12 王城での、今後の会議。
王城の会議場にイルザたちは通された。ディートリンデと第三王子の婚約者エレオノーラも来ている。カサンドラたちからひとまず攻撃を避けるための招集だった。
カサンドラ一味とその一族は、隣国アードラーに去ったことが分かっていた。アードラーとこの国の仲はあまり良いとは言えない。第二王子の婚約者として、アードラーの王の親族である大公一家からカサンドラを迎えたことにより辛うじて国交を保っていたようなものだ。今回の事件でその布石が無くなった。急ぎ次の一手を考えねばならない時が来ていた。
「イルザ、君の意見が聞きたい」
フォルクハルトはイルザに発言を求めた。
「はい。まずはアードラーの様子を見る必要がありますね、フォルクハルト殿下」
「うむ」
「カサンドラたちが今回の事件をどうアードラー王に伝えているか。まずはそれを確かめなくてはなりません」
「なるほどな」
「早急に使者を立てましょう。ここは、第一王子であるフォルクハルト殿下と私が参ることが良策と考えます」
「ふむ」
「そして、同時にエレオノーラさまとディートリンデさまにも動いて頂きたく存じます」
「まあ……わたしにですか?」
名を呼ばれたエレオノーラが驚いた顔をする。小柄な身に腰のあたりまで伸ばした亜麻色のくせ毛、黒に近いこげ茶色の聡明そうな瞳。彼女は隣国ハーズの王家一族に当たる姫だ。彼女の名が出され、フォルクハルトは合点した。
「アードラーの様子を見つつ、ハーズに助力を乞うというのだな」
「はい。今回の件はディートリンデさまが狙われましたが、先ほどは私にまで襲撃がありました。カサンドラ一味がエレオノーラさまを襲わないと断言できる保障はどこにもありません」
「確かに」
「お二人には護衛の衛兵とともにハーズに赴いて頂きたく。このナックも同行すれば精霊の魔法である『風の伝言』が使えます故」
「えええ! 僕もお姫さまたちの護衛になるの!?」
ナックは慌てた。だが人間では、簡単に風の精霊を操ることができない。「風の伝言」とは、エルフたちが扱う初期の精霊魔法のひとつで、離れている相手に伝えたい言葉を風に乗せて届けるものだ。幸いイルザも辺境の森でナックたちエルフの一族と懇意にしていたおかげで、教えられた「風の伝言」を使うことができる。
ハーズにはエレオノーラとディートリンデが行き、助力を得たことをナックが「風の伝言」でフォルクハルトとともに赴くイルザに伝え、イルザからもアードラーの様子を伝えあうことで、アードラーの動向をけん制することが出来るだろう。アードラーに礼儀を失さぬよう、こちらには第一王子フォルクハルトが行くことも適している。王国の中にどれほど大公一家の息のかかった者がいるかも分からない状態なのだ、ディートリンデとエレオノーラをこのまま王国に居させるよりは、守りを付けて二手に分かれる案のほうが良策と、フォルクハルトも納得した。
「分かった。イルザ、君の言う通りにしよう」
「ありがとうございます。ディートリンデさまとエレオノーラさまを頼むぞ、ナック」
「わ、分かったよイルザ姉ちゃん……なんか僕らの結婚が、だんだん遠ざかってく気がするんだけど」
ナックの長い耳が萎れた。
早速、準備を固め、フォルクハルトとイルザはアードラーへ、ディートリンデとエレオノーラ、そしてナックはハーズへと向かうことになったのだった。




