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21【暁の冒険団】

 時は巻き戻って、数日前――。


 金髪の貴婦人が高級品の家具や芸術品で飾られた広い部屋で優雅に紅茶を飲んでいた。天井からは豪華絢爛なシャンデリアがぶら下がっており、腰掛けるソファーも本革の高級品である。


 彼女の年齢は三十そこそこに見えた。眼差しはやや吊り目。真っ赤な口紅で染められた唇。イヤリングやネックレスは金細工で、宝石が散りばめられている。細い指には、高価そうな指輪がいくつも煌めいていた。


 美しく艶のある金髪は腰まで長く、豊満な胸元を隠すように身にまとっているドレスは真っ赤な深紅だった。


 その女性は、明らかに富豪の家系だろう。


 トントンッと扉がノックされる。


「どうぞ……」


 済ました声も優雅で美しかった。


 そして、扉を開けて老執事が部屋に入り、お辞儀をしながら報告する。


「奥様。チルチルお嬢様の行方がつかめました」


 その報告を聞いて、奥様と呼ばれた女性はゆっくりと静かにティーカップをテーブルに置いた。


 それから奥様は老執事とは逆の方にある窓を見ながら語り出す。


「あの子は今、どこで何をしているの? 無事なの?」


 心配はしているが、口調は冷たい。


「はい、無事です。ですが、どうやら人攫いに遭ってサン・モンの町に連れて行かれたようで――」


「人攫い……。それで離れの家からいなくなったのね」


「左様かと……」


「ならば、奴隷市に流される前に迎えを出しなさい。買い戻す金額はいくらでも払ってあげなさいな。ただし、傷一つあの子につけてはいけませんよ」


「かしこまりました。ただちに使いを向かわせます」


「もしも、あの子に何かあったら、人攫いは殺しなさい。奴隷商人も抹殺しなさいな。害を加えた者には暗殺者を差し向けて、全員消してあげなさいな」


 奥様は淡々と冷静に述べていた。それだけ本気の意思が伝わってくる。


「はい、かしこまりました。奥様――」


 そう述べると、老執事は退室する。その後、すぐに別の部屋に立ち寄った。


「失礼いたします、お客人――」


 老執事が部屋に入ると三人の者たちがいた。


 一人はショートソードを両腰に下げ、顔に深い切り傷が刻まれた男性。その隣に露出の高いレザーアーマーをまとった女性が立っている。


 さらにもう一人は、身長が2メートルを超えていそうな大男だった。その大男は上半身だけプレートメイルをまとい、背中には自分の背丈と変わらない特大の長剣を背負っていた。


「では、冒険者の方々。今回の仕事は、奴隷市からお嬢様の奪還です」


 女性の冒険者が壁際に飾られた家族の肖像画を指差しながら尋ねた。


「お嬢様って、あの子ね〜」


 家族の肖像画には四人の人物が描かれている。一人は主人。一人は青年。一人は先ほどの奥様。そして、三人の前で椅子に腰掛けているのは白髪の少女。チルチルだった。


 しかし、その彼女には獣耳がない。おそらく、まだ獣人化する前に描かれた肖像画なのだろう。


 執事が言う。


「現在、お嬢様は獣人化が進み、獣のような姿に変わっております。なので、丁重にお迎えくださいませ」


 男が下品にも鼻糞をほじりながら尋ねる。


「獣化してるのか〜。ならば、もしも凶暴化していたら、どうするんだ?」


 老執事は眉間に皺を寄せながら言った。


「せめて、遺体だけでもお持ち帰りくださいませ」


 男が指にへばりついた鼻糞をピンッと飛ばしながら再び問う。


「それは、生死を問わないってことでいいんだな、爺さんよぉ?」


 老執事は、顔に傷がある男を睨みながら述べた。


「その際の報酬は半額とさせてもらいます」


 男が呟く。


「うわ、ケチ臭い〜」


 女が野次を飛ばす。


「なにさ、町一番の大店って聞いていたから太っ腹かと思ったら、案外セコいのね〜。ガッカリだわ〜」


 そんな二人を巨漢がなだめた。


「そう愚痴ばかり言うな。仕事は簡単だ。ただの迷子の子猫ちゃんを探し出して連れ帰ればいいだけの仕事だ。死体でいいなら手間も省けるだろう。半額でも報酬は高額だしな」


「違いねぇ〜」


「そうねぇ〜」


 二人は長身の言葉に納得した。それを見て老執事が述べる。


「それでは、お任せしましたぞ……。暁の冒険団殿」


 巨漢が片腕を曲げて力瘤を作りながら返す。


「任せておけ、高額な仕事だ。結果は保証できぬが、期待には沿えるように頑張らせてもらうぜ」


 すると女性が懐からコンパスを取り出し、老執事に言った。


「それで、頼んでおいた物は持ってきたかしら?」


「こちらに……」


 言いながら、老執事は懐から折りたたまれたハンカチを取り出した。それを開くと、白い髪の毛が数本包まれていた。


「こちらがチルチルお嬢様の毛髪です」


「サンキュー、ありがと〜」


 女はチルチルの毛髪をつまむと、開いた方位磁石の中に放り込んだ。するとコンパスの針が勢いよく回り始める。


「探してる探してる〜」


 そして、針がピタリと止まった。


「やはりサン・モンの方角にいるわね、子猫ちゃんはさ」


 巨漢が大きな両手を拝むように合わせて叩いた。パンッと景気の良い音が鳴る。


「よし、早速向かうぞ、二人とも。目的地はサン・モンの町だ!」


「「へぇ〜〜い」」


 こうして三人はサン・モンの町に向かって旅立った。カンガルー体型の爬虫類を走らせる。



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