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尋ねた手紙  作者: すごろくひろ
都会編

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18/23

貫く刃

「これならもしかしたら……、えいやっ!」

 健は懐からあるものを取り出すと、それを豪太に向けて投げつける。それは見事に放物線を描き、彼の口の中にうまく入れることができた。突然のできごとに豪太は理解が追いつかなかった。

「うげっ……、まずい……」

 苦さに顔をしかめた豪太は少し涙目になるも、怒りを込めながら手にした、ガスバーナーを模した刀に、勢いよく火を灯していた。彼の周囲のスライムや実験器具も溶かす勢いで、火の温度はだんだん強くなる。

「バカにしやがって、許さない……」

 豪太は二人に向かって襲い掛かろうとする。しかし、その熱によってスライムはうまい具合に溶け、二人は身動きが取れるようになった。なんとか彼からの攻撃を躱し、間合いを取ることに成功する。

「コマちゃん、目を覚ませ!」

 翔平の怒りによって刀に力が宿り始める。そして思いに応えるように刀は光を帯び始める。一本だった刀は二本に分裂したところで、翔平はそれらを両手に携えるように豪太と向き合う。

「すごい……」

「とっりゃあ!」

 翔平は全力で踏み込み、豪太へと切りかかろうとする。しかし間際のところでその手を振り下ろせずにいた。どうしても無理だった。

「このまま振り下ろしたら……、コマちゃんは……」

 翔平が躊躇った瞬間、豪太はニヤッとしながら翔平を思い切り突き飛ばした。翔平が尻餅をついて間もなく、豪太はひょいと彼を持ち上げると、健に向かって思い切り投げつけた。

「ぐへっ……」

 健はあまりの衝撃に意識が朦朧とし始める。翔平は投げられた勢いで思わず目を回してしまったせいか、健のそばで延びてしまっていた。

「それじゃ、さよなら」

 豪太は二人にゆっくり近づいて、刀の先のガスバーナーを火を強力にしていく。近づくにつれて、二人に耐えがたい熱風が当てられていった。その暑さに二人の脳内には消滅の二文字が現れ始める。諦めかけたその時だった。突然、目の前で豪太の動きが止まったのだった。

「なっ……なんで。これ以上、身体が動かせない……」

 そして段々と刀の火が弱まっていく。そして豪太はついに涙を浮かべながら足元から崩れ落ちた。その瞬間、健はパチンコを使ってあるものを豪太の口の中に再び発射した。少しばかりであるが悶えている様子だった。

「今だよ、翔平くん!」

 健の声とともに翔平は豪太の目の前で大きく刀を刺しこむ。

「すまん……。耐えてくれ……」

「ぐっ、あああ!」

 その刀は光を纏って豪太の身体を貫く。そして、その場から逃げるかのように、豪太の身体からあの黒煙が放たれていく。次第に豪太の目には光が取り戻されていった。やがてその元凶が完全に消え去った後、豪太を貫いていた刀もまた消えていった。破壊され荒廃してしまった化学実験室は、何事もなかったかのように元通りになっていた。

「大丈夫かな……駒井くん」

「おっ? ちゃんと心臓も動いてるし息もしてるぞ」

 豪太が無事であることを確認し二人は安堵する。そして妖力で彼を移動させると、実験室の机に寄りかかせる。

「そういえば、コマちゃんに何食わせたんだ?」

 翔平が思い出したかのように、健に尋ねた。すると健は、懐からある物を取り出した。

「これ、直がしくったカルメ焼き」

「正気かよ」

 翔平は、あの味を思い出したかのように苦い顔をした。健もその反応を受けて複雑そうな顔をするも、掌のカルメ焼きに視線を向き直す。

「でもこのお陰かもしれないよね。駒井くんが正気に戻ったのも」

「なんか嫌やな。コマちゃんが自分で作った美味しいカルメ焼きのほうがいい話になりそうだったのに……」

 いつの間にかカルメ焼きの選択に関する話題となり、どちらのカルメ焼きを入れるべきだったのか揉めはじめる。そんな騒がしくしている間に、豪太はゆっくりと目を覚ました。

「ふぁあ……」

 豪太はあくびをしながら、両手を上にして伸びをする。友人の目覚めに二人は声をかけた。

「おっ、目覚めたか?」

「大丈夫かい?」

 豪太は二人の姿を見て、突然無表情になる。

「生地たち、そんなコスプレ趣味あったの?」

「コスプレ……?」

 そう言って二人は、互いの姿を確認する。その後のぎこちない様子を見て、豪太は思わず笑い出してしまった。

「いやあ、二人がそんな趣味があったなんて……!」

「うるせえな……。お前も鏡見て来いよ」

 翔平が怪訝そうに豪太に告げる。

「なんだって鏡なんか……」

 豪太は渋々と隣の準備室に行って、スタンドミラーに自らの姿を映し出す。


「なんじゃこりゃあ!!」


 豪太が絶叫とともに、準備室から飛び出してきた。非科学的な現象に思わずパニックになって、翔平につかみかかる。

「なんで僕がこんな姿なんだ! しかも動かせるし! こんな非科学的な! なんで!」

「落ち着け落ち着け……」

 翔平は豪太を宥めると、この現象について詳しく説明した。豪太は話を聞きながらも『非科学的現象』としてなのか、興味を示しているようだった。

「尻尾が大きく揺れてるねえ」

 健の言葉に豪太は赤面してしまう。そんな彼の様子に二人は笑っていた。しかし突然、健の表情が険しくなる。

「もう一体いる……! 直が危ない!」

「よし、加勢するぞ!」

 そう言って、二人は化学実験室から出ていこうとする。呆然としている豪太であった。

「僕……、ここを片づけておくね」

「何言ってんだ! その姿だったら、コマちゃんも行くんだ!」

 翔平は健とともに豪太の両脇を抱えると、その場でジャンプして姿を消した。


 その後、誰かが化学実験室に入ってくる。そしてそいつは辺りを見渡すと、つまらなそうな表情でこう呟いた。

「あーあ、せっかくおもしろいことが起きると思ったのに」

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