300年前の診療所……?
300年前に来てるぜ!
祭りの会場に行って、小春やミツバがブラブラしていた。 相変わらず小春は元気がなかったが……?
イトと千代は、通信の向こうの弥生と一緒に、3人で診療所へ向かった。
……しかし、妙な感じもする。 イトたちは、そもそも何をしているんだろう?
ここに来たのは、『時のはざま』の事件の調査のためではないのか?
『時のはざま』のことを知りたいなら、夜の時間に行けばいいのに、なぜその前の昼間を歩き回っているんだろう。 事件の犯人を知るにも、動機を知るにも、実際に『時のはざま』に行ってみないことには始まらない。
それに、『時のはざま』を実際に見たコガネが、いま目の前にいるのだ。 あの後どうなったかを本人に聞かなくていいのか?
イトたちは、本気で事件を解こうとしているんだろうか。
酒蔵の中でも、イトはお酒を集めるのに夢中で、事件の手掛かりを見つけようとするそぶりは見せなかった。 事件当日の細かい事実関係などを聞きこむこともしないし、ただぼんやりと300年前の村の様子を見ているだけのように見える。
よく分からないが、しかしイトたちは気にしていないみたいだ。 300年前の村の道をのんきに歩いて、景色を見ながら会話を楽しんでいる。
別にもう終わってることだし、ゆっくりしようということだろうか。 まあそれは、一理あるかもしれない。 よーし、のんびり行こうっ! イェイっっ!!!wwwww
歩いている千代は、通信の向こうの弥生に興味があるみたいだ。 病院づとめだと聞いたからだろうか、少し親近感を持っているみたいだ。
「弥生ちゃんって、病院に勤めてるの?」
『うん。 第3病院でね』
それを聞いて、千代は驚いた顔をした。
……第3病院は、一番症状が重い患者たちが集まるところだ。 弥生はおちゃらけているように見えるけど、結構すごいじゃん。
「へー。 私も、第1病院に勤めることになってね」
3人は話していると、診療所へ近づいてきた。 ちょっとだけ地面から高い位置に作られている、倉庫のような建物だ。 木材で作られていて、しっかりした作りだ。
医者の先生は、診察のために頻繁に一族の家を出入りしていたというから、一族の人たちとは親しかったのかもしれない。 一族の人たちの権力を借りて、特別に作ってもらったんだろうか。
今度は、通信の向こうの弥生が質問してきた。 千代も病院に勤めていると分かって、少し興味が出てきたみたいだ。
『へえ、そうなんだ。 生きてるときも、そういうことしてたの?』
「うーん、普段やる仕事とかってわけでは、ないんだけど。 自分で、勝手に調べてたんだ。 ……そういうの詳しい人、私のときにはいなかったしね」
『あぁ、そっか』
千代は、自分が生きていた200年前の、ソラを助けようとしていた時のことを思い出す。
……あの時にも、この時代みたいに医者の先生がいたらなあー……。 一人でわけ分かんないながらも治療して、大変だったんだよね。 間違った薬を調合して、ソラが珍しく本気でキレたのを憶えてるよ。
ついでに髪ぼさぼさのマツリに、ナツミまで風邪ひいて寝込んじゃったこともあったな。 『ねえ千代ー、こっち来てー』『おい千代、こっち早くやれよ』『うるっさい!』そんな会話をしてたっけ。
どうでもいいけど、マツリって風邪ひいた時までなんであんなに偉そうなわけ? ……まあいいけど。
階段を上がって、3人は診療所に入っていった。
診療所の中は、倉庫のような、ログハウスのような感じだった。 人は誰もおらず、がらんとしている。
奥の方には調合された薬が大量に置かれていて、種類で分けて器に入っているのが見える。 器は結構大きく、薬はたんまりと調合しているらしい。
それ以外には特に見るものはなく、普通の生活用品ぐらいしか置かれていないようだ。
扉を閉めて中へと入っていきながら、3人は世間話を続けた。 千代は今度はイトのことを知りたいらしく、仕事のことを聞いていく。
「イトは、どこの病院なの? ……見たことないけど」
『イトは軍属だよ』
「え、軍隊なの?!」
通信の向こうの弥生が代わりに答えてきたのに、びっくりして千代は立ち止まる。
……軍? 医者の手伝いをしていたっていう人が、軍隊に入るの?
