ユメグループ!
いよいよ、鬼退治が始まった!
歌子グループは早々に壊滅、スズネグループは一応OKだ。
さて、ユメグループは……?
ユメグループは、もう目的の憶え屋の近くにまでやって来ていた。
こちらは元気なナツミと大陸出身のヨウが先陣を切って、勢いよく先へと進んでいるようだ。
その後ろにはユメと、別の地方の出身の軽い感じのススキの2人が、ブラブラと歩いていっている。
「ほら、ユメ! 早く!」
前を行っていたナツミが、急かすように手招きしてきた。 遠くを眺めながら歩いていたユメは、それを聞いて足を早めていく。
どうやらこの2人は、知り合いではなかったらしい。 夢見酒のことでナツミに嘘情報を吹き込まれたりしていたが、あれは一体どうなるんだろう。
ユメが歩いていると、近くにいたススキが話しかけてきた。
「ねえ、ユメって、なんか変なこと考えるんだって?」
話を振られて、ユメは振り向く。
……このススキさんって人とは特に話したことはないが、どうせどこかで聞きつけたんだろう。
っていうか、変なことを考えるって? 変なことってなによ、失礼ね。
そう思いながら、ユメは頷いて適当に答える。
「あぁ、まあ、はい」
「へーw どんな時代にも、いるもんだなあw」
ススキは楽しそうに笑って、ウキウキしている。
私はススキさんのことは、よく知らない。 大陸に行って、勉強会のミツエダさんと一緒に冒険した人らしいけど。
生まれたのはこの島ではなくて、近くにあるもっと大きな島だと聞いた。
大陸に冒険に行くぐらいだし、好奇心が強いのかな。 もしかして、私と似たタイプなんだろうか。
「……ススキさんも、考えるんですか?」
それを聞いて、ススキは腕を組んでうーんと考え始めた。 眉をひそめてそらを見上げて……。 あら、そんなに頑張って考えなくてもいいんだけど。
「うーん、俺は、ちょっと違う方向だけどね。 いろんな世界の可能性を考えるのが、好きっていうか」
「……世界?」
いろんな世界の可能性? ……どういうことだろう。
前を見ると、ナツミとヨウが物陰に隠れていた。 次の道の安全を、確認しているみたいだ。 顔だけ出して、2人できょろきょろしている。
私たちはそこへ近づいていき、一緒に物陰に隠れていった。 身をひそめながら、話を続ける。
「そう。 ほら、それぞれの場所はさ、全然違う……なんていうか、理があるじゃん? 砂が多くて水が無いとか、ここなら霊がいるとかさw」
砂漠の街があって、緑に覆われた街があって……。 それぞれの場所には、異なる特徴があるってことだろうか。
気づくと、前にいたナツミたちは陰から出ていった。 近くに警備隊の人がいないか、確認ができたみたいだ。 私たちも陰から出ていき、話を続ける。
「そういうのを考えるのが、すごく好きなんだ。 ユメはほら、身近なもので考えるじゃん? ……記憶とか、言葉のやり取りがどうだとか」
日常生活の中での実用的な魔法を考えるのと、異世界を考える、みたいな違いなのかな?
たしかに言われてみれば、そうなのかも。 変なことを考えるのでも、方向性が違うってことか。
……でも、私も別の世界を考えるのも、楽しくてワクワクする。
雨子たちが見つけたという、『異国』の話……。 お酒の入れ物がずらっと並んでいて、砂の牢獄があって、巨大な建物が立ち並んでいて……。 そんな光景を考えると、私も心が躍るような気分になる。
「でも、それも分かります。 いろんな世界の話を聞くの、私も好きだし」
横のススキは、ふうんと呟いて頷いた。 気づけば目の前には、目的の憶え屋が近づいていた。
ユメたちがたどり着いた憶え屋は、最近新しく作られた店舗のようだった。 石造りで組まれていて、見上げるほど大きい。 憶え屋の建物も、どんどん進化しているようだ。
中も新しいデザインになっていて、整った大きな部屋が広がっていた。 近くには立派な受付があり、向こうのほうにはまるで小さな図書館のように、たくさんの棚が並んでいる。
上からは月明かりが入ってきていて、薄暗い部屋の中は、ところどころに光が照らされている。
一行は中に入っていくと、扉を閉めていった。 ガチャンと音が響いて、外の音が締め出される。
「よし。 ……じゃ、探そうか」
