表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倒した魔物が消えるのは、僕だけのスキルらしいです  作者: 桐山じゃろ
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/49

49 七匹目のドラゴン




 リオが率いるイーラドラゴン討伐隊は、順調に進んでいた。

 周辺の魔物の発生を抑えていたディールがアブシットへ行っているため、道中で何度か魔物に遭遇したが、全て難なく退けた。

 イーラドラゴンが目撃された場所の最寄りの村は、拍子抜けするほど長閑で、話を聞いても「これといった被害はない」とのことだった。

「偽使者は何だったんだ」

 ドルフが訝しむと、村長は苦笑いを浮かべた。

「その節は勇者様にご迷惑をお掛けしました」

 ドラゴンがいたと聞いただけで恐慌を起こした一部の者の暴走であったと、村長は語った。

「それだけドラゴンが恐ろしいということだろう。気を引き締めていくぞ」

 リオがドルフに声をかけると、ドルフは肩をすくめた。

「よく知ってる」


 村を出てすぐの小高い丘の上で、一行は偽使者が抱いた恐怖の一端を理解した。

 近づくだけで呪われそうなほど黒い鱗を持ったドラゴンが、森から頭を出しているのが見えたのだ。

「かなりでかいな……」

 グーラドラゴンと相対したことのあるドルフが呟くと、百人の兵たちに動揺が走った。

「ドルフ」

「すまん」

 思わず叱責したリオに、ドルフは謝罪を口にしたが、時既に遅し。

「あんなの俺達でやれるのか…!?」

「やはり勇者様でないと」

「こんなに恐ろしいものだったとは」

 兵士たちに動揺が広がっていた。

 リオは舌打ちをどうにかこらえて、兵たちに向き直った。

「ドラゴンは私とドルフで相手する! 諸君らには援護と、周辺の雑魚を任せた!」

 ドルフが目を剥いた気配がしたが、もう仕方がない。本人に責任を取ってもらう。リオはそういう意味でドルフを見つめた。

 ドルフはため息をついて、顔を上げた。その顔には決意が漲っていた。




 イーラドラゴンは、いっそ不安になるくらい静かに佇んでいた。

 リオとドルフの剣の間合いに入っても、まだピクリとも動かない。

 こちらを認識しているのかと訝しんだ時、ドラゴンが僅かに身じろぎをした。

 二人は驚いて後ろへ飛び退るも、ドラゴンの動きはそれだけだ。

 人間二人に対して、何の反応もない。


 どちらともなく目配せしたのち、リオは正面、ドルフは尾の方へ静かに向かう。


 ディールから聞いたドラゴンの弱点は、翼の付け根と尾の先。

 それに、ほかの動物と同じく頭を破壊、あるいは首を切断すれば息絶える。

 弱点の情報はともかく、ドラゴンの頭や首を一撃で切断できる人間は、この世界にディールくらいだろう。

 尾の側へ行ったドルフが尾の先を狙いやすいよう、リオは声を張り上げた。

「ここだ! イーラドラゴン!」

 叫びと同時にドルフが動いた。しかしドラゴンの方は、遠くを見つめたまま動かない。

 ドルフが尾の先に傷をつけても、わずかに尾を動かしただけだ。

「おい、どういうことだ」

「俺が聞きたい」

 二人は額を寄せて相談するも、解決策は出ない。

「動かないのならば……」

 リオがドラゴンを改めて見上げると、ドルフも続けて見上げた。

「やるしかないな」

 頭の位置は高すぎて、二人の跳躍力では届かない。

 イーラドラゴンが動かないのをいいことに、リオは勇気を出してドラゴンの体に両手をつけた。

「行け、ドルフ」

「おう」

 ドルフはリオの肩を蹴ってドラゴンの胴体を駆け上がり、そのままの勢いで首と胴の付け根を狙い、剣を振り下ろす。


 ドルフの剣はあっけないほど簡単に、イーラドラゴンの首を胴から斬り離した。


「え……?」


 一番驚いたのは、斬りつけた本人だ。

 己の腕で、今踏みしめているドラゴンの鱗のような硬いものを切り裂けるとは思わなかった。

 首が地に落ちても、ドルフは信じられないという目でそれを見つめたまま呆然とした。

「ドルフ! 魔溶液だ!」

 リオは既に、死骸となったイーラドラゴンの胴に魔溶液を吹き付けている。

 ドルフは慌てて胴から飛び降り、落とした首に向かって魔溶液を構えた。


 しかし、魔溶液を発射する前に、イーラドラゴンの首がどろり、と黒い液体になった。

「なんだっ!?」