人を助けるのと、殺すのと……。 真逆のように見えるけど。
『そう、毒とか研究してるみたいなんだよねー……。 あ、ここにもあるけど』
話の途中で、ふと弥生が何かを見つけたように言った。 部屋の中の何かに目をつけて、立ち止まったような様子だ。
……ここにあるって、どういうこと? 千代は怪訝な顔をして立ち止まった。
「……え? 弥生、どこにいるの?」
『ここ? ここは、城の中にある、私とイトの研究室だよ』
『城』には、色んな部屋がある。 大勢で楽しむ談話室があったり、一人で落ち着ける個室があったりするわけだが、中には研究室のような部屋もあるのだ。
イトと弥生が作った研究室もあり、一緒に薬や毒、お酒などを研究している。 部屋の中には2人の区画が混ざり合っていて、色んなところに薬などがごちゃ混ぜになって置かれている。
いま弥生が歩いている周りには大きな棚があり、その中には薬か毒か、あるいは酒なのか……色々な液体が、透明な容器に入ってずらっと並んでいた。
弥生は研究室の中で、自分の研究をしながら通信で話しているようだ。
「ここで、イトはお酒の研究とかもしててね。 私は、薬の研究してるんだけど……お! このお酒、美味しそうっ!」
棚の横を歩いていた弥生は、ふと立ちどまると一つの容器を手に取っていった。 別の容器を片手に持って、ズンズンと液体を注いでいく。 どうやら飲むつもりらしいが、イトが作っているお酒ではなかったのか? 断らなくていいのだろうか。
「へー! ……今度、私も行ってみよう」
研究という言葉を聞いて、千代は興味を持ったようだ。 明るい表情を浮かべて、独り言のように呟いている。 どうやら千代も、研究が好きらしい。
一方で診療所の中では、イトは薬を調べていっているようだった。 床に並べられた器を、素早く確認していっている。
自分が死んでからせいぜい1年しかたっていないし、物の配置などは大して変わってないのかもしれない。
せっせと調べていくイトの背中を見ながら、千代は今度は別の話を思い出したみたいだ。 なんとなしに、聞いていく。
「そういえば、この時代って、失踪する子供たちが多く出たって話だったよね。 ……イトが死んでからだっけ?」
ぷっはーっ! と、通信の向こうから声が聞こえた。 どうやら弥生が酒を飲みまくっているらしい。 めっちゃ気持ちよさそうな様子だ。
失踪者の話をつまみにして、トプトプと酒を手元に注いでいきながら、弥生はそっけなく答えた。
『あぁ、でも、この島じゃそういうことって、たまにあるらしいから』
「……えぇ、なにそれ」
ドン引きしたように、千代が唖然として言う。
……たしかにこの島は元気な人が多いが、それにしたって失踪者が日常的に出る? そんなこと、あるものだろうか。
通信の向こうの弥生が続けた。
『それに、この時代の先生って、それも治療しようと頑張ってたんじゃなかったっけ?』
失踪するほど元気な子供を、治療する……。 たぶん性格的なものだろうから無理だろうが、先生は治療しようとしていたらしい。
確認作業を続けながら、イトは頷いた。
「うーん、私はやらなくていいと思ったんだけど……。 結局、結構失敗したらしいし。 間違った薬を調合して」
「えぇ、そうなの?」
医者の先生は凄腕だったと聞くが、失敗もしていたようだ。 でも間違った薬を調合って……。 それって、ヤバいんじゃ……?
『ぅあっ!! ……あっ、苦しいっ……!』
突然、通信の向こうで弥生が絶叫した。 話は霧散して、千代はぎょっとして我に返る。
ちょっと何?! 弥生は酒を飲んでいるみたいだったけど、もしかして毒と間違えて飲んでしまったの?!
