表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倒した魔物が消えるのは、僕だけのスキルらしいです  作者: 桐山じゃろ
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/49

48 勇者の休日

 僕がこれ以上魔物やドラゴンを倒した場合、まず僕自身に悪影響が出る。そして悪影響は僕自身にとどまらず、周辺にも及ぶ。

 セレは2つの可能性を予想し、僕はもう魔物を倒さないほうがいいと結論づけた。

「そんな事言われても⋯⋯」

「そうよねー。でもー、現時点の傾向から推察するにー、ディールはもう崩壊寸前のはずなのよー」

「崩壊!?」

 フェリチが青ざめて小さく叫ぶ。

「今のところ何ともないけど⋯⋯」

 不調どころか調子がいい。

「今はー、コップのふちギリギリにー、水が入ってる状態ー。あと一滴で溢れるかもしれないのー。私としては見過ごせないなー」

 セレはこれまで、魔滅魔法と魔物の発生の関連性についての仮説を立てたり、魔物やドラゴンについて研究してきた第一人者だ。セレがこうまで止めるのなら、従ったほうがいいのだろう。

「でもなぁ……」

 現実として、僕は勇者になってしまったわけだから、この年で隠居というのは周囲の理解が得られないだろう。

「ディールを頼りすぎてたのよー。これからはー、今まで守ってきた人たちを頼って―」

 僕はフェリチを見て、首を横に振った。

 フェリチは治癒魔法が得意な魔法使いであって、魔物を倒すことには特化していない。

 何より、僕の手の届かないところで危険な目に遭ってほしくない。

「んもー。フェリちゃんだけじゃないのよー」

 セレがケタケタと笑う。

「他に誰か守ってきたかと言われても」

「えー、そこ自覚ないのー? スルカスでもウィリディスでもアブシットでも、散々人々のために魔物やドラゴンを倒してきたじゃないー」

「倒したけど、自分のためというか⋯⋯仕事だから倒した、が近いかな」

 助かった、命の恩人だ、ありがとう等と言われることはあっても、自分自身への礼ではなく、仕事をこなした者への評価にしか聞こえなかった。

「うーん認識ズレてるねー。まー、陛下には私から言っておくからー。ディールは一旦休憩ねー」

 僕は「うん」とも言っていないのに、僕の冒険者業の休業が決まってしまった。




「読み終わっちゃったな」

 セレに「魔物もドラゴンも倒すの禁止」と言われてから二ヶ月。僕は文官の仕事だけをこなして過ごしていた。

 魔物討伐以外にも、魔力上昇のきっかけになるかもしれないからと、武術訓練すら許されていない。

 休日はほぼ一日中読書を続けて、家にある最後の本を読み切ったところだ。

「フェリチに刺繍を習いに行くか」

 本は定期的に仕入れているが、次が来るのは3日後だ。

 時折訪れるどうしようもなく暇な時間には、フェリチに刺繍や料理を習っている。

 刺繍はコツを掴んで楽しくなってきたところだが、料理に関しては、人様に出せるものが出来た試しがない。火加減ってのはどうしてこう曖昧な表現が多いのか。

 本を片付けていると、部屋の外が急に騒がしくなった。

 何事かと手を止めたら、部屋の扉がノックもなしに開いた。

「ディールさん!」

 入ってきたのはフェリチだ。妙に慌てている。

「どうしたの」

「それが、お城から使者の方やってきて、セレさんと口論に⋯⋯!」


 急いでエントランスへ向かうと、フェリチの言った通り、王城からの使者さんとセレが揉めている。

「だーかーらー! まだそういうのはできてないのー! 危険性は伝えてるでしょー!?」

「しかし脅威はすぐそこに来ていてですね」

「あれ誰だろ」

 僕とウィリディス国とのやりとりは、ナチさんが一手に担っている。城でも見かけた覚えのない使者さんが来るのは初めてだ。

「あっディールー」

「ディール様!」

 セレと使者さんに見つかり、二人してこちらへ瞬時にやってきた。

「こいつおかしいよー。ディール聞いちゃ駄目だよー」

「私は国王陛下の名代だとお伝えしているでしょう!」

「二人とも落ち着いて。こんなところで立ち話もなんだから、応接室行こう」


 応接室のソファーには、僕とセレとフェリチ。向かいには例の使者さんが座っている。

「単刀直入に申し上げますと、イーラドラゴンが出現しました」

「どうしてそれをディールに言いにくるかなー」

 セレはルルムが持ってきた紅茶のカップを両手で掴み、文句を言いながら啜っている。

「他に倒せる方がいますか? イーラドラゴンは人里近くにいるのですよ!」

「いるでしょー、ドルフとかー、リオとかー」

 ドルフはグーラドラゴンを倒した英雄だし、リオは僕の訓練に付き合ううちにかなり強くなった。

 二人がかりなら、ドラゴン相手でも余裕だろう。

「そのお二人では魔溶液が必要でしょう。ディール様ならば迅速に――」

「だめだって言ってるでしょー! あなた本当に陛下の使いなのー?」

 セレは今にも犬みたいな唸り声を上げそうなほど機嫌が悪い。

 僕も困惑している。

 陛下は、セレの推察を真っ先に肯定してくださった。その上で、僕はもう魔物やドラゴンを倒さなくても良いと仰っていたのだ。

 あの陛下が約束を違えるはずがない。

「本当に陛下のご命令ですか?」

「勿論です! さあ今すぐ――」

「確認してからです」

「そんな猶予はありません!」

 こういう、僕の意見を聞こうとしない人、久しぶりだなぁ。

 スルカスの人間じゃなさそうだし、どの筋から僕を目の敵にしているのだろう。

 少し考えている間に、人が複数人、屋敷の中を走っている音が近づいてきた。

「ディール殿! 偽の使者が現れたとお聞きしましたっ」

 息を切らせてやってきたのはナチさんだ。

 僕の目の前にいる自称使者は、みるみる青ざめた。



「この度はご迷惑をおかけしました」

「頭を上げてください、ナチさんのせいじゃありませんし、被害もなかったですから」

 偽の使者は、僕自身に直接恨みのある人ではなかった。ちなみに偽の使者は、ナチさんと一緒にやってきた城の兵士さんに連行されて、今頃牢の中にいる。王命を騙ったので、相応の罰が下るはずだ。


