鬼退治、現地集合!
ユメの悩みを聞いたわよ!
……まあそれはいいわ。 ともかく、鬼退治の時間よっ!!
それから時間がたち、夕方になった。 どうやら憶え屋内では、鬼の話が広がったみたいだ。 結構な人数が鬼退治に名乗りを上げて、一大イベントみたいになってきたっ!
参加する人は、夕方に街の一角で集合だ。
歌子は、親には適当な言い訳をして、弟と妹の2人を連れ出した。 2人も鬼の話をどこからか聞きつけて、自分たちも行きたいとせがんできたのだ。
まったくしょうがないなあ、2人とも、準備はいいっ?! さあ行くよーっ!!
テンション上げて家を飛び出し、キレて追いかけてくるお母さんを走って振り切る。 ふう! いい汗かいたな。
集合場所には、すでに多くの人が集まっていた。 小春やスズネたちをはじめとして、他にもいろんな人がいるようだ。
ことば所で勤めている、生身友達のツムギちゃんがいて……。
生き生きしたおっさん臭い顔の、ススキやヨウがいて。 ……誰だっけ、この人たち? えーっと、ミツエダお姉さんの冒険仲間だった人たちかな。
山で降霊されて、のろしの所でミツエダお姉さんと話したみたいだけど……多分誰も憶えてないよね。 OK、次行こうっ!
他には、精神科の仕事を始めた、ナツミとタンポポちゃんのコンビもいるみたいだ。 へえ、結構色んな人が来てるんだなあ。
聞いた話では、お泊りパーティーは私たちの『城』でやるらしい。 雨子は先に行って準備をしておくから、鬼退治には来ないんだって。
フワフワ浮いたホナミの姿も見えない。 ホナミは鬼には興味ありそうだったけど、やっぱりどうでもよかったのかな。
集まった人々を眺めながら、歌子が弟と妹を連れて走ってきた。 両手に2人と手をつないで、パタパタと足音を鳴らしてくる。
「あぁ、みんな来てる!」
「歌子!」
スズネが気づいて、手を振ってきた。 これから鬼退治をするからかウキウキしていて、笑顔が3割増しぐらいで楽しそうだ。
他の人たちと話していたナツミが、到着した歌子たちに気づいて振り返った。
「あ! それ、弟くんたち?」
「そうだよ。 生身は、多い方がいいかと思って」
説明する横で、ナツミは腰をかがめて弟のほうに向かっていく。
「よっ! 元気か?」
「おい、何だお前」
「ははっ、かわいー!w」
そんな感じでじゃれ合って、ナツミは楽しそうに天を仰ぐ。 子供が好きなんだろうか。
今度は別の人がこっちに来た。 ミツエダの大陸横断を一緒に行った、別の地方の出身のススキだ。
ススキは軽い性格らしく、手足をブラブラさせながら近づいてきて、気軽に話しかけてくる。
「なあ、夜半警備隊っていうのがあるって聞いたんだけど。 うろうろしてて、大丈夫なの?」
夜半警備隊は、その名の通り夜の間だけ活動する警察組織だ。 街の道を歩いたり、藁と木でできた建物の中を通って見回ったりして、安全を確認するのだ。
夜の間に出歩いてはいけない、なんて規則がこの街にあるわけではない。 しかし、怪しいことをしてたりすると職質を受ける場合があるらしい。
近くにいた小春が、どうでもいい感じで会話に入ってくる。
「そうよ。 私、前、夜中にうろうろしてたら、呼び止められてね」
「小春、何やってたの?」
不毛な会話をよそに、ミツバが周りに集まった人々を眺めながら言う。
「見つかったら、多分色々聞かれるぞ」
これだけ大勢でぞろぞろ歩いていたら、確かに職質は受けそうだ。 それは面倒くさいなあ。 なにか、誤魔化せる方法はないものか……。
歌子がうーんと唸っていると、近くで静かに黙っていた精神科のタンポポちゃんが、ぼそっと呟いた。
「……潜入するとか」
不穏なことを、さらっと言うものだ。 スズネは驚いて、まじまじとタンポポちゃんを見つめる。
……タンポポ……。 前に見た時は、素直で良い子だったのに。
精神科の仕事をするようになって、感覚がマヒしてきちゃってるのかな。 それとも、元々こういう性格だったりして。
「タンポポ。 ……そんな、アレだったんだ。 あ、ユメー!」
気づくと、向こうにユメがいた。 のんびりマイペースに、景色を見ながら歩いてくる。 集合時間は決まってないから、ゆっくりしていこうぜ!