ヨウは気軽な感じで呟き、先を歩いていく。 他の人も部屋の様子を眺めながら、中へと進んでいった。
部屋の中には、たくさんの棚が並んでいる。 一つ一つの棚には、紙がぎっしりと詰め込まれている。 この全ての紙が、みんなの口座の記録なんだろう。
これを一つ一つ探していって、目的の口座を見つけるのだろうか? ひーっ! それは大変だ。
ランプのような明かりを手に持って歩いていたナツミが、ふと気づいたように立ち止まった。
「あ、これちょっと持って」
そういって、持っていた明かりを隣のヨウに押し付ける。 ナツミはごそごそと懐を探って、紙きれを取り出した。 どうやら文字表のようだ。
憶え屋では、少し前から『異国文字』を使うようになった。 歌子たちが洞窟から持って帰った石ころに書かれていた、不思議な文字……。 この『異国文字』は発音に沿っているから、現代日本のひらがなと同じで、漢字よりも使いやすい場合がある。
周りの棚を見ると、一つ一つの棚には、この『異国文字』が書かれているのが見える。 棚で口座を整理するのには、分かりやすいように発音順で並べるようになったのだ。
『あいうえお』のひらがなみたいな感じだ。 ユメの口座を探したかったら、『ゆ』のところを探せばいいのだ。
こんな風にして、最近では異国文字と漢字を使い分けるようになった。
手元の文字表を見ながら、ナツミが呟く。
「えーっと……この順番に並んでるんだったっけ」
目的の口座の人の名前が分かっているわけではないが、果たして文字表なんか役に立つんだろうか。 しかしナツミは熱心に文字表を眺めている。
棚の列に入っていき、さっそく探しにかかっていく。 他の人も続いて、目的の口座を探し始めた。
「うーん、ここでもないか……」
ヨウはそういって、持っていた紙束をばさっと置く。 少し疲れたような表情を浮かべていて、退屈そうだ。
あれから随分探したが、目的の口座は見つからない。 そりゃそうかもしれない、これだけ大量の口座があれば、簡単には見つからないだろう。
向こうのほうでは、ユメも手伝って探しているみたいだ。 棚の前で紙束を手に取り、パラパラと眺めているのが見える。
とはいえ、人の個人口座もある中で探していくとは……。 個人が秘密にしたい記録などもあるかもしれない中で、ヤバいことを簡単にするものだ。
ふと、近くの棚で探していたススキが、手元の紙を眺めながら声を上げた。
「あっ、これか? ……時間限定、真夜中のみ」
お、見つかったっ!? 近くで探していたナツミが、それに反応した。 自分の持っていた紙束をバサッと置いて、こっちに向かって歩いてくる。
ついに『鬼』が、見つかったんだろうか?! ススキは持っている紙束の内容を、読み上げ始めた。
「『今日は、東の山に行った。 山の空気を吸うと、霊でも生の感覚を思い出すという話を聞いたのだ。 生の感覚を忘れたわけではないが、近頃は葉っぱの匂いを感じたくなる。』……なんだこれ、日記か?」
見た感じでは、日記のようだ。 山の空気を吸う? 生の感覚……。
幽霊は人によるが、感覚が鈍くなる人がいるという。 触っている感触が感じられなくなったり、暑さや寒さを感じにくくなったり……。 その話なんだろうか?
しかし、まったく『鬼』のようには感じられないが……。
読み上げるのを聞きつけて、ヨウも近づいてきた。 3人で紙束の中身を覗き込み、読み進める。
「……『今日は、崖のふもとに来た。 目の前に崖を見てると、無性に土や石を、口の中にほおばりたくなる。 昨日は葉っぱを食べたかったが、今日は石だ。 私は、おかしいのだろうか。』」
……あれ? まさか、これは『何でも食べる鬼』の話なのか?!
土や石をほおばりたくなる……。 味覚や嗅覚を感じないから、無理やりにでも感じたくなるということだろうか。
日記を読み上げていると、向こうからユメが戻ってきた。
周りの棚を眺めながらゆったり歩いていたユメだったが、読み上げている内容を耳にすると、あっと声を出して駆け寄ってきた。 慌てたように3人のところに来ると、一緒に紙束を覗き込んでいき、ぼそっと呟く。
「……あ、これ私の」
なんと、これはユメの日記らしい。 『鬼』は、ユメだった?!
