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10 イルザへの、攻撃。

 道ばたの露店に銅貨を払い、肉と野菜の串焼きを買う。香辛料の良い匂いが鼻をくすぐった。


「まいどあり!」


 露店のおばちゃんがにこやかな顔でイルザに声をかけた。


「……ナックの奴」


 串焼きを豪快に食べたあとで、イルザは物憂い顔をしてため息をついた。石畳の道を一人で歩く。


 結婚を前に、こんなことになるとは予想もしなかった。ナックもイルザもお互いを好きで、それは今でも変わりはないと確信を持って言える。だが、女子力の無いイルザは、ナックがディートリンデに懸想(けそう)してしまうのも無理はないと思えてしまった。社交よりも筋肉を鍛えること、優雅なふるまいよりも計略に富むことに重きを置いてきたイルザだ。そのことを後悔してはいないが、もしも自分がディートリンデのような可憐さがあったなら、とすこし落ち込んだ。

 

 狭めの細い路地に入った時、イルザは気配を感じた。自分の後を付けている者がいる。


 やがて、人気のない路地に彼ら……いや、それらは姿を現した。丸みを帯びた黒色の半透明な体。スレイムだ。


「こんなところにモンスターが……?」


 イルザは舌打ちした。武器を持ってこなかったのだ。幸いとは言い(がた)いが、持っているのは先の(とが)った食べたあとの串一本。それでも無いよりはましと言えるかもしれない。


「今の私は機嫌が悪い。かかって来い!」


 イルザの声に、スレイムが宙を飛んだ。



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