『時のはざま』の話!
祭りの会議に行っていたユメ。 小春やマツリたちがごちゃごちゃやってるのを無視して、先に一人で抜け出してきたよ。
先に会議を抜け出して、ユメは一人で歩いていた。 閑静な住宅街の中には、暗い夜の下で、ところどころに明かりがともっている。
祭りの会議は、つまんなかったね。
本当はちょっと期待してたんだけどね……今年こそは、面白いことが起こるかもって。 結局いつもと同じで、平凡で、退屈だった。
マツリくんは、頑張ってたみたいだね。 一言だけ案を言っただけで、引っ込んじゃったけど。
……私が援護射撃するとか言ってなかったかって? そうだっけ、もう忘れた。
もっとぐちゃぐちゃに破壊してくれると思ったけど、そうでもなかった。 あの人、意外とまともだな。 面白い素質は、あるけど。
ユメは偉そうに考えていると、自分の家に近づいてきた。 その手前にはイトの家がある。
……私たちの家って、じつは隣同士なんだよね。 横に住んでて、顔を合わせる機会が多かったんだ。
でも、それがきっかけで仲良くなったわけでは、ないんだけど。
2人ともコミュ力ゼロで黙ったままだからね。 朝すれ違う時、黙って会釈して、帰って来て、黙って会釈して……。 歌子を通じて知り合うまでは、世間話もしたことなかったんだ。
……あれ? 誰かいる。
イトの家の前には1人、玄関の前で座り込んでいる人がいた。
見ると、イトだ。
イトの家の前で、イト自身が、腕を抱えて座り込んでいる。 ……どういうことだろう。 一見自然だけど、考えてみるとおかしい。 雑に作られた岩の家で、鍵を忘れたわけでもあるまいし、さっさと家の中に入ったらいいのに。
「イトー」
声をかけて近づいていくと、イトは顔を上げてこっちを見た。 しかし、すぐにまた腕の中へと顔を伏せていく。
……どうしたんだろう? 何か落ち込むようなことでもあったのかな。
私は近づいていき、隣に座っていく。
ふう。 ……あ、星がきれい。
星空を眺めるのが、私の楽しみの一つだ。
花を眺めたり、木を眺めたり、夜空を眺めたり……。 目で何かを見るのが、好きなんだ。 でも、手で触ったり、匂いを嗅いだりするほうが、本当はもっと好きなんだけどね。
「……時のはざまっていうのが、分かってきて」
イトが、ぼそっと話し始める。 うわ、びっくりした。 もしかして、私に話を聞いて欲しいのかな。
「あ、そうなの?」
時のはざま……。 『コガネさん』という降霊能力を持つ一族の人が、当時のことを振り返って、自分の体験したことを投稿しているということだった。 事件の話だけでなく、生活の様子までこまごまと語っているようだ。
イトは連絡を取ろうとしているらしいが、ことごとく無視して、自分の気分だけで一方的に投稿していっているということだ。 まったく、この街はマイペースな人が多すぎないか?
ユメは他人事のようにぷんすかと憤っていると、横でイトが語りだした。 投稿されたコガネさんの回想で、300年前の、『時のはざま』の話のようだ。
「『気が付くと、蔵の中にいた。 辺りを見回すと真っ暗だ。 うとうとしていたら眠ってしまってたんだろう。
昼間には蔵の中に入ってくるはずの明かりが全くない。 今は夜ということか?
まだ起きたばかりで頭がぼんやりしていて、感覚がはっきりしない。
手探りで歩き、部屋の端にあるハシゴのところへとたどり着いた。 この蔵は一族の蔵で、半分地下にある。 上へ行くと、そのまま一族の家へと繋がっているのだ。
ハシゴを上って、家の廊下に出ていく。
家の中もシンと静まり返り、真っ暗だった。 廊下を歩いていくが、部屋には誰もいないようだ。
そうか、今日は祭りの日だった。 外で祭りがあっているから、みんな出払っているんだろう。
俺は玄関から外へ出ていく。
外に出ると、辺りは真っ暗だった。 わずかに雨が降っているみたいだ、しとしとと体に小さな雨粒が降りかかってくる。 今日は月が出ていないようで、上を見上げても月明かりさえない。
しばらく歩くと、村の景色が見えてきた。 暗いからうっすらとしか見えない。
……みな出払っているからだろうか、あまりにも静かだ。 祭りは終わったんだろうか? 雨が降っていることだし、これだけ暗いのだから、今ごろ片付けでもしているのかもしれない。
……でも、なにか変だ。 まるで元々世界には誰もいなかったみたいな……。 恐ろしいほどの冷たさと暗さが、辺りの世界を覆っている。
歩いていくと、祭りのあるはずの場所へと近づいてきた。 相変わらず人は誰も見えず、静寂があるだけだ。 近くの住居の中にも、人の気配はない。
祭りの場所に来た。
しかし、誰もいない。
焚き木の後が残っているが、雨のせいか火は消えている。 料理のあとや、酒の入れ物は残されているのに、誰もいない。 まるで宴会中に、すべての人が忽然と消えてしまったみたいだ。
片付けもせずに皆いなくなるなんて、ありえない。
……なにか、妙な胸騒ぎがする。
俺は駆り立てられるように走りだした。
向こうのほうには、俺の友達の家がある。 他の人の家を覗くのは憚られるが、あいつの家ならいいだろう。
家の前に来ると、そのままの勢いで中を覗いてみる。
しかし、やはり他の家と同じように誰の気配も感じない。 ……本当に、誰もいないのか? 中に足を踏み入れて、本当に誰もいないのか確かめてみる。
……やはり誰もいない。
どういうことなんだ? 村の人々が、消えたのか……。 それとも俺だけが別の場所に行ったのか?
