第一話
鬱蒼とした森の奥、モンスターと向き合う少年が1人。歳は17、8だろうか。肩につかない短さのブロンドのショートカットは、キラキラと月光を反射している。
四足歩行で移動するモンスターの表皮は、ドロドロと崩れ落ちていて、もはや原型を留めていない。眼球が腐り落ち、左目にはぽっかりと穴が空いている。毒々しい紫色の肌は、ところどころ骨や溶け出した肉が露出していて、その肉体が治ることはないということを察させた。
そんな、明らかな異形を前にして、その少年はニヤリと口角を上げる。両手に構えられた反りの大きいサーベルが、確かにモンスターの形を捉えた。と、思ったと同時。小柄な体躯に似つかない、鋭い一閃が闇夜を駆けて、その頭がべちゃりと落ちた。二度、三度、ピクピクと痙攣したところで、モンスターはその動きを止める。まるで塵にでもなるように、ホロホロと崩れ落ちていった。
「よし、任務完了、かな」
サーベルを一つ振り払って、刀身についた血を落とす。モンスターの破片が最後まで消えて無くなることを確認して、少年は闇夜に独りごちた。踵を返して、獣道を辿り、大通りへと歩を進める。月が影を伸ばし、少年のゆく道の先を示す。そこには、大きな建物を中心に、円形状に栄える田舎町があった。
◇
大都市ほど人の量は伺えないものの、片田舎というにはあまりにも栄えている地方都市。小さな木製の家々が立ち並ぶ中、少し道を外れた森を背に立つ、目を引く煉瓦調の建物が一つ。そのすぐそばには、これ見よがしに宿屋の看板が佇んでいた。
「……うーん、お客さん、来ないなぁ」
ぎぃい、建物のちょうど真ん中に取り付けられた入り口のオークドア。上部がアーチ状に膨らんだ可愛らしいドアが、年季を感じさせる音を立てて開く。ひらけたドアの隙間から、店主であろう少女が顔をのぞかせた。ふわりとフリルの装飾が施されたスカートが揺れる。ドアにかかった看板を「open」から「closed」に変えた少女は困り眉でため息をついた。
「すみません......ここって宿、ですよね?」
突然後ろから響いた声に、少女は肩を跳ねさせる。ガバりと振り向くと、いつのまにか金髪の少年が立っていた。眉毛下まで伸ばされた前髪は、左側だけさらに伸ばされ、瞳がひた隠されている。
「......あー、はい。そうです。もしかして、宿をお探しですか?」
「はい。どうにも見つからなくて」
ペリドットの目を細め、少年は人懐っこい笑みを浮かべる。腰に刺されたサーベルと、金貨入れの肩掛けショルダーから、少年が冒険家であることは容易に想像がついた。
「この村、宿はうちしかないんですよ。まぁ、よければどうぞ」
少女は苦笑いをこぼしながら、その少年を宿へと招き入れる。使い込まれた大理石のカウンターと、革製のソファが少年を歓迎した。フロントには、少女と少年以外の人間はいない。
「......あっ、まだ名乗ってなかったですよね。私、レイアです。」
「僕はテディーです。どうぞよろしく!」
思い出したかのように、少女が慌てて頭を下げる。それにテディーは溌剌と笑って、柔らかく片手を差し出した。一瞬の逡巡ののち、それに応えるようにレイラはその手を握り返した。
これが全ての始まりだったと、知るのはもっとずっと後の話。