 イーラドラゴンが人里近くに現れたのは本当で、偽の使者はその人里の人だった。

 イーラドラゴンはまだ人を襲っていないが、恐ろしさのあまり使者を装ってまで僕のところへ来た、ということだ。

「人里って何処ですか?」

「ここから徒歩で3日ほどの所です」

「近いですね。セレ、どう思う?」

 僕の右眼は、近くで魔物が倒されただけで、その魔力を吸収してしまう。

 徒歩で3日の距離は、かなりギリギリだが範囲内だ。

「実はー、ディールが魔物倒してもー、平気な封印帯を作ってるんだけどねー。煮詰まってるー」

 セレは腕組みして僕を見上げた。

「なにせディールの魔力吸収能力が強すぎるー」

「ごめん」

「ううん、これはー、私の力不足ー」

 セレは腕を組んだまま、ナチさんに向き直った。

「もし近くでドラゴン倒すならー、ディールにはアブシットにでも行ってもらいたーい」

 アブシットは海向こうの大陸にある国だ。

「そんなに離れなきゃいけない?」

「範囲がわかってないからねー、できるだけ遠くがいいー」

 アブシットまで片道ひと月ほどかかる。でも行ったことがあるから、転移魔法を使えばすぐだ。向こうに転移装置があるから、それを使うこともできる。

「わかりました。近日中に討伐隊が組まれると思いますので、またお知らせします」

「よろしくお願いします」




「ドラゴン、イーラドラゴンねぇ……」

 買い出しから帰ってきたドルフに、一通り話をすると、ドルフは「ドラゴン⋯⋯」と呟きながら唸った。

 ドルフは以前グーラドラゴンを倒した後、グーラドラゴンに取り憑かれていた。

 あまり思い出したくないだろうし、二度とやられたくないだろう。

 となると、ドラゴンを倒せそうなのはリオだけになる。

「俺か? ディールのようにはいかぬし、人の手を借りねばならんだろうよ」

 皆の視線を浴びたリオは、いつになく自信なさそうにこう語った。

「あれえー、大国ウィリディスなのにー、意外と人材薄いなー」

 セレはアテが外れたと言わんばかりに嘆いている。

「ねえセレ、やっぱり僕が行くよ」

 不安がないわけじゃないが、ドラゴンはどうせあと一匹。早く倒してしまったほうがいい。

「うー。ディールが七匹のドラゴンを全部倒すっていうのがー、なーんか心配なのよー」

「私もセレさんと同じ考えです」

 と、フェリチが同意した。

「まあまあ、ここであーだこーだ言っていても仕方ありません。そろそろ夕食ですよ」

 ルルムの一言で、一旦お開きとなった。




 翌日、朝イチでナチさんがやってきた。

「リオ殿とドルフ殿に仕事の依頼です」

 結局、イーラドラゴン退治はリオとドルフのところに回ってきた。

 そして僕にはアブシットへ行っておけという命令が下った。

「王命なら仕方ねぇ。腹括るか」

 ドルフは流石に肝が据わっている。

「ドルフと一緒ならば何とかなるだろう」

 他に兵士が百人同行する。リオは彼らを指揮する役目も担う。

「留守はお任せください。セレ様はどうなさいますか?」

「ディールについてくよー。何が起きるかわからないからねー。ごめんねフェリちゃんー、二人っきりのお邪魔虫でー」

「何を仰るんですかセレさん。心強いです」