目が覚めて意識があるのに、どんどん夢の中に入っていくようだ。 目が覚めたと思ったが、まだ夢の中なのか? 焦りと思考が滝のように流れてきて、意識だけはますますはっきりしていく。
……誰もいなくなったなんて考えられない。 でも、どこにも誰の姿も見当たらない。 祭りの途中で、人だけが消えたみたいだった。
ここは、時のはざまなのか……?
その時、遠くのほうで叫び声が聞こえた。 女の声と男の声だ、2人の声が激しく叫んでいるのが聞こえる。
俺の母親の声だ! もう一人は、ハナの父親か……? 2人の声が、異常な様子で叫んでいる。 恐ろしげな声で、助けてと、誰かいないのかと叫んでいる。
俺は家を慌てて出ていき、声のほうを見た。
2人は走っているようで、叫ぶ声は向こうへと遠ざかっていた。 誰かから追いかけられているようで、命からがらな具合だ。
俺は思い切って大声で叫んでみたが、2人は気づかない。 俺はその後を追って、走りだす』」
イトが読み終えると、静けさが訪れた。
「それで、終わり?」
「……うん」
なんでだよっ! 私は、心の中でツッコむ。 なんでそんな、適当なところで終わってるんだろう。
でも、『時のはざま』がどういう状況なのかは分かった。 人が誰もいなくて、真っ暗で……。 殺されたのが、コガネの母親とハナの父親ってこともかな。 実際に殺されてるシーンは、ないけど。
「ふーん。 どういうことなんだろう。 ……あれ? 見つかった骨って、結局誰のものか、分かったの?」
降霊洞穴の地下深くから見つかった骨は、回収されたらしい。 DNA鑑定はないけど、頑張って誰の骨なのか探すそうだ。
イトは首を振って答えた。
「いや、まだ分からない。 でも、ハナの父親と、コガネの母親で間違いないと思う。 ……その2人って、一族の力を使う人たちでもあったの」
話の中に出てきた、追いかけられてた2人ね。
……でもよく考えたら、なんでその2人なんだろう。
村の一番の権力者はハナの父親らしいが、それならその横にいるのは、ハナの母親なんじゃないの? なんで、コガネの母親なんだろう。
よく分からないまま黙っていると、イトが話を続ける。
「私も当時感じてたけど、みんな、一族の人って、バラバラだったみたいなんだ。 ……コガネも、兄弟とはあんまり話さなかったみたいだし、ハナも、誰とも話してないみたいだったし……」
ふーん、なんか複雑な家だな。
当時の日常を振り返った記録もあったけど……家の中で会話が無いし、怒った声が響いてたとか言ってたな。 降霊能力を手に入れたから、ちょっとおかしくなっちゃったのかも。
……ところで、犯人が誰なのかは、まだ全然分かってないんだね。 その2人を追いかけていた人が犯人だろうけど、その人の手掛かりはまだ何もない。
犯人は、この後2人を降霊洞穴に追い詰めていくんだろう。 そして、2人が殺されるのを目にするってことかな。
「ふーん。 じゃあ、それで、洞穴のほうに追いかけていって、2人が殺されるのを陰から見て……とかなの?」
「……まだ、分からないけど」
呟きながら、イトはじっと前のほうを見つめている。
イトは分からないと言っているが、この顔は、自分の推理に自信を持っている顔だ。 どうせ、他の可能性なんて考えてないくせに。 まったく、しょうがないなあ。
……あ、そうだ。 あと一つ、重要なことが残ってる。 『時のはざま』の作り方だ。
今の話では、人が誰もいない場所が表現されてたわけだけど、どうやってそれを作り出すのか……。 それが問題だ。
「でも、肝心なことが、残ってるよね。 結局、その『時のはざま』って、なんなの? それって、現実?」
「……」
イトは黙って、答えない。
考えてみれば、コガネさんは、これが現実の話だとは一言もいってない。
『300年前の話です。 でも布団の中で見た夢です! イェイ!』……かもしれない。
他にも、『時のはざま』が現れたのは、夢見酒の効果だという可能性もある。
まだ姿かたちも出てきてないけど、夢見酒は絶対にあったと思う。 誰も信じないだろうけど、私は確信してる。 たぶん一族の誰かが隠し持ってて、こっそり独り占めして飲んでたんだ。
……あっ!!! それが、コガネさんじゃないのか?
そうか、そうだったんだっっ!!
実はコガネさんが夢見酒を持っていて、グビグビ飲んでしまったんだ。
起きたら夢と現実が繋がってて、『時のはざま』に来てしまった。
そこに、なぜか知らないけど迷い込んだ被害者2人と、なぜか知らないけど迷い込んだ犯人がいて、なんやかんやあって、時のはざまの殺人事件が起きた。
やがて夢見酒の効果が切れて、コガネさんは現実に戻り、『時のはざま』の伝説となった……。
おぉ……。 なるほど、うん、それなら全部辻褄が合うな。
ユメは意味不明に納得しながら、どうでもいい感じで会話をたたんでいった。
「ま、いっか。 とりあえず、後半部分が投稿されるのを、待ってみようよ」
「……そうだね」
イトは同意して頷くと、立ち上がっていった。 じゃあねと言い残して、その場を立ち去っていく。
家の中に入っていくのを見届けて、私はふたたび夜空を見上げた。 ……ま、そんなに変なことにはならないだろう。 どうせ、300年前の事件だ。 いつの話だよ、おいっ!!! ははっ!w
ユメは一人で立ち上がると、自分の家へと帰っていった。
ほら、やっぱりね。 夢見酒は、あるんだよ。(ユメ)