 リオがドルフの驚く声に振り返った時、胴の方も同じく黒い液体と化していた。

 魔溶液を掛けられた魔物の死骸は、魔溶液が付着した部分から、ちぎれるように消えていくはずだ。

 明らかな異常事態に、ベテランの二人も戸惑い、判断が遅れた。


 黒い液体はリオとドルフを飲み込み……イーラドラゴンの形をとった。




 遠方から二人の様子を観察していた兵士は目を疑った。

 イーラドラゴンの首が落ちたと思ったら、再びイーラドラゴンが現れたのだ。

 そして、一度はドラゴンを討伐したはずのリオとドルフはいつまでたっても帰ってこない。


 ドラゴンは普通の力では倒せないのだと判断され、ディールに伝令が飛んだのだった。







 兵士さんたちから話を一通り聞いた僕は、すぐに現場へ行こうとしてセレに止められた。

「絶対何か良くないことが起きてる」

「そのくらい僕にもわかる。でも行かないと」

 危険かもしれない。それ以上に、リオとドルフが心配だ。

「せめて私を連れてって」

「私も行きます!」

 真面目な口調のセレと、必死な様子のフェリチを止めることはできなくて、結局三人そろって転移装置でウィリディスへ戻った。


 イーラドラゴンが出た森には行ったことがないから、転移魔法は使えない。

 夜が明けるのを待った方がという兵士さんたちの意見は聞かなかったことにして、馬を借りた。

「って、セレ、馬乗れる?」

「乗れない! フェリちゃん、ごめん、ディール貸して」

「どうぞ」

 というわけで僕の馬には僕とセレが乗り、できる限り急いだ。


 お陰で、馬には申し訳なかったが、半日で森に到着できた。


「うう……貴重な経験ができ……うえぇ」

 ただでさえ乗りなれない馬に半日もぶっ続けで乗っていたセレはいろいろ限界だったが、それでも僕に着いてくると言い張った。

 フェリチの治癒魔法でなんとか持ち直したが、ここから先は徒歩だ。

 今は一秒でも時間が惜しい。

 僕はセレを抱き上げ、フェリチの前で屈んだ。

「乗って」

「えっ、でも」

「早く」

「は、はいっ」

 フェリチが僕にしっかりしがみついたのを確認し、走った。


 イーラドラゴンは今まで倒したどのドラゴンよりも巨大で、頭が森から突き出していたから、分かりやすい。

 間合いの数メートル手前でセレとフェリチを降ろすと、フェリチが僕に補助魔法を掛けてくれた。

「でぃ、ディール」

 セレは息も絶え絶えな様子だが、フェリチの治癒魔法があるから大丈夫だろう。

「どうした?」

「これ、未完成だけど、持ってって……」

 セレが手渡してきたのは、真っ黒で細長い布だ。5メートルはある。

「視界、遮っちゃうけど、巻けるだけ巻いて」

 僕は言われるがまま、布が右眼を何度も通るよう頭にぐるぐると巻いた。

「これでいい?」

「うん。あとは、頑張って……」

 セレの全身から力が抜けて、がくり、とうなだれる。

「……気絶されてます」

 乗り物酔いと疲れで限界だったのだろう。セレにしてはよく頑張った。

「フェリチ、セレをよろしく」

「はい。ディールさん、お気をつけて」

「フェリチも、なんかあったら即逃げて」

「わかりました」


 一人で、ドラゴンの足元まで到達した。

 イーラドラゴンは不気味なほど動かず、僕に気を払っている様子もない。

 討伐隊の話によれば、誰が近づいてもこの状態らしい。

 ふと、視線を感じて見上げれば、イーラドラゴンの大きな瞳がこちらを見下ろしていた。

「リオとドルフをどうした?」

 ダメ元で訊いてみたが、返事はない。何か言いたそうな瞳をしているくせに。

 長居は無用だ。

 地を蹴って飛び上がるのと同時に抜剣し、イーラドラゴンの首を刎ねた。


 巨大なイーラドラゴンでも、他のドラゴンと同じように、音もなく消えはじめた。


「終わったよ。セレはどう?」

「無事ー。ディールこそ、体調に変化ないー?」

 セレの口調が元通りになっている。フェリチの治癒魔法が効いたようだ。

「なんともない。これが効いたんじゃない? ……っ!?」

 頭に巻いた布に触れると、布がぼろぼろと崩れ落ちた。

「ディールさんっ!」

「フェリちゃん大丈夫よー。やっぱりキャパオーバーだったねー。ディール、もう魔法禁止ー。戦うのも禁止ー」

「わかった」

 ドラゴンは全て片づけた。あとは、余程のことがない限り、僕の力が必要になることもないだろう。

「悪いんだけどー、布はなるべく回収してもらえないかなー。研究に使うー」