山の空気を吸いたくなって、葉っぱを食べたくなって、石や土をほおばりたくなって……。 さっき聞いた悩みとは別に、こんな悩みまであったらしい。
ユメの日記だと分かり、ナツミは突然ウキウキしだした。 大声を上げて、はしゃぎだす。
「え、ちょっと待って!w ユメの?」
そういって紙束を手に取り、面白がるように覗き込んでいく。
ユメは苦しそうな顔を浮かべて、腕を伸ばして紙束を掴もうとした。 しかしユメの腕は透明で透けていて、すっとナツミの体を通り抜けてしまう。
ナツミが笑いながら、続きを読み始めた。
「『また、暑い日が来たらしい。 しかし、私は何も感じない。 ミツバの首筋に汗が流れてるのを見て、変な気を起こしてしまいそうだった。 もう、自分が嫌になる』」
ミツバの首筋に流れている汗? 変な気を起こすって……。
さっきの話からすると、もしかして舐めたくなるとかなんだろうか。 後ろからぼうっとミツバを眺めて、黙ってハアハアして興奮しているユメの姿が思い浮かぶ。 フゥゥゥゥッっっっ!!! ユメ、エロいぜっっっ!!!!!!wwwwww
どうやら人の血をすする鬼とは、これのことらしい。
自分の日記が朗読されるのを聞きながら、ユメはしゃがみこんで頭を腕の中にうずめていった。
……あぁ、もう最悪だ。 なんて日だ……小春たちに悩みを聞かれるし、別の変な悩みまで聞かれるし……。
一緒に紙を覗き込んでいたヨウが、手を叩いて笑った。
「なるほどなw まあ、聞いたことはあるけど。 ……石を食いたくなるのは、初めて聞くな」
おそらくユメは、幽霊になって感覚が鈍っているんだろう。
『まぼろし』の物体を作り出す練習に励んで、空を飛ぶ練習もして……。 自由になる練習をしても大して成果がないにも関わらず、感覚だけが鈍くなっていったのかもしれない。
前に、元気な巫女のアマネと一緒に未来研究所に行ったことがあった。 床に整然と紙が並べられていた、研究所の部屋……。 あそこに行った時なども、床に並べられた紙を無視するように歩いているようだったし、ちょっとは物理法則を無視できるようにはなったんだろう。
でも、結局大して自由に動くこともできず、感覚だけが鈍くなっていった……。
ナツミはまだ笑っている、けらけらと笑いながら、そばにしゃがみ込んできた。
「ユメ、大丈夫? 『土や石を口の中にほおばりたくなる』? ……なにそれw」
「おい、ユメ、大丈夫か?w」
一緒に笑いながら、ススキもそばにしゃがんでくる。
こんな悩みは、他では聞いたことがないんだろう。 分かってるよ、私もおかしいってことぐらい。
俯いていたユメは顔を上げると、はあとため息をついた。
「夜中にこんなの書いてたの? ユメ、楽しいねw」
「でも、なんで夜限定なの? ……これ、名前『ナミコ』になってるし、非公開口座なんだから、どうせ分かんないだろ」
どうやらユメのこの日記は、匿名で作っていたらしい。 非公開にまでしていれば、普通は人に知られることはないだろう。
それに加えて、夜限定にしておいた……。 大体ユメは、どうやってこの日記に書き込んでいたんだろうか。
ユメはしゃがみこんだまま、ぼうっとして答える。
「んー……。 別に、意味は無いけど」
「いや、違うよ、ススキ。 夜にだけ、留めておきたい気持ちってのが、あるんだよ」
「意味わかんないけど」
2人が適当に話していると、突然ユメが立ち上がって大声を上げた。
「あーっ! ……もう、帰ろう」
一言呟いて、ユメは憶え屋の出口へと歩きだす。 馬鹿にされすぎて、やりきれなくなったんだろうか。
「あっユメ!w ごめんって、ちょっとからかいすぎたっ」
「ナツミ! ……これ」
笑いながら一緒に立ち去ろうとするナツミを、ヨウが呼び止めた。
見ると、ナツミが棚から出していた紙束が、その辺に散らばっていた。 ぐちゃぐちゃになっていて、後片付けをしていないみたいだ。
「は? ……あぁ」
ナツミは一瞬きょとんとしたが、やがて理解したのか、イラついたような顔でズカズカと戻ってきた。 元いた場所に戻ってくると、適当に紙束を、苛立ちまぎれに棚の中に入れていく。
自分の間違いを指摘されたことに、苛々しているんだろうか? だとしたら、あまり丁寧とは言えないかもしれない。
3人は片付けを素早く終えて、ユメを追いかけていった。 ユメはまだ憶え屋の中にいて、ゆっくりと出口へ向かって歩いていた。 3人が来るのを待ってくれているんだろうか。
3人は追いついて、並んで歩きながら話していく。
「じゃあ、これが、鬼の噂になったってこと?」
「そうなんだろうね」
何でも食らい、人の血を求めて彷徨う鬼……。 蓋を開けてみれば、こんなことだったとは。
ユメがどうやって、この日記を記録したかは分からない。
社長権限でも使って、日中に記録させたのか。
夜中に職員を叩き起こして、眠い目をこする職員を壁の向こうに立たせて、マツリに言ったように壁越しに話したのか。
それとも自分で夜な夜なここに来て、一人で日記に書き込んだのか……。
いずれにせよ、ふつうは日記の中身は洩れないはずだ。
ススキが深く考えるように言う。
「まー、憶え屋って、人がやってるからなー。 ……洩れることも、あるよな」
機械のシステムではないから、いくらでも洩れる可能性はある。 憶え屋の職員自身が噂を流したりすることすらも、考えられるのだ。
人が絡むと、ややこしくなるなあ……。 そんなことを考えながら、4人は憶え屋を後にした。
よし、そろそろ寝よう。(ユメ)




