子を見つめていた。

 この人たちは、結局スズネの様子が気になって来てしまったみたいだ。 この200年前は少し物騒ぶっそうなようだから、追ってきたのは正解だったのかもしれない。


 小春は応急処置の様子を一緒に眺めていたが、はあとため息をつきながら見るのをやめていった。 周りの景色を軽くながめていき、ふと思い出す。

 ……そういえば、スズネはどこかへ一人で行こうとしてるみたいだった。 男たちと喧嘩けんかして邪魔じゃまされたように見えるけど、それはんだのかしら。

 そう思いながら、スズネに声をかけていく。


「スズネ! あんた、どっか行くの?」


 そう言う小春の口調は、スズネの気持ちを重んじているみたいだ。 これだけ危ないことが起きたものの、一人でやりたいことがあるならそれでもいいということだろう。

 こしを下ろして治療の様子を見ていたスズネは、そう聞かれて顔を上げた。 ほんの少しじっと考えるようにしていたが、うんと頷く。

 小春は、しょうがないわねといった感じで、理解するように頷いた。


「そう。 ……まあいいわ。 私たち、ごはん作ってるからね!」


 一言そういって、小春は身をひるがえしていく。

 スズネはありがとうと言うように、小さく笑って頷くと、立ち上がって別のほうへと走りだした。

 はー。 ……そば屋探すわよ。(小春)

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