閉校式
「これより、中央高校閉校式を行います。一同、礼」
教頭の号令に合わせて、直たちを含めた中央高校の生徒たちが礼をする。パイプ椅子に座るように促され、ゆっくりと着席した。
少し早いが、閉校式を行うことになった。一学年二クラスしかなくなってしまった中央高校。体育館の半分にも満たない。かなり広く感じてしまう。
そんな寂しさも束の間、ここからが長かった。校長先生の長い講話、PTA会長挨拶、同窓会長の涙の演説、むずかしい大人の話はとにかくスルーしていた。
「生徒会長あいさつ」
ついに里太郎が呼ばれて、壇上に立つ。心なしか手足が互い違いにならずにギクシャクしている。生徒はみな彼を見守っている。
「あっ、緊張してるあいつ」
「ほんとだー。やっほー」
「手を振らないの」
里太郎は、式辞用紙を胸ポケットから取り出すと、ゆっくりと話し始めた。
「僕たち中央生に閉校の知らせが届いたのは、夏休み明けのすぐのことでした」
里太郎は続けて学校の歴史やできごと、思い出を少しずつ語っていった。その話し振りに数人の生徒が涙する。
「私たちが入学し在籍している中央高校が突然統廃合、移転という形で、思い出を置いてここを去らなければならなくなりました。ですが……」
里太郎は言葉に詰まる。直たちはひたすら見守ることしかできない。
「ですが、私たちは中央で過ごし学んだことを糧にして、港央高校で仲間となる港山高校、東鉄道高校のみなさんとともに、未来に進んでいきます」
里太郎は、少しスッキリした顔になって深々と頭を下げた。盛大な拍手に見舞われながら、ゆっくりと戻っていった。
*
「お疲れ」
「ありがとう」
豪太が廊下で出会した里太郎に声をかけた。彼はちょっと満更でもない様子だった。
「やっぱり神様は違いますな」
「僕の使いにでもなる? パトラッシュ」
「調子に乗るな!」
里太郎は豪太の手から離れ、自分の教室に駆け込む。豪太は怪訝な顔をしたが、少しため息をつく。そして科学室へ一人向かっていった。
「結城くん、やっぱり駒井くんのこと……」
「まあお互いそうなんじゃないかな?」
逃げ込んだ里太郎の様子を見ながら、なごみと心寧はスマホを眺めていた。
「毎年学校変わってしまって、なんか変な感じですわ」
「心寧ちゃん……来年もいるんだよね?」
なごみは真剣な眼差しで心寧に尋ねた。心寧は最初無表情を貫いていたものの、変顔を仕掛けてくるなごみに耐えられなくなり、思わず笑ってしまう。
「真剣な話なのに!」
「ええ大丈夫です。卒業までは、この学校にいなさいって言われました」
「よかったね!」
なごみは胸を撫で下ろす。
「あとは翔平か……」
その一方で、直たち一組。豪太以外は教室に残っていた。翔平がファストフードのクーポンを携えて直に話しかける。
「山井、つれねえな」
「なんでもねえよ。他にいるだろ」
「あっそ」
翔平は直から誘いを断わられ、今度は健のもとに駆け寄る。
「ちび山井、食べにいかね?」
「用事あるから、ごめんね」
「ちぇー」
翔平は不満そうな顔をしながらも、こう言い残して去っていく。
「お前らの分まで貰ってくからな」
「くれてやる」
直はひっそりと呟いた。口元を緩ませながら。
やがて、教室内には直と健しかいなくなっていた。沈黙が流れるばかりだ。
「フミちゃん、どうしてるかな」
「……」
健の言葉に直は答えない。健は視野に入らないように直に語りかける。
「僕、入寮申請しようかなって思ってる。港央の」
「……」
相変わらず目を合わせない二人。
「ごめんね、迷惑かけて。嫌だったよね」
「……」
「じゃ」
健はゆっくりと教室を後にする。廊下に出る直前、直が口を開いた。
「学校でも会えるけど、いつでも遊びに来いよ」
「……うん、そうする」
その時、二人の前に光の玉が現れた。直の前には緑色の、健の前には赤色が。そこから現れたのは、狸装束姿になった幼少期の自分たちだった。
「直、腹減ったじゃ」
「健、早く遊ぼー!」
口調からして、緑狸のスケと赤狸のフミだった。化狸の新しい姿に呆然とする二人。
「ただいま!」
「なんでその姿に?」
人型になったフミに、健は尋ねるも彼はうーんと首を傾げるばかりだ。
「どうやら儂らは絆されたようだな。貴様らの幼子の姿で……!」
直は無表情のまま、指で人型になったスケの顔をつまむ。
「人の姿を勝手に借りるなんて、肖像権の侵害だぞ。なんか自分で自分をやってる感じがして不快なんだが!」
「やめろ、痛い痛い!」
スケは喚き、直は怒る。でも、二人とも口元が少し緩んでいることは誰も気づかなかったのだった。
「おむすび食わせろ、直」
「バカにしてんのか」