 とセレに言われたので、フェリチにも手伝ってもらって、千切れた布の欠片をなるべく集め、フェリチが持っていた布巾にまとめた。

「じゃあ戻ろう。セレ、歩けるか?」

「なんとかー。これ以上ディール借りるのフェリちゃんに申し訳ないしー」

「あ、あのっ、私はその、あんまり気にしませんのでっ」

「あんまり気にしてるじゃないー」

「それは言葉の綾というものでっ」

「また二人とも抱えてもいいよ?」

「ディールはもう無理しちゃだめー」

「だめです、ディールさんっ」

 冗談をまともに返されてしまった。

 なんだかおかしくなって吹き出すと、フェリチとセレも僕が冗談を言ったのだと気づき、笑ってくれた。



「……どこだ、ここ……森、同じ森か?」

「何が起きたんだ……?」

 声がして振り返ると、イーラドラゴンがいたところに、リオとドルフが立っていた。

「リオ! ドルフ!」

「ディール!?」

 二人は僕たちがいることに驚いていた。




「確かに倒した。首を落としたらドラゴンだって死ぬよな?」

「うん」

 話を聞けば、討伐隊の目撃情報通り、リオとドルフはイーラドラゴンを一度間違いなく倒していた。

 しかしその後、イーラドラゴンの死骸に魔溶液を振りかけると、死骸は黒い液体となり……。

「飲み込まれてから後は記憶がない。どこか途方もなく広いところにいたような気はする」

「俺は何か声を聞いた気がするが、内容は覚えていない」

「うーん、何なんだろー。ディール、心当たりないー?」

「わからないよ」

 途方もなく広いところ。それに、声。

 脳裏に、金色のドラゴンの姿がチラついた。

 あいつはいつも、僕をよくわからない広いところに呼び出しては、何かごちゃごちゃと言っていた。

 お前の仕業か?

 頭の中で声をかけてみるが、あいつが返事するわけなかった。

「ドラゴンは結局ディールが倒した。それで今のところ、ディールに異変は起きていない。今はこれで十分だ。さあ、帰ろう」

 リオの号令で、僕たちは帰路に就いた。




 ウィリディスへ戻った僕たちは、一旦自宅へ帰った。

 城へ着いた途端「七匹のドラゴンを全て討伐の英雄だ!」とか叫ばれて大騒ぎになってしまったから、逃げたのだ。

「今日ぐらいはー、ゆっくりしたいよねー」

 セレがルルムの淹れたお茶を飲みながら、けらけらと笑う。

「できれば一生ゆっくりしたいよ」

 僕が相槌を打つと、フェリチが隣でこくこくと頷いた。

「皆様がご無事で何よりです」

 にこにこしているルルムには、リオとドルフが一時行方不明だったことは伝えていない。

 ルルム以外の全員が「心労を掛けることはない」と口をつぐむことにした。僕もそれでいいと思う。




 夜になり、自室で眠っていると、ようやくドラゴンを倒した後の右眼の激痛がやってきた。

「……」

 これも最後だと思えば、声を出さずに耐えられる。


「最後ではない」


 目を開けると、いつもの空間だった。

「最後じゃないだと?」

 僕の背後に立つ金色のドラゴンを、見上げて睨み付ける。

 金色のドラゴンはこちらを見たが、僕と視線を合わせない。


「悲嘆の名を冠する銀のドラゴン……ドロールドラゴン」


 悲嘆? ドロールドラゴン? 聞いたことがない。

「どこにいるんだそいつは。本当にいるのか?」

 どうせ無駄と諦めつつ、問いかけたのだが。


「ジョド、と呼ばれる地にて待つ」


 はじめて、会話らしきものが成り立った気がしたのに。

「ジョドって何処だ」

「いずれ惹かれる……」

 やっぱり肝心なところははぐらかされた。

「お前」


「いい加減にしろよ」

 自分の声で起きてしまった。

 もう朝だ。

 右眼の痛みは治まっている。

「ディールさん……?」

 扉の向こうからフェリチの声がした。

「どうぞ」

 呼びに来るということは、寝坊したかな。

 軽く身支度をしながら、入ってきたフェリチのところへ行くと、フェリチはなんだか申し訳なさそうな顔をしていた。

「どうしたの」

「いえ、その……いい加減にしろ、と聞こえたので」

「ああ、その、変な夢見たんだ。フェリチに言うわけがない」

 聞かれてた。寝言聞かれるのって恥ずかしいな。

「そ、そうでしたか。吃驚しちゃいました。朝食できてるそうですよ」

「行こう」

 僕は照れ隠しついでにフェリチの背を押した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