千代は髪飾りに手を当てて、慌てて大声で呼びかけた。
「え?! 弥生、どうしたの?!」
『……うっそー! ごめんw』
けろっとした声が、向こうから聞こえてきた。 どうやら悪戯だったらしい。
千代はイラっとしたように黙り、無表情になる。 ………………あ”あああああああーーっっっっ!!!!! ……なんだろう、この気持ち。 いま全力で叫びたいのは、なぜだろう。
弥生は人をおちょくる質なんだろうか? 知り合ったばかりだというのに、悪戯を仕掛けてくるなんて。 弥生は人懐っこい性格なんだろうか。 そういうのは、私はもうナツミだけで充分なんだけど。
通信の向こうでけらけらと楽しそうに笑っていた弥生だったが、何があったのか、今度は突然真面目な声になった。
『……あれ。 今の、何?』
「え、何?」
……何の話? 今の? 次から次に、気分が変わるなあ。 今度は何だろう、またまたからかってるんだろうか。
しかし弥生は真面目な調子だ、怪訝な声で言う。
『いや……扉のほうとか、誰かいなかった?』
「扉?」
促されて、千代は入口を振り返った。 扉は半開きだが、誰も見えない。 なにか変な物音のようなものでも聞こえたんだろうか?
千代は身を返すと、入口へと歩いていく。
「何? ……またからかってる?」
『いや、違うって! ……なんか、誰かいたような気がしたんだけど……』
千代は扉を開けてみるが、外を見ても、やはり誰もいない。
「誰もいないよ?」
『あ、ごめん、勘違いかも』
なあんだ、びっくりしたじゃん。 いきなり変なこと言わないでよね、もう。
どうやら弥生の勘違いだったようだ。 たぶん通信を通して物音でも聞こえたんだろうが、気のせいだったらしい。
千代は安心して外の景色に目をやっていると、今度は外の方から自分を呼ぶ声が聞こえた。
「千代ー!」
ん? ……私? また今度は何だろう、この診療所は忙しいなあ。 ふたたび外に目をやって、声がした辺りを見てみる。
ひとりの女の子が、こっちに向かって手を振っていた。 少女はキラキラした笑顔で、みずみずしく汗を振りまいて走ってくる。
見たこと無いように見えるが、見たことあるようにも見える。 品があって、真面目な感じで……。
あぁ、現代の街の長のハルじゃん。 ハルの長じゃん。 ハルの長のハルじゃん。
「あ、ハル」
「ごめん、遅かった?」
さっき通信した時に300年前に来ると言っていたが、今ついたらしい。 街の長だからやることがあって忙しいだろうが、用事が終わったんだろう。
ハルはその場に着くと、勢いよく階段を駆け上がってきた。 元気が良くて、とても80歳とは思えない。
入り口に手をかけて、慣れた感じで診療所を覗き込んでいく。
「イトー……。 どう?」
奥の方で調べものをしていたイトは、確認を終えたようだ。 部屋を見回しながら、入り口のほうへと戻ってくる。
「うーん。 ……別に、何も問題はないね」
「あぁ、そう」
入り口のところに立ったハルは、納得しているようだった。 腰に手を当てて診療所を眺めながら、やっぱりそうよね、というように頷いている。
……ん? ハルは、ここに何も手掛かりがないことを分かっていたのか? この様子を見るに、何も問題がないと確信していたように見える。
一体どういうことだろう……。 ハルは、他の人が知らない『時のはざま』のことを、何か知っているんだろうか。
「そうだ、ハル、これ」
入り口で立ち止まったイトは、思い出したようにポーチを開いていった。 取り出したのは、通信用の髪飾りだ。 忙しくて渡す暇が無かったのか、ハルは持っていなかったみたいだ。
それを見て、ハルは嬉しそうに声をはずませた。
「あ、これ、欲しかったの! ……よし、似合う?」
さっそく髪飾りを頭につけて、ニカッと笑う。 目の前のハルは、若くて元気がありながらも少し品があった。
現代の街でも指導者らしく綺麗なふるまいだったが、それは経験によってではなく元々の性格だったようだ。
