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22【狙撃者】

 宿屋の二階で俺とチルチルはまったりしていた。


 俺はレベルアップで得たポイントで、アイテムボックスのレベルを上げた。アイテムボックスのレベルを1から3まで一気に上げたのだ。ポイントを5点消費する。


 それで、アイテムボックスの大きさは少しだけ広がったのだ。


 俺が家の道具箱から持ってきたメジャーで計ってみたところ、どうやらレベル1ごとにアイテムボックスの広さは5センチほど広がるらしい。


 レベル1のアイテムボックスは20×20×20の立方体だったが、レベル3まで上げたアイテムボックスは30×30×30まで広がっていた。


『これは、漫画やアニメで使われているアイテムボックスまで広げるのに、相当時間が掛かりそうだな……』


 窓の外を眺めながら俺は溜め息を吐く。


『まあ、時は無限だ。気長に取り組めってことなのだろう……』


 俺は鉄格子のついた窓から大通りを見下ろしながらチルチルに述べる。


『チルチル、少し散歩にでも出ようか。また町を見て回りたい』


「かしこまりました、シロー様」


『鉄格子越しに見る町ではつまらないよ〜』


「そうですね。それでは外の新鮮な空気でも吸いに参りましょうか」


 この異世界の宿屋は窓に鉄格子がついているのが普通らしい。それは防犯の意味も多いらしいのだ。


 チルチル曰く、宿屋に泊まっている旅商人を襲う強盗も少なくないらしい。


 本当に物騒な世界である。この異世界では、強盗、スリ、詐欺、暴行、レイプは珍しくない。日本と比べて犯罪は当たり前のように昼間の路上を歩いているだけで出くわすらしいのだ。


 それだけ文化レベルが非常に低いのだろう。俺も気を付けないと痛い目をみそうである。


『それじゃあ行こうか〜』


「はい、シロー様」


 俺は黒狐面を被ると廊下にでる。すると階段を登ってくる二人組が見えた。その二人と目が合った。


「っ!」


『ん?』


 目が合って分かる。そこには何やら悪意が見て取れた。


 一人は短髪で顔に二つの傷が刻まれていた。腰には短剣を二本下げている。


 一人は神官風の身形だが、顔が四角く目付きも鋭い。腰にはメイスをぶら下げていた。なかなかの筋肉質てある。


 二人は俺と目が合うと階段を登る脚を一瞬だけ止めた。しかし、直ぐに登り始める。


 俺は、そのような二人の僅かな動きを見逃さなかった。明らかに神官風の男が腰のメイスに手を伸ばそうとしたのだ。その手を瞬時に彼は止めたのである。何故か敵意を隠そうとしていた。


『チルチル、部屋に戻るぞ……』


「はい?」


 何が何だか分からない様子のチルチルが小首を傾げたが、踵を返した俺が彼女の手を取ると急いで引き返した。足早に部屋に戻る。


「畜生、感づかれた!」


 俺が走り出すと、男二人も階段を駆け上る。俺は二人に追いつかれるよりも早く自室に飛び込んだ。扉を閉めて鍵を掛ける。


「シロー様、何事ですか!?」


『こっちが聞きたいよ……』


 男二人は扉の前まで走り寄った様子だった。しかし、足音は扉の前で止まったが、それ以上は反応を見せない。


『なんだ、あいつら?』


 一方、大通りを挟んで宿屋の向かいの家。その屋根に一人の女性が鎮座していた。その身形は露出度の高いレザーアーマーである。手には大弓。背中には矢筒を背負っていた。


「あら、部屋に引き返してきたわ。バンディの奴、何かミスったのかしら?」


 言いながら女は大弓を引いて狙いを定める。狙っているのは宿屋の二階。窓から窺える白い着物の大男。黒い狐面に狙いを定めていた。


「綺麗に仮面を貫いてあげるわ」 


 そして、放たれる疾風の弾丸。風を切って突き進む矢の一撃は、宿屋の窓を突き破りシローの仮面に襲いかかる。


 だが、シローは首を曲げて紙一重で矢を躱してみせた。狙いを外した矢は壁に突き刺さる。


 室内のシローが呟く。 


『狙撃か――』


 屋根の上の女も呟く。


「躱したわ。私の存在に、気づいていたのかしら……」


 言いながら次の矢を矢筒から抜く女は弓の弦を引く。しかし、仮面の大男は壁際に姿を隠していた。


 壁に張り付き姿を隠しているシローが床に座り込んでいるチルチルに言った。


『チルチル、ベッドの下に潜りなさい。隠れるんだ』


「な、何が起きているのですか!?」


 言いながらチルチルが匍匐前進でベッドの下に潜り込んだ。


『たぶん、俺が珍しい品物を複数持っているって知った野盗が襲いに来たのだろうさ。お金に目が眩んだ悪党はこわいね〜。弓矢で狙撃迄して来たよ』


 向かいの屋根の上から弓矢で狙う女は、壁に背を預けて隠れているシローを狙っていた。


「隠れても無駄なんだから。スキル、透視能力眼!」


 すると女の瞳が青白く光った。その光は壁際に隠れているシローの姿をサーモグラフィーのように映し出す。人間が放つ気配を感知して写し出すスキルである。


「ほらほら、見えているわよ。さらにスマッシュアローLv5を乗せて放つ矢でも食らいなさい!」


 さらに、女が引いている矢が青く輝いた。その矢を女はシローが隠れている壁に向かって撃ち放った。


 その矢は宿屋の壁を貫いて、室内のシローを撃ち抜いた。矢はシローの胸を貫いて反対側の壁に突き刺さり止まる。


『がはっ、矢が壁を貫通してきたぞ!』


 シローの服には矢が貫いた穴が開いていた。背中から胸元を貫通したのだ。


 背後の壁にも貫かれた穴が空いている。しかし、シローにはダメージがなかった。どうやら骨と骨の間を矢がすり抜けたようだった。


『危ねえ〜。スケルトンじゃなかったら、体に風穴が空いていたぞ。それにしても異世界の矢は、壁を貫いて狙撃してくるのかよ。怖いな〜』



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