 ルルムは留守番で、フェリチとセレは僕と一緒にアブシットへ。二人とも、僕に何かあった時のための対処役と連絡役をしてくれる。

「リオ、ドルフ、気をつけて」

 僕は出発日ギリギリまで、二人にドラゴンと戦う上での攻略方法や注意点を伝えた。


 そして、リオとドルフが出発する日が来た。

 僕とフェリチとセレは、二人を見送ったあと、転移装置でアブシットへ到着した。

 王城へ向かっても良かったが、今回、アブシットはこちらが一方的に巻き込んだだけなので、遠慮して町の宿屋で待機することにした。

「また観光したいけどー、ディールがどうなるかわからない以上ー、呑気なことはしてられないねー。ごめんねー、ディール」

「僕こそごめん」

「ディールは気にしないでいいのよー」

 と、セレは言うが、フェリチにも悪いことをした自覚がある。

 ドラゴンの件が片付いたら、埋め合わせをしよう。

「ディールさん、今日はどう過ごしますか?」

「リオたちがドラゴン倒すまでまだ時間あるだろうから、町を散歩しようか」

「はい」

「私はここで待ってるー」

「セレ行かないの?」

「野暮なことはしないーって言いたいけどー、例の眼帯がまだ研究中だからねー。ちょっとでも進めたいのー。二人で行っておいでー」

 セレは既に眼鏡と白衣を装備した、研究者モードに入ってしまっている。

 こうなると、研究に区切りがつくまで机から離れないのがセレだ。

「行ってくる」「行ってきます」

 セレは個室から手をひらひらと振ってみせた。


 町を適当に歩いていて、ふとフェリチを見ると、なんだか嬉しそうに微笑んでいる。

「楽しい?」

「ふえっ? はい、すみません、こんな時なのに」

 フェリチは申し訳なさそうに眉を下げてしまった。余計なことを言ったかな。

「楽しいならよかったよ。セレにも何かお土産を買っていこう。フェリチ選んでくれる?」

「はいっ」

 3日ほど、僕とフェリチは町を散歩して、美味しい喫茶店を見つけたり、大きな本屋に入り浸ったりして過ごした。

 セレは食事の時以外放っておかれるのが丁度いいらしい。但し、研究の方はあまり捗っていない様子だ。

 僕は時折、セレからあれこれと検査を受けた。


 そしてアブシットに来て4日目。

 リオとドルフたちは、予定通りドラゴンとの戦闘に入った、という連絡が来た。

 僕たちは朝から宿で、討伐完了の知らせを待った。

 待った……が、夕刻になっても、知らせが来ない。

「ドラゴン倒すのって、時間がかかるのですね」

「そりゃそーよー。ディールが異常なのよー」

「異常て」

 気を紛らわせるための会話も、歯切れが悪く、続かない。

 やきもきしているところへ、ようやく連絡が来た。


 転移装置でウィリディスからアブシットへやってきた兵士さんは、かなり慌てていた。


「伝令! リオ殿、ドルフ殿、両名生死不明! ドラゴンは生存! 繰り返します! ……」

「生死不明!? ほ、ほかの兵士さんたちはっ!?」

 セレから間延びした語尾が消え、僕はようやく事態を飲み込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