「うん、可愛い」
千代が笑ったのに、ハルも顔を崩すようにして笑った。 街の長としては、素直な顔はあまり見たことがないから新鮮だ。
会話を聞いて楽しくなったのか、今度は弥生が別の話を始める。
『そうだ、私も、服作りたいな! ハルも、作ってるんでしょ?』
最初は恥ずかしがっていたが、イトが無理やり城につれてきて、一緒に新しい服を作るようになったらしい。 最近は、いい気分転換になると言って、城に顔を出しているみたいだ。
ハルは診療所の中を見回しながら答えた。
「そうだよ。 城の2階で作ってるから、今度来たら?」
「……あ! ハル、この祭り当日って、ハルは何してたの?」
日常会話の中で、突然イトが思いついたように話を変えた。 鋭い眼光を向けて、ハルを睨むように見つめる。 お! ようやくイトが、探偵らしいことを始めた。 アリバイチェックの時間のようだ。
ハルは確かに、結構怪しい。 街の長でいる時は笑顔なのに、裏では黒いことを考えてそうな……。 ヤバい判断も冷徹に下しそうな恐ろしさを感じるのだ。 赤ちゃんが降霊されたのを処理した時も、淡々としてたし……。
突然疑うように質問されて、ハルは軽やかに振り返った。 きょとんとした顔を浮かべて、指を口元に当てている。 いかにも可愛らしい少女だが、やはり腹黒さが感じられるのは気のせいだろうか。
「私? ……えーっと、一族の家に行った後は、いったん診療所に戻って……、今頃は、祭りの準備に行ってたかな? その後は、ずっと祭りの会場にいたけど」
なるほど。 つまり、自分にはアリバイがあると主張しているらしい。
「あーね。 ……先生は?」
イトが、思いつくように聞いた。 医者の先生のアリバイチェックの時間だぜぇぇっっ!!!ww ハルはあっさりと答えた。
「先生は……昨日一人で島の外に飛び出して、まだ帰ってきてないよ」
「あぁ、そう」
相変わらず、先生はヤバい人らしい。 海に、一人で舟をこいで飛び出していったのだろうか。 イトはどうでもいいように聞き流しているし、これが通常運転なのが恐ろしい。
ともかく医者の先生は、『時のはざま』には直接的には無関係ということなんだろうか……。
会話をしていると、別の通信の声が入ってきた。 今度は聞きなれた歌子の声だ。
『長! 準備が整ったみたいなので、来てください!』
通信の向こうは、なにやら慌ただしい様子だ。 公的な仕事がらみで、何かが起こっているんだろうか。
通信を聞いて、ハルは見上げてため息をついた。 はあ……せっかく来たのに、もう戻らなきゃいけない。 街の長って大変ね。 そんな感じで、苛立ちまぎれに不満を漏らす。
「あぁ、もう。 イトも、来る?」
ん? ……公的な仕事なのに、なぜイトを誘うんだろうか。 しかしイトは違和感がないみたいだ、頷いて賛同した。
「分かった。 千代たちは?」
「私はもうちょっと、ここ見ていく。 ……色々、勉強しなきゃ」
そういって千代は、部屋の中を眺めて息を吐く。 千代と弥生はここに残って、まだ見てみたいものがあるらしい。 凄腕の医者の診療所だし、勉強できることがあるということだろうか。
イトは理解したように頷くと、ハルと一緒に診療所を出ていった。
……変な感じだ。 しまいには次から次によく分からない話をしていて、誰の話の流れも分からなくなってくる。
結局、彼らはここで何をしたんだろう?
時のはざまで起こったことは、核心的なことは何一つ分かってない。 酒を持ち帰って、適当に散歩して、診療所で雑談して……。 やはりイトたちは、事件の真相を解く気がなかったように見える。
それどころか、なにか別の裏事情が動いているような雰囲気でもある。
……一体、何が起こっているんだろう……?
イワシ大量ーーーーっっ!!! フォォォアァァッッッツ!!!!!!!wwww (ミツバ)
イェェーーーェイッッッ!!!!!!wwwww (アキラ)
フゥゥゥゥッッッ!!!!!!!!!wwww (コガネ)




