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恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第2部  作者: トモサン


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86/106

恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第2部 86

一月が過ぎた…


 風の噂で、米倉正造が、すでに、五井記念病院を退院したことを、知った…


 が、


 とりたてて、驚かなかった…


 もはや、私には、関係のないこと…


 無縁のことだった…


 なぜなら、私は、今、日々の業務に、忙殺されていた…


 一度は、休職に、追い込まれ、それが、復職しても、仕事を与えられず、いわば、飼い殺し状態だった…


 が、


今度は、真逆に、殺人的に、忙しい…


 私は、すでに、リストラの標的から、外れたはずだが、この様子では、だいぶ怪しかった…


 もしかしたら、私は、まだリストラ候補のリストに入っているのかも、しれない…


 そう、思った…


 が、


 それを、迂闊に口に出すわけには、いかない…


 なにより、その証拠に、私が、復職してからも、これまで、仲の良かった内山さんも、ほとんど、私と口を利かなかった…


 明らかに、私を避けていた…


 そして、そんな状況だから、米倉正造のことを、考える時間がなかった…


 私の一日は、家と会社の往復のみ…


 そして、それは、ずっと以前から、変わらなかったが、このところは、殺人的に、忙しい…


 それが、以前との差だった…


 そして、その忙しさは、すべてのことを、忘れさせた…


 水野のこと、


米倉のこと、


そして、


五井のこと…


そんな諸々(もろもろ)のことを、すべて、忘れさせた…


なぜなら、忙し過ぎて、考える時間が、なかったからだ(苦笑)…


会社から、帰っても、疲れ切って、お風呂に入って、食事を取れば、すぐに、布団に入って寝てしまった…


だから、考える時間は、あっても、考えるだけの体力が、残ってなかった…


誰もが、そうだが、時間は、あっても、疲れ切っていては、なにも、できない…


それは、例えば、大学の受験生が、バイトをしながら、受験勉強をするのと、似ている…


誰もが、バイトで、疲れていれば、勉強どころではない…


それと、同じだ…


だから、大学に行きたければ、まずは、受験で、合格できる学力をつける時間が、必要…


そのためには、バイトをする必要がない、お金が、必要だ…


歳をとって、つくづく、そう思った…


まあ、もっとも、最近は、AО入試等が、普及して、私が、学生時代とは、受験環境が、違うから、比べることは、できないかも、しれない…


が、


一般入試では、今も同じ…


とにかく、受験には、お金が必要…


家庭が、貧しくて、バイトしながら、受験するとすれば、それは、とんでもないハンデだからだ…


今の私と同じで、仕事=バイトで、疲れていては、考える時間など、ないからだ…


私は、そんなことを、思った…


今さらながら、そんなことを、思った…


そして、むしろ、それが、良かったのかも、しれない…


と、心のどこかで、考えた…


どうしても、疲れていなければ、私は、米倉正造のことを、考える…


米倉好子のことを、考える…


水野透(とおる)のことを、考える…


今さら、自分とは、なんの縁もゆかりもないにも、かかわらず、つい、考えてしまう…


そんな生活から、離れることができたからだ…


私と彼ら、あるいは、彼女らと、なんの関係もない…


所詮は、身分違い…


生きている場所が違う…


住んでいる世界が違う…


そういうことだ…


それが、自分でも、わかっているにも、かかわらず、彼ら、彼女らと接すると、つい、自分も、彼ら、彼女らと大差が、ない人間と誤解する…


これは、ヤバい…


実に、ヤバい…


自分では、十分、わかっているはずなのに、実は、わかってない…


つい、誤解してしまう…


もっとも、これは、私に限らず、誰もが、同じかも、しれない…


普通に、彼ら、彼女らと、接していれば、つい、自分と同じ人間だと思ってしまうからだ…


これは、例えば、高卒と、東大卒の人間でも、同じ…


いっしょに、仕事をして、その仕事が、特段、難しい仕事でない限り、仕事に差がでない…


だから、高卒も、東大出も、たいして、変わらないと、思ってしまう…


そういうことだ…


そして、それは、冷静に考えれば、違うのだが、それが、わからない…


いつのまにか、自分と相手との違いが、わからなくなる…


そういうことだ…


だから、今、自分も、米倉正造や、米倉好子、水野透(とおる)と、距離を置くことで、今さらながら、自分の立ち位置がわかったというか…


社会での、自分の地位がわかった…


それが、なにより、よかったと、思った…


言葉は悪いが、私は、彼らや彼女らと、なんの関係もない…


一刻も早く、彼ら、彼女らのことを、忘れるべきだと、思った…


なにより、彼ら、彼女らと、付き合い続ければ、それだけ、未練が残る…


もしかしたら、米倉正造や、水野透(とおる)と、結婚して、自分も、玉の輿に乗れるのではないか?