一方こちらでは、みんな適当に話していて、ぐちゃぐちゃになってきた。
ミツバが適当な会話を始めて、妹が楽しそうに歌を歌い始めて、ナツミが爆笑していて……。 リーダーがいないと、到底まとまらなさそうだ。
そんな中でも、冒険仲間のススキやヨウは、まだ真面目に事を運ぼうとしているようだ。 ススキが、頭をひねりながら聞いてくる。
「ていうか、どこの憶え屋に行くの? 憶え屋って、いくつもあるんだろ?」
憶え屋は店を次々に作っているから、街の中に支店がたくさんある。
一つの口座は、一つの憶え屋だけに記録されるのが普通だ。 意図的に全ての憶え屋で作って、『どの憶え屋でも入れるバーチャル歴史所』などを作ることもできるが、普通はそうではないのだ。
だから、ある口座を見つけようと思ったら、その口座が保存されている憶え屋をまず探す必要がある。 しかし、全ての憶え屋を回るのは現実的ではないだろう。
横から、今度は大陸出身のヨウが会話に入ってきた。 ヨウは結構頭がいいようだ、この街に来て日が浅いのに、憶え屋の仕組みを理解しているらしい。
「たしか口座の中身は、かぶって記録されることはないって聞いたよ。 それぞれの憶え屋で保存されてる内容は、全部違うって」
「あ、そうなんだ」
「おい、弟、何食ってんだ? ちょっとそれ、俺にもくれよ」
「ねー、どうすんの? 行くの? 行くよ?」
「ふーん、なんか難しいわね。 もう、どこでもいいんじゃない?」
もうごちゃごちゃしてきて、会話もとっちらかっている。 そんな中で、ヨウたちだけが、まともなことを話し続けている。
「だから、その『鬼』が出る口座がどこにあるかを、知る必要があるんだけど」
「あー……でも、私の口座以外は知らないし……」
スズネは頭をかいて答える。
問題はそれなんだよなー……。 あれから鬼の話をもう一度調べたけど、大した情報は得られなかったんだ。
鬼は、『真夜中だけの口座』に現れるという話だった。 一見意味は無いように見えるけど、そういう口座を作ってる人って、他にも作ってる人はいると思うのだ。
そうこう話していると、その場にユメが到着した。 随分ゆっくり歩いてきたみたいだ、まだ周りの景色を楽しんでいる。
到着したユメに気づいて、ススキが声をかけていった。
「なぁ、ユメ。 憶え屋って、全部でいくつ店があるの?」
そんなこと、憶えてるわけないじゃん。 あんた、私が記憶力悪いの知らないの? 知っときなさいよ。
内心キレつつも、立ち止まってユメは考えを巡らせる。
「えーっと……たしか、十いくつか作ったっけ……」
「多分、21じゃないかな。 さっき、見て回ったんだけど」
ヨウが、あっさり否定する。 なによ、私が答えるまでも無かったじゃない。 まったく、無駄に恥をかいたわね。 そうは思わずに、ユメは頷いて答える。
「あぁ、そうかも」
「え?! それ、全部回るの? マジぃ?!」
横から話を聞きつけて、ナツミがめっちゃ面倒くさそうな口調で入ってきた。
1つの憶え屋を確認するだけでも大変なのに、全部を回るなど到底無理だ。
ユメは街の景色を振り返り、遠くを眺めて答える。
「あぁいや、でもいくつかに絞れると思う。 鬼の話、さっき憶え屋の人たちに聞いて回ったんだけど、4つぐらいには……でも、あそこのは最近作ったばかりだし、じゃあ3つかな……」
よく分からないことを、ブツブツと言っている。 どうやら社長権限で、憶え屋の職員の人に鬼のことを聞いて回ったみたいだ。
現実的な数に絞り込めるなら、手分けすれば見て回ることは出来るかもしれない。
ススキは理解したように、頷いた。
「じゃあ、回れそうだな」
会話を聞いて、小春のテンションが上がってくる。
よっし! よく分かんないけど、いい感じになったんじゃない? じゃ、さっさとやっちゃいましょう! そんで、帰ってお泊りパーティーよっ!!
「よし、そうと決まれば、作戦会議よっ! おー!!」
「おーっっ!!」
誰も言わない中でスズネが続き、2人だけでこぶしを突き上げる。
モグモグ……よく分からんけど、うめえな、これ。 (ミツバ)