と、妄想する…


それが、なにより、いけなかった…


自分は、自分…


彼ら、彼女らと、生きる世界が違う…


彼ら、彼女らと、住む世界が違う…


そういうことだった…



そして、そんなことを、考えながら、会社から、家に帰る、ある日だった…


あの秋穂が現れた…


私の目の前に現れたのだ…


私は、最初、気付かなかった…


なぜなら、秋穂は、ひとりでは、なかったからだ…


男といたからだ…


誰もが、そうだが、例えば、街中で、出会っても、ひとりだけなら、すぐに、気付いても、夫婦や、子連れの家族、あるいは、恋人同士の方が、案外、気付きにくいものだ…


よほど、目立つ人間なら、ともかく、ありきたりな容姿をしていれば、数人でいると、気付きにくいものだからだ…


ならば、どうして、私が、秋穂に、気付いたか?


それは、私や好子さんに、似た、人目を引く、美人だというのが、一つ…


が、


それ以上、大きかったのが、隣に、私の知る人物が、いたことだった…


透(とおる)…


水野透(とおる)が、いたことだった…


あの米倉好子と、別れた、透(とおる)がいたことだった…


これは、一体、どうしたことか?


意味が、わからなかった…


どうして、この二人が、いっしょに、いるのか?


皆目、わからなかった…


この二人は、以前、フライデーに、いっしょに、いた姿が、載せられた…


泥酔した透(とおる)が、この秋穂と腕を組んで、コンビニに入る姿を、写真に撮られた…


だから、二人が、知り合いだということは、わかる…


いつから、知り合ったかは、わからないが、二人が、知り合いだということは、わかる…


が、


今、こうして、二人きりで、いるとは、思わなかった…


…もしかして、二人は、付き合ってる?…


ふと、そんな言葉が、脳裏に、浮かんだ…


そして、次に浮かんだのは、二人が、いつから、付き合っているか?


ということ…


あのフライデーに撮られた、ずっと、前か?


それとも、あのフライデーに撮られた直前…


あるいは、アレをきっかけに、二人は、付き合いだした?


さまざまな可能性が、脳裏に浮かんだ…


が、


同時に、それは、自分とは、もはや、なんの関係もないこと…


自分の住んでいる位置とは、なんの関係もない、お金持ちのひとのことだと、思った…


私と、彼らは、違う…


身分が、違う…


だから、関係ない…


そう、思った…


いや、


無理やりにでも、そう、思うことにした…


そうでなければ、誤解してしまう…


私自身が、誤解してしまう…


もしかして、私も、あちらの世界に行けるのでは? 


と、誤解してしまう…


お金持ちの一族の一員になれるのでは?


と、誤解してしまう…


勘違いしてしまうからだ…


だから、透(とおる)と、秋穂さんに、気付いても、私は、見て見ぬふりをした…


とっさに、顔を伏せ、二人に、気付かれないように、した…


自分でも、自分の行動に、笑った…


心の中で、笑った…


これでは、まるで、犯罪者…


私が、まるで、なにかをしたようだ…


私は、まるっきり、悪いことは、なに、一つしていない…


にも、かかわらず、まるで、逃げるように、目立たないように、している…


まるで、犯罪者のように、二人に、気付かれないように、している…


が、


それがいけなかった…


顔を伏せて、歩くことは、周囲が、なにも、見えないことを、意味する…


顔を伏せていれば、見えるのは、地面だけだからだ…


アスファルトの道路だけだからだ…


私は、二人に、気付かれぬように、とっさに、路上のアスファルトを見て、歩いていたが、それが、いけなかった…


思いがけず、二人が、私の近くに、来たことに、気付かなかった…


私が、もういいだろうと、思って、顔を上げると、隣に、二人が、いた…


これは、まさに、驚き…


驚きだった…


「…なに、コソコソ、顔を伏せて、歩いているの?…」


透(とおる)が、面白そうに、聞いて来た…


私は、


「…」


と、絶句した…


どう答えて、いいか、わからなかった…


そして、むしろ、私には、透(とおる)の隣にいた、秋穂の姿が、気になった…


私や、好子さんに似た、秋穂の姿が、気になった…


だから、私の視線は、透(とおる)ではなく、秋穂に、向かった…


つい、秋穂を見た…


私や、好子さんに、似た、秋穂を、見た…


すると、秋穂が、


「…お久しぶりです…」


と、私に告げた…


とっさに、覚えている…


私を覚えていると、思った…

 

そして、そんな私の感情が、面に、出たのだろう…


「…高見さん…ビックリしているみたいだね…」


と、透(とおる)が、面白そうに、聞いた…


私は、


「…」


と、黙った…


とっさに、どう返答していいか、わからなかったからだ…


「…ボクが、この秋穂といるから、驚いた?…」


私は、黙って、首を縦に振った…


その通りだったからだ…


「…これは、ボクの敗北宣言さ…」


思いもしないことを、透(とおる)が、言った…


敗北宣言…


「…どういう意味ですか?…」


私は、聞いた…


聞かずには、いられなかった…


「…オヤジや、オフクロに対する…」


実に、意味深な言葉を続けた…


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